真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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蜀国修練編
22:蜀/違和感の片鱗、顔合わせでの出来事①


46/顔合わせ

 

 蜀の忙しさは結構なものであり、桃香も関羽さんも忙しさの合間に迎えてくれたらしく、何処を歩き回ってもみんながみんな走り回っているような状態だった。

 俺はといえば、よろよろと歩いていく馬岱を見送ったのちに馬小屋の清掃を終え、そういえばこれからの予定とかをなにも聞いていないことを思い出し、朱里と雛里を探して歩き回っていたのだが。

 この目で見るその忙しさっぷりに開口。閉口が出来なくなるような状態であり、ちらほらと見かける張勲が涙目で作業する姿には、なんとなくごめんなさいを言いたくなった。

 三国に降ってもらおう、って言ったのは俺だもんな……うん。

 何か手伝えるものはないかなと声をかけてみるも、急に混ざられても混乱するだけだからと断られる始末。

 だったらと足を別の方向へと向け、歩くことしばらく───建設中の学校を見つけ、ホウ……と息を吐いた。

 

「へぇえ……」

 

 纏めていた通り、それは結構な大きさだ。

 しっかりとグラウンドもあるところに特に驚く。

 勉強だけじゃあもやしっ子になるだけだからと助言をした形がこれか……すごいもんだ。

 

(あ、朱里と雛里)

 

 作業をしている男たちの中に、大まかな見取り図を書いてあるであろう紙を広げ、話し合っている少女二人を発見。

 指示をする二人の少女はキリッとしていて、とてもはわはわあわあわ言っていた二人には見えない───と思うのも束の間。

 突然吹いた強風に見取り図を飛ばされると、「はわわーっ!?」とか「あわわっ……!」とか叫ぶ始末であり、なんというかこう……うん、やっぱりあの二人だなぁとしみじみ思う俺が居た。

 

「ほっ! ……ふう」

 

 丁度こちらに飛んできてくれた見取り図をバシッと掴むと、慌てて駆けてきた二人に「はい」と渡す。

 二人は腹の底から安心したような溜め息を吐くとそれを受け取り、ぺこぺことお辞儀を……って、

 

「お、お辞儀はいいからっ、二人とも顔上げてっ」

「うぅ……助かりました……」

「ありがとう、ございます……」

「気にしないでくれって……よかったよ、こっちに飛んできて」

 

 キリっとした顔は何処へやら、持っていた風船が飛ばされてしまった子供のような顔でしょんぼりしていた。

 そんな顔を見ていたら、この手が自然と頭を撫でようと動きだしたのだが───さすがに蜀国内。軍師様にそんなことをしては、周りからの二人への印象が悪くなるのでは……と考えたら、伸ばしかけた手はピタリと止まった。

 落ち着け俺……指示を出す軍師がそんな、この国の将でもない輩に頭なんて撫でられてたら、作業中の工夫に示しがつかないだろう。

 ……というかそもそも、どんな時でも撫ですぎだ、俺。

 ここは魏じゃないんだ、二人の頭を安易に撫でたりするのは危険として構えよう。

 

「………」

「………」

「う……」

 

 そう決めたのに、二人が伸びかけた俺の手をじぃーっと見るわけだ。なんかこう……下ろすに下ろせない状況といいますか。どうしよう。

 いや一刀よ、ここは鬼になれ……じゃないだろ、これくらいで鬼とか言っててどうする。

 

「朱里、雛里……ほら、一応みんなの前だからさ……。他国の警備隊長に頭を撫でられるとか、示しがつかないだろ……?」

 

 だから小声で、そっと囁く───と、ショックを受けたと言わんばかりの表情ののち、寂しげな顔をして俺を見上げて───いや孔明さん!? 士元さん!? 仮にも蜀の名を担う軍師様がそんな、頭を撫でられないだけで悲しそうな顔しないでください!

 たしかにことあるごとに頭を撫でたりしてたけど、それが今さら無くなったからってショック受けること……あれぇ!? なんで!? なんでこんな罪悪感を味わってるの俺!

