真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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29:蜀/強い自分であるために①

53/“いつもの”になってゆく日々

 

 将らの朝は早い。

 起きて早々にドタバタ走る者から、足しげくとある女性の部屋に通って朝を報せ、自分の仕事をほったらかしで執務室に張り付く者から、いろいろだ。

 俺はといえば、早朝とも呼べる頃から起きだして、水を一杯もらったのちに中庭に出て軽く体操。食事時になるまではまだ覚醒していない体を動かして、途中から起きだしてきた鈴々も混ぜての運動をした。

 ……といっても、すぐ傍で黙々と付き合ってくれている思春も居るんだけど。

 お願いだから、気配を殺したままでず~っと後ろに居るのは勘弁してもらえませんか? どうせならきちんと一緒にやりたいし。

 

「にゃむにゃむ……んー……まだ眠いのだー……」

「食事時までによくお腹を空かせておけば、もっと美味しく感じられるぞ。運動後、すぐに食うのはよくないっていうけど、それはダイエットしてる人に限ったことだって勝手に認識しよう」

「だいえと? また難しい言葉が出たのだ」

「ああ、ダイエットっていうのは、太っている人や、痩せているけどもっと痩せたい人がする行動のことだよ。食事を減らしたり運動をしたりと、いろいろ大変みたいだ」

 

 手首足首を曲げ、伸ばし、体の隅々に血液を送るイメージで体操。

 部分部分の柔軟が終わると酸素をよく取り入れて、次の部位へ。

 

「? ごはんはいっぱい食べたほうがいいのだ」

「そうだなぁ。けど、それを諦めてでも痩せたい人っていうのは居るから、あまりそういうことをハッキリ言わないほうがいいぞ?」

「んー……よくわからないけど、わかったのだ」

「ん、よしっ」

 

 納得してもらったら再び体操。

 にししと笑う鈴々とともに、今度はゆったりとした動きで体に持久力を思い出させてゆく。

 足を上げようともバランスを崩さぬように、芯は常に大地とともに。

 さすがによく鍛えられているのか、鈴々は高い位置まで足を上げてもフラつくこともない。

 しかも体が柔らかく、よく曲がる。一瞬子供だからかなーと考えたけど、それは失礼だな。きっと鍛錬のたまものだ。

 

「おや。朝から城の一部だけやけに暑苦しいと思えば」

「? 星なのだ」

「やっ、趙雲さんおはよう、いい朝だね」

「うむ、おはよう。何をもっていい朝だと決めるのかはわからんが、なにやら私もそう思うから賛同してふあああああひゅひゅひゅ……」

(……ねぼけてるのだ)

(……ねぼけてるな)

 

 朝、弱いんだろうか。

 欠伸をしたのちにふらふらと歩き、体操をする俺達の横にとんと立つ。

 すると途端に俺達の行動の真似を始め、そうする頃には目がキリッとしたものに───! ……あ、やっぱり眠そうだ。

 

「食事前に運動とは。なるほど、けだるい朝の体には丁度の良い喝だ」

「血のめぐりをよくするためだったんだけどね。一度始めると体が起きるまでやりたくなっちゃってさ」

「おなかすいたのだ~……」

「はは、うん。たぶんもうちょっとだから、頑張って鈴々」

 

 言いつつも続ける。

 動きは普通の速度に戻り、ラジオ体操的なものに。

 通路からよく見えるのか、気づけばちらほらと将のみんなが集まり、その場は体操に参加する人や傍観する人で溢れていた。

 視線も参加もどんとこいだ。見られようが参加しようがそのまま続けて、一度した行動を繰り返す。

 いい加減体も温まり、ほぐれてきたところで誰かが「そろそろ朝食ですよ~」と言って、体操は終了。

 朝の体操にしてはやりすぎた感もあるものの、目は完全に覚めたので問題はない。

 みんなでワイワイ騒ぎながら厨房までを歩き、食事を摂って、訪れる場所は再び中庭。

 桃香や朱里や雛里には「後で手伝いに行くから」と伝え、すこ~しだけ体を動かす。

 ……と、そこに視線を感じて、ちらりと見てみれば……通路の欄干に肘をつき、ぶすっとした顔で俺を見ている馬超さんを発見。

 お、怒ってる? 昨日の歌の時点で少しくだけてくれたかなーとか思っていたけど、甘い考えだったのでしょーか。

 

