真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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28:蜀/何気ない蜀での日常②

 ……で、今に至る。

 

「ちょっと、そこ詰めてくださるっ!?」

「ここはたんぽぽが元々居た場所だもんっ、おばさんなんかに譲らないよ~だっ」

「おばっ……!?」

「斗詩ぃ~、喉渇いた水くれぇ~……」

「あんなに大声で、叫ぶみたいに歌うからだよ、もう……」

「な~んだその程度か。これからが本番だってのに……げっほごほっ!」

「ああほらお姉様も~っ。歌で勝負しようなんて言い出すから……」

「し、仕方ないだろっ、前の腕相撲は引き分けだったんだからっ!」

 

 いつの間にか、木の幹には人が集まっていた。

 軽く見渡すだけでも蜀将の半分は目に付き、木の裏ッ側まで見えるのなら大半を発見できることだろう。

 よせばいいのに無理矢理幹に腰掛けようとするから、ぎゅうぎゅう詰めだ。

 

「……あのさ。みんな仕事は?」

「終わったのだっ!」

「ん……終わった」

 

 声を掛ければ元気に返事をする鈴々と、とても静かに、頷きつつ言ってくれる恋。

 他の人も終わらせたらしく、むしろ終わったのだからのんびりしているのだとばかりに、さらに楽な姿勢へと崩れていく。姿勢を崩すっていうけど、こういう場合は適当なのかどうなのか。

 

「そう言う北郷殿こそ、歌を歌う余裕があるとは随分と……」

「いや、これでも政務を手伝ったり学校のことを煮詰めたりとやってたんだけど」

「おお、これは失礼」

「……言葉の割りに顔が笑ってるよ、趙雲さん」

 

 何処で歌声を耳にしたのか、ちらほらと集まっては……気づけば歌詞を覚えて歌う皆様が居た。

 俺と朱里と雛里と馬岱の時は、本当に喉を慣らす程度の静かな歌だった。そこに文醜、馬超が混ざった時点で激化。なんでか競うように歌いだして、その激しさに誘われた鈴々や趙雲さんも混ざり、離れていた位置で静かな歌を聞いていたらしい恋も寄ってきて……あとはまあ、泥沼。

 

「おまえがこんなところで歌い始めるから悪いのです! ちんきゅーきぃーっく!!」

「俺の所為なの!? って陳宮いつの間にボハァ!!」

 

 聞こえた声に返しつつ振り向く過程、脇腹を襲う蹴り。

 ゆ、油断した……! 恋が居るなら彼女も居ると踏んでおくべきだった……!

 

「ねね、きっくはだめ……」

「れ、恋殿……いえ違いますぞ恋殿っ、友の間柄に遠慮は無用なのですっ!」

「ゲッホッ……! た、確かにそうだけど……! 友達になった途端にキックされまくってたら、身が()たないだろ……っ!」

 

 遠慮は無用……俺が彼女に言った言葉ではあるものの、だからって日々蹴り続けられたら身が保たない。そしてイイところに入ったのか地味に痛い。結構痛い。かなり痛い。……痛みってこう、じわじわ強くなるから嫌いだ。

 

「あのさ、陳宮。いつの間にここに……? え? 最初から恋と一緒に居た? 気づかなオブォッフェッ!?」

「はぶっ!? ななななにをするのです! 離せーっ!!」

 

 腹に蹴りをくらいつつ、飛び込んできた体を捕らえて無理矢理腕の中にすっぽりと納める。

 当然暴れるが、俺の胸に後頭部を預けさせる形で座らせ、その頭を撫でた時点で「ぴうっ!?」とヘンな声を出し……停止。

 

「友達間での悪ノリはもちろん大切だけど、あまり無茶はやめてく……ぁああいだだだだ……!!」

 

 改めて。痛みって瞬間的なものと、後からジワジワくるものがあるよね。

 現在そのジワジワが脇腹を支配しているところで、陳宮の頭を撫でつつも顔が引きつる俺が居ます。

 

「友達? へー、お兄様と友達になったんだ」

「な、なんです? 悪いですかーっ!」

「んーんべっつにぃ~? ただちょっと意外だなーって。恋にしか懐かないと思ってたのに」

「懐くなど、ねねを動物みたいに見るのはやめるです!!」

 

