真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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27:蜀/それが大切なものだと気づいた時、人は少しだけ強くもなり弱くもなる②

 俺が頷いてからしばらく、宛がわれた自室には穏やかな空気が流れていた。

 いがみ合う理由もなく、だからといって浮かれる理由もなく、ただ普通の時間と空気が流れてゆく。

 

「こう来たら、こう?」

「いえ、そうすればこう弾かれ───」

 

 ただ、武を知る人との普通は、自分にとっての普通ではなかったかもしれない。

 なにをしているのかといえば、剣の手ほどきのようなものであり……納得はしたけど力を振るうことへの戸惑いが払拭されたかどうかなんてわからない俺に、関羽さんが手ほどきを、という状況。

 ただ気になることといえば、俺が頷いてからというもの……関羽さんが敬語で話し始めたことくらいで。

 

「あ、あのー……関羽さん?」

「? なにか?」

「その……どうしていつの間にか敬語に?」

 

 疑問はぶつけて然るべき! とぶつけてはみたものの、それはあっさりと予想外の言葉で返された。

 

「出会う場所が違えば、私は貴方からでも志を受け取れた。そして、私は“貴方ならば”と桃香さまの標として受け容れた。それは桃香さまがどう思おうと決めた私の意思であり……ふふっ、覚悟というものです」

「……っ」

 

 う、わっ……! 顔が熱くなっていく……!

 かか、覚悟? 覚悟って……ああっ、やめてっ! そんな穏やかに微笑まないでくれっ! 真似!? それって真似なのかっ!?

 

「ここぞという時には“覚悟”の言を口にする。呉での貴方の話は、朱里や雛里から嫌というほど聞かされてきました。暇があれば誰かの手伝いに走り、三日に一度鍛錬をし、その鍛錬が通常では考えられないほどの量だ、とも」

「う……」

 

 考えられないほどの量なんかやってないって……! それって朱里や雛里から見てって意味なんじゃないだろうか。

 そりゃあ、ほうっておけば一日中走っているような鍛錬なんて、誰もやろうとしないだろうけど。

 氣と体力が許す限りに、三日前に至った限界よりも一歩先へと体を苛め抜いて、三日後にはさらに苛め抜く。そんな方法やってる人、たぶん居ない。

 ……フツーに考えて、やりすぎなんだろうなぁこれ。準備運動だけで桃香がぐったりなのがいい例なのかもしれない。

 

「鍛錬、やりすぎ……かな。桃香が準備運動だけで筋肉痛になっちゃったんだけど、もっと控えめにしたほうがいいと思う?」

「一刀殿の鍛錬の程度は知りませんが、ものにならない程度の鍛錬ではやったところで無駄です。続けることで、桃香さまがこれから流すであろう涙が減るのなら……今が苦しくても耐えるべきだ、と……武人の私ならば言いますが。私個人としては、桃香さまの苦しむお姿は見たくは……」

 

 ままならないものです、と深い溜め息。

 って、鍛錬よりもその口調が……その……。 

 

「そればっかりは桃香の頑張りに任せるしか……。辛いから嫌だって言われたら無理強いなんて出来ないし、もっと簡単なのをって言われたって、うーん……この世界の基準から考えると、まだ楽な気もするんだよな……」

 

 強い女性がいっぱいだから、基本の時点で男より女が強いって思えて仕方がない。

 今だって、“桃香も実は力とか結構あったりするのでは……”とか考えてるくらいだ。

 

(桃香は軍師タイプなんだろうか)

 

 考えてみればこの大陸のみんなは武力か知力かで大体分かれていて、逆に武も知もある人は珍しい存在だ。

 華琳や秋蘭、関羽さんや黄忠さん、穏や亞莎はそのあたり、両道できている気が……しないでもない。

 特に穏や亞莎は思い切り軍師で武力も中々とくるから……なんだ、呉って本当にバランスがいいじゃないか。

 魏は……知と力とでとことん分かれてる感じがするなぁ。

 季衣と桂花の性格を融合させることが出来たら、知に長けた強者が完成するんだろうか───と考えてみて、悪巧みばかりに知を使いそうな気がして項垂れた。

 というかそれはえぇと……失礼だけど魏延さんになるんじゃないだろうか。主のためだけに知恵を絞り、主に近づく者全て、屠らずにおれん! って感じで。

 想像してみたら怖くなった。

 そんなことを考えながらも、木刀を小さく振るってから構えを取る。

 ふぅ……と出る溜め息は、いろいろな物事への悩みゆえだろうか。

 “もっとしゃんとしないとな”とは思うものの、思うだけでなんでも出来るんだったら苦労はしない、だよなぁ……。

 

