真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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27:蜀/それが大切なものだと気づいた時、人は少しだけ強くもなり弱くもなる③

 とまあそんな理解は別として、俺の返答はもちろん拒否。気づくことがいろいろあろうが、魏から別の場へと降ることを良しとしない自分はそのままだ。

 

「ふふっ……うむ。予想通りの答えで、しかしきちんと心に届いた。もっと前からそうしていられれば、呉の連中も早々に諦めたやもしれんのに……逆に火をつける結果になったと」

「仰る通りみたいだけど、あの……趙雲さん? 試すような言い回しはやめてくれないか?」

「“男”を試す機会はいくらでもあるべきだろう? そうして何度も試され、その度に成長してゆく存在であればいい。そうすれば桃香さまもコロリと」

「だっ……だからっ! 俺は桃香をどうこうするために支柱の件を受け容れるんじゃないんだってっ! “王としての桃香”が甘えられる場所になれればって受け容れはしたけど、だからってそんなよよよ世継ぎとかっ……!」

 

 話が飛びすぎなのにも程ってものがある。

 もう自分の顔が真っ赤であろうことを自覚しつつ、やっぱりぶんぶんと手を振るって拒否をするのだが……趙雲さんはむしろそんな俺を楽しんでいるようで、さらにさらにと追い討ちをかけてくる。

 ……関羽さんは……ああいや、関羽さんもいろいろと気になってるみたいで、止めようとする素振りは見せるものの、止め切ってくれませんですはい……。

 

「ふむ? 桃香さまのことがお嫌いか?」

「会ってまだそんなに話もしてないのに、好きとか嫌いとかって……はぁ。こういう流れって、どうして好きか嫌いかの二択しかないんだろうなぁ」

「友としてでもよろしい。まあ嫌いならば友のままで居るのもおかしなものではあるが」

「それは……好きだよ。近くに居て安心するっていうか、呉でも言えることだけど、あんな王は他には居ない。傍に居ると温かく包まれてる……守られてる感じがするのに、いざって時は守ってやりたくなる王様っていうのかな……」

 

 立てた理想はとても眩しく、眩しいからこそとても脆い。

 強さと弱さを持ちながらも、理想が眩しすぎたために早い段階で弱さの根っ子に気づけなかった。

 結果、理想ごと華琳に叩きのめされることにはなった───けど、華琳と戦うもっと前に答えを得ることが出来たとして、するべきことを変えられただろうか。

 理想が眩しかったから立ち上がることが出来て……関羽さんだけじゃない、無意識とはいえいろいろな人に志を与えてきた彼女だ。目指す場所はきっと同じで、ただもっと自分を高めるか否かの選択肢を選ぶだけだったんだろう。

 そんな道を自分から歩ける人を、尊敬こそすれ嫌ったりなんかできるはずがない。

 

「……結構。お主の言う“会ってまだそんなに話もしていない”間に、随分と理解しているようではないか」

「へぐっ!? あ、いやこれは……」

「人を見る目があるのなら、お主はきっともう迷わん。壁にぶつかろうと、乗り越えるのではなく抜け道を探すのも一つの手。馬鹿正直に乗り越えようだのどうのと考えれば、たった一つの方向でしか物事を考えられなくなる。そうだろう?」

「それは……うん、もちろん。考えることを放棄するのは自分にも周囲にもよくないことだよ。必要なのは壁にぶつかるたびに乗り越えようとする頭だけじゃない。回り道になろうと、なんとしてもその壁の先に行くことだ。先に行くこと……誰かと一緒に考えて乗り越える、回り道をしてでも先へ行く、一人で解決して先へ進む、壁を破壊してでも進みゆく……きっと方法は一つだけじゃない」

「そう。しかし桃香さまが立った場所には、答えなど一つしかなかった」

「……華琳が壁である以上、華琳は自分の理想……“力で打ち下す”以外の方法じゃあ納得しなかった、か……」

 

 けれどその先にこうした平和があることを、たとえ与えられた平和であろうとも喜ぶべきだ。

 それがたとえ、望んだ形とは違っていたとしても。

 

「北郷殿にはそういった答えにぶつかり、さらにその芯ごと叩き折られた桃香さまの“支え”になってほしいと思っているのだよ」

「支えに……?」

 

