真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷

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30:蜀/流れる時間、見極めたもの③

 さて。

 そんなことから(勝手に酒を使ったことで、厳顔さんにゲンコツもらってから)三日後。

 政務の仕事にもようやく逃げ腰にならずに向かい合えるなーと、肩の力を抜き始めた頃のこと。

 その日は桃香が現場視察に行くと言うので、学校のほうを彼女に任せ、俺が執務室で書簡の山と睨めっこをしていた。

 もちろん、“俺が目を通していいもの”を分けてもらったものとの睨めっこだ。

 

「……北郷殿」

「ん? なにうわぁっ!?」

 

 音も無く執務室に滑り込んだらしいその人、趙雲さんがぐったりとした表情で……その、机を挟んだ向かい側に立っていた。

 まるで亡霊だ……声をかけられなきゃそこに居ることさえ気づけない。

 

「仕事中に……すまぬとは思うのだが……。探してほしい人物が……」

「探し人? や、それって俺じゃなくて別の誰かに───」

「と、友を見捨てるというのかっ!? 我らは同じメンマを愛する友であろうっ!?」

「だだだからいきなりなにぃっ!! まずきちんと説明してくれなきゃわからないだろっ!? 友だけど今は人探しの話で、メンマは関係ないだろっ!?」

「あるっ! あるからこうして北郷殿を訪ねたのだ!」

「……へ?」

 

 暗い表情から一変、元気に叫んだかと思いきや、しゅんと落ち込んだ子供のような顔で俯いた。

 え……な、なんだ? もしかして本当に重要なこと? 重要なのに俺を、友だって理由だけで頼ってくれた……? これは、ちゃんと聞かないとだ。人探しっていうからには、見つからないってだけで、趙雲さんがこれだけ落ち込むほどの人だ。本当に重要な人物なのかもしれない。

 

「ごめん、きちんと聞くよ。それで、どうしたんだ?」

「あ、ああうむ……実はつい最近のことなのだが……いや、私はその場には居なかったのだがな───」

 

 趙雲さんの話を簡単に纏めると、つまりこういうことらしい。

 行きつけの店に謎の男が現れ、自分が美味い美味いと思っていたものよりも遙か高みのものを作り、名も告げずに去っていったと。

 趙雲さんは是非ともその人物に会い、自分が見ていた世界を大きく広げてくれたことへの礼を言いたいんだとか。

 

「へえぇええ……! そんな人が……! ……あ、特徴とかはどう? わかるかな」

「む……それがどうにも、店主があまりの味に驚愕し、その味を覚えることだけに集中しすぎたために覚えていないと……」

「うわ……第一歩から躓いてるじゃないか」

「いや、待ってほしい。辛うじて成都の人物ではないことと、庶人であることだけは覚えていたそうだ」

「へえ……庶人か」

 

 そっか、庶人で成都の人間ではない。で、特徴はわからない。

 ……どう探せと?

 

「店主自身はその味を再現してみせ、私にも馳走してくれたのだが……あれは素晴らしいものだ。今やその店の名物として、客が並ぶほどだ」

「えぇっ!? すごいじゃないかっ!」

「うむ。ならばこそ直接会って敬意を表し、その御仁に礼を届けたいのだ」

 

 なるほど……確かにそれはわかる。

 自分の見ていた世界を広げてくれた人が居たのなら、きちんと会って感謝のひとつでも届けたい。

 俺が、この大陸に生きる人たちへと感謝を届けたいのと同じように。

 

「そっか……ん、わかった。手掛かりらしい手掛かりが無いんじゃあ探しようもないけど、別のお店で何かを教えているような人が居たら声をかけてみるよ」

「うむ、感謝する」

 

 軽く頷くように頭を下げて、趙雲さんが去ってゆく。

 手掛かりの無い人の捜索願いか……一応、頭に入れておいてみよう。

 

「んー……」

 

 趙雲さんの行きつけの店に訪れたってことは、そこにまた現れる可能性もある……か?

 そうしたらそうしたで、今度こそそこの店主さんが気づくだろうから俺がそこに張り付く必要はないよな。

 じゃあ───あれ? ちょっと待て、俺に出来ることってなにかあるのか? ん、んー……素晴らしいものを作った誰かを探してて、で……───マテ。

 

「メンマ?」

 

 メンマは関係ないと言った俺に届いた言葉、“あるからこうして北郷殿を訪ねたのだ”。

 謎の男が現れて? 美味いと思っていたものよりも遙か高みのものを作って? 名も告げずに去っていった?