 

「そ、それでさ、朱里、雛里……俺、蜀に来てからなにをどうすればいいのか、聞いてなかったんだけど……。あ、いろいろあって寝泊りする場所を馬小屋にしてもらったんだけどさ、一応桃香に許可もらって───……えーと」

「………」

「………」

 

 ……落ち込んでしまった。

 俯いたまま顔を上げてくれず、返事も特に無しという、とても息苦しい状況の完成である。

 どうしてこんなことに……とは思ったものの、ふと思い当たることがあったにはあった。

 国に戻れば軍師として働いて、思いつく限り、閃く限りの最善を提案しなければならない立場にあって、常に気を張って視界を広げ、トラブルが起きればそれを解決するためにまた知恵を絞る。

 ようするに彼女たちにとっての俺は……蓮華にとっての俺がそうであったように、“甘えていい場所”なのかもしれない。

 けど待とう。それは嬉しいが、気を張るべき場所でも甘えてしまっては彼女らのためにならない。

 ならばどうするか───

 

「……時間が取れたらいくらでも付き合うから。今は、ちゃんと仕事に目を向けような?」

 

 再び小声で。

 途端に頭の中で、華琳の声で「甘いわね」とツッコまれた気がした……けど、聞こえた声が笑み混じりのものだったからだろう。俺も頭の中で「違いない」と笑って返して、二人に「頑張って」と……それだけを伝えた。

 

「……!」

「………」

 

 するとどうだろう。

 朱里はきゅっと拳を握り締め、雛里は帽子の位置を軽く直すと頷いて……工夫ざわめく男の楽園へと走っていった……はずが、ぱたぱたと戻ってくる。

 

「かじゅっ……一刀さんっ、陽が落ちてから、その、蜀の将全員と一刀さんの顔合わせを予定していますので……えと、忘れずに覚えておいてくださいっ」

「へ? 顔……えぇっ!?」

 

 何を言いに戻ったかと思えば、そんなとんでもないことを!?

 や……それはたしかに、顔も知らないヤツから急に「教師です」とか言われても困るだろうけどさっ!

 でも宴で歌わされたからには知ってる人も居るだろうし……いや待て、そういえば酔い潰れて寝てた人や、俺が一方的に知ってるってだけの人や、相手が一方的に知っているだけの人も……うう。

 

「あ、それから馬小屋に住む件ですけど、私と雛里ちゃんとで桃香さまに却下を出させていただきますね?」

「エ……それはちょっと」

「だめです、却下です」

「や、だから」

「だめです」

「あの、覚悟がね?」

「だめです」

「でも」

「だめです」

「………」

 

 お……怒って……らっしゃる?

 取り付く島が見当たらない……ここは何処の大海原で、どうして俺はそんな大海に放り出されたのでしょうか。

 怖い……! 笑顔なのに怖いよ朱里……!

 

「ひ、雛里───」

「却下……です……♪」

 

 ゆったり笑顔で却下された。

 

「甘寧さんにはきちんと部屋が用意されています。はい、そこが一刀さんの部屋なわけですけど。庶人扱いの甘寧さんが部屋で寝泊りするんですよ? それなのに桃香さまが“来て欲しい”と招いた一刀さんを馬小屋で寝泊りなんかさせたら、“示し”がつかないじゃないですか」

「………」

 

 ウアー……怒ってる、笑顔なのに怒ってる。

 しかもやばい、逃げ道塞がれた。他でもない自分の発言に。

 

「それでは、夜のこと忘れないでくださいね。いこ? 雛里ちゃん」

「うん……♪」

 

 ……少女二人が満面の笑みで駆けて行き……そして俺だけがぽつんと残された。

 いや……うん……なんて言っていいやら……。

 

「この北郷も老いておったわ……。かの諸葛亮、鳳統の理性の量を見誤るとは……」

 

 “寄りかかってもいい場所”を見つけた人っていうのは、これで案外強くなれるのかもしれない。

 寄りかかる場所自身に矛先が向くのはどうしてなのかーとか、そういうことは度外視するにしても。

 

(……とりあえず馬超さんと馬岱を探そうか)

