真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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02:三国連合/ただいまを言える場所③

07/ただいまを言える場所

 

「そんなわけで───すいませんでしたっ!」

「許さん」

「えぇえっ!!?」

「ちょ、愛紗ちゃんっ! こ、こっちこそごめんなさい御遣いのお兄さん、私もなんか大事にしちゃったみたいで」

 

 ええ大事でしたとも。

 あんな帰り方じゃなかったら、きっと全てが感動的に纏まっていたんだと思えるくらいさ。

 でもこうして劉備も許してくれたようだし、あとの問題は───

 

「あ、あー……」

 

 ちらりと見た先に居る、殺気ともとれる威圧感を以って、力を溜めて待機している魏のみんな……だろうなぁ。むしろなんで動かないのか───と考えてみて、答えはすぐに確信に到る。華琳に“待て”を命じられているんだろう。

 あれらが解放された時、自分がどうなるかを考えるとちょっと怖いような───……って、あれ?

 

(…………凪?)

 

 ふと気づく。

 一瞬俺と目が合った凪が、申し訳ないような、合わせる顔がないような感じに目を逸らした。

 どうしたんだろ…………って、凪の性格を考えると、ほぼ間違いなく俺に攻撃を仕掛けたこと……だよな。

 べつに気にしてないのに。

 

「……うん、よし」

 

 だったら、そんな憂いも吹き飛ぶくらいに笑顔で“帰ろう”。

 この世界が俺が居たかった世界で、帰るべき場所が魏の旗の下なんだ。

 言わなきゃ届かない思いがあることを、さっき華琳に拳と一緒に叩きこまれたばっかりだしな。

 

「みんな! ただい───」

「全軍、突撃!」

「───ま?」

 

 華琳様が小さく仰いなすった。

 途端、お預けをくらっていた猛獣達が檻から解き放たれたかのごとく地を蹴り───

 

「北郷ぉおおおおおっ!! 貴様っ! 斬るぅうううううっ!!!」

「一刀ーっ!! 一刀やぁあーっ!!」

 

 その筆頭を競わんとする二人は、片方はともかくもう片方は大剣を手にそれこそ突撃してきて……ってキャーッ!?

 

「せぃいっ!」

「ヒィイッ!? ちょ、春蘭!? いぃいいいきなり斬りかかるやつがあるかぁあっ!! 前髪にかすったぞ!? 少し落ち着」

 

 落ち着いてくれ、と言おうとした途端、左の頬に春蘭のビンタが炸裂した。

 それはよくある右から左へ~、なんてものではなく、ならばチョッピングライトにも似た斜め上から袈裟掛けに、というわけでもなく。むしろ空へ吹き飛べとばかりの、ボクシングでいうスマッシュにも似た鋭くかちあげるようなアッパービンタだった。

 

  ───結果、叫びながら中庭の空を飛んだ。

 

 女性のビンタで空を飛ぶ……それはきっと、盗んだバイクで走り出すより凄まじいことだと思いました。

 皆様に愛されて約一年、北郷一刀です。

 

「貴様ぁああああ…………!! よくも我らの前にのこのこと姿を現せたものだな!! それは褒めてやる!!」

「褒めるの!?」

 

 倒れ、しかし顔だけ起こした視線の先には赤き隻眼の鬼神。

 言った途端に武器を納めてくれたことだけは感謝したい気分だが、空を飛んで地面に落下、無様にうずくまった俺は、それを素直に喜んでいいのだろうか。

 いや、そりゃあ春蘭のビンタなんて珍しすぎて奇跡体験かもしれないが、うん。痛いものは痛いです。

 しかしうずくまったままではいられないので、くらくらする頭を振りながら立ち上が───ると、そこに霞がドカー!と抱きついてくる。

 

「ちょ、霞!? 今とっても危険な状況で……!」

「うあーん一刀ーっ! かずと、かずとーっ!! 何処行っとったんやどあほぉっ! ウチが、ウチがどれだけ悲しんだ思とるんやぁっ! 約束したのに! 約束したくせにぃっ! あれ嘘やったんかぁっ!?」

「霞…………その、ごめん。いっぱいひどいことしちゃったな……。でも、もう大丈夫だから。俺は華琳に願われてここに居る。予測でしかないけど、たぶん間違いじゃないから」

「華琳……? 華琳と一刀と、なんの関係があるん……? ───はっ! まさか華琳が一刀のこと追い出しよったんか!?」

「違うわよ」

「あ……華琳」

 

