───そんなわけで第一教科、国語。
「はい、ではまず簡単なところから。……
手本として、教壇に打ち付けられている大き目の黒板(現代日本のものほど大きくはない)にチョークを滑らせる。
作りが荒い所為もあってかボロボロと砕けるチョークだが、書けないこともないので。
「~っと。これを見本に、壱を書いてみよう」
「かいたーっ♪」
「にーちゃんかいたー!」
「みてみてー!」
「早ッ!?」
驚きつつも歩き、子供たちが座る机から机へと視線を巡らせるわけだが……
「………」
見れば、とりあえずは何かが書かれていて、それがなんなのかが理解出来ない状態。
一応形をなぞろうとした形跡はあるものの、それが見受けられるのは最初の一線だけ。
あとは滅茶苦茶なわけだが……なんだろうなぁ……こう、無条件でその努力を褒めてやりたくなるほどの輝く笑顔で、「どう? どう?」って見上げられると……ま、まあ最初は楽しんでもらうためだし、いいか。
「ちょ、ちょっと違うけど……うん、書こうとした努力は伝わってくるぞー」
「えらいー?」
「ん、偉い偉い」
「《なでなで》わ……え、えへへー……♪」
くいくいと服を引っ張り、見上げてきていた娘の頭を撫でてやる。
すると、褒められたのが嬉しかったのか、今度はもっと上手く書こうとしてか教壇の黒板と自分の黒板とを見比べながら、チョークを走らせる少女。
なんだかくすぐったい気分になっていると、その後方で「へっへっへ」と笑いながらチョークを走らせる男性を発見。
「っし、と。へへっ、どーですかい御遣い様、上手く書けてるでしょう」
近寄ってみると、ニヤリと無邪気に笑う大人一丁。うん、いい笑顔だ。大人にしておくのがもったいないくらいだ。
しかし書かれているのは“売”って字で……マテ、どーすればこう間違える。
「これは壱を書こうとしたってことで……いいのかな」
「いいえ違いまさぁ、同じものばかりを書いていては新しい道は開けないと思ったんで、少しばかりいじってみたんでさ」
「…………いや、考え方はいいかもだけど、これってそういう授業じゃないから」
でも楽しもうとする意欲は、他の誰よりも上だったりした。
こういうふうに振る舞える大人は、この世界じゃあ貴重かもしれない。
───……。
第二教科、算数。
「さてと。じゃ、算数の授業では、足し算、引き算、掛け算、割り算を教えます」
「おにーちゃーん、た、たし……? ってなにー?」
「うん、ちゃーんとそこから教えていくからなー?」
チョークがバキボキ折れる中、小さくなったそれでコリコリと文字を書く。
やってみてわかることもいろいろある。教師ってキツい。
間違ったことを教えるわけにはいかないし、だからって“これが正しい、自分が正しいに違いない”と過信するのもアウト。
子供の純粋な目で「どうして?」とかツッコまれると、「そう決まっていたから」としか返せないのは教える側としてどーなんだ。
「まず簡単なところから。ここにチョークが二つあるな? このチョークを、さっきの授業で教えた数、“壱”とする」
「いー」
「いー♪」
「うん、そうだな、“いー”だ」
子供のノリがありがたい。
嫌な顔をせず、笑顔で受け取り、返してくれる。
そんな笑顔に応えるためにも、出来るだけわかりやすいように教えていく。
自分の視点で見るんじゃなく、子供の頃……自分がどうやって足し算を覚えたのかを思い出しながら。
「……? いーがふたつだと、あーるになるの?」
「そう。いーといーを一緒にすると、
黒板に文字を走らせ、……おおうチョークが折れた。が、気にせず書く。
壱と壱で貮になることは教えた。じゃあ貮に壱を足したらどうなるか。
「どーなるのー?」
「貮は壱が二つあると出来る数っていうのはさっき教えたね? だから、次は
黒板の高いところに、壱、貮、参、
どの文字がどの数を表しているのかをまず説明して、少しずつじっくりと。
「よくわかんなーい」