 

「……行きつけの店ってまさか」

 

 あのメンマ園とか? ……まさかね、そんな偶然なんて無いって無い無い。

 大体閃いて適当に作ったメンマ丼が、そんな行列を生じさせるほど人気が出るわけがない。

 行きつけの店っていうのはきっと、どこかの酒が美味しいお店かなんかだったんだ。

 

「よしっ、仕事仕事っ」

 

 その誰かのことは頭に入れておいて、今度それっぽい人を探してみよう。

 今は仕事づくめの桃香を少しでも楽にさせるためにも、出来るだけ仕事を減らすことに集中だ。

 

 

 

56/見極めた小さなもの

 

 とある日の昼時。

 前日の雨がウソのようにカラッと晴れた晴天の下を、張勲と一緒になって歩いていた。

 

「ごめん張勲、荷物運びなんて手伝わせて」

「いえいえー、部屋に閉じこもってず~っと書類仕事をしているよりよっぽど有意義ですから。重いものは一刀さんが持ってくれますし、こんな楽な仕事ならどんどん頼んでくださいねー♪」

「……キミって時々物凄く正直だよね」

 

 掃除で忙しい賈駆さんや董卓様……もとい、董卓さんの買い物を引き受けたはいいが、俺一人で人二人が持つ荷物をスイスイ持てるはずもなく、丁度手が空いていた張勲に手伝いを要求。了承を得て、現在に至る。

 こう……腕力的で言うなら持てはするが、荷物の安全を第一に考えれば人を増やしたほうが安全と踏んだ。一応、右腕に負担をかけないことが理由のひとつにもある。

 

「今日は思春も軍事のほうに連れて行かれちゃってるから、俺一人だとちょっと大変だったんだ。ありがと、助かったよ」

「いえいえ。ところで甘寧さんへの用は、兵に喝を入れるためー、でしたっけ?」

「そう聞いてる。たまには蜀の将以外の気迫を浴びないと、兵が“戦”ってものを忘れるかもしれないからーって」

「それはまたなんともー……効果が抜群そうですねぇ」

「うん……素直にそう思う」

 

 俺も今でもヒィとか叫んでしまうし。

 あの殺気、あの眼光で睨まれたら、蛇に睨まれた蛙、チーターに追われるトムソンガゼル、アリクイに襲われし蟻の心境を味わえる。うん、ほぼ死ねる。

 

「でも、大丈夫なんでしょうかねー。ほら、甘寧さんは確かにお強いですけど、もう将ではないわけですし」

「蜀側に頼まれてのことなんだし、喝を入れるっていってもあの殺気をぶつけるだけなんだし───直接的なことを何もしなければ、問題にはならないよ」

「それってばつまり、勢い余って甘寧さんが兵を叩いたりしようものなら、大変なことになっちゃうってことですか?」

「うん、まあ。えと、ヘンな気、起こさないでね?」

「やですよぉ一刀さん、お嬢様からの無茶振りでもなければそんなことしませんよぉ」

「無茶振りだったらするんだ……」

 

 にっこにこ笑顔で言ってくれるけど、それが逆に不安を煽った。

 ありがとう華琳、二人を引き離してくれて。ここに袁術が居たら大変なことになっていたかもしれない。

 けど、この人は本当に袁術が好きなんだな。

 相手が小さいからかもしれないけど、そういう関係はなんだか心が暖まる。

 

(……っと、考え事してると足も遅くなるな。賈駆さんたちも掃除で忙しいんだ、こっちがのんびりするわけにもいかないよな)

 

 極力通らなかった道を歩く。

 必要なものの中にこの通りの店にあるものが無ければ、絶対に通らなかった。

 それは何故かといえば、

 

「? 一刀さん、あそこに人だかりが───」

「回り道して帰ろっか」

「はーい、気になるので却下しますねー?」

「早ッ!?」

 

 言った途端にばっさりで、しかもさっさと人だかりへと近づいていってしまう張勲。

 待ってと止めたところで聞いてくれもしない───いや、聞いた上で無視なさっている。

 ……これくらいの度胸とかが無いと、袁家の人とは付き合えないってことかなぁ。

 

「はぁ……」

 

 溜め息一つ、歩き出す。

 向かう先は人だかり……そう、メンマ園であった。

 

(大丈夫大丈夫、服は前とは違ってフランチェスカの制服だし、あの時は庶人服で、髪型だって違ってたんだから……大丈夫……だよな?)

