それでは、どうぞ!
Triumphal Return 凱旋
「…4日だな」
「ああ、4日だ…」
日米合同班が本艦へ向けて移動を開始して、4日目。
高速脱出機の上で、幸嶋とアレックスは周囲を警戒していた。
実はこの二人が見張りをしている時の警戒・索敵範囲は、全六班の中でも群を抜いて広い。
鳥の目を持つアレックスは、その視力で周囲の敵の存在を視認できる。
支給されている双眼鏡を使えば、相当な距離までが彼の視覚範囲となる。
また、強い存在と戦うために人生を費やしてきた幸嶋は、意識をすれば感覚的に強い存在がどこにいるのかを感知できる。
とはいっても、あくまでも意識をしなければどこにいるかも分からないし、自分の近くに何人も強い存在がいるせいで、現在はイマイチ調子が振るわないようだが。
とはいえ、現状。
「本当に、何も来ないな…」
「…ああ」
見事に誰も、何も見当たらないため、盛大に暇をしていた。
それもそうだ。
2日目までは気を張り続けられた。
何もないことに、刺激を得られ続けた。
しかし、4日だ。
人間は4日間も気を張り詰めたまま、過ごし続けることはできない。
この火星ではそれが命取りになるとしても。
「アレックスよぉ…」
「なんだ?」
「お前の好きなヤツ誰よ?」
「ぶふぁっ!?」
それでも、気を抜いてしまうのは仕方がない。
だから、まるで思春期のような会話が起きても仕方がない。
男が二人いて暇となれば、趣味か女の話しにしかならないのだから。
「おぉぉお!お前はどうなんだよ!?」
「俺?俺はアレよ。姉御とかイザベラとかよ」
「あっさり言ったなチクショウ!」
「…で、実際のところは?」
天気は快晴。
空にも地にも黒い影はなく、一向は順調に進んでいた。
その同時刻。
アネックス本艦周域で、一体のテラフォーマーが歩いていた。
目的地は、眼前に見えるアネックス一号。
遮る物は何もなく、このまま歩き続ければすぐに着くだろう。
カチッ
はずだった。
ドッゴォォォォォオオオォォォオォォォォッッッ!!!!
瞬間、足元からの爆音と共にその体が舞った。
痛みのないその体では何が起きたかも理解できない。
その彼の目には、吹っ飛ぶ先で笑顔を浮かべる
「地雷オッケーーーーッッ!!!!」
その
自分への命乞いではない。
何が起きたか分からず、自身が万全であると勘違いしている彼でも、それは分かった。
「えー、このように!」
地雷によって飛ばされた彼は、
そのヒトは、身長は2mはあるだろうかという大きな男だった。
その男の背後には、数人の男女が整列している。
まるで、軍隊の様に。
「生け捕りには網の他に、手足を壊すといった方法が有効です」
その言葉の通り、テラフォーマーの両足は地雷の影響で千切れ、吹き飛ばされている。
あの、火星に放たれた直後の祖先のような、俊敏さを生み出した足はもうない。
足がなければ、逃げることも、それどころか立って攻撃することも適わない。
「人間相手にこれをやるのは気が引けると思うけど!!」
男はテラフォーマーを捕らえたまま、整列した面々に指導をしていく。
「僕らと違って、生まれつき中身が虫な二人なので!
彼らは動く。
水面下で、誰にも悟られないよう。
「ちなみに
捕らえられていたテラフォーマーが男の腕を力強く握ると、咄嗟に力が入った握力によって首を握り通されて絶命する。
その膂力が、男の体の大きさに見合ったものであることが伺える。
「…えー、『サンプル』は生け捕りが望ましいですが、最悪死体でも構いません」
男の名は、『
中国第四班班長。
眠れる獅子が、暗躍する。
はずだった。
「ガアアアアアアァァァァアアァァァァァッッ!!!!!」
「「「「「「「「ッッ!!?」」」」」」」」
遠く彼方で黒雲のように見える、飛行するテラフォーマーたち。
しかしそこから漏れ落ちるように墜落していく個体が見える。
無数のテラフォーマーたちの雲の中で、咆哮を上げるそれ。
誰も知らなかった。
その存在を。
火星に存在する生物が、
「…なんだぁ、ありゃぁ」
周囲のテラフォーマーたちを足場にし、通常とは異なる特徴を持った一体のテラフォーマーと、奇妙な空中戦を繰り広げる存在がいるとは思わなかった。
そして
本来彼らは、もうしばらく経ってから到着するはずだったのが、それのせいでかなりペースを上げての移動となってしまった。
「グルルアアァァァァアアァァァッッ!!!」
「じょうじっ!!」
最後の交錯。
強靭な爪によりバラバラに引き裂かれたテラフォーマーは、そのまま
瞬間、勝利者の目が柳を捉える。
『
暗躍する中国。
そして凱旋した帝王。
眠れる獅子と、獅子と虎の子が邂逅しました。