(そもそも……雪蓮たち呉のみんなに揺るがないとか言っておきながら、こんな簡単に……)

 

 溜め息の原因の大半はそれだろう。自分が情けないのだ。

 

  “どうせ国がどうとか魏がどうとか考えておるのだろうから訊くがな。お主の気持ちはどうなんじゃ。肝心なのは魏でもなんでもなく、そこじゃろう”

 

 祭さんに言われた言葉を思い出す。

 今さら気づいて、本当に呆れた。あれには本当にいろいろな意味があったんだろう。

 魏が華琳がと断っていたその言葉は、俺自身の言葉なんかじゃなかったことや、何かを理由に“強さ”を求めれば、いつか躓いてしまうこと……本当にいろいろ。

 何かを理由にする前に、自分で立って自分を理由にしなければ、自分の“芯”で動くことなんて出来るはずがない。

 考えすぎかもしれないけど、受け取り方一つでそこまで考えられたはずなんだ。

 子供を作るとか、その……は、孕ませるとかの話でうやむやになったけど……それで流して、よく考えもしなかった。

 “気づける要素”はきちんとあったのに、それを俺は……“気づきたくなかったから知らないフリをした”……のか?

 

「~っ!」

 

 だめだだめだっ! 考え始めると暗くなるっ!

 いいか一刀、過去は確かに重要だっ、嫌なことだろうがなんだろうが、今まで生きてきた過去の全てが今の自分を形成している! よし、それはOK!

 今重要なのはなんだ? 後ろを振り返ってうじうじと考え続けることか? それとも現状をきちんと考えて、大陸の支柱のことをよく考え……いややっぱり待て。

 

「……関羽さん、ごめん。また話を聞いてほしいんだけど……って、あれ? どうかした?」

 

 むー……と考え込んで、思考の袋小路……むしろ無限ループに陥りかけていた自分を振り払うためにも、誰かの意見を───と思ったら、頼ろうとした相手がくすくすと笑っていた。

 

「いえ。朱里と雛里に、悩む姿が可愛───い、いえ、なにも聞いていません。話ですね?」

「?」

 

 どうしてここで朱里と雛里が出てくるのかなとも思ったものの、聞く姿勢を取ってくれたので話すことに。

 なにを話すのかといえば、もちろん悩んでいることについてだ。

 弱いところを多少でも見せてしまったからだろうか……どうも“頼ってもいい”みたいな感情が沸いてくる。

 ……ちゃんと立とう、考えようって思った矢先なのに、恥ずかしくも情けない。

 考えて考えて、どうしてもわからないことは訊くべきだってわかっていても、考えることを放棄して訊くのと、考え抜いてもわからないから訊くのとじゃあ確かに違う。

 違うんだけど……はぁ……おじいさま、一刀はやっぱりまだまだ弱い子です……。

 

「どうされました? 天井など見つめて」

「いや……ちょっと葛藤を受け容れる準備を、というかなんというか……えと、それでなんだけど」

 

 悩みすぎると、出す答えも歪むことがある。

 何かを考える場合、特に暗いことを考える場合は、“明るい何か”を思考の間に挟むといいという。

 案外それでスコーンと解決することもあれば、言うほど楽に挟めるもんじゃないよ……と落ち込むこともあるわけで。えーと……うん、つまり暗いことを考えている時は、他のことが考えにくくなっているから気を付けろってことで。

 考えにくいってことは、他のことも思いつきにくくなっているってことだから、ネガティブな答えばかりが頭に浮かぶ人は要注意。つまり今の俺は少し落ち着くべきであるということで……。

 ええいだから考えるなっ! 今は弱い自分のまま誰かに頼ってみろっ! 勢いでもいい、今まで悩んでいたこと全部をぶちまけるくらいの気持ちで───!