 逃げ場もなく、霞に抱きつかれた俺を囲む魏の武官文官の輪の中、その輪が開く先から華琳が歩いてくる。

 ……で、俺の頬のモミジを見ると少し顔を背けて笑って……ってこらこら、誰の突撃命令でこんなことになったと……。

 

「そこの御遣い様は、私の願いに応じて参上したと言っていたわ。これでまた居なくなるようなら、それこそ天にでも攻め入って、天も手中に収めてやるんだから」

「華琳、それじゃ答えになってないだろ……」

「あら。貴方を戒めるのに小難しい言葉が必要? わかっていないのなら教えてあげるわ───貴方はここに居ればいいのよ。小難しい理由も証明も要らない。私が願う限りここに居ることが出来るなら、私が死するその瞬間までずっとこの大陸に尽くしなさい。……それがいつか、この場に居る全員に届かせられる一番の答えになるのだから」

「華琳……」

 

 いや、そうは言うけどな? どうも皆様納得してらっしゃらないようなんだが?

 

「つまり……一刀はもう何処にも行かへんってことなん……?」

「……ああ、それは約束する。華琳が願う限り、俺はこの世界で生きていける。だから───言わせてほしい。…………みんな、ただいま」

 

 いろいろ挫かれたけど、今度はちゃんとした笑みでただいまを。

 涙目の霞に、怒り治まらぬ春蘭に、俯きながらも俺を見てくれている凪に、集まってくれたみんなに。

 

「今回だけや……こんなん許すんは、今回だけなんやからな……?」

「ああ」

「また、なにも言わずにどっかに行ったりしたら、どうやってでも天の国探して一刀のこと奪いに行くで……?」

「ああ、迎えに来て欲しい。たぶんそうなった時は、俺の意思じゃなくて天の意思か華琳の意思かで戻されてるだろうから」

「ほんまに……?」

「ホンマホンマ。……我が身、我が意思は魏とともにあり。曹魏が曹魏らしくある限り、俺は絶対にこの地を離れたいなんて思わないよ。……そこのところは、約束してくれるんだろ? 華琳」

 

 上目遣いで俺の顔を見る霞の頭を撫でながら、笑顔で華琳を見る。

 すると華琳は「誰にものを言っているの?」と口の端を持ち上げ、胸の前で腕を組んで約束をしてくれる。

 その“俺がこの地に居る”という約束がきっかけになったんだろう。

 魏のみんなは弾けるように霞ごと俺に抱きついてきて───って、ちょ───おわぁーっ!?

 

「兄ちゃん! 兄ちゃーん!」

「あたたたたたっ!! ちょ、季衣っ! ウチの足、踏んどる踏んどるっ!」

「兄様……! 勝手に居なくなったりして、どれだけ心配したと思ってるんですか!」

「いたいいたいっ! 流琉、それ一刀の胸とちゃうっ! ウチの頭やっ!」

「そら姐さん、一人で先んじて隊長とよろしゅうしとったんですから、報復みたいに受け取ったってほしいですわ」

「凪ちゃん凪ちゃん、隊長なの隊長なのー!」

「………」

「や、沙和、騙されたらアカン。ウチらの隊長があないに強いはずがないで……」

「いやいや一年あれば人って変われるよ!? “男子三日会わざれば刮目して見よ”って言葉だってあるし!」

「…………ホンマモンの隊長? ホンマに?」

「さっき“先んじて隊長とよろしゅうしとった”とか言ってただろ!?」

 

 ていうかそろそろ辛い! みんな抱きつきすぎだって! 絞まる! 首絞まる! 誰だ首絞めてるの───ってもしや桂花さん!? もしやこの手は視界内に居らっしゃらない桂花さん!?

 

「ウソや……せやったらなんで凪がこんな落ち込んどるん?」

「あ、それはさっき……あの、マスクを、被って……た俺、に……凪が……打ち込んで……き……て……、……! ……!」

「……? 一刀、どないしたん? 顔がみるみる青なって───って桂花! なに一刀の首絞めとんねん!」

「この万年発情男の所為で……! どれだけ華琳様が溜め息をお吐きになられたか……!」

「そうだ北郷! 貴様の所為で華琳様がどれだけ───!」

「桂花、春蘭」

「はっ! 華琳様っ!」

「はいっ! なんでしょうか華琳様!」

「とりあえず黙りなさい」

『はいっ! ───…………』

 

