インペリアルマーズ   作:逸環

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珍しく二日連続での更新です。


Encumbrance 絆

「(おいおい…、うっそだろぉ~~?)」

 

 

誰も知らなかったシーザーの登場により動揺が走る中国四班の中で、その男もまた動揺していた。

もちろん、それはシーザーの登場によるものではあるが、周囲のそれとは少々事情が違っていた。

 

 

「(中国にスパイとして潜り込んだは良いけど、何だこの状況は~?)」

 

 

男の名は、『廈門(アモイ) (チュン)』。

…と、表向きはなっている。

正確にはこの男は、『ハリー・ジェミニス』という名のイギリス人。

イギリス政府の中でも諜報員とされる部署に所属していたが、今では中国に限らず各国での動向を探るために送られたスパイの一人。

それがたまたま香港からの血筋をついでモンゴロイドの顔つきをしていたことと、たまたまM.O.手術の適合ベースがいたために、第四班配属というある意味では最も深いところに潜り込めてしまった(・・・・・・・・・)

 

 

「(何だあのおっかねぇのはよ~ッ!今、絶対にこっちを見てたぞおい~っ!!)」

 

 

なお、この男。

間違いなく腕利きではあるが性格に難があった。

根本的に、落ち着きがない。

 

 

「あー、廈門くん。君も元々は事務職だったとはいえ軍属なんだから、(ホン)ちゃんみたいにならないでよ?」

 

「将軍!?」

 

「あ、ウッス~」

 

「廈門くんまで!?」

 

 

大の男二人が、一人の少女を虐めてる構図ができているのを見て、他の面々がため息をつく。

明らかに緊急事態なのに、緊張感が薄いのには理由がある。

 

 

「…で、そういえば『対空シールド』は?」

 

「そういや張ってないですね、将軍~。紅~。確かお前だろ担当は~」

 

「は、はひ!?す…すみません。本当にすみません。お…おかしいな?何ででしょう?」

 

 

『対空シールド』。

無数に配備されたレーザーカッターによって、防衛地点に近付くものを無差別的に粉微塵にする設備。

本来、そんなものは『アネックス一号』には搭載されていない。

搭載されるはずがなかった。

何故なら、有事の際にテラフォーマーに(・・・・・・・・・・・・・)技術を奪われてはいけないから(・・・・・・・・・・・・・・)

それが今は、中国の暗躍の一部として搭載されている。

 

 

「あれ、(マル)の方がスイッチオンですよね…?」

 

「逆だバカ!!つーかあれは『0』と『1』だって前教えたろ!!」

 

 

もっとも、今は搭載されているだけで機能はしていないが。

 

 

「あ~。まあ、しょうがない。ゴキブリたちも数がいるし、アレが何か分からないけど不味そうだね。『薬丸』を使うぞ!ジェット!対多数の演習準備だ!!」

 

「了解しました、将軍」

 

 

劉の号令が響くと、一台の大きな筒の様な機械に乗って、部下のジェットが現れた。

もちろん、これも武器を奪われるという事態を想定し、近代兵器の持込ができない『アネックス計画』においてありえないもの。

『もしも』奪われても大丈夫なように音声認識機能の搭載されたそれの機能は。

 

 

「オッケー!皆気をつけ!!」

 

ボッ

 

「!?」

 

 

何か(・・)を察知したシーザーが、『ブルドッグアント』の脚力で離脱した直後。

突如テラフォーマーたちがバラバラになる。

 

 

「…あっちには逃げられたか。でも、お前らは気付くかなー?」

 

 

『薬丸』と称される兵器の機能。

それは、より速い物を優先して迎撃射撃するという機能。

現に今、僅かな誤差であろうともより早く近付いてくるテラフォーマーから順に撃ち落され、バラバラになっている。

班員が皆気を付けの姿勢でいるのは、この自動射撃のターゲットとならないため。

動くものは、無差別に襲う。

 

 

「フフ…、フフハハ…」

 

 

銃弾が飛び、一方的な蹂躙劇が繰り広げられる中、その男は笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははははは!!!ぶっ、文明の利器ってスゲーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…止まってください!!」

 

「「「「「「「「ッッ!?」」」」」」」」

 

 

『アネックス一号』までの道程をひた走る日米合同班の機内で突如、磯山が叫んだ。

艦は既に目前であるというのに、このタイミングで。

見張りをしていたアレックスと幸嶋も、特に異常は感知していないというのに。

 

青ざめた表情で俯きながら、磯山が叫んだ。

 

 

「…慶次、ジャレッド。『視て』くれ」

 

 

薬を二人に差し出しながら、小吉が言った。

磯山が必死に叫んだというその事実と、自身が知っていた中国が裏切っているかもしれない(・・・・・・)という情報。

そこから小吉は、判断した。

 

この先には確実に、何かある(・・・・)、と。

そして、悪いことは重なることが世の常。

 

 

「…おーい、艦長。不味い知らせだ。今ちょっとこの先を注意して強いやつを探ってみたんだけどよ」

 

 

ボンネットから乗り出した体勢で煙草をふかしていた幸嶋もまた、報告をし始める。

 

 

「結構強そうな感じが一つに中くらいがゴロゴロ。それと、人間じゃありえねぇ特大クラスのが一つだ」

 

 

それは今、アネックス一号を取り巻く中国班とテラフォーマー。

そしてシーザーの数。

とはいえ、現在の状況を彼らは知る由もない。

だから、何が起きているのかすら分からなかった。

精々が、バグズ型テラフォーマーの強力な個体が出現したのだろうとしか、考えられなかった。

 

 

「…えっと、艦長。それとなんですかアレは?レーザーなのか電波なのか良く分からないけど…。なんか張り巡らされてます…」

 

「…艦長、地中にも何かあります。たぶんアレは…」

 

 

そして、あらゆる生物の中でも特に『目』が良い『モンハナシャコ』の特性を持つ鬼塚と、反響定位(エコーロケーション)によって周囲の状況を確認できるシャチの特性を持つジャレッドが探った結果は。

 

 

「…地雷です」

 

 

完全に『黒』な存在がいることが、確定したという事実だった。

 

 

「…リース、ありがとうな」

 

 

震える磯山の頭を撫で、言葉をかける小吉の目は既に、『アネックス一号』へと。

 

 

「悲しいぞ劉…。ここまでやられちまったら俺は…」

 

 

『中国第四班』へと向いていた。

 

 

()らなきゃならねぇ…!!」

 

 

『大雀蜂』が、牙をむく。

 

 

 

 

 

 

 

「…あんたのことは好きだったよ、艦長。だが、世界の九十億人はもう、アネックスの百人のようにはなれないんだよ」

 

 

班員達の前で、劉は告げる。

 

 

「総員…、『未確認生物(アンノウン)』に充分注意した上で」

 

 

その心の中に、幾許かの思いを残しながら。

 

 

「戦闘準備!」

 

 

ただ、命令を発した。

 

 

 

 

 




encumbrance:邪魔・重荷・足枷・絆

とりあえず、私が忘れないために次回予告を。
あの人たちが出ます。
その予定です。
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