「………」

「………」

 

 少し緊張しながらも軽く胃を揺らす運動をする。

 激しい運動は脇腹を痛める原因になるけど、軽く揺らす程度ならばむしろ消化吸収を助けてくれると聞いたことがある。

 だからこそ、ゆるゆると運動をしていたんだが……そこへ、中庭の草をさくさくと鳴らしながら歩いてくる馬超さん。

 ぎょっとしそうになるのをなんとか押さえ、運動をやめた俺の前に立つ彼女を「?」と疑問符を浮かべつつ見つめる。

 

「……あのさ。その……食ったばっかりでそんなに動くと、腹の横とか痛くなるから……その。やめとけって」

「……エ?」

 

 相変わらずぶすっとしたような顔だったけど、口にしてくれたのは……なんだか暖かい言葉だったりした。

 あれ? どうして俺、こんなこと言われてるんだろ。と、そんな疑問が顔に出たのか、馬超さんは少し慌てた風情で口早に話してくれる。

 

「あ、いやっ、とと桃香さまから聞いたんだよっ。お前はたしかに魏の連中全員とその、かかか関係をもったかもしれないけどっ、それはきちんとした気持ちであって、浮ついたものじゃないって! だだだからそのっ、勝手に否定して勝手に帰れって言ったことを……その……」

「………」

「その……わ、悪かった! 何も知らないのにエロエロ大魔神とか言ったりしてっ! たんぽぽからも、自分がしつこく訊いたからだって聞いたし───と、とにかく悪いっ!」

「…………えーと」

 

 予想外再び。

 まさか謝られるとは微塵にも思っていなかった。自分自身、馬岱にいろいろ話した時点で“やってしまった”って感があったのに、そのことをまさか馬超さんに許されるなんて。

 どう返していいかわからず、しばらくぽかーんとしていると……傍から見れば拝み倒すような仕草にも見える姿勢(頭を下げた顔の前で手を合わせ、目を閉じるといった格好だが)の彼女が片目をチラリと開き、ぽかんとしている俺の様子を伺った。

 それでなんとか意識もハッと戻ってきてくれて、慌てながらもきちんと返すことに成功。

 

「あ、あぁははは、うん、大丈夫。むしろこっちが悪かったって言いたいくらいだ。迫られたからって、誰かに話していいようなものじゃあなかった……ごめん」

「………」

「? え、えぇと、なにかな」

「へっ? あ、いやっななななんでもっ!? とととにかくっ、これでお互いわだかまりは無しってことで! 改めて、モノ食べたあとにそんなに動くとだなっ……」

 

 あっさり許したとかあっさり謝ったからとか、そういうことが関係しているのか、ポカーンと停止していた馬超さんだったけど、ハッとすると口早に脇腹解説をしてくれる。

 しかしながら、「腹が痛くなるまでじゃなく、軽く運動する分には、消化を助けて太りにくくなるんだよ」と教えると、急に真面目な顔になって……参加した。

 

「かっ……勘違いするなよっ!? あたしはただ、急に運動がしたくなって……!」

「ん、付き合ってくれてありがとう」

「……うぅ」

 

 呉でも、誰かが鍛錬の付き合いをしたり、指導してくれたりしていたからだろう。一人で鍛錬するっていうのがしっくりこなくなっている自分が居る。

 思えば日本に居た時もじいちゃんが教えてくれていたし───なるほど、そう考えればそもそも一人での鍛錬は最初から肌に合わないものだったのかもしれない。

 