「そ、そっか。じゃあもっとじっくりと。えー……と、ここに……一匹の、犬が……居ます」
チョークの本数じゃなく、生き物のほうが関心が持たれるかなーと、黒板に犬の絵を描く。それが二匹になれば貮になって……って教えようとしたんだが。
「にーちゃんそれなにー?」
「え? なにって……犬だぞ?」
「えー? うそだー!」
「おばけだー!」
「おばけー!」
「えぇっ!? い、犬だぞ!? 犬だろ!? いっ……犬だってば! 犬なんだって!」
描いてみたんだが、上達しない絵の酷さに対する素直な子供の反応が痛い。
きちんと描いたつもりだったんだが……やっぱり俺、絵の才能ないのかなぁ……。
軽く傷つきながら、それでも笑顔で授業を続けた。
……。
第三教科、理科。
「御遣い様、“りか”ってぇのはなんです?」
大体一時間ずつの時間を取ることはせず、要点だけを知ってもらうための授業も三つ目。
壱を“売”と書いたおやっさんが、不思議な顔で質問を投げてくる。
さて……理科、理科ねぇ。
「たしか……様々な物事、現象を学ぶこと。火はどうすれば点くのか、声はどうやって出るのか、そういったものを知ることって考えてもらえれば」
「へぇ……声は出せるから出るもんじゃあねぇんですかい?」
「声が出るのは、吐き出す呼吸が声帯を震わせるから、だったかな。だから高い声を出す時に必要なのは喉に力を込めて絞ることじゃなくて、逆に喉を開いた状態で上手く声帯に息を当てることで───って、でも声のことは一例で、理科とはそう関係深くないから、これは忘れてくれてもいいかな」
それで、早速理科なんだけど……チョーク作りって理科って言えるのか?
そりゃあ粘土(自然ブツ)をいじくるわけだから、ある意味では……いやいやでもなぁ。
まさか電気実験や火を使っての実験をするわけにもいかないし。
や、そもそも電気もビーカーもアルコールランプも無いってば。
(でも懐かしいな……小さい頃にやったなぁ、“電球がもっとも明るく光る電池の繋ぎ方は、どういう繋ぎ方でしょう?”って)
答えは直列だった。あくまで“もっとも光るのは”に対する答えで、持続力で言えば並列だったっけ。
さて……理科、理科ねぇ、ってさっきも巡らせたよ、この思考。
うーん……チョーク作りの予定……で、一応粘土も用意してあるにはあるものの……いっそのこと粘土細工でも作ってもらおうか? や、それだともう理科っていうよりは図画工作の部類だ。
もしかして理科、必要なかった?
……そう考えたら、この授業出されて喜ぶのって、真桜くらいしか居ないような気がしてきた。
「……よしっ、決定! 理科の授業では粘土で好きなものを作ってもらうっ!」
『?』
チョークはその片手間で十分だ。
粘土だって質のいいものじゃないし、貴重ってほどでもない。
なにより楽しんでもらうことが第一なんだ、こんな日があってもいいだろう。
……そういった経緯もあって、用意した粘土で散々と遊ぶ時間が訪れたわけだが。
子供たちは元気に粘土を叩いたり、こねくり回したりしてご満悦。大人は何を作るかを懸命に考え、子供に促されるや叩いたりこねくり回したり。
なんのかんのと全員が楽しんでくれたらしい“理科……?”の時間は終わり、作ったものは後日、焼いてもらうつもりでいたのだが。焼き加減を誤り、ボロボロになったものを届けることになり、子供達や大人たちに笑われることにもなるのは、少し先の話である。
……。
……そんなこんなで時は過ぎて、ようやく今日の体験授業の全てが終了。
一日中、“仮生徒”のみんなと付きっ切りの授業をこなした俺は、鍛錬よりもよっぽど疲れた体を自室の寝台にぐったりと寝かせていた。
「……」
予算の都合上、豪華なものを出すわけにはいかなかった給食も、
って、それはよくて。……こうなると実際、食事だけを目当てに体験入学しようとする人が居そうだ。