 言いながら、俺の胡坐の上でぷんすか。……動物に近いな。気分屋ですぐに攻撃的になったり、かと思えば好きな物(恋)の前ではやたらと従順。

 とか思っていると、ちらほらと動物が寄ってきて、俺の周りに座ったり寝転がったり。

 そういえば成都に来て、恋や陳宮と改めて友達にって時にも動物が飛んできたっけ。その理由がまだ見えてない。……どうしてだろうなぁ。

 

「へ~、ここまで動物たちが集まるなんて、あの脳筋以来だね」

「脳筋?」

「焔耶……魏延のことなのです」

「……そうなのか。魏延さんはその、の、のう、きん……なのか?」

「あっはははは、見ればわかるじゃ~ん!」

「わかったらわかったで、それは大変失礼だろ……」

 

 それが当然のように笑われると、どう返していいのか戸惑う。

 そんな苦笑もそこそこに、魏延さんの話を聞く。

 どうにも彼女は動物に好かれやすい体質のようなものを持っているそうで、街中で犬の大群に追われることが何度かあったらしい。

 で、今の俺の現状がそれによく似ているんだとか。

 

「へぇえ……それって原因とかはわかってないのか?」

「犬が好きそうな匂いを出してるんじゃないかなぁ。ほら、思い立ったら考えずに突っ込むし、飼い主……桃香さまの言うことくらいしかまともに聞かないし」

『……っ……』

「あの……みんな? どうしてそこで“そんなことない”とかじゃなくて、顔を逸らして肩を震わせるのかな……」

 

 あまりに的を射ている言葉だったのか、なんかもうみんな笑ってた。

 けど、そっか。俺はそれに似た匂いかなにかを出してるのか。

 

「でも俺、日本……天ではあまり動物に好かれなかったけどな」

「へぇ~、そーなんだ。じゃあこっちに来てから好かれるようになったってこと?」

「そうなる。……けど、その理由はちょっと」

 

 なんだか楽しげに俺のことを訊いてくる馬岱に、俺も笑顔で返す。

 何がきっかけで動物に好かれたか~とかは気になるものの、考えてもわからないことっていうのはどうしてもあるものだなぁと諦め、また歌を歌った。……ら、腕の中に納まっている陳宮に、急に歌うなですと怒られた。

 

「ちょっとそこの凡夫さん? わたくし、もっとゆったりとした歌がいいんですけど?」

「ぼっ……や、はは……袁紹さん? 歌はそんな、好きなものばかり聞いてても案外飽きやすくて……」

「構いませんわ。飽きたら次を歌えばいいでしょう?」

「うわー……んん、うん。じゃあ、おとなしめのを」

「えー? たんぽぽもっと早口くらいの歌がいい~」

「あっ、あたいはこう、叫ぶくらいのやつがっ」

「ねねの後ろで歌うのですから、静かなものにするのですっ」

「いや、ここはもっとどっしりした歌だなっ」

「お姉様、もっと女の子らしい歌にしようよ……」

「おっ、お前だって人のこと言えないだろっ!!」

 

 つまりどんな歌を?

 ゆったりとしてて早口で叫ぶくらいで静かでどっしりしてて女の子らしい歌……? いや無理だろ、ないよそんなの。

 

「えぇ、っと……恋? 恋はその、どんな歌がいい?」

 

 助けを求めるように恋に振ってみる。……首をこてりと傾げられ、答えらしい答えは返ってこない。

 ああ……なんだ、つまり……俺に決めろと。このどれを選ぼうと角が立つ状況で、あえて俺に決めろと。そう仰るのですね神様。

 

「顔良さん、鈴々、キミタチは……」

「私はその……」

「叫ぶくらいのだよなっ、斗詩っ」

「あぅうう……」

「鈴々はもっと楽しそうなのがいいのだっ! 」

「………」

 

 マテ、何故何一つとして共通点がないものを選ぶんだみんな。

 蜀はみんな仲良しこよしじゃなかったのか? 俺が……俺が勝手な想像を押し付けていただけなのか……!?

