ただいま必死に読書しています。
(…ん?今、何時?)
外からは僅かにであるが太陽の光が差し込んできているように感じる。
しかし、実際のそれは月明かりだった。
ちらと時計を見ると、その画面は小さく、でも確かに3:00という文字を示していた。
確か勉強机に教科書と、凛のノートを広げ…。
てある。ということは寝落ちしたな。詰みだ。
電気が消されているのは両親の気遣いだろうか、それとも、妹の気遣いだろうか。
どちらにせよ休める環境にしてくれたわけだ。ありがたい。
俺は月明かりを見ながら柄にもなく感傷にひたる。
(はぁ…。凛の奴め。)
もはや昨日となってしまった1日の出来事をさっと振り返る。
まず朝は凛に挨拶がてらけなされて、昼時には夏実に席を占領されて…。
で、放課後にはデートの約束を押し付けられて…。
なんか俺、めっちゃ凛に振り回されてませんかね…?
まぁ“当時”あんなことしちゃったのが悪いんだけどさ、それを考慮しても、ねぇ?
流石にきついぜ。
で、なんだっけ?
そうだ。寝よう。
いや、寝なきゃ…。
再び司は月の明るい夜に瞼を再び閉じ、深い眠りへと落ちていった。
-
その結果…。
「寝坊しました☆てへっ☆」
(うっわー、きっつ。)
たまには凛とか、調子に乗った朱里のようにあざとく言ってみたくなってしまったのだ。
だが、男の声で発せられるその言葉に萌え要素なんて一切ない。
(やっぱ「あざとい」って言う形容詞は女用にあるもんだな。)
自分でやっておいて自分で突っ込むってほんとに相当やばいと思う。
それよりも。
こんなに寝坊、といってもたかが10分ほどだが、した原因を考えなくては。
えー、確か3時頃1回目を覚ましたような覚ましてないような…。
「お兄ちゃーん、めしー!遅れるよー!」
「はいよー。」
俺の記憶の糸をたどる作業に割り込む我が妹、朱里の声。
(だから、女子なのに飯ってどうなんだよ。しかも遅れるの目的語がねぇよ。)
追憶はまた後でにしよう。
さもなくば、遅刻する。
「司遅いぞ。待ちくたびれたわ。」
「ごめんな光輝。冬でもこっちは暖かいからさー。」
「え?暖かい?充分寒いだろ。」
「え?あ、ごめん。そうだね。」
【東京は十分暖かいと思いますが…。】
(おっと…未知の登場人物の心の声が漏れてしまったようですね…。)
「というか、それ遅れる理由になんないよな?」
「わりぃわりぃ。1回3時くらいにまどろんでたような気がして…」
「いや、お前まどろむの使い方間違えてるぞ。国語だけは成績がいいのに。呆れるな。」
「え、ガチで?ほんとに?」
「まどろむってのはうたた寝とほぼ同じ意味だし。しかも夜だからがっつり寝てんだろーがよ。」
「初耳なんですけどそれ。んじゃなんだ?空白の時間?的なのがあったのよ。」
「へぇ。それで睡眠不足と。ま、しょうがないね。とっとと行くか。」
「ラジャッ。」
俺の家の玄関の前で光輝に遅れた理由を釈明する。
ここ2日は光輝を待たせているのだ。多少なりとも申し訳なさは感じている。
「司は昨日の部活どうだったん?」
「んー、女バスと軽く遊び程度のゲームしてた。」
「ほうほう?そんで?」
「まぁ、部活終わった後に残った人たちでやってたくらいなんだけどね。まぁそこまで強くはないけど楽しくやってる感じ。」
「そうじゃなくってだな…」
「んー?」
「はぁ…。女子とバスケやってどーだったの?って話。」
「えー?普通だぜ?俺ら一応接待プレイだし。」
「そっか、お前そーゆーのにあんまり今は興味ないからな。」
「え?どゆこと?今?え?」
「おっといけませんね。なんでもないよ司。」
「んー、そう?あ、強いていえば相変わらずあの人がやばかった。」
「あー、あの人ね。うんうん、あの人…。」
「でさー、光輝はどうなの?」
「ん?あぁ部活?そりゃあまぁ…」
ドスッ。
「2人とも、おっはよー!今日も元気かい?ん?ん?」
「うーわ出たー、女バスで1番うるさい女。」
「先輩に向かってそれはひどくないかなー?司ー?」
「おはようございます。」
「ん、おはよ、光輝くん。こんなアホの相手よく出来るね、さな感心しちゃうよ。」
「いやいや…。」
「ちょっとあんた痛い。」
「つーかさくん?お前、センパイに対するケイイってもんはないの?」
「え?だってチビだしアホだし図太いし…」
「つ、か、さ、く、ん?」
「なんでもないですおはようございますさな先輩。」
「しょうがない、許す。あ、昨日の練習相手ありがとねー。次は本気の1on1で。」
「はいはい。了解しましたよー、と。」
それだけ言い残すとトコトコと走って行ってしまった。ほんとに嵐だな、あの人。
「やっは、すげーな。」
「そうだな…。」
光輝と俺は口々にほぼ同じ感想を言う。
やはり女バスキャプテン、高山紗菜に対する俺らの意見は変わらないようだった。
学校に着き、教室に入るや否や、凛に襲われた。
断じて卑猥な方面ではない。
「司、ノート、返せ。」
詰みました☆
数秒後、俺は凛に笑顔でモモカンをキメられその場にうずくまったのだった。
*
(んんー…?んぁ?)