 俺の言葉に、壁にとす……と背を預け、腕組みをしながら頷く。……酒は手放さず。さすがだ。

 どこか気取っている格好なのに、それがよく似合うのは、様々にとりあげられたもので趙子龍が美形として扱われる所以(ゆえん)に近しいものなのかもしれない。酒は手放さないけど。

 

「聞けば、蜀王としての桃香さまの甘えられる場になったという。呉でも、孫権の甘えられる場になったと」

「あー……そんな情報、どこから───いや、なんでもない」

 

 情報源がはわあわ言っている様子が頭に浮かんだ。

 そんなに簡単にいろいろ話さないほしいなぁとは思うものの、あの大人しい二人のことだ。いろいろと掴まれていることもあるんだろう。

 

(なんとなくだけど、ほら……結盟のきっかけのアレとか)

 

 この人との会話時間はまだまだ多くはないが、それでもわかることはある。

 一言で言うなら、人をからかうのが好きそうな顔をしている。

 二言で言うのなら、どこぞの覇王様が人で遊ぶ時とよく似てらっしゃるのだ、妖艶に笑む様とか……まあその、いろいろと。

 三言を加えるなら、からかわれた相手の様を見て楽しむところとかもだ。

 これで女色で王の資質があるなら第二の華琳の誕生になるのか? ああいや撤回しよう、華琳は彼女ほどメンマにハマってはいない。

 食に関してはなかなかにうるさい華琳でも、この人ほどメンマを極めようとは思わないだろう。

 華琳が多に妥協をしない存在なら、趙雲さんは個に妥協しない人で……華琳が食で趙雲さんがメンマ、と……そんな感じか。

 

「我々は“桃香さま”を支えることは出来ても、蜀王の桃香さまを甘えさせることができません」

 

 と、また思考の渦に飲まれそうになっていたところへ、関羽さんの声が届く。

 

「そう。どれだけ頼ってくれようと、それは頼るだけであり……桃香さまは逆に頼ってばかりの自分に情けなさを感じてしまうやもしれない。ならばどうするのが理想的なのか」

「……あ、甘えさせること?」

「うむ。出された問題を、そうとかからず解いてみせた北郷殿だからこそ任せたい。普通ならばもっとうじうじと考え込んで、今日明日では答えを出せずに思考の海で溺死するものと踏んでいたのだが……ふふっ、認識を改める必要がありそうだ」

「………」

 

 いや……実際思考の海には何度も落ちた。

 取りつく島を探しては、どこにもそんなものがないことに気づいて答えを探して。けど、呉での出来事がそんな自分を救ってくれた。

 経験は裏切らない。

 少なくとも、そう思えた瞬間が確かに存在していた。

 たとえ何も解決できなかったとしても、それは経験の量が少なかっただけのことで……積んだ経験はきっと裏切ったりはしないのだと。

 望んだ結果から外れてしまう答えしか出せないのだとしても、経験を恨む必要はないのだと。

 

(……各国を回ること、やってみてよかったな)

 

 魏に篭っているだけでは至れない答えがたくさんあった。

 俺も基本的な考えは桃香となにも変わらない。

 助けられる人が居るなら助けたいし、手を繋ぐことで仲良くなれるなら、いくらだって伸ばしたいと思う。

 でも……なんの力もなく伸ばすだけじゃあ、期待させておいて突き落とすのと結果は変わらない。

 “俺に出来ることを”と足掻いてみても、手を伸ばした人が求めたものを与えてやれない手に、いったいなんの価値があるのか……そう考えてしまうと、伸ばしかけた手も途中で止まり、いつかは下ろしてしまうのだろう。

 そんな期待を国の王として背負い、手を伸ばし続けた桃香は本当に凄いと思う。

 けど。背負って立つだけじゃあダメだった。力を押さえるには力が必要で、理想を叶えるためにも力が必要だった。

 彼女にとっての力は仲間で、華琳にとっての力は自分と仲間だった。その違いが最後を決めた。

 じゃあ俺はどうだろう。

 力は……今つけている最中だ。なにかを背負うなんて大それたことはと思うものの、手を繋いだからには、友達になったからにはその人の笑顔をみたいと思っている。

 思っているからこそ、疑問は口にしよう。

 俺に桃香を任せたい、と言った言葉に対して。

 