 

 だめだだめだっ、こういう場面で弱気になるのはバレる未来を作りだすだけっ!

 いっそのことバレてもいいやってくらいの勢いでっ!

 いざゆかんっ、人垣の奥へっ!!

 

……。

 

 結論から言うと、人が多すぎて近づけたもんじゃなかった。

 

「本当に人が並ぶほどの人気だったんだなぁ」

 

 趙雲さんから聞いてはいたけど、意外だ。

 ということは、やっぱり噂のメンマの仕事人っていうのは……。

 

(俺、なのかぁあ……!)

 

 趙雲さんの行きつけって、多分あそこのことなんだろうし───どうしよ、趙雲さんに名乗り出るべきか?

 ……いや、なにか嫌な予感がする。自然に気づかれるまで、黙っておいたほうがいいかもしれない。

 メンマ園にも今まで通り出来るだけ近づかないようにして。……なんとなく、メンマ園の親父さんと趙雲さんの反応、怖そうだし。

 

「その口ぶりからすると、人だかりの正体を知っていたんですよね? やですねぇ一刀さん、知っているなら知っているって言ってくれませんと、余計な時間を食っちゃうじゃないですかー」

「あの……いつの間にか俺が悪いみたいな方向になってるんだけど、俺言ったよね? 正体については言わなかったけど、回り道して帰ろっかって言ったよね?」

 

 からかうのが面白いのかどうなのか、俺の横でピンと立てた人差し指をくるくる回しながら、にこにこ笑顔で俺を見る張勲さん。

 あぁ危ないからそんな、荷物を片手で持つなんてことは……! と、ハラハラしてみればそれすらもからかいの材料だったのか、ニコリと笑って持ち直す。

 だめだ、どうにもこういう女性には勝てる気がしない。

 

(まあ、いいか。顔会わせの頃の、鬱憤だらけで疲れた笑顔に比べれば……)

 

 人をからかうことでこんないい笑顔を見せてくれるなら、それもいいこと───だよな?

 度を越したからかいは、是非とも勘弁願いたいけどさ。

 

「もっと頑張ろっか。蜀でやるべきことを済ませていけば、それだけ帰るのも早まるだろうし……そうすれば袁術ともすぐに会えるよ」

「わかってませんねぇ一刀さん。ここはしばらく距離を取って、お嬢様を寂しがらせてから接するのがいいんじゃないですかー」

「……寂しがってるのはどっちだよ、まったく」

「わぶぶっ!? なななにをっ!?」

 

 負担をかけないようにと空けておいた右手で、張勲の頭を乱暴に撫でた。

 酒が入るだけであれだけの寂しさを見せる人が、素面だからって平気なわけじゃないだろうに。

 

「張勲、今日は仕事、ないんだよな?」

「え? あ、はーい、誰かさんが政務を手伝い荒らしちゃっているお陰で、この手は始末する仕事を探して彷徨っているところですよー」

「荒らしてるとか言わないっ。……でも、そっか。じゃあ仕事仕事って言わずに、今日くらいは楽しんでみないか?」

「うーん……もう十分楽しんでますよ? 一刀さんで」

「人で楽しまないのっ! そうじゃなくて、袁術の木彫り人形ばっかり彫ってないで、別の楽しみを───」

「ふふふっ、はいっ♪ ですからもう楽しんでますよー?」

「………」

 

 傾げた笑顔のまま、歩きながら俺の顔を覗いてくる張勲。

 人で楽しむのは……ともう一度言おうとしたんだが、どうにもそういう意味じゃないらしい。

 じゃあどういう意味なんだーと訊かれれば、俺には答えようがない。

 ないので……まあ。

 

「……そっか。楽しんでるならそれでいっか。じゃあ買ったものを城に運んで、賈駆さんと董卓さんに報告して……えぇっとそれから~……」

 

 胸ポケットからメモを取って、片手でペラペラと~……あった。

 今日の予定……もう何度も消して書いてをしているから随分と汚いページに、約束の文字は無い。

 時間があれば鈴々と一緒になって街の子供達と遊んだり燥いだりをしているから、ヘタに予定を割り込ませたりするとひどい目に遭う。

 

「蜀の皆さんとの密会予定表ですか?」

「違う違うっ、最近は工夫のみんなを手伝ったり氣の鍛錬の手伝いをしたり、勉強会開いたり大陸の勉強したりっていろいろ大変だから、予定表作っておかないと怖いってだけだよっ」

 