キーンコーンカーンコーン…。
「授業、終わった…?」
「何言ってんの?司。昼休み、終わったよ。」
どうやら俺が4限終了のチャイムだと思っていたのは、昼休みの終了を告げるチャイムだったようだ。
「はぁーー?凛、なぜ俺を起こさなかった…。」
「んー?寝顔に見とれてた。」
「なっ、お前…」
「嘘かホントかで言ったらホントだけどまぁ嘘ってことにしておいてあげる。そんなことよりほら。行くよ。5限は教室移動でしょ?」
俺に教室移動を促してくる凛の、その頬はどういうわけかか桃色に染まり…
釈明しておくが、俺は決して難聴系主人公の類ではない。ただただ先ほどの凛のセリフが早口過ぎて聞き取るのが困難だっただけだ。
「…あ、そうだ。」
「お?どした?」
凛が思い出したように声を上げる。
「夏実が後で話したいってー。興味持ったらしいよ。」
「え?誰と?誰に興味持ったって?」
「お前だ司ばーか1回死んじゃえ。」
「は?は?なんで?おかしくね?なんで俺がディスられた?」
「なんでもないし。とにかくそーゆー事だから。放課後部活終わるまでいつものカフェで2人で待っててやるから。早めに来てよ。」
「えー…。しゃーねーな。」
「ん。じゃ、移動しよ?」
…。5限は移動教室だった。
というか最近なんでこんなに女子との接触が多いんだ?なんかしたかな、俺。
まぁ今のところはとりあえずいっか。なんとかなるでしょ、どうせ。
-
5.6.7限は死にそうになりながら終えた。
5限は腹が減り、6.7限は睡魔に襲われ…。
そして7限は古典。昨日の5限と同じ。つまり、俺はノートが写し終わってない状態で、凛も(主に、というか完全に)俺のせいでノートがない状態で授業に望むことになった。
俺は凛に対するちょっぴりの罪悪感を感じつつ、その埋め合わせとしてルーズリーフを渡す。
「ん、ありがと。」
こちらを一瞥し、凛はそのルーズリーフを素直に受け取る。
なんとなくだが無駄が無いように思えたその動作に、俺はなんだか憧れを覚えた。
で、今なんだが…。
放課後だ。つまり、部活だ。
今日は女バスと遊んでる暇はない。
あんまりあの女子2人を待たせるわけにはいかない。
だが、なかなか部活もハードな訳で。
大会によってまちまちだがいい時では支部のベスト16までは行くぐらいの実力だ。
実際は大したことがない…、のかもしれない。が、俺は今の部活の雰囲気は大好きだ。
みんな向上心はあるだろうし、何より一緒に部活をやってて楽しい仲間がいてくれる。
「つかさー。今日はどうするの?」
「あ、紗菜さん。すみません。用事があるんで。」
「ふーん、そ。じゃ、また明日ね。お疲れ様。」
「お疲れ様でした。」
全体のメニューが1通り終わって、自主練習に移ったタイミングで紗菜先輩が話しかけてくる。
悪いが今日は自主練に付き合うことはできない。
心の中でいま1度紗菜先輩に謝ると、俺は急いで指定されたカフェへと足を運んだ。
-
「おっそーい。待ちくたびれたよ、司。」
「すまんな。あと、夏実さんも。」
「あ、え?ウチ?全然!むしろいきなり呼んじゃってごめんね?」
「ごめんね夏実。こいつ授業中から昼休みまで爆睡してたやつだから。全部こいつが悪い。」
「はいはい、そーですよ。2人はなんか頼んだのか?」
「私と夏実は適当に注文したから。お構いなく。」
「わかった。」
