ライバルを超えるために幻想入り   作:破壊王子

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この小説はドラゴンボールと東方Projectの二次創作です。

皆様、あけましておめでとうございます。今年は去年よりは沢山投稿したいです。


【第63話】史上最悪の異変

 

 浄玻璃(じょうはり)(かがみ)

 

 

 映姫の所有物であるその手鏡は、『罪人』の過去を映し出すという能力を持つ。つまりベジータの過去だ。

 

 

 

 鏡によって映し出された映像には、見慣れない土地、見慣れない服装の人々、そして見慣れない建造物が存在していた。それらは、幻想郷の住人()から見ると明らかに〝この世界のもの〟ではないということを感じさせた。

 

 しかしその中で唯一見覚えのある人物が映像の中央に立っていた。そう、ベジータだ。

 

 

 時は悟空たちがバビディの宇宙船に乗り込んだ後、悟飯がダーブラと闘うも決着はつかず、その直後にベジータに異変が起き、急にバビディの能力により天下一武道会へ戻ってきた頃だった。

 

 武道会場の中央には悟空、ベジータ、悟飯、界王神。そして明らかに場違いな2人を合わせて6人が居たが、幻想郷の住人()はベジータにしか見覚えはない。

 

 

 

「これが……ベジータの世界?これは一体どういう状況なの?」

 

 

 さとりがそう呟くと、場にいる者のほとんどが首を傾げる。

 

 無理もない。何かを話している様子はわかるのだが、その声までは浄玻璃の鏡に届かない。武道会場ということもあり、彼らのいる中央の四方には大量の観客席があり、それも満員だ。歓声が聴こえるわけではないが、何かにざわついている様子でその声が邪魔になっていた。

 

 

「言い争いしてるみたいね」

 

 

 ベジータの不機嫌そうな顔、そして大きく動く口を見て霊夢はそう判断した。いつも眉間にシワを寄せているベジータだが、この時のベジータはいつもよりも怒っているように見える。そして霊夢には、なんとなくだがこのベジータに違和感を覚えた。まるで口に出していることが、目の前にいる人達以外に言っているような……と。

 

 どんな話をしているかはここに居るベジータ本人に聞けばわかることなのだが、とてもではないがそんな雰囲気ではないため、誰もそうしなかった。

 

 

 

 

 

 ふと、映像の中のベジータが手を向けた。向けた先は幻想郷の住人()には見覚えのない見覚えのない山吹色の道着の男。

 

『まさか……』と全員が思ったその時。

 

 

 

 

「なッ……!?」

 

 

 

 

 予想していた通りに、ベジータは相手に向かって攻撃を加えた。全員、それを呆然としながら見るしかなかった。

 

 予想していたにも関わらずに、全員が言葉を失うほど呆然とした理由は───

 

 

 

 攻撃の威力だ(・・・・・・)

 

 

 

 ベジータが涼しい顔をしながら繰り出した気功波もとい弾幕は、防御した男でもその威力ゆえに弾くのが精一杯だった。しかしそれも方向を上手く変えられたわけではなく、真後ろの観客席に向かった。観客席を爆発しながら貫いた後も、武道会場の外にある建物を襲って行き、その被害は甚大なものとなった。

 

 

 勿論、観客席は満員だった。先程までは。

 

 それがたった一撃、たった一瞬で一部が塵と化したのだ。

 

 

 

 

 生き残った観客たちは事態の深刻さに気づき、ほぼ全ての人が大慌てでその場を離れ始める。恐怖からの悲鳴が武道会場を包み込んでしまった。

 

 

 

「……」

 

 

 それと比べ、幻想郷の住人()は言葉が出ない。ベジータのあまりの攻撃によって。

 

 

「100……いや、200人は死んだわね。たった一撃で……」

 

 

 一番早くに口を開いたのは霊夢。状況を冷静に把握していた。200人もの命が一瞬にして消し飛んだ。その状況を見ても、霊夢は『ベジータにも何らかの理由があったに違いない』と思っていた。いや思いたかった。

 

 しかしどんな事情があろうとも、これから自分がベジータを真っ直ぐに信用できる自信を持てなかった。他の者もそうだ。今見た映像は、そう思わせるに十分な残虐性の面を感じることができたのだ。

 

 そんな事を考えていると、ベジータはまた自分の右方向に手を出し、同じような弾幕を放った。その威力は先程と勝るとも劣らないものであり、逃げ遅れた観客は一瞬にして塵となった。

 

 

 その攻撃により爆風が巻き起こり、その中でベジータは悪どい表情をしながら笑った。この場にいる者の中でさとりだけが、ベジータが若干無理をしているように見えた。

 

 

 

 