 そう、怖いのだ。

 勉強、鍛錬、工夫のみんなの手伝い、掃除も手伝ったり買い物を手伝ったり、やることはたくさんある。

 もちろん俺が進んでやらせてくれって頼んだことだ、文句はない。

 けど一度。そう……一度、珍しく仕事らしい仕事が無かった日、桃香の気晴らしに付き合うって約束をしていたことをスコーンと忘れていて、ひどい目に遭ったのだ。

 あれは恐怖だ。ちょっとしたどころじゃない、恐怖以外のなにものでもなかった。

 もしあの日に魏延さんが非番だったらと思うと、今を生きる自分を祝福してやりたくなるほどだ。

 反省。

 で、その反省の結果がこれで、一日周期……じゃないな。約束ごとや頼みごとをされるたびに書いたり消したりを続けているから、ずいぶんとメモがボロボロだ。

 シャーベンの芯も消しゴムも、物凄い速度で磨耗していく。

 ……消した跡の中に、少しずつ練習した絵の跡とかがあるのは秘密だ。

 

「行こうか。今日はこの買い物以外に予定はないし、付き合うよ。張勲がなにをそんなに楽しんでるのかは知らないけどさ、一人より二人のほうが、あー……えと。楽しいといいんだけど」

「んー……ああっ、これがでぇとのお誘いというものだったりしちゃうんですねっ?」

「デッ……!? ちっ、ちちち違うって! その言葉はもう呉で懲りたから勘弁してくれっ!」

「殿方が女性を誘い、遊びに出かけるのがでぇとではないんですか?」

「う……前にも勉強会で言ったけど、デートっていうのは気になる対象を異性が誘って、もっと好きになってもらったり気にかけてもらったりするためのもので───」

「なるほどー、つまり一刀さんは私とは微塵にも、好きになってもらいたかったり気にかけてもらったりなんて、してほしくなかったりしちゃうんですね?」

「へっ!? あっ、いやっ、今のはそういう意味で言ったわけじゃっ……」

「じゃあ好きなんですねっ」

「えがっ……あぁぃゃっ、その。……友達として、なら」

 

 嫌いではない。それは間違いないが、状況に流されるままに好きを口にするのは危険だ。

 好き、と自分からはっきりと口にした相手は居ないかもしれないが、愛していたと届けた相手なら居る。

 なんだかんだと国を回って様々な女性と顔合わせをしたものの、心の中にはいつだって彼女が居る。

 それが、言葉通りいつだってブレーキ代わりになってくれていても、届ける言葉はきちんと自分の言葉だ。

 もう、彼女や魏を言い訳にしたりはしない。

 

「うーん……現状維持ですかねぇ。“一刀さんを味方につければ曹操さんはおろか魏のみなさんも下手に動けなくなりますよ作戦”は、早くも頓挫でしょうか」

「うわー、そのまんまだー。しかも本人の前で、どれだけ度胸があるんだ……いや、ないからそんな作戦立ててるのか? ……どちらにしても、ある意味で勇者だよ」

「いえいえそれほどでもー♪ ただどうせ味方につけるなら、好きになっちゃったほうが私的にもお嬢様的にも一石二鳥になっちゃったりしまして、しかもその上、一刀さんが曹操さん以上に私達のことを好きになってしまえば!」

「いや。それはない」

「うわーい即答ですよこの人~。どこまで曹操さんが好きなんでしょうかねぇもう。蜀に来る前に集めた情報によれば、誘えば絶対に断らない煩悩だけで動いているような人、なはずなんですけどねー」

 

 ……なんでだろうなぁ。何故か無性に桂花と真桜と沙和にいろいろと問いただしたくなってきた。

 どうしてだろうなぁ、この人だーって言われたわけでもないのに。

 

「っと」

 

 なんだかんだで城に着く。

 ペコリと……ではなく、「お疲れさんっ」と元気よく声を掛けてくれる兵に、俺も「お疲れっ」と返しつつ。

 

「……一刀さんは両方いける人だったりするんですか?」

「訊き返して長引かせたくもない内容が予想できそうだけど、なにが?」

「いえいえ、女性を友達どまりにさせておいて、影では兵のみなさんを口説いてまわっ───」

「ってないっ!! なんでそんなことになってん───はっ!? ~……あ、あのねぇ張勲? 俺はちゃんと、女の子が好きだし、お、おぉおおお男とそんな関係なんて、まっぴらごめんな一介の青少年なんだぞ? 冗談でもそういうことはだな……」

「~♪」

「………」

 

 “楽しんでいる”って意味が解った。

 俺で楽しむってのは却下した。その上で彼女は「ですから」と言って、楽しんでいるとも。

 じゃあなにをどう楽しんでいるのかといえば……俺に限ったことじゃなく、人をからかって楽しんでいた。

 

「……あのさ。張勲にとって、俺ってなに?」

「……? はいっ♪ お友達ですよー?」

 

 人差し指を立てて、にこりと笑む。

 その言葉に数瞬、言葉を失うが───と、友達?