俺は短時間で適当に注文を済ませると、改めて夏実を注意深く観察した。
安部 夏実。中学からの内部組だと昨日凛から聞いた。
制服にはほんの少しだけ、でも誰しもが一目見れば確実に気づくような、校則には触れない程度のアレンジを加え、あざといようで、それでも自然な彼女らしさ可愛さを演出している。
やっぱ凛とは正反対の女の子だな…。
笑顔で話している2人に見とれながらも、俺の思考は活発に動いていた。
ふと中学校時代の記憶が思い出される。
(いたなぁ…。好きな女子。)
中学校時代に初恋を捧げた人は、今どこで何をしているだろうか。
生徒会で一緒になった、確か一つ上の先輩だったっけ。
(懐かしいな…。元気かな…。)
少しばかり過去に思いを馳せると、当時の記憶が微笑ましく感ぜられる。
俺は自然と微笑みを零していた。
「あ、他の女の子の事考えてるでしょ。」
夏実さん、なぜわかったんだ。
「そしてウチのことは呼び捨てでも大丈夫だよ?司くん。」
「あ、はい。そうさせて頂きます。」
うわぁ、こっちの心を的確に読んでくるわ。
やっぱ女子ってこええな。
「お待たせしました。フレンチトーストとエスプレッソです。」
店員さん、ナイス。夏実にまた心を読まれたと思った。危ない危ない。
「司って、面白いね。ね、凛?」
「うぇ?そ、そうだね、面白い。面白い…。」
「やっぱり油断してた。流石に棒読みすぎるよ〜?」
…やっぱりなっつんは怖い。
彼女の人間観察能力に恐れを抱きながら俺は運ばれた軽食で胃を満たした。
*
しばらくの時が経つと、俺と凛と夏実とが飲み物のおかわりをして、世間話やら雑談が始まった。
が、それもほんのひととき。さすがに暗くなってくると帰らなければいけない。
「そろそろいこっか、凛。」
「ん、そうだね。夏実。今日は司に払ってもらおうか。」
「嘘だろ…。」
「冗談だって。司も大丈夫?」
「おう、大丈夫だ。」
凛さんがそれはそれはにこやかなお顔で払え命令してきた時はもうびっくりしたどころではない。
さすがに4日後に迫っている件のデート代だけでしんどい。
「んじゃウチはここで。バイバイおふたりさん。」
「また明日学校でね、夏実。」
「じゃあな、夏実。」
駅の改札に吸い込まれるように消えていった夏実の背を見送り、俺らは俺らの帰路に就く。
「で、どうだったの?」
「なにが?」
「夏実のこと。どうせ司、分かったんでしょ?」
「まぁな。相手にしたらめんどくさそうだな、夏実は。」
俺が受けた第一印象。ふとした瞬間にしか見えないけれど、それでも俺はほんのちょっとの違和感を感じ取った。
(ああ、作ってるんだな。)
彼女は間違いなく、外面を取り繕っている。
「そんなことはないよ。ああ見えて裏はひどくないし。」
上を向き、微笑みつつ夏実を語る凛は優しく、そして幸せそうに見えた。
俺はまだ2人のことは一握りしかわからない。
それでも夏実と凛は本当に付き合いの深い友人なのだ、ということはその幸せそうな笑顔を見れば一目瞭然だ。
「じゃあ、私はここで。じゃあね、司。ノート忘れないでね。」
「わかった。悪かったな。」
凛の家はどこにあるか、詳しくはわからない。
けれども、凛と別れた場所は俺の家から5分もあれば歩いて来れる場所だった。
あぁ、そうか、ノート。明日は絶対持っていかなきゃな。
上手い日本語を使えず四苦八苦…。
誤字脱字その他ありましたらお願いします。