 

 馬小屋の件は却下になりましたと伝えないと……。

 

……。

 

 時は流れて夜。

 陽が暮れる頃には蜀のみんなの仕事も多少の段落を得たのか、本当の本当に顔合わせをすることとなった。

 忙しい中でそんなことしなくてもと止めはしたんだが、みんなはみんなで“天の御遣い”っていうのをじっくりと見たかったらしい。

 玉座の間に集った蜀の主要人物を前に、俺……萎縮しっぱなし。

 隣で桃香がにこにこしていたりするが、それでも気分はソワソワしたりでまいっている。

 なるほど、呉での朱里と雛里はこんな気分だったに違いない。

 そんな中で、同じく別の国の存在(俺だけど)が居れば、多少の気休めにはなったんだろうけどさ。……俺もそんな存在を募集したい気分だよ。

 気を紛らわす意味も込めて、隣の桃香に「王なのに玉座に座ってなくていいのか?」という質問をしてみるも、「お友達とお話するのにあんなところに座ってるの、変だよ」とあっさり返された。

 なるほど、違いない。

 

「お兄さん、そんなに固くならなくても大丈夫だよ? みんなとってもやさしいから」

「桃香? たとえば自分一人が魏国に招かれて、魏の将全員に囲まれる自分を想像してみてくれ。しかも自分は、事故とはいえ相手国の王の着替えを覗いちゃったんだ」

「………………ごめんなさいぃ」

 

 例えをあげただけで、線にした目からたぱーと涙が溢れてた。

 ……さて、ともあれ顔合わせというからにはみんなの顔を知って、自分も知ってもらう必要があるわけだけど。

 

『………』

「あ、あのー……?」

 

 見られてる。

 ものすごーく見られてる。

 みんなきっかけが掴めないのか、ただ様子を見ているのか、じろじろと見てくるだけで近づいて来ることはしない。

 ……と思えば、どこか楽しげに歩いてくる女性が一人……趙雲さんだ。

 

「これが噂の御遣い殿か。なるほどなるほど、気弱そうに見えて、中々不思議な氣を纏っている」

「……どーも、趙雲さん。こうしてまともに話すのは、槍を突きつけられて以来になるのかな」

「ふむ? ……おお、そういえばそんなこともあったかな」

 

 思い出すのはこの世界に初めて降りた時のこと。

 右も左も解らない状態で、身包み剥がされそうになっていたところを助けられ、真名というものの意味を知りつつ槍を突きつけられたね、うん。

 

「だがあれは御遣い殿に責があろう。許可なく真名を口にしたのだから、問答無用で貫かれていようが文句は言えぬというもの」

「ん……そりゃあ今でこそ頷けるけどさ。真名を知らない天の住人がこの世界に降りたら、一日で何人死人が出るかわかったもんじゃないよ、その理屈」

「む……知らぬは罪にならぬと、そう言うつもりか」

「知らないまま問答無用で殺されるのは可哀想だって話。もしそういうことがあっても、まず一度だけ待ってやってほしいかなって。そういう意味では、あの時は突きつけるだけに止めてくれて本当にありがとう、趙雲さん」

 

 正直、あそこで死んでたら恨みがどうとかのレベルじゃなかった。

 どういう理屈で“俺”が降ろされたかは知らないけどさ、助けられた相手に殺されたんじゃああまりに浮かばれない。

 

「……ふふっ、曹操殿のもとに降りただけあって、中々話せる。さて御遣い殿、我が名は趙子龍。お主の名をお聞かせ願いたいのだが?」

 

 ありがとうと真正面から言われたことが可笑しかったのか、趙雲は妖艶に笑んでみせると名乗ってくれた。

 ……あの時もせめてこうして、まず名乗ってくれれば……と思うのは贅沢でしょうか、趙雲さん。

 

「姓は北郷、名は一刀。字も真名もない世界からこの大陸に来た。天の御遣いとか呼ばれてるけど、なにか特別に凄い事ができるとかそんなことはないから、普通に接してくれると……その、ありがたいです」