 

「……もういいでしょう」

 

 

 映姫は浄玻璃の鏡を閉じた。

 

 映像とはいえ、人が死ぬ光景だ。映姫もできれば見せたくなかったに違いないが、それでも見せたと言うことはそういうことだ。現に、先程までベジータを擁護していた連中も、多少なりとも疑念を持つようになった。

 

 

 

「言っておきますが今の映像は世界の時間軸の差はあれど、大して昔の話ではありません。むしろ最近の話です。さて……貴方達はまだこのベジータを擁護するつもりですか?」

 

 

 映姫の言葉に誰もが俯く。しかし、ベジータ本人は他人にどう思われているかなど元より興味のない話である。

 

 

 

「待て!」

 

「……何でしょう上白沢慧音さん」

 

 

 俯いていた者の中から慧音が声を上げる。そしてベジータの方に歩き始めた。妹紅の静止の声掛けに耳を貸さず、遂にはベジータの目の前までやってきた。

 

 2人は互いに見つめ合う。慧音からは若干の緊張と不安の様子が伺えるも、顔を左右に2回振って雑念を振り払った後、また真っ直ぐにベジータを見つめた。

 

 

 

「私は今の映像で見たベジータが本当のベジータだとは思えない。ベジータ、確かにお前は気性が荒いかもしれない。過去に色々あったのかもしれない。それでもお前は〝悪い奴じゃない〟 私は……いや私達はそう思うんだ」

 

 

 慧音がベジータと関わった時間などほんの微々たるものだ。されどベジータを信じる気持ち、信じたい気持ちが慧音にはある。

 

 

「…………」

 

 

 慧音、いや此処にいる映姫、幽々子、妹紅、勇儀の4人を除く全ての者が力強く頷いた。つまり、一瞬の疑念はあったものの、ベジータを信じたのだ。そもそもその映像が事実なのか、ベジータは自分の意志で動いているのか、など疑わしい部分も多くある。それら全てを無視してベジータを裏切る事はできない。

 

 

「慧音」

 

 

 ベジータは慧音に向かってゆっくりと手を伸ばす。握手のポーズだ。自分の思いが通じたと安堵の表情を浮かべる慧音であったが、すぐにその異変に気付く。差し伸べられた握手に応えようとこちらもと右手を出すも、その瞬間にベジータの手の形が変わる。

 

 この手は何を意味するのかと脳が理解する前に、慧音はこの光景に既視感を覚えた。どのような場面でコレ(・・)を見たのか。

 

 

 何処だ?一体何処だ? 

 

 答えはすぐに出てきた。

 

 

 

 

 それは────

 

 

 

 

 

 

 ────あの映像の中だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「慧音ぇぇぇッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 冥界では聞き慣れない、激しい爆発音が鳴り響く。桜が散るか散らないか程の、かすかな風の音をも聴こえるほど雑音のない世界である為に、この爆発音は〝異常〟が起きたと改めて認識する事ができた。

 

 

「……ッ!」

 

「……」

 

 

 霊夢、さとりはあまりの事に声が出ない。映像を見た時と同じだ。そしてそれはその2人だけではなく、神奈子と諏訪子、レミリアと咲夜の4人も全く同じ反応、表情(カオ)である。

 

 

 

 

 ベジータは慧音に向かって攻撃を放った。ベジータがいつも〝気功波〟と言っているものだ。カラダから溢れるパワーを手から放出するものであり、その攻撃は真っ直ぐに進み、白玉楼の一部を貫き爆発を巻き起こした。

 

 

「慧音ッ!しっかりしろ慧音ッ!」

 

 

 攻撃の直線上に居た慧音は、妹紅の間一髪の救出により直接ダメージを食らうことはなかったが、救出した際に地面に頭を強くぶつけ、気を失ってしまった。妹紅がベジータを信じていなかった分、常に身構えていたので何とか慧音を助ける事ができたのだ。

 

 燃え上がる炎のような紅い瞳を細め、強くベジータを睨む妹紅。そのまま殴りかかりそうな鬼気迫る様子であったものの、気を失った慧音を此処に置いておくのは拙いと思ったのか、彼女を抱き抱えて何処かへ消えていった。慧音の避難を優先させたのだ。

 

 その妹紅を見た勇儀は、同じように気を失っている萃香を連れて、危険領域であるこの場から離れた。

 

 

 

「妖夢……!」

 

 

 建物が壊された事に関しては何の怒りも示さなかった幽々子だったが、中に待機させていた妖夢の事を思い出し、彼女の安否を確認しに足早に屋敷の奥へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄金の〝気〟をカラダから溢れるほど放出し、小さな台風のように場を強く荒らすベジータ。(スーパー)サイヤ人になり、脱力をしながら前を見据える。

 

 

「きさまらは何もわかっていない」

 

 

 白玉楼に来てから口数の少なかったベジータが、自分から口を開き始めた。その声から感じられる彼の心情は、怒りの類ではないのだが、その場にいる全員が固唾を飲んで身構えている。

 

 

「『お前は〝悪い奴じゃない〟』? 

