ライバルを超えるために幻想入り   作:破壊王子

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この小説はドラゴンボールと東方Projectの2次創作です。

いよいよ夏到来、ですね。正直夏は苦手です。


【第57話】恐ろしい人間

 

 橋を渡った後、ベジータはさらに旧都の中心へと向かっていた。足を進めるにつれ、中心部からはさらに熱気と狂気さが伝わってくる。

 今のベジータは遠くにある〝気〟を感じ取ることができないが、それでもわかることがある。それはこの熱気と狂気のさらに中心に、2つの大きな力があるという事だ。恐らくこの2つの中1つが霊夢が言っていた『萃香』という者だろう。

 

 幻想郷の住人は〝気〟の大きさでいえば大したことはないが、〝潜在能力〟を含めれば話は別だ。ここの連中は普通で考えられない程の能力を秘めている。元の世界にも〝超能力〟を使う者はいたが、〝気〟という概念を消して、純粋な能力だけをみたら此方の方が上だろう。

 

 

 だからこそベジータには興味がある。どんな形であれ〝強さ〟を持っている相手であればそれはベジータの相手だ。倒さなくてはならない標的であり、その経験がさらに1番の好敵手を倒し得る牙となるかもしれない。そのためにここにやって来たのだ。

 

 

 

「……」

 

 

 そのまましばらく歩いていると建物が見えていた。建物といってもベジータがいま住んでいる『カプセルコーポレーション』のような近未来的なモノではなく、和風の建物が多い。暗闇の中、提灯のようなもので灯りをともしているこの場からは如何にも〝出そう〟な雰囲気がある。

 

 

 

 

 

 

 そしてやはり出た。

 

 真っ直ぐに歩いているベジータに歩み寄って来る妖怪が。いやこれは妖怪といっても普通の妖怪ではなく、一度ベジータが地獄に落ちた時に見た『鬼』と類似していた。カラダは赤くはなく、薄い茶色のような色だが、頭のてっぺんにツノがあったのでベジータはそう判断した。

 大きさはベジータの1.5倍ほど。しかし腕も足も太さはベジータの倍以上はある。普通の人間がみたら腰を抜かしてしまうだろう。そう、普通の人間ならば。

 

 

 

「……」

 

 

 鬼はベジータの前で立ち止まり、驚愕の顔をしながら見下ろしている。反対にベジータは鬼の顔は全く見ずに、ただ前だけを見据えていた。

 

 

「驚いたぜ…地底(ここ)に人間が現れるとはな。そして運もねえな。俺は人間が嫌いなんだ。この意味がわかるか?」

 

「……」

 

 

 やはりこの鬼の反応から察するに、地底は人間があまり立ち入るような場所ではないようだ。無理もない、こんな所に用がある者などいるはずがない。

 鬼からは殺気を感じる。しかしベジータは動じない。話に耳を傾ける事すらもしない。

 

 

「おい!独り占めは良くねえなぁ」

「地上の人間か…?」

「珍しいな…喰ってやろうか」

 

 

 殺気を感じ取った他の鬼達がぞろぞろと集まってきた。そして全員ベジータの前に立ち並ぶ。大きさはやはり皆ベジータより格段にデカく、カラダ付きも凄い。大勢の鬼が並ぶその姿は側から見ると圧巻なものだ。

 それでもベジータはこの鬼達から何も感じない(・・・・)。確かに見た目の威圧感はあるが、地上で見た魔理沙、美鈴、早苗、霊夢とは全く違い、ベジータにとって戦う価値すらもない存在であることがわかっていた。

 

 

「今すぐ失せろ」

 

 

 1匹の鬼とも目を合わせずに、ベジータはそう言い放つ。これは彼にとって最大級の優しさだ。昔なら有無を言わせずに1匹残らず虐殺していたベジータだったが、今は無意味な殺しはしない。ただ、邪魔をするなら殺す。それが今のベジータのスタンスなのだ。

 

 しかし鬼達は目を見合わせて大笑いした。たった1度のチャンスを鬼達は棒に振った。いや本人達はそう気づいてはいないかもしれないが、結果的にはそうなるだろう。

 だがその判断をベジータは何も思わない。本当に興味がないからだ。この鬼達を殺そうが殺すまいが、ベジータには関係ない。一瞬で片付けられるから面倒だとも思わない。

 

 

 ベジータはこの鬼達を殺そうと決めた。

 

 が、鬼達が急に肩を震わせ、歯をガクガクさせながら怯えきっていることに気づいた。右手に〝気〟を込めはしたが、そもそも〝気〟という概念を知らない鬼達が今ので怯える事はおかしい。

 

 そしてもう2つ気づいた。それはいつの間にか自分の背後に知っている〝気〟が現れたこと。そしてもう1つは、いま鬼達の目線が自分へと集まっていないことに。

 