「……自分たちが信じた国の王を、警備隊長に任せるって……どういうことかわかって言ってるのか……?」

 

 返ってくる言葉は予想がついていた。が、言っておかないといけないことなので、それは仕方ない。

 

「ならばその一国の王の甘える場所となった貴方は、よほどに無謀者か命知らずだな」

「あまり意味変わらない気がするんですけどっ!?」

 

 予想通りだった。趙雲さんも会話の流れを読んだような言い方だったし、特にあの顔は……俺の心内まで見透かして楽しんでいる華琳のようだ。

 あ、あー……ツッコミが入ったのは本能レベルだ。言いたくなる気持ちも察してほしい。

 

「まったく、おかしな御仁だ。降れだの愛を受け取れだのと言えば頑なだというのに、頼まれると嫌と言えないようだ。桃香さまの時もそうして押し切られたのだろう?」

「……お、押し切られたとかじゃなくてちゃんと頷いたんだって。いくら俺だって、嫌なことは嫌って言えるさ」

「ふふっ、そういう言葉で返す者ほど、そういうことが出来ないものだと思うが。まあそれはこれから知っていくとしよう。ところで北郷殿? 茶があれば淹れてほしいのだが───」

「あ、ああわかった。茶のことならじいちゃんに淹れ方を教わったから、多少は上手くできると思う」

 

 酒を飲んでいるにも関わらずお茶? とも思ったものの、そんな疑問を返すこともなく部屋から出ていこうとし、肩をガシリと掴まれた。

 振り向いてみれば、関羽さん。

 

「あ、関羽さんも飲む?」

「あ、はい───ではなくてっ! 言った先から断ることもしないでどうするのですっ!!」

「へ? や、べつに俺嫌だって思わなかったし……嫌なら嫌って言うけど、悪いことじゃないだろ?」

「……~……、……」

 

 ……あ、あれ? なにやら関羽さんが頭抱えて俯いた……?

 

「なるほど、言い方を改める必要がある。頼まれると嫌と言えないのではなく、嫌と言えるものが多くない……と」

「くっ……こんなところまで桃香さまに似なくてもっ……!」

「え? い、いや、俺が多少の面倒を負うことで誰かが笑ってくれるなら───だだ大丈夫っ、ちゃんと嫌なら嫌って言うしっ!」

「では北郷殿。厨房へ行き、酒を調達してきてはもらえんだろうか」

「管理してる人に事情を話せばいいんだよな。わかった」

「ついでに肴になるようなものを───」

「ああ、それならお願いして俺が作ってこようか? 多少は出来るつもりだから」

「酒の相手とまでは言わん、話相手になってほしいのだが」

「今日の予定全部こなしたら、その後にでも。ただし、それまではお酒はお預けだ」

「むっ……ではその予定を全て後回しにしろと願われたら?」

「趙雲さんの話が本当の本当に大切なものなら、何よりも優先させるよ。みんなには謝って、なんとか治めてもらう」

『………』

 

 ……あ。二人して溜め息吐いた。

 

「……愛紗に代わってもう一度言おう、北郷殿。そんなお主が何故あの曹操殿の傍に居られた……」

 

 頭に手を当て、はぁああ……とそれはもう重苦しい溜め息を。

 

「え? や、それは…………なんでだろ」

 

 利用価値があったとか、そういうことが基準としてあったなら、それでいいんじゃないだろうか。

 あとはそれまでの気持ちや、積み重ねていった事柄が、そういう縁を結んでくれていたってだけで。……いや、だけでで済ますと後が怖いことはよ~くわかってるぞ? おおわかってる。……わかっててもやっちゃうことと、しないこととは別ってことで。

 

「改めて訊かれると、返答に困るな、それ……。じゃあ逆に、趙雲さんはどうして桃香の傍に居られるんだと思う?」

「むっ……それは」

「自分が完璧で誰よりも強く素晴らしいから~とか?」

「い、いや、それはだな」

「星、顔が赤いぞ」

「ふ、ふむ。少し酔ってしまったらしい」

「自分でした質問に自分が返せないのが恥ずかしいだけだろうに」

「……ならば愛紗よ。お主は返せるのか?」

「当然だ。桃香さまが立つ場所、そこが私の居場所だからだ」

 

