「…なあ、シーラ。俺たち、行くよ」
「お前をここに置いていくことになるけど、ごめんな…」
マルコスとアレックスが、シーラの墓の前で佇む。
オオムカデ襲撃事件から一夜明け、火星二日目を迎えたこの日。
彼らは『アネックス一号』に向けて移動を開始することとなっていた。
大切な幼馴染の遺体と墓をここに置いて行くことになってしまう彼らは、最後の挨拶と思い、いた。
その二人の背後に、大柄な影が差した。
「元気ですかー!」
「「ウグオッ!?」」
背後から勢い良く二人の間に入って、肩を組ん男。
その掛け声は、600年前に活躍した偉大なプロレスラーのものだった。
空気なんて、一切読んではいない。
「タカナリ!?」
「お前急に…ってかイッテェ!?」
「おーおー、湿気た顔しちゃってお前ら。なんだその元気のねぇ顔は。元気があれば何でもできるけどな、元気がなけりゃあ何にもできねえぞ?」
火の点いていない煙草を咥えながら、二人を抱き寄せて言う幸嶋。
その姿は二人よりもちょっとだけ年上の、高校の部活の先輩とでも言えばしっくり来る光景だった。
アネックス計画のメンバー内において、父親役となる人物は何人かいる。
艦長の小吉やロシアのシルヴェスター・アシモフなどがその筆頭と言える。
しかし、頼れる兄貴分となるとそうはいなかった。
歳が近くて、自分よりも前を歩く人は意外といなかった。
特に、地元で最年長であったアレックスからすれば。
一瞬だけ、マルコスが加入してたギャングチームのリーダーの顔が頭をよぎる。
確かに兄貴分と言えないことはないだろうが、彼らからしたら黒歴史に当たるので記憶から削除した。
「ほれ、そろそろ行くぞ。姉御が痺れを切らして暴れちまう」
「うぇ!?早く行くぞアレックス!!」
「てめっ!?置いてくんじゃねぇよ!!」
「…おーい。言ってるお前が俺を置いてくなよ…」
駆け出し、自分を置いていく二人の背を見送りながら、そうボヤク。
ふと、振り返るといくつか並んだ墓石を見て、その唇が動く。
「…心配すんなよ、お前ら。…あん?大丈夫だって。あいつらはちゃんと生きて帰れるさ」
そこには誰もいないのに、まるで誰かがそこにいるかのように話し始める。
時に苦笑し、時に顔をしかめ、時に笑いながら。
「ああ、任せろよ。お前らはダメだったけど、あいつらくらいは守ってやるさ。…ククッ、無理はしないさ。俺にできるなら、だ」
いつの間にか咥えていた煙草に火を点け、ふかしながら話をしている。
マルコスとアレックスに、艦に行くよう促した男とは思えない行動だ。
5分ほど煙草を吸いながら話した後、フィルターギリギリまで吸った煙草を地面に捨て、足で踏み消す。
「そんじゃ、もう行くわ。これ以上は姉御がおっかない」
《もう、来なくて良いからね?》
「帰りによるさ。お前らも一緒に、あそこに連れていかにゃならんからな」
幸嶋が指差した青空。
そこには、今は見えないが青く輝く、生命に満ちた美しい星がある。
かつて、世界で初めて有人飛行を成し遂げた宇宙飛行士、ユーリイ・ガガーリンはこう言ったとされている。
『地球は、青かった』
実際は長文のポエムで綴られていて、各国で分かりやすく解釈された結果でもあるが、その眼には地球は何よりも美しく輝いて見えただろう。
「こんな苔とゴキブリしかいないとこになんて、お前らを置いていけるか」
《…バーカ》
紺碧に輝く星から離れて、深緑に輝く星で死んだ者たちを連れて帰る。
これ以上、誰一人としても欠けさせない。
それが今、より強い者と戦うことを求めてきた男が持った目標。
「地球に着いたら、お前らの代わりに世界へ言ってやるよ。『火星は、
《…うん、お願い》
振り向きざまに手を振って、幸嶋は脱出艇へと歩く。
そこに紫煙の残り香と、
《…あの二人のこともね》
火星と同じ、緑の眼をした少女の意志を残して。
…なお、
「…お前のせいで、出発が遅れたんだが?」
「あ、ちょ、姉御やめてやめアアアアアアアアアアァァァァァァァァあアァァァアァァァアアアァァァァァッッッッ!!!!!???」
「ミッシェルちゃんストーップッッッ!!!!!?」
出発が遅れたことによって、幸嶋が制裁を受けたのは別の話。
幸嶋 隆成のマル秘スキル
霊感
まさかのスキル、発覚です。