今回はムカデ娘こと、牧瀬メインです!
クワガタムシの顎は、挟み、固定し、潰し切ることに特化した造りとなっている。
宿敵とされるカブトムシの様に、掬い上げ、投げ飛ばすためではない。
排除することよりも、削除することを目的に作られた、武器。
ニジイロクワガタをベースとした、彼の武器もそう。
炎の光を照らし、より『紛れる』ことに特化した甲皮もそうだが、攻撃にはクワガタムシの顎としての機能も獲得した腕こそが彼の用いる必殺の武器。
バグズ手術後、幾度も繰り返した機能実験的な模擬戦の中で、彼の顎に敵う同族はいなかった。
同族、とはいっても彼の相手をしたのは全て通常の個体ではあったが。
しかし、それでも彼は自信を持っていた。
それは、絶対の自信だった。
その自信が、自負が、自尊が。
今、崩れていようとしている。
「オオオオォォォォォラアアアァァァァァァァアアァァアアァァァァァッッッ!!!」
自分に絡みつき咆哮する、見たこともない生物。
四肢に巻きついたそれが、自身の武器を機能させない。
大顎を閉じようとするも、ぶるぶると震えたまま動かない。
足を動かし逃れようとするも、その足も動かない。
むしろ顎は自分の意思とは真逆に動き始め、足は締め上げられたことにより軋み上げる。
「じょっ!じょうじ!!じょうじ!」
声を上げ、必死に身体を動かそうとするも虚しく、顎であったはずの腕は徐々に広がり続け、足は罅割れていく。
「あんたの罪は二ァァつッッ!イケメンに手を出した事とォォッッ!」
何を言っているのか、相手の言葉の理解などできない。
感情も、理解の範囲外。
だが、これだけは分かる。
今正に、自分の『大切なもの』は砕け続けている。
そのことを自覚したとき、彼は最早抵抗する気など失っていた。
テラフォーマーに、感情はない。
自らの武器に自信や自尊を持っていた彼が、その枠に収まるかは分からない。
しかし、自覚がなかったそれらに対して、今彼の胸の内を占める感情こそ、正しく彼が初めて得た感情とでも言うべきなのか。
自信があったからこそ、彼はそれを得てしまった。
「ゴキブリがあたしの前に出てきたことだァァァッッ!!」
四肢が折れ、砕ける音が聞こえる中彼が獲得した感情。
それは『諦め』だった。
ニジイロクワガタの甲皮は、密林において身を隠すためのもの。
奇しくも、ペルビアンジャイアントオオムカデは、その密林の闇に潜み、暴威を振るう覇者。
密林に住まう者たちの戦い。
勝者、『
「…はー、終わった終わった」
四肢を失ったテラフォーマーを脱出機まで蹴り転がし、肩をグルグルと解す様に回しながら牧瀬はジャレッドまで近寄る。
テラフォーマーとの交戦中、実は素肌の状態だったら鳥肌が立っていただろうと思いながら。
「…よく無事だったな、アキラ」
「当たり前よ。あたしは死ぬ時はイケメンに囲まれてって決めてんだから」
「トンでもねぇな!?」
片足を失い、重症であるはずのジャレッドにさえツッコませるほど、牧瀬のゴーイングマイウェイっぷりは酷かった。
だがしかし、それが彼女の本音であるから始末が悪い。
なにせ、逆光源氏による逆ハーレムのための資金に当てるために、この計画に参加しているほどイケメンが好きなのだから。
「ほら、薬を使って変身しときなさい。足が生えなくても、傷口が塞がる程度にはなるんじゃない?」
「お、おう…」
手渡された、ペーパータイプの薬を服用するために口へと運ぶ。
しかし、
「あ、そうだジャレッド」
「お、おい!?」
その手は途中で止められ、薬を牧瀬に奪われてしまった。
慌てるジャレッドを尻目に、薬を唇に挟むと、そのままジャレッドの唇を強引に、前触れもなく奪い取ってしまった。
「守るために頑張ってるのは、結構イケメンだったぞ」
そう、唇を離すと牧瀬は楽しそうに言った。
口移しで、薬を含まされた。
その事実はジャレッドの思考を停止させるのに充分であり、変異し傷口が塞がった肉体とは裏腹に、心はどこかに行ってしまった。
それを尻目に牧瀬は、楽しそうに笑う。
彼女は『アネックス計画』内において、最も肉食系の女子である。
精神がイケメンでもいける女、それが牧瀬 晶。
イケメン率の高いアネックスは、彼女にとっては天国です。(
ゴキブリの多い火星は、彼女にとっては地獄です。(