結論から言えば、日米合同班は無事に合流できた。
彼女…、スパイであることが発覚した
しかし、その不安は杞憂に終わった。
静花がダイオウホオズキイカに変態した姿を、ミミックオクトパスの能力を解除し姿形が変化したところを見た二班班員たちは、誰もそのことに触れなかった。
一班の面々、特に艦長である小吉に報告することもなかった。
「…何で、誰にも言わないの?」
「あん?」
夜営で体力を回復させる夜。
静花は簡素な墓を参りに行くアレックスに訊ねた。
恐る恐る、恐々と。
ここで自分は、何かを要求されるかもしれない。
何かをされるかもしれない。
実験施設の中で、実験体として箱入り娘同然に育てられた彼女でも、そういう予想はついた。
「だってお前、俺たちを助けてくれただろ?」
「…え?」
彼女は思わず面食らった。
自分達を助けた。
ただそれだけで信じると、彼は言ったのだ。
だから、信じると。
「お前にも色々あるんだろうけど、俺たちは信じるよ」
「…ありがと」
ニッコリと笑いながら言うアレックスに、静花は微笑んで返した。
それで、静花はリースに戻る。
「じゃ、また後でね」
「ああ、またな」
リースは艦内に戻り、アレックスは墓を詣でる。
その様子をコックピットから、2人の班長は眺めていた。
「…大丈夫そうだな」
「ああ、皆大事な仲間だ」
子供を見守る、両親のように。
そして、火星最初の1日目が終わった。
終わったはずだった。
「ギャアアァァァァッッッ!!!」
「「ッッ!?」」
突如班長2人がいる1号機に隣接した2号機から、突如叫び声が上がった。
まるで、断末魔のような。
「どうしたっ!?」
急いで小吉とミッシェルが2号機に戻るとそこには。
「…ちゅ、ちゅーされた」
「…オレ、二回目…」
「…あれ、母さん?」
「慶次戻ってこぉぉぉぃぃぃッッ!!」
「あ、艦長!こいつの首に縄を付けてくれや!!」
「あががが…………」
倒れ臥した死屍累々の男ども。
それとアイアンクローで牧瀬を持ち上げた、幸嶋がいた。
「…え、なにこれ?」
事の顛末はこうだ。
耳の良いミッシェルから逃れるために、2号機で
話しが盛り上がるにつれて周囲への注意が散漫になったところで、『闇と密林の暴君』が動いた。
だって、イケメンが集まってたんだもん。
それが犯人の動機。
犯行は一瞬で、最初の犠牲者は燈だった。
一切の気配なく後ろから忍び寄り、武術家である燈に反応すらさせず唇を強奪していった。
突然の犯行に男たちの思考がフリーズした隙を突いて、今度は慶次が狙われた。
元ボクシング世界王者といえども、思考が停止した一瞬を突かれてはなすすべもない。
あっさりキスをされた挙句、全身を素早く弄られた。
ここでようやく、残った男たちが動き出した。
マルコスとアレックスが、幼馴染として息の合った攻撃を繰り出し、牧瀬を組み伏せようと試みるも言葉では形容しがたい、薬を使っていないのに百足のような動きでそれをすり抜けた。
その際に、マルコスの尻を撫でながら。
そのまま左足を失い機動力を損なったジャレッドに、本日二回目のキスをした。
だが、暴君の暴威もここまでだった。
いつの時代も、暴君を処刑するものは現れる。
『断頭台の刃』が、暴君の前に立ち塞がった。
幸嶋はルールのないストリートで、最強の座まで上り詰めた男。
マルコスとアレックスをすり抜け、ジャレッドにキスをしたことで次の行動が限定された牧瀬を捕らえるなど造作もなかった。
鍛え上げられた豪腕が牧瀬の頭を掴んで視界を奪い、そのまま本気で握った。
人間は痛みの限界を迎えると気絶する。
断末魔の絶叫を上げた後、牧瀬はそのまま気絶。
そして小吉とミッシェルが来た、ということだった。
「…あー、そうだな」
一応無事?だったマルコスとアレックスのコンビがキスをされ放心している面々を介抱する中、艦長である小吉が決定を下す。
「晶は今日はミッシェルちゃんの隣で寝なさい」
事実上の、死刑宣告を。
「どうぞ、姐さん」
「おう」
幸嶋が頭を掴んだままミッシェルに牧瀬を引き渡し、ミッシェルも牧瀬の頭を掴んで受け取る。
そのまま1号機へ牧瀬を引きずっていく彼女の背中を見て、マルコスが呟いた。
「…男より男前だ」
その言葉に2号機にいた全員が頷き、そしてその数分後。
もう一度牧瀬の絶叫が周囲に響いた。
因果応報。
悪いことはできないものです。