 ……あ、本当に二人とも黙った。

 けど、春蘭にも言いたいこともあったのだろう、それをどうやって俺に伝えるかを眉を寄せながら考え、やがてぱぁっとその表情が輝くと

 

「ん? 春蘭? あれ? なんで拳構えてこっちにばぼぉっふぁ!?」

 

 とりあえず殴られた。思いっきり右で。

 霞の抱擁から解き放たれた俺は当然地面を滑ったが、この痛みも受け止める。涙出てるけど受け止める。

 でもわかってください、俺も好きでこの世界から消えたわけじゃないんです、本当です。……と、痛みに身を震わせながら小さく体を起こすと、スッ……と地面に差す影。

 見上げてみると、そこに秋蘭が居た。

 

「すまないな、北郷。姉者もあれで相当寂しがっていてな」

「い、いちちちち…………! い、いやっ……拳一発……じゃないけど、それで許してもらえるなら……」

「そうか。では歯を食い縛れ」

「え? いやだからって殴られたいわけじゃっ…………ええいっ! どんとこいっ!」

 

 ぐっと構え、訪れる痛みに覚悟を決めると、次の瞬間には頭部に衝撃。

 秋蘭からの罰は、脳天へのゲンコツだった。

 ……これがまた、なかなか痛い。

 頭を押さえてきゅぅううう~……と変な声を出す俺がそこに居た。

 そんな俺と同じ目線に屈み込み、秋蘭はフッ……と小さく笑みをこぼし、「よく、帰ってきてくれた」と言ってくれた。

 

「………」

 

 痛みの代償なんてその言葉だけで十分だった。

 思わず泣きそうになる俺に、秋蘭はデコピンをかます。

 まるで、こんな時くらいはシャンとしろ、と喝を与えるように。

 そんなデコピンが、額ではなく心に喝を与えてくれた気がして、がばっと立ち上がった。

 そして喝を入れられた心を胸に、まだきちんと向かい合えていない稟と凪を交互に見ると、大きく息を吸いこんで───

 

「……稟ちゃんは行かないのですかー?」

「まあ……一刀殿の性格を考えると……」

「稟ー! 凪ー! ただいまー!」

 

 ───叫んだ。

 みんなが少し驚いてたけど、構わずに向かう。

 まずは、凪が居るほうへ。

 

「……あちらの方がほうっておいてくれないと思うので」

「やれやれですねー、お兄さんは本当に気が多いのです」

『懐の広いところだけが取り柄の兄ちゃんから気の多さを取ったら、なんにも残らんぜー』

「と、彼もこう言ってるのですよ」

「……風? 宝譿はさっきまで壊れていたんじゃ……」

「真桜ちゃんに直していただきましたー。ちょちょいのちょいで楽勝や~と言ってたのですよ。その名も宝譿弐式、マツタケくんだそうですよ」

「…………マ、マツタケ……」

 

 ぶつかってくる大切な人達を抱き締めながら、涙も我慢することなく流して、ぶつかってこない相手には自分からぶつかりに行って。

 戻ってこれたのがこんなにも嬉しい───こんなにも嬉しいなら、どうしてそれを我慢する必要があるのか。

 嬉しいのなら、この思いをぶつけに行けばいい。ぶつけられればいい。

 俺はそれを受け止めたいって思ってるし、相手だってきっと受け止めてくれる。

 だって───“嬉しい”という事実だけで、こんなにも泣けるんだから。

 

「ただいま凪! あっははははは!! ただいま!」

「ぁわぁああっ!? たた隊長!? 下ろしっ……!」

 

 泣き笑いっていうヘンな顔で、凪をお姫様抱っこで抱き上げた。

 そのまま走りながらくるくる回ったところで、稟や風を巻き込んで転倒。

 それでも嬉しさのあまりに込み上げる笑いと涙は止まらなくて───俺はしばらくそうして、帰りたかった場所へ、ただいまを言える場所へ辿り着けたことを心から喜んでいた。

 ……いたんだが。

 

「……あれ? なんか背中にゴリっとした感触が……ってホウケェエーイ!!」

 

 倒れた俺の背中と大地の間で潰れていたもの。それは宝譿のようでいて宝譿じゃない何か……って、え!? 宝譿!? 宝譿はさっき風に踏まれて……!