 

「え───……えと。おもちゃの間違いじゃないよな?」

「いえいえー、玩具の位置はもうお嬢様と───いえげふんげふんっ! ……えーとですねー、一刀さんはお友達ですよ? さっき擦れ違った兵の人と同じです。悪い人じゃないことはもうわかりきっちゃってますし、魏で得た情報はなにも、煩悩がどうとかって話だけじゃあありませんから」

「……? それって……」

 

 恋や桃香も言ってたっけ……魏に居れば俺の話は耳にするって。

 ……でもなぁ、俺の噂っていったら……だめだ、我ながらいい噂が想像できない。

 

「噂だけで判断するのは危険ですけど、困ったことにこの目で確かめちゃいましたから。面倒なことに首を突っ込みたがる困ったさんですけど、首を突っ込んでおいて慌てる姿とか、もう、こうっ……! なんて言うんでしょうね、見ていて気持ちがいいくらいに、……素敵ですから」

 

 ……最後ちょっと間があった。

 ねぇ。間があったんだけど今。なんて言おうとしたんだが言ってみてくれないか? 大丈夫、“え? なんだって?”なんて絶対に言わずに最後まで聞いてみせるから。

 

「アノ。ソレハ、トモダチ、イイマスカ?」

「言いますよ、言っちゃいますよ~? だって一刀さんは私を楽しませたくて、私は一刀さんと居ると楽しめて。安定している利害関係ですし、顔だけでなく性格もいいなら言いっこなしですもん。だから、友達です」

「……いろいろと悩むべきところがあるような無いような……。でも、うん。じゃあきっちり言わせてくれ。───張勲、俺と友、……?」

 

 右手を差し出し、友達に……と言おうとしたら、その口に彼女の人差し指が添えられた。

 いっつもピンッと立てている、あの人差し指だ。

 

「友達は、わざわざ確認し合うものじゃあありませんよ? 言いたい放題難癖つけちゃえば、私とお嬢様にとっての一刀さんは、自由になる好機を潰してくれた困ったさんですけど。難癖つけずにきちんと見れば、落ち着き始めた大陸で賊まがいのことをやっちゃっていた私達を処刑しないでくれた、恩人さんなんですから」

「張く───」

「“七乃”、ですよ。恩人の御遣いさん」

「───…………じゃあ。これからもよろしく、七乃」

「はいっ♪」

 

 過ぎる時間、過ぎる一日。

 笑顔であっさりと真名を許した彼女は、笑顔のままにいつの間にか止まっていた足を動かして、城の通路を歩いてゆく。

 慌てる必要なんてないのに慌てて追って、その横を歩く俺は、なんだか無性におかしくなって笑った。

 いいのか、なんて返すこともなく真名を呼んだのは、酷く簡単なことだ。

 顔合わせの時に彼女が言った言葉、“見極めさせてもらう”って言葉が、今に繋がったってだけなのだろうから。

 噂の一人歩きと呉や蜀での働きのお陰なんだろうが、意外に早かった見極めがありがたくもくすぐったく、つい笑みがこぼれた……ただそれだけの、なんでもない時間。

 

 荷物を置いて報告を済ませると、早速二人で城の中を歩き回ったりして、からかわれながらも今日という一日を過ごす。

 ……途中、ことあるごとに将や兵に捕まって、歩みを止めては世話話に付き合わされる俺に溜め息を吐いたりもしていたが、その後には「随分好かれてますねー、男女問わず」とからかわれた。

 それでも……───うん、それでも。互いがそんな関係を嫌だって思ってないなら、それは確かに心地のいい利害関係にあるのかもしれない。

 

「明日は工夫のみんなの手伝いがあるし……晴れるといいなぁ」

「はーい、それじゃあ雨乞いでもやっちゃいましょうかー♪」

「なんで!? 俺、晴れてほしいって言ったよなっ!?」

 

 そんなふうに考えられるくらい慣れることが出来たこの青の下で、今日もみんなが賑やかさの中を生きていた。


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