「けどお前、いつもこんな朝早くから一人っきりで鍛錬してるのか?」

「え? いや、思春───甘寧も一緒だけど?」

「甘寧? どこに居───」

「……すぐ横だ」

「うわぁあっ!?」

「うわっ!?」

 

 すぐ横で声をかけられた瞬間、思わず逃げ出すようなカタチで俺に抱き付く結果となった馬超さん。

 彼女自身、俺にしがみついていることに気づいていないのか、「居るなら居るって言えよぉおっ!」と思春を睨みながら叫んでいる。

 そもそも馬超さんが俺の隣で運動しようとしたから、思春が横にずれて間を空けてくれたんだけど……うん、やっぱり普通じゃ気づけない。

 最近になってようやく少し……本当にすこ~しだけ気配に慣れてきたから、“そこに居る”って事実だけはわかる俺から見れば、視界の中に確かに居るのに見えないっていうのは、もはや技術というより魔法めいたなにかだ。

 蓮華に言わせれば、「常に誰かに見られているというのは、向上心を持つ者にとってはありがたいものよ」、だそうなんだが。

 確かに誰かに見られていると思うと、手抜きなんて出来ないだろうし……それが例えば自分が恐怖する相手だったりすれば、なおさらだ。もちろん俺も、蓮華の考えにはまったく同じ考えを持っていたわけで。

 ……い、いや、僕はべつに思春が怖いって言ってるわけじゃなくてデスネ?

 ただ、傍に居てくれるなら、気配を消さずに一緒に頑張ってくれたらなーと思うわけで。

 

「………」

 

 だがだ。今重要なのはそこではなく……いや、そこも重要だけど、なによりもまずすべきこと。

 それは……服にしがみついている誰かさんに気づかれないよう、このしがみつきから逃れることであり。このぎゅ~っと握られた僕の服を、なんとかゆるりと逃がして……無理だ、ああうん無理だよこれ。

 だったらここで上一枚を脱いで……無理。

 

「……あの。馬超さん」

 

 なんとなくこのあとがどうなるのかを予想できる自分が悲しいけれど、言わないわけにもいかない。

 コホンと咳払いをすると……俺と、自分がどういう体勢でいるのかを確認した彼女に再びエロと言われるまで、時間はそう必要じゃなかった。

 

……。

 

 さて、そんなこともあった日の昼のこと。

 我ら結盟軍(桃色な結盟だが)の力を以って桃香の手伝いを終わらせた俺は、顔を少し引きつらせた桃香を連れて中庭へ。

 なんのことはなく三日経ったから鍛錬しましょという状況なのだが、繰り返して言うのもなんだけど、桃香が微妙な顔をしている。

 

「桃~香。筋肉痛にはもうなりたくないか?」

「へぁっ!? あ、ううんっ、頑張りたくないわけじゃなくてえっと……あの……う、うん……」

 

 大変正直でした。

 そうだよなぁ、好きこのんで筋肉痛になる人って、そうはいないと思う。

 そうしなくても鍛えられるのであれば、よほどのことがない限り誰もがそれを望むだろう。

 しかしながら筋肉痛になれば、それだけ鍛えているって実感が沸くものだから、慣れてくると“今回も頑張ったな”って思えてくる……ものの、最初からそれを望むのは酷だ。

 むしろ筋肉痛が好きって人もいるらしいし、世の中はまだまだ広く、時に狭い。

 

「あ、で、でも、やるって決めたから頑張れるよっ? 途中で投げ出したり諦めたりしたら、それこそ華琳さんに怒られちゃうもん」

「そうだな。じゃ、今日も頑張ろう」

 

 “華琳に怒られる”か。

 あれから手紙を出したけど、華琳はどんな反応をするだろう。

 怒るだろうか、呆れるだろうか。

 それとも───やっぱりどこまでいっても一刀ね、なんて失笑するのだろうか。

 計画実行の根回しにならないためにと思いながら、結局他人任せな自分が情けない。

 命令無しに動けない人たちは、いつもこんな気分で動いているんだろうか───そんなことが浮かんだ頭を軽く振るいながら、桃香や思春とともに準備運動を始めた。

 

  ……いや、桃香と思春だけだったはずなんだけどね?

