インペリアルマーズ   作:逸環

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今回は特別編!
テラフォーマーズOVA・アニメ化記念としてのコラボ企画です!
ゆっくんさん!
ありがとうございます!


A Midsummer Night's Dream 真夏の夜の夢

「いやー!食った食った!」

 

「あそこの店良かったな」

 

「だろう?この間偶々見つけたんだよ」

 

「偶には慶次のプランってのも、良いもんだな」

 

慶次、ジャレッド、幸嶋が、夜の街を歩いている。

日米合同班の中でも同年代かつ下戸、もしくは酒を飲まないという共通点があるこの三人は、よくこうして一緒にソフトドリンクオンリーでの飲み会を開いていた。

気の合う仲間と飲む。

そのことは、たとえ素面でも人の気分を良くさせる。

 

 

「…お?」

 

「どうしたー?」

 

幸嶋がふと、立ち止まる。

その視線の先には、一軒の小さな書店。

書店を見る目は、

 

 

「…よし、三バカにエロ本でも土産に買ってってやるか!」

 

「「なんでだよ!?」」

 

 

少々邪まだった。

 

 

「いーからいーから。ついでに俺らの分も買うぞ?」

 

「お前ついでがメインだろ!」

 

「マルコスなんかは、まだ16歳だろう?」

 

「大丈夫だ!16でも男!」

 

 

そう言うと、慶次とジャレッドの背中を押して書店へと入っていく。

その歩みはまったく止まる気配がなく、一目散にピンクと肌色の多いコーナーへと進んで行った。

 

 

「…まったく」

 

「いや、着いた瞬間に品定め始めたよな。ジャレッド」

 

「ッ!?」

 

 

路上最強は、見逃さなかった。

ピンクなコーナーに入った瞬間、ジャレッドの目が四方に動いたのを。

男の本能が、動いたのを。

 

 

「…け、慶次!慶次は何にするんだ!?」

 

「ッ!?」

 

「お前振り方酷いな」

 

 

追い詰められたジャレッドが慶次へ振ることで、逃げの一手を出す。

振られた慶次が何となしに手にしていた、雑誌のタイトルは。

 

『淫らな人妻-団地に響く嬌声』

 

 

「「…うわぁ」」

 

「なんだよ!?偶然持ってただけだろう!?」

 

 

少々マニアックなジャンルに、幸嶋とジャレッドは引いた。

具体的には、先程まで一歩で触れる間合いだったのが、今は三歩分開いていた。

間違いなく、心の距離は開いていた。

 

 

「…さ、さて!三バカへの土産を探そう!」

 

「そ、そうだな!」

 

「おい!二人とも!…おいってば!!」

 

 

慶次の制止を無視して、二人はいそいそと本を物色し始める。

慶次の足元には、水滴が落ちた跡が残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「…はー、楽しかった」

 

 

U-NASAの男性寮の自室に備え付けられたベッドに寝転び、今日一日を反芻する。

慶次の意外な性癖を知り、膝丸には金髪巨乳物を、マルコスには貧乳物を、アレックスには日本人のナース物を買ってやった。

多少の抗議はあったが、概ね満足してもらえただろう。

そして自分には------

 

 

「…そういやこのジャンルは初めてだな」

 

 

------ロリ巨乳物を買った。

表紙には童顔の幼さに対して、身体の一部分が特に肉付きの良い女性が写っている。

普段ならただの巨乳物。

しかし、今日はノリに任せた結果これになった。

素面のはずなのに、酔っていたかのような気分だ。

 

ベッドの上でペラペラとエロ本のページをめくっていると、時間も時間のせいか眠気が襲ってくる。

徐々に瞼が落ち始め、徐々にページをめくる速度が遅くなる。

そして、

 

 

「…Zzzz」

 

 

幸嶋は微睡みの中へ落ちて行った。

 

 

 

 

 

「…お?」

 

 

気が付けば、そこは見慣れた訓練施設の休憩所。

設置されていたソファに腰掛け、右手には火のついた煙草。

左手には空になって灰皿代わりになっているブラック珈琲の缶。

そこまで確認して、ここが夢だと気付く。

 

 

「ククッ、俺ぁ微糖派だっての」

 

 

どうやら所謂『格好いい男像』は、600年後でもたいして変わっていないらしい。

灰を缶に落とし、一息。

 

 

「しかし、明晰夢ってのはなんだかんだ初めてだな」

 

 

ふと、人生初の明晰夢に気付きながら周囲を見渡すと、

 

 

「クーガ君!頑張って!」

 

「お?」

 

 