「ほほう……これはおかしなことを。特別なことが出来ない者を、曹操殿がいつまでも傍に置いておくとでも? 北郷殿の考えがどうであれ、曹操殿や魏の将にしてみれば、お主という存在に“見えるもの”があったからこそ傍に置かれたのだろうに。……というか最後の後込(しりご)みはどういう意味か」

「や、だから……俺自身が俺自身をそう特別だなんて思ってないんだ。庶人が蜀の主要人物に囲まれれば気後れしまくりにもなるでしょ? そういう心境なの、今の俺」

「………」

 

 ぽかんとした顔で見られる……けど、事実は事実。

 特別なことが出来ない者を傍に置くはずがないってことだって、最初は天の御遣いっていう“名前”に利用価値があったから傍に居られただけだ。

 そうやって考えれば、警備体制の見直しや三国志に関する知識を使った助言が出来たこと以外に、主立(おもだ)った“特別”があったかどうか。

 “現状維持は大事だけれど、進む意思がないのなら、普通とさえ呼べない”と彼女は言った。

 以前と比べれば、自分にはそれなりの進歩があるかもしれないが、あの頃を思えばよくぞ捨てられなかったな、と。そんな考えが顔に出ていたのだろうか、趙雲はクスリと笑うと言う。

 

「なるほど。北郷殿が特別なことをしたのではなく、“曹操殿らの中で”、北郷殿が特別なものに変わってしまったと。なるほどなるほど、それは手放せぬはずだ」

 

 特別……になってくれているんだろうか。

 イマイチ自分自身にはそう自信を持てない。けど、そう言われて悪い気はしない。

 悪い気はしないから……愉快そうに笑う趙雲を前に、俺も小さく笑みをこぼした。

 そんな笑みに多少の気を許してくれたんだろうか、てこてこと歩いてくる影ひとつ。

 

「面白い話をしてるなら鈴々も混ぜるのだっ」

 

 張飛である。

 俺と趙雲の傍まで歩いてくると、両手を頭の後ろで組んで、にししーと笑いながらのこの言葉。

 離れた場所では関羽が「こら鈴々っ」と声を張り上げていたりするんだが……いやほんと、嫌われたもんだなぁああ……。

 

「……大丈夫? あとで怒られたりしないか?」

「にゃ? どうしてなのだ?」

「ほら、俺……関羽さんには滅法嫌われてるし」

「愛紗だけじゃないのだ、焔耶にも嫌われてるのだ」

「………」

 

 少女の……少女の無邪気さが胸に痛い……!

 焔耶……? 焔耶って誰……? と辺りを見渡してみると……黒髪に、白に近いほど薄い肌色の髪が混ざった女性が、人をも殺せる眼光で睨んでいて───って、あー、あの人かー。間違いないよ絶対あの人だー。

 気づかなければよかった。絶対に本能的に気づこうとしなかったよ今までの俺。

 だって今まで気づけなかったのが不思議なくらいに殺気放ってるし。

 頼む、お願いだ……今一度働いてくれ、精神の防衛本能……!

 胃が……胃が痛い……! キリキリ痛い……!

 

「その……張飛は怒ってないのか?」

「お姉ちゃんがいいって言ってるのだ、鈴々が怒ることじゃないのだ」

「……人間って温かいなぁ、趙雲さん……」

「ふふふっ、これはまたおかしなことを。その人間に、殺気を込められ睨まれているのだろうに」

「……そうでしたね、はい……」

 

 殺気を込められているのを知っているのに、軽く笑って流すなんて貴女も中々にひどいです。

 それでもそうして笑ってくれるなら、俺も軽く流すことが……すいません出来そうにないです、胃が痛い。

 

「焔耶ちゃんもあんなところで見てないで、こっちに来ればいいのに……」

「あの、劉備様? 来たら僕の首が飛びそうなくらい睨んでらっしゃるんですけど?」

 

 貴女はそれを“見てないで”で済ませてしまうのですか?

 見るっていうか睨んでますよ? あまりの殺気に泡噴いて気絶したくなるくらい睨んでますよ!?