 

「うじうじ考えていても仕方ない……だから関羽さん! 率直な意見を聞かせてほしい!」

「───……真剣に、ということですね? 私で答えられることならば」

「うん! じゃあ───俺との間に子供が欲しいとか思う!?」

 

 ………。

 

「……は?」

 

 あれ? 今時間が止まったような……ってちょっと待て、今俺なんて言った?

 

「こ、こど……!? な、ななななにをっ!? 貴方は三国の支柱となり、桃香さまがもし望むのであれば、蜀の世継ぎを育むための連れ合いになるお方! それが急になにをっ……!!」

「待ったちょっと待った! ごめん今の無しっ! そうじゃなくてっ!」

 

 顔を真っ赤にして慌てふためく関羽さんを前に、両手を前に突き出して慌てる北郷一刀の図。って他人ごとみたいにして逃避してる場合じゃなくてっ!

 

「ごめんちょっとこんがらがってたっ! 祭さんとの会話を思い出してたら……! そ、そうじゃなくて、えっと……!」

 

 自分でもわかるくらいの顔の熱と、やっちまった感に包まれながら必死に思考を回転させるも……わあ、見事な空回りだ。

 慌てる時こそ落ちつけって偉い方は仰るけど、慌ててるから慌てることしか出来ないんじゃないだろうかと、こういう場合はツッコミたい。

 でも落ち着こう、本当に。

 

「すぅ……はぁ……! う、うん、ごめん……えぇとそれで……そう。揺るぎのこと」

「揺るぎ?」

 

 顔は赤いままだけど、一応落ち着きを取り戻してくれたらしい関羽さんが首を傾げる。

 俺もその間にもう一度深呼吸をして落ち着くよう努め、真っ直ぐに関羽さんを見つめてから続ける。

 

「うん……呉でのことなんだけどさ」

 

 始まりはその言葉。

 宴の日に“揺るがないこと”を口にし、呉に行っても揺るがぬよう努め、まるで……そう、魏を盾にすることでその言葉を守るように行動してきた。

 けれど今日、いろいろと気づいてしまった自分は揺るがぬままではいられないのでは。気づいてしまえばその気持ちは友愛どころではなく、祭さんが言う通り“問題なのは俺の気持ち”だったわけで……そのことで悩んでいると。

 自分の気持ちを隠すことなく、関羽さんにぶちまけてみた。

 すると───

 

「悩み始めると止まらないところまで同じか……はぁ。───そこまで想われているのに断り続けられるところは、見事と……言えるのでしょうか」

 

 呆れたといった様相で溜め息を吐かれました。

 それはまるで、悪さをしでかした子供を見るような親の目で……ああこれ、じいちゃんと対峙していた時によく見た種類の視線だよ。

 

「……星。盗み聞きもいいが、耳ばかり働かせるのではなく口も働かせる気はないか?」

「……へ?」

 

 腕を組み、呆れたままの表情で窓の方へと声を投げる関羽さん。

 すると、装飾が成された窓にひょこりと見えるナースキャップのような物体。

 

「おや。いい肴を見つけたと思えば、まさかそこに迎え入れられるとは」

 

 窓を開けて、ひょいと入ってくる姿を前に、俺も呆れるしかなかった。

 ということはもしかして、悪さをしでかした子供を見るような親の目の原因って……どっちもどっちだな、きっと。

 

「星っ、お前はまた昼間から酒をっ……! いやそもそも警邏はどうしたっ!?」

「いやそれがな、酒家のおやじにいいものが出来たとこれを頂いてな。しかし警邏中の身で飲むわけにもいかず、きちんと警邏はこなした。うむ、こなしたとも。しかしそこで同行していた焔耶がこう言ったのだ」

「……酒に意識が行きすぎてて役に立たないから、もう目立たぬところで酔っ払っていてください、って?」

 

 なんとなく祭さんの行動パターンに当て嵌めて口にしてみる。と、「ほお」と感心の声が聞こえ、

 

「……会って数日でそこまで読めるとは。なるほど、愛紗が認めるだけはある」

 

 と続け、笑ってらっしゃった。

 いや、笑ってられる状況じゃないからそれ。

 

「なに、心配ない。きちんと代理を立ててある。私としても仕事の最中に一人抜け、酒を飲むのは気が引けたのだが……そこへほれ、めしだめしだと街中を走る二頭の猪が」

『………』

 