 どーん、なんて擬音が聞こえてきそうなくらいに張られた胸が、その自信のほどを表しているようだった。

 ……ちょっと春蘭みたいだーとか思ったことは、秘密だ。

 で、そんな言葉を耳にした彼女は面をきらりと輝かせ、そのくせキッと俺を睨みつつ笑むと……って器用な顔するなぁ。

 

「そう、それだ北郷殿っ、桃香さまの傍が私の───」

 

 そのままリピート。しかし、途端に俺と関羽さんからじとーっと見られると、一度咳払いをしたのちに“自分の言葉”で話し始めた。

 

「あ、あう。いやその……決して間違いではないが、もちろん私が桃香さまの傍に居るのは、だな……」

 

 当たり前のように傍に居ると、理由を訊かれた時は困るものだ。

 現に俺が華琳の傍に居られる理由は、華琳が必要としてくれているからだとしか答えられそうもない。

 何故って、華琳が要らないと言えば、俺は魏を出て行くしかないからだ。

 それは王の下で働く誰にでも言えることで、王の理想とともに生きたからこそ、その理想から出て行けと言われたなら従うしかない。

 でも……従うだけなのはちょっと違うって、言えるものなら言いたいから。

 

「じゃあ妥協して……“出来ることがあるから”、で……いいかな」

「出来ることがあるから……?」

「ん。もちろん出来ることが無くなったからって追い出されるわけじゃないけどさ。戦の中で深まった絆が理由っていうのももちろんだけど、そこに胡坐をかいて何もしないでいるのは間違いだ。偉い人が言ってたけど、世の中には二つの駄目な人種があるって。一つは言われたことしかやらない人間と、もう一つは言われたこともやらない人間だって」

「……つまり、仕事を提供されるままにやっているだけでは駄目な人間であり、その一歩先も出来てこそ、と?」

「はは……俺が言えた義理じゃないけどね。でもさ、ほら、こう~……えと。自分で自分の出来ることが見つけられるなら、少なくともそこに居られる理由にはなるよな。後ろ向きなのか前向きなのか微妙な考えだし、えーと……質問の答えにはなってないかもしれないけど」

 

 出来ることを探すのは難しい。

 なにせ人間、物事に慣れてしまうと先に進むことをしなくなってしまう。

 与えられればこなしはするのに、自分からこなしに行く人は案外少ない。

 俺も“出来れば楽なほうへ”と流されやすいしなぁ。

 でもその一歩が踏み出せる人は、自分で自分のするべきことの先を見つけられる。そういう人は滅多なことじゃ首を切られたりはしないし、むしろ優先的に仕事が回されてきて、その圧力押し潰されてゴシャーン……じゃなくてっ!

 

「何事もほどほどだね……。頑張りすぎるのも問題だったよ……」

「……? まあ、それは」

「くくっ……くっふふふはははは……!」

 

 いろいろと破滅の未来が見えた気がした。

 その時の俺の顔がよっぽどおかしかったのか、ただ単に酒が回っているためになんでも可笑しい状況なのか、趙雲さんは声を殺して笑っていた。声を殺して泣くって言葉はよく聞くけどさ……いや、なにも言うまい……。

 

「はっはっは、まあ小難しい話はこの辺りで終いにしよう。どうかな北郷殿、くいっと一息」

「? それよりも酒とつまみだろ? 今持ってくるから待っててくれな?」

「へぁっ? あ、いやさっきのは───、……北郷殿? わかってて言っているのなら、少々意地が悪い」

「やられたままで終わらせるなっていうのが、一応は我が国の暗黙のルールというか。って、勝手に今決めたんだけどさ。あんまりからかったりしないでくれな? 最近いろいろあって、考えすぎなくらい考えてて頭が痛い」

「北郷殿は、壁を与えればそれだけ成長する者だと私が勝手に信じている。魏の連中や呉の連中が気に入る理由も、もっとじっくりと理解していくつもりだ。それとは別に、個人として言わせてもらえば北郷殿のような人間は嫌いではない。努力家で他人のために行動が出来る。……なるほど、もし桃香さまではなく北郷殿が、桃香さまと同じ言を以って皆の笑顔のためと立ち上がっていたのなら───」

