インペリアルマーズ   作:逸環

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…企画倒れかな、これは。(

というわけで、どうぞ!(


Blue Blood 瑠璃色

小吉に掴み上げられた劉の姿は、ボロボロだった。

左右胸部には毒針による穴が開き、左目のすぐ下にも刺し傷がある。

しかも、左目下の傷は筋肉を断ったか骨を砕いたのか、顎が垂れ下がってしまっている。

凶器が『オオスズメバチ』の針であることを考えれば、その三つの傷が致命傷となるだろう。

 

 

「…お前達の大将が死ぬ確率についてだ」

 

 

劉は力なく持ち上げられ、周囲は小吉の言葉に静まり返る。

直前まで戦っていた幸嶋はジェットの足を踏みつけたまま、アドルフとディートハルトは蓄積され続けた肉体的・精神的疲労がここに来てピークが近いのか座ったままで。

 

 

「アナフィラキシーショックは知ってるな?蜂に二回刺されるとヤバイってヤツ。あれで最初の一回目で症状が起きて死ぬ確率が1割。まず1割増えたな」

 

 

アナフィラキシーショックとは、人間の免疫機構によって起きるアレルギー症状の一種。

免疫の内、主にIgEという抗体がアレルギー物質(アレルゲン)に反応することによって起きる、全身性のアレルギー症状のことを指す。

症状は主に、血圧の低下・呼吸困難・意識の消失・血管性浮腫・脳炎などなど。

その多くが、生命の危機に強く関与する。

この現象は、何も蜂の毒に限って起こるものではない。

つまりこれは、人間の機能上の問題の話。

 

 

「で、だ。『オオスズメバチ』の毒。これの単純な致死量はおよそ4.1mg/kg。こいつの体重が仮に100kgだとして、致死量は400mlだ。…意外と弱いだろう?」

 

 

例えば、ロシア三班の『ライサ・アバーエフ』の手術ベースである『キロネックス』。

世界最強の毒を持つクラゲであるが、その致死量は文献にもよるが、最低でも0.001mg/kg。

僅か0.5kgで、全人類を滅ぼせるほどだ。

『キロネックス』は極端な例として、他にもフグ毒で有名なテトロドトキシン。

これは0.01mg/kgで致死量となる。

世界で最も人を殺害している生物の毒は、実は全体から見れば下位なのだ。

 

しかし、

 

 

「だがまあ、それくらいは注入()れた気もするし、首から上に刺されば死亡する確率は跳ね上がる」

 

 

致死量が低くとも、致死量に達するまで投与すればいい。

致死量が低くとも、より効果的に機能する部位に刺せば良い。

人の肉体は、あまりにも『脆い』のだから。

 

 

「…俺の専用武器は、俺を研究して作った『解毒剤』だ。…第四班」

 

 

このままでは死に行く劉を前に、小吉は自身の専用武器が『解毒剤』であることを明かす。

それは、取引。

『命は助けてやるから、負けを認めろ』という取引。

小吉は、告げる。

 

 

「投降し 《ガシッ!》 ろ…?」

 

「…捕まえたぞ、『大雀蜂』!」

 

 

告げた言葉は、絶望に塗り替えられた。

劉を捕らえていたその腕に這う、二本の腕。

小吉を見る、双眸。

 

 

「フッフ…、さすが元殺人犯。とうに童貞は捨ててるってわけね」

 

 

笑う、哂う、嗤う。

捕らわれていた男は笑う。

 

 

「同胞達よ、俺ごとでかまわん。足を撃て」

 

「…クッ!」

 

「了解です」

 

 

構えられる銃。

直前まで日米合同班とドイツ班が完全に優勢であった。

直前まで(・・・・)は。

 

徐々に、劉の顎が閉じていく。

閉じないはずの顎を、驚異的な筋力で閉ざしていく。

 

 

カキンッ

 

 

その口が閉じきられた瞬間、奥歯に仕込まれたスイッチが作動する。

それは外側からは見えない。

中に、体内に隠されていた。

 

 

「『人為変態』」

 

 

腸に仕込まれていたカプセルが、奥歯のスイッチからの指令を受け取り薬液を腸内に撒く。

劉の傷が塞がり、姿が変わる。

事前に申告されていた手術ベースは、『アナコンダ』。

しかし、その姿は蛇からは程遠い。

新たに生えた、三本の触腕。

体中に映る、瑠璃色の豹柄。

 

 

「楽しかったよ艦長。…だが戦争は、俺らが勝つ」

 

 

『ヒョウモンダコ』。

それが、中国第四班班長『劉 翊武』の本当の手術ベース。

前述にあげた毒、『テトロドトキシン』を操る『蒼き血の死神』。

 

陰謀が、首を絞めてゆく。

 

 

「…ッ!」

 

 

アドルフが、歯噛みする。

せめてこの身体が十全とはいかなくとも、もう少しだけ強い電流に耐えうるだけの余力があれば、と。

 

 

「…ッ!お前らァッ!!うちの艦長撃ってみろ!その瞬間こいつの頭を握りつぶすぞ!!」

 

 

咄嗟に幸嶋が、ジェットの頭を掴んで声を張り上げる。

だが、

 

 

「撃て」

 

 

劉の判断は、無情だった。

一人の軍人として、上官として、間違いのない判断を下した。

 

 

ズドドドドッ!!

 

 

足を撃たれたことにより、崩れる劉と小吉。

直情した幸嶋の手に力が篭り------

 

 

「…どうした?やれよ。俺を潰すんじゃなかったのか!」

 

「…ド畜生が!!」

 

 

------有言は、実行されなかった。

幸嶋の手は離され、ジェットを突き飛ばした。

 

 

「アハハ!『路上最強』も、人殺しは無理か!」

 

 

劉が笑う。

幸嶋はストリートファイトで生きてきた。

その領分は『倒すこと』であり、『殺すこと』ではない。

半殺しにはしても、殺したことは一度たりともない。

軍人である彼らとは、違う。

 

 

「さて、艦長の手当てをしてやりなさい。…ああ、アドルフ君もね。人質にしよう。その他は…」

 

 

劉が言葉を切った瞬間に、幸嶋とディートハルトに銃口が向けられる。

銃の前には、多くの生物は平等となる。

ただ、死を待つだけとなる。

 

 

「…ボス、この状況は………」

 

「…ディートハルト、お前は俺が守る」

 

「艦長よ、こりゃ流石にマズイっすね…」

 

 

アドルフが、ディートハルトが、幸嶋が。

苦虫を噛み潰したような表情となる。

そこにあるものは、紛れもなく絶望。

これ以上の救援は実質期待できず、ただ弾が放たれるのを待つだけ。

 

 

「…俺に」

 

 

その絶望的な空気の中、小吉が口を開く。

 

 

 

 

 

「俺に人質の価値はない」

 

 

 

 




ハッハー、何だこの絶望臭は。(

最近ちょっと気付いたことがあります。
他の話はおおよそ1話か2話で話が成立しているというのに、この対中国編が物凄く長いということに。(


…そろそろ自分から動いてみるか?(遠い目
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