 

 くだらん事をぬかすな。オレは〝悪〟だ。今までも、そしてこれからもだ。きさまらとは違う」

 

 

 そう言っているベジータの目は、皆が知っているものではなかった。

 

 

 冷たい。まるで溶けない氷のように。

 

 

「ベジータ……貴方」

 

「さっきの映像のオレは操られているとでも思ったか?だとしたらお笑いだぜ。あれはオレの〝意志〟だ。言ったはずだ……オレにとって殺人など、息をするのと何も変わりはしないと」

 

 

 心哀しげに呟くさとりに、無慈悲な本音を告げる。これでもう、幻想郷の住人()が信じていたもの、信じたかったものが静かに崩れ落ちる。

 

 

 

「オレが間違っていた。修行?心のゆとり?くだらん。所詮、きさまら程度に教わる事など何もない。何一つだ」

 

 

「……それで、お前はこれからどうするつもりだ? 幻想郷での修行をやめようとするのは勝手だが、元の世界への帰り方は見つけたのか?八雲紫に頼み込んで帰らせてもらうなんて方法を選ぶお前ではあるまい」

 

 

 神奈子のいう事はもっともだ。

 

 例え次元に穴を開けようとも、元の世界に上手く帰り着く可能性など僅かだろう。

 

 ベジータが紫のような超特殊な能力をこれから身に付けるか、それとも無理矢理次元に穴を開けてそこへ飛び込み、僅かな可能性に賭けるか今はこの二択しかない。

 

 しかし、そもそも次元に穴を開けられるほどの力を持ってないベジータが、今はさらに『力の封印』をしている状態である為、現状自ら帰る方法は皆無と言っていい。

 

 

「……そんな事はきさまらを1人残らずぶっ飛ばした後に考えればいい」

 

 

 言い終えると〝気〟の解放をするベジータ。萃香との闘いから僅かしか時間が経っていないにも関わらず、激しく熱く、そして重い闘志が場にいる全員のカラダに針のように突き刺さる。

 

 

『闘いは避けられない』

 

 

 ───と誰もが思った。

 

 

 

 

「本当に……闘うしかない、の?どうすれば……どうすれば……」

 

 

 武闘派ではないさとりは、この緊急事態をどうすれば武力以外で治められるか、を頭をフル回転して考える。しかし、嫌でも闘いしかないという気持ちが脳裏に浮かんでしまう。

 

 こんな場所でベジータと幻想郷の強者が闘りあえばどうなるかなど無知な子供でもわかりそうな話だ。

 

 

 

 

「無駄よ。さとり」

 

 

 さとりが頭の中を張り巡らせていると、誰かが右肩に優しく手を置いてきた。自分の右側を振り向くと、そこには霊夢が立っていた。霊夢は左手に軽く力を入れ、ゆっくりとさとりを後ろに下げ、反対に自分は前に出た。

 

 その顔は覚悟を決めた顔であった。さとりはその顔に見覚えがある。その顔は───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝異変解決をする時の霊夢〟だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこんなに早く再戦できるとは夢にも思ってなかったわ。

 

 またアンタと……いや、あの時とは違う。今回は本当に本気よ」

 

 

「そうしろ。死にたくなければな」

 

 

 

 以前も互いに向かい合った2人だったが、今回はその空気が違う。

 

 重い。誰も口を挟めない。2人の間にはそんな空気が漂っている。

 

 

 

「アンタ、前に言ったわよね?『誇り』がなんとやらって話。今回もその誇りってやつで動いてるんでしょうけど……言ったはずよ。

 

『その〝誇り〟とやらで幻想郷を滅茶苦茶にする時が来たら……私は躊躇なくそれを砕く』と。それが───今よ」

 

 

 

 

 お祓い棒を右手に、お札を左に持ち、それらを交差し構える。赤と青の霊力がカラダの中から溢れ出し、霊夢のカラダ全体を包み込む。

 

 

 

「さあ……行くわよ」

 

 

 

 〝幻想郷史上最悪の異変〟を解決すべく、巫女が立ち向かった。




はい、第63話でした。

この『ライバルを超えるために幻想入り』も間もなく3年目を迎えます。ここまで続けられたのはいつもご愛読してくださる皆様のおかげです。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

では、お疲れ様でした。

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