インペリアルマーズ   作:逸環

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今年最後の更新です。
来年も良い年になりますように。


Emperor 帝王

椰子蟹が奈落へ落ち、巨象が咆え、百足が喰らい、海月が刺し、鎧舟魂貝が斬り、大王鬼灯烏賊が蹂躙している正にその時。

人間の活動圏外で、テラフォーマーたちの死骸が幾重にも重なり、臥している地点が存在していた。

その地点の中心地には、『アネックス計画』の前身、かつての『バグズ計画』で使用された宇宙船。

『バグズ1号・2号』と全く同系の機体が鎮座していた。

その存在は、かつての乗員だった2人も、その娘すらも知らない。

公式には、存在しない機体。

一度作れば、次にはその設備が使える。

早急に作れて、尚且つ確実に輸送ができるという実績が必要だった面々からすれば、それは非常に都合が良かった。

たとえそれが、20年前の型落ち品であろうとも。

 

テラフォーマーの死骸を検分する者がいれば、その異常性に気付けただろう。

全て一様に、『何かに引き裂かれた』か、『噛み殺され』ていることに。

明らかに、『人の手ではありえない殺され方』をされていることに。

 

それは、腹を空かせていた。

狭い空間に閉じ込められ、わけも分からないまま故郷を離された。

気付いたとき、自分は自分ではなくなっていた。

そして再び、狭いところに押し込められ、星から離された。

 

狭い空間は、とりあえず動くのに不自由はしない程度の広さはあった。

だが、不自由だった。

そこには、食い扶持はあった。

だが、足りなかった。

3日間、何も食べない期間が続いた時、彼の身を大きな振動が襲った。

そして、狭い空間から出るための、出口が生まれた。

彼はその先へと、迷わずに出て行った。

そして出会った。

 

数匹の『(テラフォーマー)』に。

 

テラフォーマーたちを即座に、本能のままに殺し、捕食すると、住み慣れた狭い空間に彼は戻っていった。

40日もその中に留まれば、住めば都だった。

 

それから延々と、テラフォーマーたちは襲撃を続けてきた。

その全てを葬り、糧としてきた。

 

巨躯はテラフォーマーを圧倒し、爪は彼らを引き裂いた。

喉元に食いつけば、それだけで絶命に導けた。

急に、飛躍的に向上した脚力は、一跳びで彼らを襲えた。

地面に押し倒すだけで、踏み潰すことができた。

時折、よく見るものとは違うのも現れたが、それすらも捻じ伏せてきた。

 

元より、それは当たり前のこと。

彼は、王の遺伝子を継いだもの。

始まりは、一人の科学者の言葉だった。

 

『なぜ、人体実験でなければいけないのか』

 

『バグズ手術』、そして『M.O.手術』に限らず、実験には被験者が必要となる。

そして、人体でそれを行う前には、大方の場合マウスを利用した動物実験が行われる。

テラフォーマーの『免疫寛容臓』を移植する『M.O.手術』にはテラフォーマーと同型である人体が都合が良いということはあったのだろう。

免疫寛容臓(モザイク・オーガン)』は、マウスの小さな身体には収まらないのだし。

しかし、手術成功率36%。

『バグズ手術』から20年が経った現在でも、未だに『人体実験』の域を出ないこの数字。

前提となる実験をしっかりと行えば、もっとこの数字を引き上げることができたのではないか。

 

その科学者は、そう言った。

そしてそれは、実現した。

 

 

 

 

とびっきりの、『実験動物(モルモット)』が用意されて。

 

 

 

 

『交雑実験』。

異なる生物を交配させて、生まれた子供を観察する実験のことを言う。

少々難しそうだが、この実験は実は家庭でも行うことができる。

トマトの苗の茎を楔形に切断し、同様の処置をしたジャガイモの根側の茎とセロテープなどで接合する。

すると、トマトの実とジャガイモの食用部両方を生み出す、ポマトという植物ができる。

 