 

「……お兄さんは宝譿になにか恨みでもあるのですかー……?」

「いや違っ……! ていうかなんで!? 宝譿はさっき風が……!」

「真桜ちゃんに直してもらったのですが、今この時、お兄さんに惨殺されたのです」

「人聞きの悪いこと言わないでくれる!? ま、真桜! 真桜ーっ!! 宝譿をたすけてぇええっ!!」

「ちなみにその子はマツタケと言うのですよ」

「宝譿にしなさい! 壊した自分が立ち直れなくなりそうだから!」

 

 結局感動の再会も騒がしさに流される。それなのにその騒がしさこそが心地良い。

 これでこそ自分たちだって思えたのは、きっと気の所為ではないのだろうから。

 

 

───……。

 

 

 で…………

 

「あの……はい……調子に乗りすぎました……お騒がせして、すこぶる申し訳ない……」

 

 宴の席を引っ掻き回したわたくしこと北郷一刀は現在、華琳様の前で正座をさせられていました。

 最初は何故こんなことをと、わけがわからなかったわたくし北郷一刀は、そっと囁いてくれた風のお陰で少しだけ状況がわかりました。

 風が言うには華琳様は、自分の時だけ強制しなければ“ただいま”を言わなかったわたくしこと北郷一刀に制裁を加えたいのだとか。

 いえあの……もう制裁加えられているからこそ、頭がとても痛いのですがね? ああもう過ぎたことです、この馬鹿丁寧な語りにも終焉をくれてやりましょう。ここまでのモノローグは、わたくしこと北郷一刀がお送りいたしました。

 

「皆、見苦しいところを見せたわね。気にせず今日という日を楽しんで頂戴」

 

 華琳は華琳で俺を殴ってすっきりしたのか、清々しいまでの笑顔で他国のみんなにそう言う。

 

「あ……ところでさ、華琳。結局、華雄や袁術はなんだったんだ? 自由がどうとか言ってたけど」

「ああ。野盗まがいのことをやっているところを、蓮華……孫権たちが引っ立ててきたのよ。せっかくの宴の席で首を刎ねるのもなんだし、それなら余興のひとつにしましょうって話になったの」

「へえ……で、どうするんだ?」

「敗者に情けは無用。……と、言いたいところだけど、いいわ、一刀に任せてあげる。勝ったのは一刀なんだから、煮るなり焼くなり好きになさい」

「………」

 

 ちらりと、華雄、袁術、張勲を見る。

 目が合った途端に袁術が身を守るように縮こまり、目を丸くしてヒーと泣き出した。

 それは張勲も同じようで、華雄はむしろ負けたのだからとどっしりと構えていた。

 

「……ん。じゃあ三人には“三国”に降ってもらおう」

「三国? 魏ではなくて?」

「ああ。これから国を善くしていくんだろ? だったら、一国だけじゃなくて三国にこそ人手が必要になる。三人にはその“必要になった時”、すぐに動ける人員になってもらうのはどうだろう」

「……華雄はともかく、あとの二人が役に立つ?」

 

 ギヌロと覇王の眼力で三人を睨む華琳。

 華雄はどこか楽しそうに笑っているが、袁術と張勲は涙目だ。

 

「役に立たないなら立つように教えればいいさ。人って成長できる生き物だろ? わからなければ教えればいい。覚えられないなら覚えるまで教えてやればいい。今役に立たないものの未来を捨てるよりも、役に立つように育ってもらって、同じ未来を目指せばいい。……俺は、この三国の絆をそうやって繋いでいきたいって思うよ」

「……………そう」

 

 俺の言葉に華琳はやさしく微笑んで、「じゃあ、任せたわ」と言う。

 うん、任されよう。

 人に命令できる立場か~って言われたら、悩む自分がもちろん居るけど───命令が嫌ならお願いすればいい。

 根気よく歩けばいいさ、今ならそれも出来る気がするから。

 

(さあ、これから忙しくなるぞ)

 

 善い国にしていこう。みんなで手を繋いで、みんなの力で、思いで。

 人間全てが笑っていられる世界なんて作れるわけはないけど、少しでもそうあれるように、まずはゆっくりとお互いのことを知っていこう。

 時には衝突することもあるだろうけど、それも大事な絆になるはずだから───なんて思っていたのはハイ、少し間違いだったかなーと、このあと思い知りました。いや、全てが間違いだとは言わないけどさ。

 正座するわたくし北郷……ってそれはもういいから。───正座する俺の横に、すっと影が差したのだ。

 見上げてみれば、そこには雪蓮。

 にこー、とさっきみたいな人懐こい笑みを浮かべていて、彼女の視線の先……華琳は逆に、笑顔を引きつらせていた。

 

「ね、華琳」

「……なによ」

「この子、私にちょうだい?」

「ヘ?」

 

 チョーダイ? ちょ……あ、はい、ちょっと混乱してますごめんなさい。

 ちょうだいってなんのことカナー。北郷、ちょっぴりわからない。

 

「それは先ほど、きっちりと断ったはずだけど?」

「一度断られた程度で諦めるほど、小さな執着心を持った覚えはないの。それにあれだけ強いなら、誰でも欲しいって思うわよ」

「っ!」

「ヒィッ!?」

 

 あれ? なんでここで俺が睨まれるの? しっ……仕組んだの華琳だよね!? え!? 負ければよかったの!?

