真・恋姫†無双 魏伝アフター   作:凍傷(ぜろくろ)

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32:蜀/真実を告げる夢④

 ……で。

 

「ゴメンナサイ……」

 

 ふと気づけば、寝台の傍に置かれていた椅子に座り、頭を下げる馬超さんが居た。

 その傍には賈駆さんと董卓さんが居て……あ、あれぇ……? 俺、いつの間にか服着て……あ、あの、賈駆さん? 董卓さん? どうして物凄く顔を真っ赤にしてらっしゃるんですか? そしてどうして目を合わせようとしないんでしょうか。

 

「と……とりあえず、んっ……起きた途端に頭下げられても……。顔、上げてくれないかな……」

 

 ひどくけだるい体を動かし、上半身だけ起こす。

 それだけで体力がごっそりと減った気分だ。既に息が荒い。

 

「け、けどっ! 毎度毎度あたしが勝手に勘違いしたりしてばっかりでっ! 驚いたとはいえ、病人殴って気絶させるなんて……~っ……何やってんだよあたしはぁっ……!」

「馬超さん…………うん。本当に、大丈夫だから。俺もぼ~っとしてたとはいえ、扉を閉めるの忘れてたんだから……ごめん」

「まったくよっ! お陰で、お陰でっ……おか、おかか……! ととととんでもないもの見ちゃったじゃないのよぉっ!!」

「詠ちゃん……風邪引いちゃってたんだから、仕方ないよぅ」

「ていうか最後に部屋出たの誰!? 言いなさい! むしろ言えっ! いろいろぶつけてやらないと気が済まないわっ!」

 

 賈駆さんが顔を真っ赤にさせながら、少々涙目で迫ってきた。

 けれど俺と目が合うと余計に顔を赤くさせて沈黙。

 ええほんと……大変お見苦しいものをお見せいたしました……。

 

「……ごめん、本当に頭がぼーっとしてたから、最後に出たのが誰なのかは……」

「~……まったく……っ! 出ていくなら扉くらい閉めていきなさいっての、もうっ!」

 

 メイド服姿の軍師さまが、腕を組んでそっぽを向く。

 それを「まあまあ……」と宥める董卓さん。

 ……うーん、いまいち力関係が読めない。

 

「どーのこーの言ってるわりには、“うわ……”とか言ってまじまじと見てたじゃんかよ」

「なっ!? んなっ……なななななに言ってんのよなんで私が! それ言うならそれを知ってるあんただって見てたってことでしょ!?」

「なぁっ!? いぃいいいやいやいやいや何言ってんだ違う違うぞ!? あたしは詠を見てただけで、こいつっ……北郷のアレなんかっ!」

「………」

 

 前略孟徳様……病人の前で女性が二人、マイサンの話を大声で叫んでいる時、当事者はどんな顔をしたらいいのでしょうか……。

 

(我が覇道……ここで潰えるというのか……)

(孟徳さん!? あれぇ孟徳さん!? 死んじゃ……死んじゃだめぇええっ!!)

 

 孟徳さんっていうか俺の精神に相当なダメージが!

 ウウ……いっそ殺───いや、死ぬのはだめだけど、いろいろがいろいろで───あっ、あぁああああもう!! 誰か! 誰かこの状況をなんとかしてくれる猛者はいないのかぁああっ!!

 

「ここにいるぞーっ!」

「へっ!?」

「へうっ!?」

 

 頭を抱えてぶんぶんと振り回し、乱していた視線を戻してみれば……いつから居たのか、片腕一本をエイオーと天に突き上げ、にっこり笑顔の馬岱さん。

 ……あの。今心を読んだりした? それともまた声が漏れてた? ……漏れてたんでしょうね。

 

「えっへへー、お兄様、風邪引いたんだってー? なんか厨房で、かの美髪公がぶつぶつ呟いてたから来てみたよー♪」

「あの、馬岱? そういう言い回しはかえって人を傷つけるからやめようね?」

 

 いろいろと頭痛い。

 それでも真っ直ぐに元気をぶつけてきてくれる人が居ると、こっちも多少は元気になるから不思議だ。

 

「で、とりあえず“居ませんか~”って聞こえたから名乗り出てみたんだけど……なにかあったの?」

「………」

 