 

「趙雲さんは……」

「ふむ? うーむ……おおっ、ではこう、塩辛くて小さな壷に入った美味なるものに合う歌を」

「メンマに合う歌ってどんなの!? こっちが訊きたいよそれ!!」

「はっはっはっはっはっは!」

 

 からかっていたのか、俺の慌てっぷりを見て盛大に笑う趙雲さん。

 あの、俺もう部屋に戻っていいかな……。そうは考えても口には出せず、世話になっているところの人の言う事だからと受け入れる。試練だ、耐えられよ。

 

「い、いい、わかった、じゃあ順番に歌っていこう。これがいいあれがいいって言いながらも、聞いてみると“これもいいな”って思えるもの、あるはずだから」

「あ、はい、そうですねっ」

 

 にこりと笑って賛同してくれた顔良さんに感謝を。

 袁紹さんがそれに待ったをかけたが、最初に袁紹さんのリクエストに応えることで、なんとか抑えてもらった。

 

……。

 

 それからしばらく経ったあとのこと。

 

「カー……カー……ッ!」

「だ、大丈夫ですか一刀さん……」

「声、出ないんですか……?」

 

 中庭で、喉を嗄らしてぐったりとしている俺が発見された。

 現在はリクエストを遠慮してくれた、朱里と雛里に介抱されていたりする。

 

「あ゛……いや……ちょっと声、出しすぎただけだから……」

 

 常に喉に何かが張り付いている気分だ。

 ここまで歌わせておいて、用事が出来ればみんなさっさと行ってしまうんだから、本当にこの世界に生きる人々は気まぐれだ。

 

「はぁ……けど、ここまで歌ったのは久しぶりだよ。体や氣は鍛えてても、喉の鍛えは足りなかったみたいだ」

 

 冗談混じりに言ってみても、向けられる視線は“心配”でしかなかったりした……反省。

 

「無茶はしないでくださいね……声が出なくなったりしたら大変です……」

「う……ごめん。拍手とかされると、つい調子に……」

「天の国には……その、いろいろな歌が……あるんですね……」

 

 そう言って小さく微笑む雛里に、「うん、まったくだ」と微笑み返す。

 本当にその通りだ。昔から今まで、覚えきれないくらいの量の歌があるのに、まだまだ全然似通いすぎている歌を聞かない。

 一時期問題になった歌もあったらしいが、それこそ一時期であり、作詞作曲は終わることを知らないのだ。ああいや、それは歌に限ったことじゃなく、漫画や小説にしたって一緒か。

 

「……で、さ。今さら気になったんだけど」

「はい?」

「?」

「二人とも、桃香への報告は?」

『───……』

 

 とある穏やかな日差しの下。

 笑顔が涙目に変わる瞬間が、そこにありました。

 

……。

 

 人が立っていた位置は、何処へ行ってもそう変わらないらしい。最近、よくそんなことを思う。

 

「ごめんっ、ほんっと~にごめんっ! 俺が歌なんかに誘ったからっ!」

「へぇ~、そーなんだー。私が報告をず~っと待ってる間、お兄さんやみんなは中庭でぇ……ふ~ん」

 

 訪れた執務室に、笑みを含んだ声が響く。

 静まり返ったその場に居るのは俺と朱里と雛里……そして、手伝った時の再現の如く、椅子に座った笑顔のままの桃香様。

 ……うん、笑顔なのが逆に怖くて仕方がない。

 

「あ、あのー……桃香? 怒ってる?」

「えー? 怒ってないよ~、あははははっ♪」

 

 怒ってらっしゃる……! 怒ってらっしゃるよ確実に……!

 怖い……ば、ばかな……これがあの桃香だというのか……!

 

「えーと……桃香? 肩でも揉もうか?」

「ほんと? ありがと~♪」

 

 伺うように言って、返事をもらうなり即行動。

 彼女が座る椅子の後ろに回り込み、肩に手を置き、優しく、しかし適度に強く揉む。

 そんな行為に「はう~……」と彼女の視線が俯きがちになる頃、俺はクワッと朱里と雛里にアイコンタクトを開始。

 お茶の用意や積んであった書簡の整理などに励んでもらい、俺は俺で掠れ気味の喉に負担がかからないゆったりとした歌を歌ったりして……ただそれだけで、気づけば日も暮れようとしていて───なんだかんだで最後には機嫌も良くなってくれたようで、いつものやさしい笑顔に安堵した頃には夜になっていたりした。