 

「一刀は魏に生き魏に死ぬの。いくら雪蓮でも、一刀はあげられないわね」

「そこはほら、覇王の懐の大きさでササッと」

「あげないったらあげません」

「そこをなんとかっ」

「だめよ」

「じゃあ一月だけ」

「だめ」

「一週間!」

「だめって言ってるでしょう?」

「三日間でどーだー!」

「話にならないわね」

「なによー! 華琳のけちんぼー!」

「けちっ……!? いっ、いきなり何を言い出すのよ貴女は!」

 

 言い争いが始まった。

 たぶん、さっきもこんな感じで言い争ってたんだろう……触らぬ女神に実罰無し。

 俺は静かに身を沈め、ゴキブリもかくやという低姿勢で逃走を図った。

 正座による足の痺れ? フハハ、そんなものなぞここ一年の道場修業で克服したわ。

 

(じいちゃん……俺、強くなったよ……!)

 

 ヘンな方向に感動が向く。

 俺の強さってそんなもんですか? と心がツッコミを入れるが、俺が欲しかった強さは戦場に役立てるばかりのものじゃない。

 だからいいのだ、俺は俺らしく。それが、俺にしかない俺の強さだと思う。

 

「よしっ」

 

 大体の距離を稼ぐと立ち上がり、とりあえずバッグを拾いに劉備たちが居る場所へ。

 途端に関羽にギシャアと鋭い眼光で睨まれるけど、そこはなんとか口早に説明をして、バッグを拾って逃走。

 城の適当な一室を借りてフランチェスカの制服に身を包むと、ようやく自分らしさが取り戻せた気がした。

 

「ははっ……思えば、寝る時以外はほぼこの服だったもんなぁ」

 

 こぼれる苦笑を噛み締めて、脱いだ私服をバッグに。

 その時に見えた胴着が、やっぱり少しだけ勇気をくれる。

 

「……じいちゃん。たぶん、じいちゃんにとっては一秒にも満たない時間なんだろうけど……俺はこの世界で自分が生きていられる限りに、受けた恩を国に返していきたいって思う。だから……恩返しがいつになるかわからないけど、“すぐに戻る”よ。元気で、って言うのもヘンだけど、それまで元気で───」

 

 この世界での出来事は、元の世界では一秒にも満たなかった。

 学園で寝て一日を過ごし、目覚めれば大陸に居て、魏と生きて、魏と別れた。

 そうして戻った世界は、なにも変わらない、自分が寝て起きた場所。

 たぶん今回も同じことで、この世界に居てくれることを華琳が願ってくれる限り、存在できるはず。

 天寿を全うした場合、帰れるのか死ぬのかはわからない。

 けど、今はわからないことを考えるよりもやりたいことがたくさんある。

 

「じゃ……遅れたけど。───“いってきます”」

 

 剣道着にそう言い残すとファスナーを閉じて持ち上げ、肩に引っ掻ける。

 さて、行こうか。

 正直巻き込まれるのは怖いけど、止めないと戦争でも勃発しそうだ。

 ただじゃれ合ってるだけで、本当は結構気が合ってるのかもしれないけど。

 そういえば華琳と対等に渡り合える相手なんて居なかったし……そっか、あれで結構楽しんでいるのかもしれない。

 そんなふうにして笑みをこぼしながら、がちゃりとドアを開けて通路に───

 

「ちぃ姉さん、そろそろ急がないと───あ」

「わかってるわよもう! まったく、あいつが居なくなってから───え?」

「……? 二人ともどうし───あ」

 

 ───出たところで、そういえば中庭には居なかった彼女たちとの再会を果た───しべるぼ!?

 

「こっ……こここここのにせものーっ!! 一刀の格好を真似したくらいで、ちぃが騙されるとでも思ってるのっ!?」

 

 い、いや……言ってる意味がよくわからないんだが……!? とりあえず確認もなしにボディブロゥはどうなんですか地和さん……!