 

「………」

 

 念入りな準備運動をしていたら、いつの間にやら人が増えていた。

 それは馬超さんだったり文醜さんだったり、魏延さんだったり馬岱だったりと……あ、あれー? どっちもやたらと競い合って運動してるんだけど……蜀ってもっと仲良しで徳と仁に溢れた国じゃなかっただろうか……?

 

「馬の扱いでは負けるけど、足でならあたいが勝つっ!」

「ぬかせっ! 馬でも足でもあたしが勝つっ!」

「力ば~っかりが自慢の脳筋じゃあたんぽぽには追いつけないよ~だっ」

「なんだとこのっ……! 小回りが利こうと歩幅ではワタシが勝る! 所詮背の小さなお前では、一歩目を先んじることは出来ても勝つのはワタシだ!」

 

 城壁の上を競って走る馬超さんと文醜さん、その後ろをギャースカ騒ぎながら走る馬岱と魏延さんを中庭から見上げ、蜀という国の在り方を少しだけ考えた。

 まあ……これも仲良しの証なのかな。

 

「思春ちゃん、これの次は……こうだっけ」

「はい、桃香さま。体をよく伸ばし、さらなる運動に耐えられる体を───」

 

 中庭でも桃香と思春が運動中だし。

 一人余った俺は俺でリハビリも兼ねて、木刀片手に素振りの練習。

 右手に持った木刀をゆるゆるジリジリと持ち上げる……だけなのだが、これがまた辛い。

 負荷をかけることでさらなる強度を~とか考えているわけだが、まずはきちんとくっついてからやるべきなんじゃないかなぁとか思い始めている。

 や、違うか。単に今まで鍛えてきた部分が弱ってしまうことを実感したくないだけだ。

 

「桃香、どうだ? 三日前よりは出来てる実感、あるか?」

 

 そんな焦る心も一呼吸で落ち着かせて、腕を大きく上げて背伸びの運動をしている桃香に語りかける。

 前回の時はこの辺りですらぐったりしていたのに対し、今は───

 

「はぅうぇえええ~……」

 

 ……ぐったりだった。

 運動のあとのリラックスとして取り入れた背伸びの運動らをする桃香は、目をきゅっと瞑りながらプルプルと腕を伸ばし、伸ばし終えると「ぷあっ! は、はぅうう~……」と。聞いているこっちが申し訳なくなりそうな苦しい声を出していた。

 そりゃそうか、たった一回でそんな簡単に強化されてたら、さすがに努力する人の立つ瀬がない。

 

「終わった?」

「う、うん……なんとか……」

 

 けれど三日前とは違い、そのまま倒れて動けなくなる、といったことはなく───実際僅かではあるが、効果は出ていると感じられた。

 ……見たまんまを口にするなら、ふらふらで今にも倒れそうだが。

 

「じゃあ、軽く氣の練習でもしようか。俺も腕がこんな状態だから、そのリハビリも兼ねて」

「……? りは……?」

「ああえっと。怪我をした部分がちゃんと機能するように~って、少しずつ慣らしていくことを、天ではリハビリって呼んでるんだ。俺の場合は綺麗に折れてるから、くっつくこと自体が早かったしさ……」

 

 なにより特殊な氣とやらのお陰で、本来なら完治にはもっとかかるような傷なども早い段階で治ってくれる。

 その恩恵なのか、骨がくっつくことも速かったし、華佗が鍼を通してくれたお陰で痛みもない。負荷をかければそりゃあ当然ってくらいに痛いけどさ、それは当然だから仕方がない。

 

「じゃあ……思春、手伝ってもらっていいかな」

「ああ」

「?」

 