 無言で、言い争いを続ける二人をじっと見つめた。

 最初は首を傾げていた馬岱も言い争いの内容に次第に頬を染め、赤くなり、慌てて二人を止めに入ってくれた。

 それからはいつものというか恒例というか……お前が悪いあんたが悪いと二人から責められ、俺が何をしたと言いたいのに、口を開けば問答無用の一言。

 

「馬岱……これって俺が悪いのかな……」

「えーと……ごめんなさい。確実にお姉様たちが悪いよ……」

「詠ちゃん、一刀さんは着替えようとしてただけなんだそうだから、責めたりしたら悪いよ……」

「で、でもね月、そもそもこの男が風邪なんか引かなければっ……!」

 

 わあ、物凄い無茶を言いなさる。

 馬超さんだって「おいおいそれ無茶だろ」ってツッコミ入れるくらいの無茶っぷりだ。

 

「詠ちゃん。いつも力仕事とか手が回らないところを手伝ってもらってるのに、そんな言い方しちゃだめ」

「うっ……でも、それだってこの男が勝手にっ……だから、ね?」

「詠ちゃん……」

「う、う……うー……! わ、わかったわよぅ……。その、悪かったわよっ、おかしなこと言い出して。ていうk、大体そもそもは愛紗が風邪引くから……」

 

 言いくるめられたと言うべきなのか。

 賈駆さんはしょんぼりとしながらも謝罪の言葉を投げかけてくれて、俺はそれをふらふらと揺れながら聞いていた。

 

「ほら、お姉様も」

「うぅ……何度も何度も悪かった。さっきのだって、扉が開いてても“のっく”するか確認をとるかをするべきだったよな……」

 

 次いで、馬超さんも。

 べつに大事にするつもりはなかったのに、いろいろなことが重なった所為でこうなってしまったのだ。誰が悪いかといえば、状況の重なり方が悪かったとしか言いようがない。

 

「まあ、開いてた扉も問題だったけど、勝手に入っておいて裸を見て、叩いちゃうお姉様が一番ひどかったよね~?」

「なぁっ!? やっ、だって仕方ないだろ! あんな、あん、あんん……あんなもの見て、冷静でいられるもんかぁっ!!」

「それでお兄様を気絶させたんじゃ、お兄様が一人だけ酷い目に遭っただけだよぉ。勝手に入られたのもお兄様で、見られたのもお兄様。叩かれたのもお兄様で、気絶しちゃったのもお兄様。……何処かお兄様が悪いところってあるのかなぁ」

『うぐっ……!』

 

 馬岱の言葉に、馬超さんと賈駆さんがぎくりと息を詰まらせる。

 

「にしししし~♪ これは謝ったくらいじゃ足りないと思うんだよね~。どう? お兄様」

「全然足ります」

「あちゃ……お兄様ってばやさしすぎだよぅ。もっとこう、無茶なお願いするとかさぁ」

「ごめん。でも、元を正せば心配して様子を見に来てくれた人に、言うことを聞いてくれみたいなことは言えないよ」

 

 ……ていうか頭が、頭がぐらぐら……あ、あれ? 馬岱が二人? いや、三人?

 いよいよもってやばそうだ……あの、そろそろ寝転がってもいいでしょうか……。

 

「お兄様っていろいろと筋金入りなんだねぇ。あははっ、なんか面白いかも」

「そっか……はは、そりゃ……よかった……」

 

 頭、あつ……。

 なのに体は寒くて……だるい、すごくだるい……。

 

「……大丈夫? あの……ごめんねお兄様。急に来て騒いじゃって」

 

 そんな俺の様子に気づいてか、馬岱が少ししょんぼりした表情で俺を見た。

 見つめられた俺はといえば、そんな顔をしてほしくなかったから、もう少しだけと力を振り絞り、馬岱の頭をゆっくりと撫でた。

 

「あ……」

「ははっ……確かにさ、頭に響くくらいの声だったけど……でも、賑やかなのは好きだよ。それだけみんなが笑っていられてるってことなんだから……さ。だから、大丈夫。そんな顔しないでくれ……」

 