 教訓……出来るだけ桃香を怒らせないこと。普段はぽやぽやしている人が怒ると、それまでの本人でさえ気づいていない鬱憤が爆発するもんだ。地味に経験があるからわかる。アレは自分でもコントロールできない。あ、経験ってのは怒ったこともあれば怒られたこともあるって意味で。

 冷静って意味では、怒った春蘭よりも秋蘭の方が怖い。だって無言で弓構えるんだぞ? 眼前に矢を突き付けられるんだぞ? 問答が利くだけ春蘭のほうがやさしいじゃないか。

 

(はぁ……今日は本当に、蜀の将の一部だけでも、様々な性格の人が居るなぁと認識させられた日だった)

 

 心に段落を得てから、“気づかなければいけなかったこと”への報告をしようと思っていたけれど……今はまだやめておこう。

 もっとも、機嫌が直る頃には「お兄さんの口調、なんだかやさしくなった気がするな」って言っているところを見ると、案外もう予想がついているのかもしれない。

 口には出さないし、特別な行動なんて取らなかった。ただ心の中でありがとうを唱えながら……「お腹空いたね」と笑って言う桃香に手を引かれるままに、食堂へと歩いていった。怒り疲れたらお腹が減るなんて、子供みたいだなとも思いながら、確かに時間もいい頃合。

 パタパタと付いてくる朱里と雛里とも一緒に食堂までを歩き───……そこで桃香を待っていた魏延さんにあらぬ誤解を受けて襲われかけたことを、本日のオチにしようと思う。

 華琳、雪蓮……蜀には本当に、いろいろな人が居ます。

 これからのことを思うと、かなり不安ですが……それでも頑張っていきます。




 エロマンガ先生のエンディングテーマが良くて、毎度毎度じっくり聞いてます。
 自分は流行歌とかそういうのにはとことん疎く、そういう流れに乗るのも苦手でヤンス。
 たまたまじっくり聴いたら「良い歌じゃん!」となるのが毎度です。
 WANIMAの“やってみよう”もつい最近たまたま聴いて惚れ込んだ有様ですし。CMやってからどれだけ経ってると思ってんでしょうね、もう。でも大好き。やってみよう大好き。理由~なんて~♪ いらない、いらないいらない♪
 それから流れるように“ともに”も購入。amazonならデジタルミュージックで一曲ずつ買えるからステキ。よく利用しております。というのも、CDプレイヤーというかマルチドライブがうんともすんとも言わず、CD音源が聴けなくなって久しいもので。
 青空のラプソディーを買った時なんて、その時に初めて動かないことに気づいて、どうしたものかー!と苦労しました。
 何度も出し入れをしてたまたま起動してくれて、おお、と思った次の瞬間にはもう動かなくなりました。……寿命……だったんじゃよ……。
 そんなわけで、復活のベルディアをプレイするのにも一苦労だった凍傷です。

 あ、ちなみにわたくし、一般的に皆様が休みの日にこそとことん忙しい社畜でして、ゴールデンヌウィークとか地獄です。休みじゃないです。
 なので更新が無かったら「凍傷? ああ、家族思いのいいやつだったよ」とでも遠い目をしつつ、他者様の素晴らしい小説をどうぞ。
 いやー、心が癒されますぞフォッフォッフォー! とうとう両さんもこのすば入りかー! うんまあ、フリーザの攻撃くらってもギャグ補正で耐えちゃう人だものなぁ。ナイストゥミーチュー。

 いまー! わーたしのー! ねがぁ~いごとがー!
 かなーうーなーらヴァアアーーーッ!!

 …………休みをください。

 P.S.……ところでアニメソングってTVサイズのOPやEDを聞いたからこそ気に入ったー! ってなるのに、FULLが想像してたのと違うと、酷くショックだったりしません? 進撃の巨人一期OPとか、ろんぐらいだぁすOPとか、坂本ですがOPとか。
 TVsizeが狂おしいほど好きなのに、FULLになるとこう……にょろ~んって感じになるっていうか。ヒロアカ一期のOPでもそんな感じになってたり。

 ごめんなさい、なんかちょっといろいろ叫びたかったの。また黙々更新に戻ります。チェリオ~!

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