 桃香を木の幹まで連れ、そこに座ってもらうと……俺が桃香の右、思春が桃香の左に座り、片手ずつを手に取る。

 桃香は「? ?」と疑問符を飛ばしまくっているけど、つまりはアレだ。冥琳を救った時と同じ方法。あ、いや、べつに俺の氣を桃香の氣に変換させて送るとかじゃなく。

 逆に自分の氣を桃香に似せて、桃香の氣を自分側に引っ張る。前回の時と同じ方法だな。

 

(ん……)

 

 集中。

 桃香の中に眠る氣を引き出すイメージ。

 彼女の手に触れている自分の手は、あくまで彼女自身のものと意識して、誘導、誘導、誘導……。

 

「………」

 

 ちらりと見ると思春も同じく集中していて、しかし俺と目が合うとフンとそっぽを向いてしまう。

 そんな様子に桃香がやっぱり首を傾げたあたりで、彼女が多少はリラックス出来たからだろう。ひゅるんっといった感じに桃香の奥底から昇ってきた氣が、彼女の右手と左手に集い、栗色のやさしい輝きを見せた。

 

「……! わ、わ……すご───はうっ!? ……き、消えちゃった~……」

 

 しかし桃香が喜んだ途端に霧散。

 彼女の喜びは氣の集中には向いていないんだろうか。

 

「まあまあ。こればっかりは気長にやるしかないって。俺でさえ出来たんだ、桃香もきっと出来る」

「……う、うん、頑張るね」

「………はぁ」

 

 励ます俺と、励まされた桃香。その横で、「またこの男は……」と溜め息を吐く思春さん。

 けれどその溜め息を吐く口調も、どこかやさしく感じられたのは……自分の心境の変化から来たものだと受け取ってもいいんだろうか。

 

「よし、じゃあもう一回だ。桃香、今度は喜ぶよりもまず、自分の氣に集中してみてくれ。引き上げたもの、自分の手の中にあるものを自分なりに感じる練習から始めよう」

「氣を感じる……うん、やってみる」

 

 もう一度集中。

 再び桃香の氣を自分のもとに導くように彼女の奥底から引き出し、手に集中させる。

 

「……落ち着いて。集中、集中……」

「う、うん……」

「強張らず、力をお抜きください。氣を特別なものとして考えず、自分の中にあって当然のものとして受け容れてください。それは元々、桃香さまの中にあったものなのです」

 

 俺の言葉に頷き、思春の言葉に小さく息を飲み、脱力を。

 深呼吸を繰り返し───…………手に集う氣に向け、やがて小さく微笑みかけてみせた。

 

「……あったかい……」

 

 成功だ。

 元々素質はあったのか、それとも単に俺に錬氣の才がなかったのか。

 桃香は二回目の集中で氣を受け容れることに成功。

 一度自分の内側に戻してみせると、もう一度手に集中させてみせた。

 俺も凪に“素質がある”とか言われたけど、準備運動で筋肉痛になる桃香がこれだ。

 この世界を……乱世を王として駆け抜けてきただけあって、そこらへんの素質はあったってことか。

 

「じゃあ桃香、立って剣を振るってみて」

「え? えとー……急に剣の修行なのかな……も、もうちょっと体をほぐしたほうが、その~……」

「はは、剣術鍛錬をするわけじゃなくて、ただ振ってもらいたいんだ。氣ってものの凄さがわかると思うから」

「……?」

 

 立ち上がり、剣を…………持ってないから、俺の木刀を「ほら」と渡す。

 木刀の中でも重いそれを、ひょいと受け取った桃香は、「?」と首を傾げつつもそれをブンブカと振るう。

 

「へぇ~……重く見えるのに、軽いんだねこれ」

「そっか、そう感じるか。じゃあそのまま氣を内側に戻してみて」

「? う、うん……? ───へわっ!?」

 

 ス……と栗色の輝きが手から消え失せると、持っていた木刀とともに体を前傾させ、へたり込む桃香がいた。

 普通に持てるはずなんだが、急なことに驚いたんだろう。目をパチクリと瞬かせて、自分の手と急に重くなった木刀とを見比べている。

 