 そこで限界。

 いよいよ倒れそうだったので、ゆっくりと寝転がる。

 すぐに馬岱と董卓さんが心配そうな顔で見下ろしてくるけど、心配しないでほしいと返してゆっくりと息を吐いた。

 

「ごめんな、馬岱……多分、明日か明後日には治ってると思うから……その時に、また……歌……で、も……」

 

 眠気とは違う苦しさが頭の中で渦巻く。

 目を閉じればこのまま気絶出来そうなくらいの気持ち悪さだ。

 四人には悪いけど、もう目を閉じてしまおうか……と、そう思った時だった。

 

「……ね、お兄様」

「……、ん……ん……?」

「眠っちゃう前にさ、聞かせて欲しいことがあるんだけど。あのねお兄様? たんぽぽとお兄様の関係って……」

 

 小さな質問。

 けれど、目は本気だったから……辛かったけど、逸らすことなく真っ直ぐに見て、返す。

 

「俺は、友達の……つもりだよ……。いや、つもりじゃない……友達だ……」

 

 絞り出すような声。

 掠れた小さな声だけど、馬岱はぱぁっと笑みを浮かべ、「じゃあ」と元気に返した。

 だらりと垂らした俺の手を取って、一言を。

 

「これからはたんぽぽのことは“蒲公英”って呼んでいーよ。ううん、呼んでほしいな」

 

 エ? と返そうとしたけど、熱もいよいよやばい温度に至ったのか、声が思うように出せないとくる。

 そんな俺の驚きを馬超さんが代弁するように「なぁあーっ!?」と叫ぶが、当の馬岱サンはにっこにこと笑っていた。

 

「蒲公英っ、お前それがどういうことかっ……!」

「わかってるよもー。いーじゃん、たんぽぽがいいやって思ったんだから。それよりもお姉様だよ。散々誤解して叩いたり騒いだり気絶したりを繰り返してるのに、手伝ってくれるとなるとこれ頼むあれ頼むーって働かせたりしてさー。悪いって思わないの?」

「うぅぐっ!? そ、そりゃああたしだって悪いとは……! って今はあたしのこととか関係ないだろっ!」

「関係あるもん。いっつも悪いことしたなーとか迷惑してないかなーとか、後になってから言ってるの、お姉様でしょ? お姉様が男の人とこうして話し合うことなんてなかったし、たんぽぽはいいと思うんだけどなー♪」

「なんの話だよっ!」

「お友達のお話だよー? お友達になるくらいいーじゃん。そうすればもう少しは女の子らしくしようかな~とか思えるかもしれないし」

「大きなお世話だぁあっ!!」

 

 …………喧嘩が始まった。

 武器こそ出していないものの、ギャーギャーと騒ぐ声が頭に響き、なんかもういろいろなものが重なって、本気で涙出てきた。

 ……そんな涙を、拭ってくれる影がひとつ。

 

「ちょ、ちょっと、泣くことないでしょ……? 悪かったって思ってるわよ……」

 

 意外や意外、それは賈駆さんだった。

 本当に悪いことをしてしまったって顔で、寝転がる俺を心配そうに見下ろしていた。

 ……その声が、表情が、疲れた心や体に暖かかった。

 

「……、ごめ……ん、けほっ……なんでも、ないから……」

 

 笑って言うつもりが、引きつった笑みにしかなってくれない。

 そんな俺を見て、賈駆さんは言う。

 「男子の涙が“なんでもない”わけないでしょ」と。

 

「それともなに? あんたは逆の立場だったら……その、もしボクが泣いてたりしたら、“どうでもいいことだ”なんて言って、知らん顔するっていうの?」

 

 心配そうな顔から一変、少し怒った表情でそう言われては、返す言葉など一つだけ。

 

「……い、や……。心配だ……。凄く、心配だ…………ほうってなんか、おけないよ……」

「っ……」

 

 いや、違うか。きっと状況がどうであれ、ほうっておくことなんて出来やしない。

 懲りずに首を突っ込んで、いらないお節介を焼いてしまうんだろう。

 そんな自分を想像したら、こうして純粋に人の心配をしてくれている賈駆さんにお礼を言いたくなって、口にした。「ありがとう」と。

 