素晴らしく美味いわけでもないけど、美味いか美味くないかよりも食べられることが重要だという人も、きっとまだまだ居る。
……いや。むしろそんな人がきちんと自分が望む道を進めるくらいにまで、ここで学んでくれれば嬉しい。
(よし、もっと煮詰めないとな)
体は疲れているくせに、考えることはそんなことばっかりだ。
授業内容と民の反応を桃香に報告する時も、どうにもこう……妙に興奮していた自覚があるし。少し慌てていた桃香の顔を思い出したら、少しだけこちらも笑顔になれた。
「体験しようとする人が増える今だからこそ、“先生”を体験するのも今だよな。そこのところは桃香にも話を通してあるし、先生役を務めてもらう人と一緒に頑張っていこう。でも……ん、あぁ~……っ! ……、あー……」
とりあえず今日はもう無理。
こんな状態でさらにテスト作成とか予習復習もするんだろうから、教師の仕事は本当に大変なんだなぁ。
そう思ったら“将来は先生になる”ってイメージだけは、どうにも沸きそうになかった。こんな自分が先生役でごめん。
63/鍋でコトコトではなく、様々な物事を煮詰める
初めての体験授業の翌日から、学校計画は輪郭を持ち始めた。
桃香の言葉から始まった計画だそうだから、桃香がこうしたいと思う学校の在り方を前面に出す方向で。
俺が感じたこと、さりげなく民に訊いた反応を初日の分だけで話し合い、ここはこうするべきだ、ああするべきだと話し合う。
体験入学者が増えると、俺が教師役を務めながら、“どうやって進行させていくべきか”を知ってもらうために、教師候補の人には横で授業内容を見てもらう。
教師と生徒を同時に育てなければいけない状況はさすがに辛く、質問ばかりで混乱しそうになるのも……まあ、仕方の無いことだ……よな?
質問に一つずつ丁寧に答え、どうするべきかをわかりやすく説明するのは難しい。
けれど、難しいからこその反応が確かに返ってきてくれた瞬間が、こんなにも嬉しいのだから……頑張らない理由を、今の俺には見つけることが出来そうもなかった。
「って、考えた通りに物事が運ぶんなら、だぁ~れも苦労しないんだけどさ」
あれよこれよと時は過ぎる。
教師役を任された俺は多忙の日々を過ごすこととなり、鍛錬なんてしてる暇はございませんよとばかりに、あっちでドタバタこっちでウンウン。
目が回るとはまさにこのことで、それでも体が鈍らない程度には鍛錬を織り交ぜてみれば、翌日は疲れでぐったりしていたりするわけで。
……どの道、三日間は体を休めることを鍛錬の中に織り交ぜているんだから、普通にしていればいいんだけどさ。鍛錬をした翌日はやっぱり体が重くなるのだ。
なにせ授業が終わってからの鍛錬だから、時間も大分遅くなってしまう。翌日に響いてしまうのをどうしても防げやしない。
「北郷一刀ー! 子供たちが陳宮のことを馬鹿にするのです!」
「馬鹿じゃないことをその頭脳でわからせてあげればいいじゃないか」
「頭のことではなく、身長のことで馬鹿にするのですよ!!」
「………」
「無言でお手上げするなですーっ!! 天の知識には身長を伸ばす方法などはないのですか!」
「夜きちんと寝ること、食事の栄養をバランスよく摂ること、よく運動して、正しい姿勢でいること。ストレッチとかも、曲がった骨を矯正するためにはいいっていうな」
「ばらん……? す、すとれ……? ななななにをわけのわからんことをーっ!!」
教師とは生徒に、自分が持つ知識や既存の知識を教える者。
経験から知られるものも含め、自分はこうだと思っていることを、たとえ仮説であれ説得力を以って伝える。
それを、聞いてくれる生徒がそういう考え方もあるのかと思うのならよし、真っ向から否定してくるのなら、その説得力で自分が学ぶのもまた良し。
教師だって万能じゃないんだから、生徒に教えられることだって山ほどある。
事実として、“生徒との会話が上手くいかない”、“生徒が自分を馬鹿にする”なんて言葉は少なくない。