「え、え……? これが……氣?」

「そう。上手く集中出来れば、身体能力を軽く支えてくれる。もちろん重いものが軽く感じられるってことも“多少”程度にしか作用してくれないけど、あとは鍛錬あるのみってことで……えと、桃香~? 聞いてるか~?」

「~♪」

 

 楽しげに木刀を振り回す桃香に、内心ハラハラしながら語りかける。

 もしあれがすっぽ抜けでもしたらと思うと、いったい自分はどれほどの金額を弁償しなければ……! じゃなくて、すっぽ抜けて誰かに当たったら大変だ。

 

(けど……ちょっと複雑)

 

 自分は二度目三度目を成功させるのに随分と苦労したのに、誘導したとはいえ一回……一回で成功か。

 凪……世界は広いなぁ。

 俺なんて、手に集中したところで光さえ灯らなかったのに。

 

「じゃあ次は足にそれを移動させる。氣の移動が出来るようになれば、あまり疲労せずに走れるようになるから」

「え? じゃあお兄さんや鈴々ちゃんや思春ちゃんがあんなに走ってたのって……」

「いや、あそこまで走るには地力ももちろん必要になるよ。氣を得たからって氣だけに頼ってると、逆に体が動いてくれなくなるから。だから、氣は送り方や集中の仕方さえわかれば鍛錬中は使う必要はないと思う。使うのはむしろ体自体で、氣は三日間の休憩の時に使うようにする」

「ふぇええ~~……お兄さんはそれをずっと続けてるの?」

「呉に着いてから少しずつ始めたものだから、まだまだだけどね。多少強くなったつもりでも、まだ一回も勝ててないし……は……はは……」

 

 蓮華には一度だけ勝った……けど、あっさり返されたのも事実。

 常勝出来るようにとまでは言わないから、せめてもっとねばれるくらいの力がほしい。

 ゆくゆくはみんなを守れるくらいの……そう、みんなに“支柱”として受け容れてもらえるくらいの力を。

 

(力だけで認めてもらうようなものじゃないだろうけどさ)

 

 それでも頑張らなきゃウソだ。

 重大なものを背負うのならば、背負えるだけの覚悟と努力を。

 トンッと胸をノックして頷くと、思春と桃香とともに氣に慣れるための鍛錬を始めた。

 扱いに慣れてからは、ただひたすらに自身の強化を。

 扱い方がわからないんじゃあ、三日間の休憩中で氣を使うことなんて出来ないからね……。

 




 ゴールデンヌウィーク終了……!
 長かった……長かったでー! ついに終わったんやー!
 いえこんなこと言ってると、休みだった人は嫌な気分になるかもですけど、ずっと仕事続きだった身としては喜ばずにはいられません。
 とりあえず暑くなっていく日々に向けて、美味しいものでも食べてゆっくり休みます。
 肉類は消化するために逆にスタミナ使っちゃうそうだから、職業モンスターハンターでもない限りオススメしません。
 肉を食ってスタミナつけるぜ~~~~っ! と焼肉屋いったのに、逆に疲れた~とかありませんか? 消化吸収の時点で逆にスタミナ使っちゃうとかで、疲れの原因はそれらしいですぞ。

 暑いからと氷水を飲みまくったり、パワーのために肉類ばかりと、摂取するものを間違えると逆にザムシャアと倒れてしまいます。

  だがそれがどうした! 美味しいものを食べてなにが悪い!

 そう言えたらいいんですけどね、ほんと。美味しい料理を食べてこその人生ですもの。生きるってことは体にものを入れていくことなんだなぁとゴローさんも言ってらっしゃるし。

 さて、今日一日頑張れば久しぶりの二日休みだ。
 ……ええのう、九日間とか休んでみたい……。
 では、更新再開ということで、コンゴトモ、ヨロシク。

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