彼も、この交雑実験の成果だった。

サーカスの見世物として、研究者の好奇心の結果として。

しかし、自然の摂理に反して生み出されたそれは、短命だった。

先天的に心臓や腎臓、視覚関係へ疾患を持っていたり、後天的にも骨の発育不全、各種の癌等の病気を患うケースが多く、成獣となる6歳前後まで生存できる個体は少なかった。

しかし、彼は生き残った。

 

その彼を、アメリカは実験だけではなく実戦のために、手術対象として提供した。

 

手術ベースとなったのは、『ブルドッグアント』。

和名で『トビキバアリ』と呼ばれるこのアリは体長1cm程と、小さい。

 

しかし、その性格と性質は極めて獰猛。

その小さい外見からは想像もできない程の距離を跳び、発達した顎で自分の何倍もある外敵を捕食する。

それも、単騎で。

 

その性質を得た彼もまた、強靭な脚力と、元々持っていた物よりもより強靭なアリの筋力、そして持久力を獲得。

本来の種としての弱点すら埋め、テラフォーマーたちが太刀打ちできない程の生物になっていた。

 

彼は、二種の王の遺伝子を継いでいた。

彼は、百獣の王(ライオン)密林の王(トラ)の息子。

彼は、何よりも強く生まれながら、次代へ命を繋げることのできない、何よりも儚い生物。

 

体重、400kgを越すネコ科最大級。

人類とも、ゴキブリ(テラフォーマー)とも一線を画す、『万獣の帝王』。

 

個体名、『シーザー』。

種族名--------

 

 

 

 

「ガアアアァァァァァァッッッ!!!!」

 

 

 

 

-------『ライガー』。

 

機体の上から帝王の咆哮が轟いた時、その聞こえる範囲にいた全てのテラフォーマーが動きを止めた。

彼が人類に先行して火星に送られたのは、『アネックス1号』が到着する1ヶ月前。

現在の狩場内のテラフォーマーは既に死骸となり、腐るのを待つだけの状態にあった。

故に、帝王は決定した。

新たな狩場へ移ることを。

突如現れた、懐かしき人類の臭いの下へ向かうことを。

彼の意識の内にはまだ、人類は食物をくれる存在であるとの認識が残っていた。

 

シーザーが人類と再び接触するまで、残り4日。

 

 

 

 

シーザー

7歳 オス アメリカ

米国実験動物

手術ベース:ブルドッグアント

マーズ・ランキング:-位(非計測)

瞳の色:焦げ茶

種族:ライガー

誕生日:12月25日(山羊座)

好きなもの:生肉・餌をくれる人

嫌いなもの:科学者

 

ライオンとトラの交雑種であるライガーのオス。

元々は異種交雑実験及びデザイン・チャイルド実験のために生まれた。

病弱で生殖機能のないライガーを、繁殖可能な生物として生み出されたが生殖機能を持たずに出生した、言うなれば失敗作。

しかし、遺伝子操作の結果病弱だけは克服し、成獣まで成長することができた。

科学者の『動物実験をしっかり行えば、M.O.手術の成功確率も上がるのではないか』という発想と、U-NASAの『より強力な戦力が欲しい』という思惑が合致した結果、実験動物として既に用済みであるシーザーが手術の対象となった。

体重400kgを越す巨躯でありながら、ブルドッグアントの特性を得たことにより長距離・高高度を跳ぶことができる。

単独でも変異ができるよう、変異に必要な薬品は一定時間ごとに体内に埋め込まれた装置から補給される仕組みになっている。

なお、シーザーの存在はその特殊性から幹部(オフィサー)にすら秘匿されており、極一部の研究者と政府高官のみが知っている。

 

 

 

 

 




『そもそも、なんで人体実験だけなの?』
『人間+強い生物より、強い生物+強い生物の方が良くないか?』
という発想の元生まれたシーザーくん7歳(です。

それでは皆様、良いお年を。
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