一応、「馬鹿にしていると受け取る前に、自分を象る一例として受け取ってみて」と返してみたものの、それを簡単に実行できれば、それもまた苦労はしないわけで。
「じゃ、今日の体育の先生は馬超さんだぞー」
『せんせーおねがいしまーす!』
「せっ……先生か……! な、なんかやる気出てきたーっ!」
「……加減を誤ると嫌われるから。気をつけてね、馬超さん」
「あっははー、任せとけってー♪」
(不安だ……)
体育の方も、“程度のいい加減”を伝えながら武官たちに
文官のみんなとは違い、武官のみんなは先生なんて呼ばれることがほぼ無いと言っても過言じゃない。なもんだから、子供たちから先生先生と呼ばれると舞い上がる将が激増。
指導はエスカレートするばかりで、行き過ぎないうちに止めることが日課になりつつある。
「よし桃香、今日は足運びの練習をしようか」
「うーん……ねぇお兄さん? 教えてくれるのはありがとうなんだけど……最近のお兄さん、ずっと休んでない気がするよ? 少しは休まないと、また体壊しちゃうよ」
「はは、むしろ充実しすぎてるくらいだよ。自己満足でしかないんだろうけど、民にいろんなことを学んでもらって、そこで学んでくれたことがのちの国のためになるかもしれない。そう考えたらさ……ははっ、なんかこう……“ああ、返していけてるんだなぁ”ってさ」
「それでもお兄さんは頑張りすぎだよぅ、私が見てもそう思うもん」
「桃香には言われたくありません。ついこのあいだ、徹夜で書類整理してて危うく倒れそうだったのは、何処の誰だったっけ?」
「うぐっ……! お、お兄さんずるいー! 今はお兄さんのこと話してるのにー!」
「はいはいずるくて結構。……ほら、続き。まだまだ頑張らないといけないんだ、体作りや体力作りはやっておいて損はないよ」
「う、うー……」
それでも慣れないことなんてきっとない。
恐怖や緊張にこそ慣れたいと思う時は多々あるが、慣れる前に死にそうだから、そういった感情的なものへの慣れは度外視するとして。
教師役が少しずつ増えてくると、俺も時間が取れるようになってくる。
そうなれば桃香の鍛錬や自分の鍛錬もすることが出来るようになり、書類整理のことで彼女が徹夜することも───……って、あれ? 七乃は? 手伝ってくれなかったのか?
「ひとつ彫ってはお嬢様のためー、二つ彫っては美羽さまのためー」
「あの……七乃? なんで部屋に閉じこもって延々と木彫りなんか……」
「だって……最近一刀さんたら全然会いに来てくれませんし。寂しかったんですよ? からかう人が居なくて……」
「……彫ってる暇があるなら仕事をしようね……。桃香が頼まないからって、何もしなくていいわけないだろ……?」
「ううー、だってこう、ただ与えられた仕事をこなすだけじゃあ、難しい物事をこなすための意欲といいますか、そういうのが無くってですねー」
「じゃあ今日中に、桃香が溜め込んだ書類を二人で片付けるんだ。拒否は許しません」
「きょっ……今日中にですかぁっ!? あの、わざわざそんな言葉をつけるということはー……ですよ?」
「うん、たーんと溜まってる」
「………」
「ヨカッタネー、七乃の好きな無茶振りデスヨー」
「あ、あのー、私急用が」
「ああ、月と詠が七乃の部屋をいい加減掃除したいとか言ってたから、今日のところは木彫りは無理だよ」
「えぇっ!? そ、そんなっ、勝手に掃除なんてっ!」
「木屑だらけのこの部屋に住みついてて、勝手もなにもないだろ……。ほら、これ見てもまだ文句言えるか?」
「……? これは?」
「七乃が俺に詰め寄った分だけで、そこに出来る木屑の道」
「…………わー」
教師役が増えたことで桃香を手伝う人が少なくなり、最近じゃあもっぱら書類整理に追われている。桃香自身ももちろん頑張ってはいるものの、学校が出来たことで出てくる問題の量も当然増えたわけで。