「……べつにいいわよ、お礼なんて。そ、そもそもっ、ほうっておけないって思わなきゃ、丸裸のあんたに服を着付けさせるなんてこと、するわけないでしょっ!?」

「………」

 

 言われてみて、それもそうだと納得してしまった。

 してしまったら、もう頬が緩むのを止められなかった。

 笑い声を上げられるほど余裕がなくて、笑みを浮かべるだけだけど、賈駆さんも董卓さんも俺の泣き笑いみたいな顔が可笑しかったのか、穏やかに笑っていた。

 ……いや、賈駆さんはそっぽを向きながらか。

 

「ねぇ、詠ちゃん」

「……だめよ月。こんな男に真名を許すなんて───」

「……くすくすっ♪ 詠ちゃん? 私、真名を許すなんてこと、一言も言ってないよ?」

「うあっ!? え、やっ……だだだとしてもっ、言うつもりだったんでしょ!?」

「……うん。悪い人じゃないのは、もうわかりきってたし……それに、とてもやさしい人だよ?」

「だめよ。今はやさしくても、元気になったらきっと蜀中の女という女を───」

「───襲う、って……詠ちゃんは本当に思ってる?」

 

 …………。

 

「月のいじわる……」

「詠ちゃんはもっと素直になったほうがいいと思うんだけどな……ね、詠ちゃん。詠ちゃんも、呉での一刀さんの噂、知ってるよね……?」

「うー……」

「詠ちゃん、“男にもそんなやつが居るんだ……”って凄く褒めてたのに……」

「そっ、それはっ、~……うー……確かに、そうよ? 働きとか、民の騒動を鎮めた手腕は認めたわよ。やり方が無茶苦茶だったけど、事実として確かに民は落ち着いたんだから。でもだめ、呉が大丈夫だったからって、蜀で手を出さないとは限らないんだから。もしそんなことが起きて、月が暴力でも振るわれたって思うと……!」

 

 ……ひどい言われようである。

 うう……否定したいんだけど、本格的に辛い。

 口を開くのも重労働だ、なんて苦しんでいると、ふと……「めっ」て言葉が耳に届いた。

 視線を動かしてみれば、董卓さんが怖々と賈駆さんの頭に手を乗せていた。

 …………え? 今、叩いたの? めっ、とか言ってたけど……。

 

「え……ゆ、月?」

「へぅ……叩いちゃってごめんね、詠ちゃん。でも、人をいつまでも同じだって見ちゃ可哀想だよ……。魏の皆さんを、その、抱き締めたって……へぅ……き、聞きはしたけど、それだって魏の皆さんが嫌がってたなんて話、聞いてないよ……?」

「……月、でも」

「呉でも、民の皆さんと一緒に騒げる素敵な人だったって、商人さんが言ってたよ……?」

「うぅ……月ー……」

「詠ちゃん、ちゃんと見てあげよう? 嫌な噂なんて聞かないし、蜀でだって皆さんを手伝ったりしてくれるいい人だって……詠ちゃんもわかってるはずだよ?」

「………」

 

 瞼が落ちてきた。

 眠気は全然ないのに、意識が沈もうとしている。

 そんな俺の左手に、ちょんと触れる何か。

 なんだろう、と無理矢理目を開くと、複雑そうな顔で俺を見下ろしている賈駆さんが。

 

「……ねぇ。一つだけ訊かせて。苦しい時に、ひどいことしてるって自覚はあるけど……真面目な話なんだ。だから、ボクの質問に答えて」

「………」

 

 なんとか頷く。

 ……そして、しばしの沈黙。

 真っ直ぐに目を見つめられたまま、俺も逸らすことなく見つめ返し、その瞳に様々な覚悟を見る。

 直後に、沈黙は破られた。

 

「……あんたにとって、月は守るべき存在? それとも───」

 

 それとも。

 その先は紡がれなかった。

 ただ真剣な眼差しだけが俺を見下ろしていて、そんな真剣さに答えたい衝動だけが、けだるさを吹き飛ばしてくれた。

 だから、届ける。

 友達だと思っていること。大切だと思っていること。

 そして、友達ってのは守るものではなく、お互いが何かしらで支え合って構築される関係なんだと思っていること。

 助けたいと思えば助けるのは当然。

 守りたいと思うより早く、ほうっておけないと思うはずだから。

 そんな思いを、“チョン、チョン”と断続的に手に触れているソレをやさしく握りながら、届けた。

 