 関羽さんと二人して頭に掌を当て、溜め息を吐いた。

 オチが読めたのだ。

 さて、関羽さんと話し始めるまで、ここには他に、二人居た。

 その二人はなにを目的に、さっさと出て行ったっけ。

 

「これは僥倖と、二人に肉饅頭を買って与えて取引を持ちかけたところ、快く引き受けてくれたわけだ」

「何が快くだ。どうせ口八丁を並べ、その饅頭が今でなくては食べられないものだとでも言ったのだろう」

「口が八丁だろうと、話を聞いた途端に問答無用で奪われ食べられては、騙したのだーといくら言われても涼しき微風。冗談だと言う暇も無かったなら、引き受けてもらうしかなかろうに」

「…………」

 

 ああ、関羽さんが自分の義妹の行動に頭を痛めてらっしゃる……。

 鈴々も少しは疑ってから食べようよ……ってちょっと待った。

 

「……奪われたの?」

「おや、友をお疑いかな?」

 

 その名、メンマ同盟。じゃなくて、奪ったっていうのがどうにもしっくりこない。

 

「疑うとかじゃなくて、是非ともその話をしていた時の趙雲さんの姿勢を訊きたいなーとか」

「………」

「星?」

 

 なんとなくだけど、饅頭を突き出したりなんかしてたんじゃないかなーと思うわけだが……もしかしてビンゴ?

 確かに“あげる”と言わない限り、突き出していようが目の前に置いておこうが、奪われたなら奪われたことにはなるけど……ソッと視線を逸らした趙雲さんを見るに、それが答えなんだろうなぁきっと。

 

「……では話を続けようか」

「ん、そうだな」

「………」

 

 さらりと流した趙雲さんに続くように頷き、ジト目で趙雲さんを睨む関羽さんも促しつつ再開。

 どの道奪って食べてしまったなら、今ここに趙雲さんが居ることだけが結果というわけで。今さら何を言っても何かが引っくり返るわけじゃないと受け容れ、話を続けることに。

 

「北郷殿の“揺るぎ”について、だったかな? それならば答えは出ているであろうに」

「答えが? …………んー……」

 

 考えてみる……が、答えが出ない。

 なまじ“これだ”と刻んだ答えがある分、たとえそれが間違いだとしても認めたくないものがある……そういった気持ちに似ている。

 余計なことを考えたな、と頭を振るう。

 

「わかりませんか?」

「難しく考えようとするから絡まる。北郷殿は少し思考を柔らかくするべきだな」

「って言われてもな……」

 

 答え……俺が揺るがないって言ったのは、そもそもどういう意味でだっけ。

 って、今話したばかりなんだから考えるまでもない。

 “魏からべつのところへ降るっていうのは考えられない”……雪蓮に“呉に来ないか”と誘われた時に、そう言ったのがきっかけ。

 それはいつからか気持ちの問題にもなっていて、“魏以外の人と関係を持つこと=揺らぐ”って考えに変わっていた。

 でもそれと今の……あれ?

 

「え? いやちょ、ちょっと待って?」

 

 力が抜けるような答えが見つかった気がした。自分に対して感じていた男としてのアレとかソレが、一気に膨れ上がるような問題が……。

 

「えーと……もしかしてさ。いや、なんかもう自分で考えてた部分に答えがごろごろ転がってて、それを答えにしなかったのが馬鹿みたいなんだけど……同盟の支柱になって、魏にも呉にも蜀にも身を置くようにするってことは……どこに降ったわけでもないから、揺らいだことに……ならない?」

『…………ぷふっ……!』

 

 同時に、盛大に噴かれました。

 俺から顔を背け、口に手を当ててこう……ブフッて。

 い、いや、確かにきっかけはそうだったよ!? 「呉に来ない?」って言われて、俺は魏に身も心も捧げたから“降ることはしない”って意味で「揺れないよ」って!

 そりゃあ支柱になるってことは何処に降るわけでも裏切るわけでもないし、むしろこの大陸に身も心も捧げるって意味では、考えていた“出来ること”をもっと増やすきっかけにもなるんだから、望むところではあるけどっ!