「星っ! 滅多なことをっ……!」

「やれやれ……言葉くらい許してくれてもいいだろう? 今さら桃香さま以外に仕える気など毛頭無い。蜀という国を愛している。将も兵も民もだ。今さら離れるのは、身を置き過ぎたこともあり非常に億劫だ。そんな面倒なことをする理由もなかろうよ」

 

 で、また酒を飲んでクハァと一息。

 ……あー、こういった口調で酒って言葉が合わさるだけで、どーして祭さんが頭に浮かぶのか。

 

「愛紗、お主こそ言っていただろう? 桃香さまの前に北郷殿に会っていたのなら~とかなんとか」

「ななぁっ!? ……い、いやあれはっ……! たっ、たとえばっ、たとえばの話だっ!」

「ならば私が例え話をすることになんの異議もなかろう?」

「うぐっ……! ぐ、ぐぐぐ……! いやっ! わわわ私のは桃香さまに出会う以前の話をしていたわけであって、星っ! お前の今現在の話とはそもそも事の重大さが───!」

「なんだ、例え話に重大さ云々を持ち出すとはっ。随分と懐狭く堪忍袋の緒が脆いなぁ関雲長よ」

「狭くもなければ脆くもないっ!」

「大きいのは胸だけか。やれやれ、その胸のようにもっと大きなやさしさを抱いてみたらどうだ。武器しか振るえず、料理も作れぬ女では貰い手というものが───おぉ?」

「……キサマ」

 

 ……はい、いつの間にか蚊帳の外で二人を見ていた一刀です。

 女の喧嘩に口を挟むとろくな結果が生まれないと、必死に勉強した結果がこれなわけですが……あ、あのー……趙雲さん? なぜそそくさと僕の後ろに隠れるんでしょうか~?

 

「えっとその……ちょ、趙雲さ~ん……? 今から謝るとかは……」

「む? 戦人に二言はありませぬ。口にしたからには相応の覚悟を以って───」

「相応の覚悟が俺を盾にすることなの!? ていうか嘘でしょ! 二言はないとか嘘でしょ!! 二言を語らない人が誰かをからかえるもんかぁっ!!」

「ならばその理想の極みは曹操殿ということになるのですかな? なるほど、では北郷殿はそんな存在が好きだと」

「そういうのじゃないから! って、え!? なに!? どうしてこんな時に敬語なの!? 盾にしてるから!? そんなのいいから盾にするのをやめません!?」

「……北郷殿、私とて一人の女。男に守られてみたいとは常々……」

「くっつかないでくれ! はっ、離れっ……ヒィ!? やややややや話し合おう関羽さん! いろいろ言ったのは俺じゃなくて……っ! い、いやこの場合は確かに男なら守るべきところなのかもしれないけどっ───え!? むしろこんな自分とは関係ないところから発生した諍いまで治めてこそ男なのか!? 男って損な生き物っ……! じゃなくてあぁああああどこから出したのその偃月刀! いつものことだけど、って趙雲さん!? 今笑った!? 笑ったよね今! 人を盾にしておいて───あっ、いやっ、待っ……あ、あぁあああーっ!!」

 

 ……そこからの記憶は、実はよく覚えていない。

 ただ必死で、何故巻き込まれなきゃいけないんだと思いながらも目の前の鬼神から逃げることで頭がいっぱいで。

 聞く話によると、なんでも俺は趙雲さんを背に負ぶったまま鬼神様から逃げ回っていたのだとか。

 ……ええとまあその、そういう話が外から聞かされるってことは、部屋を飛び出て逃げ回っていたということで……あとで趙雲さんに言われました。「降りられぬ状況で城内を駆け回られるのは、ある意味軽い拷問だった」と。

 ちなみに俺は趙雲さんを庇ったことについて関羽さんからお小言をたっぷりと頂き、やはり正座だったりした。

 もうね……拷問はどっちだよぉお……って泣きが入ったよ……。俺、悪くないのに。あ、いや、悪者を庇った時点で悪者か。


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