そこにきて、それらを細かに整理する朱里や雛里が、教師役として席を外すことになれば……まあ、手が足りなくなるのはわかりきっていたことなのかもしれない。
「貴様を見ているとなんというかこう……っ……モヤモヤするんだっ!! 直せっ!」
「いきなりなにっ!? あ、あの、魏延さん? 俺これから昼ご飯で……」
「そんなものは後でいい」
「えぇっ!? いやあのっ……俺朝から今まで授業のやり方をぶっ続けで教えてたから、朝も食べてなくて……!」
「黙れ。……貴様という男をこれまで見てきたが、どうして貴様はそうっ……やることなすこと桃香様に似ているんだ! 桃香様が迷惑している! 今すぐやめろ!」
「…………イヤ……ホント、イキナリソンナコト言ワレテモ……」
「子供たちのあの安心しきった顔……! ワタシが知る中で、桃香様にしか向けていなかった柔らかな微笑み……! それを何故貴様ごときが受け取れる!」
「……? あの、魏延さん? もしかしてこのあいだの体育の授業で、子供たちに目が怖いって泣かれたの、気にして───」
「うぐぅっ!? うぅうううるさいうるさいぃっ!!」
「うーん……ね、魏延さん。もう少し肩の力を抜いてさ、こう……笑ってみて? 子供っていうのは俺達大人が子供を見るよりもずっと、大人を見ているもんだよ。だからさ、そうしてずぅっとキッと厳しい目つきをしていたら、怖がられちゃうよ」
「何故ワタシが笑みなど浮かべなければいけない」
「その“何故ワタシが”を外した一歩が大事な時もあるからだよ。俺がその、魏延さんに嫌われてるのはわかってるし、俺に笑顔を見せてくれなんて言わないからさ。せめて子供達には───」
「………………」
「魏延さん?」
「癪に障る。そうして自分のことを後に考える姿が似ているからモヤモヤすると……!」
「屁理屈こねてるだけだって。子供の前で笑えれば、いつかは俺の前でも~って」
「……貴様を見ていてわかったことが一つある」
「? え、なに?」
「ワタシはその手の冗談が大嫌いだっ!!」
「へっ!? うわちょ、タンマッ! その金棒どこからギャアアーッ!!」
実は最初───学校が完成したって知った時は、他国のお偉いさん……つまり華琳や雪蓮が見に来ていたりしていないかなと期待を持った。
もちろんそんなことは無かったんだけど。残念に思う気持ちと、任されているから見に来ないのかもしれないって思いがごちゃ混ぜになっていた。
自分の勝手な想像を働かせては、その期待に応えたいと思う自分。
そんな馬鹿な自分なら、調子づかずに自分を磨いていけるだろうか───
「まったくっ……! まったくまったくまったくぅうう……!! 何故っ! どーしてあの男はわたくしをっ! このっ、わ・た・く・し・を・前にっ! 跪きも美しいと認めることもしないんですのっ!?」
「んー……なー斗詩ぃ? それ以前にさ、麗羽さまの“美しさ”の前に跪いた男なんて居たっけ?」
「わわわっ!? 文ちゃん!?」
「猪々子さん? よく聞こえなかったんですけど、今、なにか仰って?」
「あ、やぁ~……真面目な話なんですけどね、ほらえっとー……と、斗詩ぃ~っ」
「私に丸投げするくらいなら最初から言わないでよ文ちゃん……。あの、麗羽さま……?」
「……つまり。このわたくしが、華琳さんに劣るばかりか男の興味も引けていないと?」
「いやぁ、麗羽さまぁ? そういうんじゃなくてですよ? ほら、引けるんだったらとっくに認めてるんじゃないかなーって」
「文ちゃん!? それって結局意味があんまり変わってな───はっ!? あ、ぁあああのあの、麗羽さま!? 今のはっ……」
「~っ……! あ・な・た・た・ちぃいい~……!!」
「あ、あ……おち、落ち着いてください麗羽さ───“たち”!? えあっ……えぇえええ!? どうして私までぇーっ!!」
───そんなことを思っていた矢先に、少しずつ周りの反応も変わり始めていることに気づく。
気づくきっかけになったのは、多分だけど袁紹さんだった。