 

「劉備様、じゃなくて桃香だよ。友達は友達を様づけでなんて呼ばないんだよね? お兄さん」

「………」

 

 はい……俺が朱里や雛里に言った言葉ですね、それ。

 明命と亞莎がそうだった分、せめてと拝み倒して了承を得たんだけど……今の“劉備様”はそういった意味で言ったわけじゃないと、せめて悟ってほしかったです、はい。

 と、そんな会話さえ聞いていたんだろうなぁと心配しつつ、ちらりと、えーと、え、えんや……さん? の方を見てみれば───あぁああああほら! 睨みがさらにヒートアップしてるよ! 友達って言葉にメラメラと怒りの炎のようなものが! 怖ッ! 関羽さんの比じゃないよあれ! なにが彼女をああまで怒らせているのですか!? ……覗きだよねごめんなさい。

 

「あ……でもごめんなさい、お兄さん。馬小屋のこと、朱里ちゃんと雛里ちゃんに……その。魏からの客人を、本人たっての希望だからって馬小屋で寝泊りさせては示しがつきません、って止められちゃって……」

「ああ……うん……本人達から直接釘刺されたから……うん……。こっちこそごめんな、無茶言っちゃって」

「あ、ううん、それはいいんだよっ。お兄さんの誰とでも友達になろうって気持ち、私もわかるし。ちょっとでもその手助けが出来ればいいなって思ったんだけど……」

「………」

 

 どうしてかなぁ……殺気込められてジッと見られてるからかなぁ。

 誰からの理解も心に染み入って嬉しく、心にやさしい……。

 

「あなたが噂の天の御遣い……」

「うーむ……名ばかりの洟垂れ孺子と踏んでおったが───まあ多少は想像の域を外れてはおるな」

 

 再びほろりときそうな心境のさなか、音も静かに歩み寄る姿がふたつ。

 

「あ……ど、どうも、北郷一刀です」

 

 一目で目上とわかるや、自然と頭を下げてしまうのは……じいちゃんの躾の賜物と受け取っていいんだろうか。

 

「ふふっ、そんなに畏まらないでください。私は黄忠、字は漢升。魏での貴方の武勇、しかと聞き及んでいますよ。そんな貴方に畏まられては、こちらのほうが困ってしまいます」

「……え? 武勇? ───いたっ!?」

「とぼけた顔をしおって、ほんにわかっておらんか? っと、わしは厳顔、名前くらい知っとるだろう?」

「そ、そりゃもちろん知ってるけど……っ、近い近いっ!」

 

 背中に張り手を一発、まるで友にそうするかのように俺の首に腕を引っ掛け、ぐいと顔を寄せて笑う厳顔さん。

 いや、あの。素面、だよな? なのに酒の香りがするのは、常日頃から酒をかっくらっているから、なんだろうか。

 あー、どうしてだろうなぁ。頭の中で祭さんが「当然じゃろ」とか言って笑ってらっしゃる。

 

「あ、の……? 自己紹介は嬉しいんだけど、武勇って……?」

『………』

「?」

 

 俺の言葉に、二人がにこりと笑ってある一点を指差す。

 疑問符を浮かべながら、方向を辿って見ると……顔を赤くして馬超の後ろに隠れながら俺を見る馬岱さんが……ァアアアアアアアアアアッ!!?

 

「……ア、アノー……モシカシテ」

「もしかしなくとも、そういうことよ。くっく、険厚き魏の連中が、お主の前では猫となる。思い浮かべるだけで酒の肴になるわ」

「……俺も、厳顔さんの性格が誰かさんによく似てて、これからの自分を思い浮かべるだけで挫けるなって言いたくなったかも……」

「むう? 何処ぞでわしに縁のある者とでも出会うたか?」

「いや……関係は全然ないかも」

 

 馬鹿なことを……いや、早まったことをした。

 豪快に笑う厳顔さんの腕に首根っ子を捕らえられつつ、なんで馬岱にあんなことを話したのかなぁと、本日何度目かの溜め息を吐き散らしつつ項垂れるしかなかった。

 


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