「~……そ、そう。そう……そっか、そうなんだ……へ、へー……」

 

 やっぱり複雑そうな顔がそこにあった。

 なのに、次に紡いだたった一言で、彼女の顔が灼熱した。

 ただ一言……「それは、賈駆さんに対しても同じだけどね」と言っただけで。

 ……ああ、もう……本当に俺は何を言っているんだろう。

 思考が上手く回転してくれない。

 なんだかとても恥ずかしいことを言った気がするのに、自分自身でよく理解出来ていなかったりする。

 

「…………詠」

「……?」

 

 ひどく重い頭と格闘しながら、ふと耳に届いた声に、賈駆さんを見る。

 彼女は耳と言わず全身を真っ赤にする勢いで赤くなっていて、そっぽを向きながら何かを呟いた。

 

「だ、だからっ……詠、詠だってばっ! ボクの真名!」

「………」

 

 ぽかんとしたい。しかしながら表情筋までもが動いてくれない始末で……感謝を伝えたくて、トン、トンと握ったままの彼女の手を指で叩いた。

 ……顔の赤さが、増したような気がした。

 

「私の真名は……月。月と、その……呼んでください」

 

 そして、そんな手に重ねられるもうひとつの手。

 小さく柔らかなそれが、寒気を感じる体にやさしい。

 ありがとうを言える状態ですらなくなってしまったので、彼女の手にもノックで返す。

 ……やわらかな笑顔が、そこにあった。

 あー……でも、もう本当に限界。

 ごめんなさい、少し旅立ちます……。

 

「───……」

 

 すぅ……と息を吸うと、それが合図になって意識が切れる。

 バツンッと音が鳴ったと錯覚するくらい、綺麗に。

 その瞬間に思い浮かべたのは、この世界の在り方について。

 世界の真実を知ったから、自分は何かを成さなくちゃいけない……そんな気分は、今のところ全然沸き出さなかった。

 いつ終端へ辿り着くかはわからない。

 わからないなら、そのことについて思い悩むよりも、今を精一杯生きなきゃ。

 たとえ創られた外史なのだとしても、死んでいったあいつらや、託された思いたちは、確かにこの世界の中で産まれたのだから。

 終端まで物語が続くというなら、行こうじゃないか、みんなで。

 人はいつかは死ぬ。その死ってものが終端だっていうなら、ただそこまでを生きるのみ。

 外史だろうと正史だろうと、一人一人に出来ることなんてきっと変わらないのだから。

 

「あ……お兄様寝ちゃった。ほらー、お姉様が早く言わないからー」

「だだだから大きなお世話だって言ってるだろぉおおっ!? あたしはあたしが許したいって思ったら許すんだよ! 誰かに言われて許す真名が大事なもんかっ!」

「うわぁー……そういう人も居るかもしれないのに。お姉様ってばひどーい」

「ひどくなんかないっ、普通だ普通っ!」

 

 そう、自分が行ける果てまで、みんなと歩いていく。願いなんてのはそんなものでいい。

 いつか終わるからなんて考えで諦めてしまうにはもったいない、あまりにも楽しい外史(せかい)なのだから。

 

「……一刀さん、笑ってる……」

「ぜぇぜぇ言ってるくせに、何が楽しくて笑ってるんだか。楽しい夢でも見てるとか?」

「へぅ……でも、なんだか……可愛いかも……へぅう……」

「……ま、まあ……黙ってれば、ね……」

 

 ───夢を見た。

 それはとても都合のいい夢。

 死んでいったみんなが生きていて、みんながみんな幸せに暮らす夢。

 笑顔があって、楽しいがあって……けど、現実味がない世界。

 それでもあいつらが笑っていてくれることが嬉しくて、都合が良くてもこんな夢を見せてくれた自分の脳に、涙を流しながら感謝した。

 

 民が笑い将が笑い、王が笑い国が暖かくなる。

 それは、そんな暖かさがずっとずっと続いてゆく……とても、幸せな夢だった。


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