 

「え……か、一刀? ほんとに一刀?」

「じっ……実はニセモノです」

「死ねぇえーっ!!」

「うわぁああ冗談! 冗談だから! 本物! 正真正銘、北郷一刀だから!」

 

 目を白黒させながら……といってもいいものか。

 天和の質問に、場を和ませようとして出た冗談に地和がキレた。

 そんな地和から逃げるように、後ろ走りで通路を行ったり来たりを繰り返していると、どんっと……背中から誰かに抱きつかれる。

 

「一刀さん……一刀さん」

 

 驚いたけど、それは人和だった。

 背中からだからその表情はわからないけど、喜びを含んだ声には嗚咽も混ざっていもるぱ!?

 

「ぶっは! ~……こらこらぁああっ!! 動けなくなったやつをグーで殴るアイドルが居るかぁあっ!!」

「うるさいこのバ一刀!! あんたが勝手に居なくなってから、ちぃが……───あ、やっ、やっ……姉さんとれんほーがどれだけ寂しい思いをしたかっ!!」

「えー? ちーちゃんが一番寂しがってたくせに」

「んなっ……違うわよ! そんなことない! 姉さんだってなにかあるたびに一刀だったらーとか一刀じゃなきゃーとか言ってたくせに!」

「ちぃ姉さん、“姉さんだって”って時点でもう終わってるわ」

「ふぐっ……!? う、うー……! 一刀が悪い! とにかく悪いの!」

「アーハイハイゴーメンナサイヨー」

「心がこもってな───わぷっ!?」

 

 顔を真っ赤に、目を涙目にして再度殴りかかってくる地和を、真正面から抱き締める。

 するとその顔は余計に赤くなって、少しだけ暴れだすけど……それもすぐに治まり、胸の中で小さく「……おかえり」と言ってくれて───

 

「あーずるーい! お姉ちゃんも一刀に抱きつくのー!」

 

 そんな俺達を、横から包むようにして抱く天和……だけど、腕の長さが足りなかったりする。包みこむように抱くというよりは、へばりつくようなカタチになって……でも。

 俺を見上げてくるその顔は、喜びに満ちている。

 

「……天和、地和、人和。───ただいま」

「……はい。おかえりなさい、一刀さん」

「うん、おかえり一刀♪」

「それじゃあ早速一刀には働いてもらうわよ! 今まで居なかった分、きっちり働いてもらうんだからねっ!」

「戻って早々!? い、いや、俺も人並に宴を楽しみたいというか……」

「え、なに? 勝手に居なくなっておいて、その上ちぃたちの頼みも断るっていうの?」

「ア……ハイ……喜んでお手伝いさせていただきマス……」

 

 勝手に居なくなったのは、説明する暇がなかったし仕方なかったことなんだけど……ほんと、それこそ仕方ない。

 寂しがらせたことは事実のようだし、寂しがってくれたならこんなに嬉しいことはない。

 

「それじゃあ、まずはなにをしたらいいのかな」

「一刀~、肩もんで~」

「喉渇いたから飲み物もってきて」

「一刀さん、これからの予定をきっちり頭の中に───」

「結局小間使いかよ!」

 

 なんら変わらない扱い。

 あーだこーだと文句にも似た言葉を言いながら、以前のように接してくれる三人にありがとうを言いたくなる。

 言ったら調子に乗るのが思い浮かぶから、言わないけど。

 

「ちゃんと聞いてなさいよ? 今日の歌、一刀のために歌うから」

「一生懸命歌うからね~♪」

「もう……勝手に居なくならないでくださいね」

 

 ……あ、だめ。やっぱり言いたい。

 言いたいけど……それはこの宴が終わってからでもいいかなって思えた。

 だから、今は送り出す。

 

「ああ。頑張れ、三人ともっ!」

「任せなさ~いっ!」

「ちーちゃん、あそこのことだけど、一刀が帰って来たんだからやっぱり戻そ?」

「うえ~……? ちょっと恥ずかしいんだけど……」

「じゃあちぃ姉さんだけそこで歌わないように───」

「やっ、わ、わかったわよ! 一刀のために作った歌なんだから、ちぃが歌わないわけないじゃない!」

 

 三人が走ってゆく。

 それを見送りながら、俺もゆっくりと歩き出す。

 

「……ただいま。今帰ったよ、魏の国よ───」

 

 今、自分が歩こうとしている道が、確かな充実感に満ちているであろうことに喜びながら。

 

 

 


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