 

「ふ、ふむ、なるほどっ……くくっ……これは確かに、可愛らしいと思うのも納得がいくかもしれん……なぁ愛紗」

「い、いや私はべつにっ……」

 

 ……ていうかね、顔を真っ赤にして思い悩んでいる男を前に、そんな笑いを必死で堪えながらのヒソヒソ話はやめてほしい。むしろ聞こえてる。聞こえてるからね?

 

「まあそれも、桃香さまが受け容れるかどうかの問題。我々だけで判断するには荷が重い上に、簡単に答えを出していいものでもない。ようはお主がどう受け入れるかと、桃香さまの判断次第ということだな、北郷殿」

「う……」

「どちらにせよ呉がそれでよしと頷いているのなら、少なくとも魏と呉の支柱にはなれるわけだ。それこそ毎夜毎夜、体の許す限り魏王と呉王の体をむさぼ───」

「耳元でそういうこと言わないっ!」

「ならば堂々と」

「そういう意味じゃなくてっ!」

 

 あ……だめ……なんかもういろいろ考えてた自分が馬鹿らしく……いやいや待て待てっ、ここでそういうことを考えるのは危険だ。

 そう、支柱になるのはもう頷けることだ。自分が軸になることで、様々な人が笑顔になれる……こんな嬉しいこと、きっと他にない。

 そうだ、支柱になるってだけで、その……肉体関係があるわけじゃないんだ、考えすぎるな。

 呉で種馬がどうのとか言われてたから、どうにも“大陸の父=そういう関係”って考えが基準として頭を占めていた。そうだよな、大陸の父……じゃなくて三国の支柱って考えれば……待て、ちょっと待て。

 ああもう何回待ったっけ? でも待て。

 

「あーのー……関羽さん? なんかさっき、蜀の世継ぎをどうのって……」

「あ……そ、それは」

「ふむ。愛紗が多少であろうと認める男は多くはない。必然的に、いやこの場合は消去法でと言うべきかな?」

「何気に言葉の中に棘を仕込むのはやめてください盟友さん」

「はっはっは、いや失礼。ともかく、蜀の皆は桃香さまのことを大事に思い、好いている。その桃香さまの相手になる者となれば、これもまた皆に好かれるような者であるべきだろう。まあ私は桃香さまが認めた相手ならば、私の好みなどどうでもいいとは思ってはいるが───」

 

 口休めに「ふむ」と口に手を当て怪しく微笑み、俺を見つめる趙雲さん。

 うん。女性がこういう笑みをする時って、あまりいい予感がしなかったりする。

 

「北郷殿、友として忠告しておこう。我らの信ずる桃香さまと友になったからといって、迂闊に手を出せば信用はがたがたに落ちて……」

「ちょっと待った!」

「む?」

 

 それだ。そのことで今止めたばかりなのに、また「待て」と考えなきゃいけない状況に……。

 

「支柱になるのはいい、それは頷けるけどさ。支柱になる=王の相手になるって考えはおかしくないかな」

「はっはっは、なに。“いずれ”の話として受け取ってもらえればそれで構わんよ。我らだけが騒ぐ分には、それもこれも部下や臣下が勝手に騒いでいることとして、桃香さまも意識することもない。むしろ意識することで北郷殿を避けるか、好きならば突撃するか……いやなに、“平和”以外のことへ積極的な桃香さまも見てみたいと思っているのだよ、私は」

「星……桃香さまをだしに使い、遊ぶというのであれば───」

「おっと。やれやれ、相も変わらず桃香さまのこととなると冷静ではない。なるほど、これは確かに手綱があったならとも思うが……北郷殿、今からでも蜀に降らんか? お主が居れば、このじゃじゃ馬も少しは節度を持つと思うのだがなぁ」

「なっ……星っ!!」

 

 クイッと杯に注いだ酒を飲み干して、はぁ……と吐かれる息はどこか楽しげだ。

 なるほど。少しだけ、桃園三姉妹以外との関係内の、パワーバランスとかもわかった気がした。

 一言で言えば、飄々と人をからかえる人は強いってことだ。

 まあこういう人ほど、何気ないところでしっぺ返しを受けているんだろう。

 夢中になれるものの片隅で失敗を~とか。

 ……その場合はメンマになるのか? なるんだろうなぁ。


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