 ベジータは振り向くと先ほどの小さな少女、『古明地さとり』がポツンと立っていた。鬼達と比べるとさとりのカラダなど小さなものだが、ベジータにはさとりの方がよっぽど大きく感じた。

 

 

 

 

 

 

「……そう、私は『悪魔』なのね。でもまあ…その悪魔より『怖い人間』に殺されたくなければ早く消えた方がいいわ」

 

 

 さとりはそう小さく呟いた。か細く、本当に小さな声だ。『悪魔』などと恐れられていることを少し哀しく思っているのだろうか。

 鬼達は皆、一瞬でその場から離脱し、いつの間にかここから少し離れた場所に野次馬の如く集まっていた妖怪達も、一目散にこの場を後にした。

 少し前まで鬼達の下品な笑い声で五月蝿(うるさ)かったこの場所も、さとりの一言により一瞬で静寂に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか久し振りだわこの感覚。わかってはいたけど、ね」

 

「きさま…なぜついてきた」

 

 

 一度橋の前で別れたはずだったが、さとりはいつの間にかベジータに追いついてきた。

 

 

「話の途中だったでしょう?…まあ、今となっちゃ無意味な話だったけれど」

 

 

 さとりはベジータの強さに気づいたようだ。たった一瞬だけ〝気〟を込めただけだったが、それ以上にあるモノでさとりはベジータの強さを計り取っていた。

 

 

「私がいうのもなんだけど、貴方恐ろしいわね…あんな殺気を放つなんて」

 

 

 そう、殺気だ。

 さとりはベジータの殺気を感じ取り、ベジータの強さがわかった。鬼達はベジータの殺気を感じる前にさとりを見たので怯えていたが、もしさとりが来なかった場合、殺気を感じ取る前に既に死んでいただろう。

 殺気を感じる速度、それは反射神経にも関係する。つまりさとりも相当な実力者であることがわかった。しかしそんなさとりですらもベジータに恐れおののいている。

 

 

「……」

 

「人の身でありながら自分が敵と判断したものに、一切の躊躇いもなく激しい殺意を抱く。これは生物を100や200を殺したところで身につくものじゃないわ。貴方本当に何者なの?」

 

「ククク…〝敵〟だと?」

 

 

 真剣な表情をしているさとりに対し、ベジータは可笑しなものを見るような顔で笑う。

 

 

(きさまは蟻の事を敵と判断した事は有るのか?)

 

 

 さとりは集中して心を読むと、ベジータはこう言っていた。しかしそれは驕り、慢心の類ではなく、圧倒的な自信から来ていることも感じ取れた。

 

 

「私の事はスルーしたのになぜ鬼達は殺そうとしたの?」

 

「きさまからは殺気を感じなかった。だがあのザコどもからはそれを感じた。それだけの事だ。

 自己防衛、それは生きていくために必要な事だろう?」

 

 

 違う。

 

 それは嘘だ。

 

 

 口ではそう言っていたが、ベジータにとって戦うという事は〝守る〟ことや〝防衛〟するものではなく、単なる〝暴力〟でしかない。元の世界では最近は自重していたが、今はそんな気分ではない。ここは常に戦場であり、血が騒いでいる。そう、サイヤ人の血が。

 

 

 

 危険。この人間は危険だ。

 

 下手をすれば何匹もの死体が積み重なるだろう。いや死体すら残らないかもしれない。とにかくこのまま野放しにしてはならないと、さとりは思った。

 だが自分がどうこうできるレベルではないともわかっている。しかしそれでも何かをしなくてはこの地底が大変な事になるとまで悟った。

 不幸中の幸いにも会話は通じる。上手く立ち回ればなんとかこの暴れ馬を諌める事が出来るかもしれない。そう考え、さとりは決心した。

 

 

「ついてない、そう言ったけど撤回するわ。むしろ私はついてる」

 

「どういう意味だ?」

 

「さあ、どういう意味かしらね。心を読んでみたらどう?」

 

 

 自分がなんとなくあの橋の前に来ていなかったら、自分の知らない間に地底が大変な事になっていたかもしれないと思うとさとりはゾッとした。

 もちろんベジータは心を読む事ができないので、さとりの心情は全くわからない。

 

 

「フン…オレはもう行くぞ」

 

 

 関わるのが面倒だと思ったベジータは、先へ進もうと歩き出した。しかし、その後ろからカツンカツンと靴の音を鳴らしながらさとりがついてくる。

 ベジータはすぐに振り向くと、さとりはピタッと動きを止めた。再び歩き出したらまたさとりがついてきて、振り向くとやっぱりピタッと動きを止めた。

 

 

「おいきさま…どういう事だ?」

 

「私は貴方について行く。案内役だと思ってくれてもいいわ」

 

 

 さとりは無表情のまま、少々イライラしているベジータにハッキリとそう伝えた。




はい、第57話でした。

初期のベジータに比べると鬼なんて本当に可愛いものかもしれませんね…

ではお疲れ様でした。

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