白衣を着た研究員らしき少女が、訓練室を見るためのガラス窓の前にいた。

どこか既視感を覚えるその顔に、幸嶋がよくよく見てみると、

 

 

「…俺は10代の猿か!」

 

 

思わず頭を抱えた。

なぜならすぐ近くに、寝落ちするまで読んでいたエロ本の表紙を飾っていた女性が、白衣姿で訓練室の中を見ていたから。

 

 

「…ん?待てよ?」

 

 

頭を抱えて唸る中、幸嶋は一つの可能性に気付いた。

応援している人がいるということは、今まさに訓練している最中の人がいるのではないか。

そしてそれは、『強いヤツ』なのではないか。

ここは、『(理想)の中』なのだから。

 

 

「ちょっとすまん」

 

「ふえ!?」

 

 

そうと決まれば、後は早かった。

表紙の女性そっくりさんの真上からガラスを覗き込み、中にいる人物を見る。

何時ものように、感覚を澄ませながら。

そして------

 

 

「…ビンゴ」

 

 

------その顔は、狂暴な笑顔に染まった。

 

 

 

 

 

 

「ふっ、はっ、よっと」

 

 

訓練室の中では、一人の青年が仮想敵(テラフォーマーのクローン)を相手に戦闘訓練を行っていた。

その容姿は女性と間違われることはないが中性的。

やや細身の体型をしている。

黒い髪を後ろでまとめ、身長は185cmほど。

一言で言ってしまえば、イケメン。

二言使うならば、残念なイケメン。

 

 

「そらッ!」

 

 

しかし、その実力は本物。

今も仮想敵を圧倒的な力で捻じ伏せている。

 

…いや、捻じ伏せるというのは適切な表現ではない。

切断し、地に伏せさせている。

 

青年の全身は黒光りした甲皮に包まれ、腕からは獲物を引き裂くための大顎が生えている。

その姿は間違いなく、『M.O.手術』被験者の姿。

 

 

「これで終わりっと!」

 

 

最後の一撃が、仮想敵の首を跳ね飛ばす。

そこで丁度訓練室の扉が開き、一人の男が姿を現した。

まるで、タイミングを見計らったように。

 

 

「…なあ、そいつら虐めて喜んじゃいねぇよな?」

 

「…そりゃな」

 

「だったらよ…」

 

 

男が筒状の物を咥え、先端部を回す。

すると全身を青黒く輝く甲殻が覆い、前腕部、特に手が固く、強く、大きく変貌する。

 

 

「ちょっと俺と遊んでくれや!!」

 

 

幸嶋が、『人為変態』をとげた。

 

 

 

 

 

 

「(…こいつッ!)」

 

 

幸嶋が人為変態を遂げたことと、感じられるその好戦的な戦うという意志の強さ。

そして幸嶋が強いということを察知した青年は、

 

 

「ッ!オオオォォォッッ!!」

 

 

戦うことを選んだ。

この男と戦えば、自分はもう一歩強くなれるかもしれない。

そんな期待が、なぜか胸中にあった。

 

 

「先手必勝でやらせてもらうぞ!!」

 

 

青年が驚異的な速度で駆け、幸嶋に肉薄する。

狙うは、甲殻の薄く弱い関節。

右腕の肘関節を狙い、その大顎を振るった。

幸嶋の意識は青年に向いており、そこにはない。

振るわれた大顎は、

 

 

ガキンッ

 

「…あー、そうだ」

 

「ッッ!?」

 

 

間接を捉えることはなかった。

間接のすぐ近くにある、厚い甲殻。

腕を僅かに動かすことで、大顎による攻撃をそこに当てさせていた。

隙は、間違いなくあった。

しかし、その隙は青年が攻撃した瞬間に潰された。

 

 

「俺の名前は『幸嶋 隆成』。…お前は?」

 

「…クーガ。『クーガ・リー』だ」

 

「そうか、クーガか。…ククッ」

 

 

幸嶋は笑う。

これから始まる、楽しい時間を前に。

夢の中とはいえ、笑う。

 

 

「楽しませろよ!クーガァァァァッッッ!!」

 

 

『断頭台の刃』対『絶対的捕食者』。

誰にも知られることなき対戦が、始まった。

 

 

 

『椰子蟹』・日本・178cm・【プロレス】

 

            対

 

        『大閻魔斑猫』・イスラエル・180cm・【空手】

 

 

 

 

 

 

「そらッ!」

 

「ッッ!」

 

 

幸嶋の繰り出した左拳がクーガの右下腹部を掠める。

咄嗟に左へ回避するも、幸嶋の突きを極々近距離で回避することはできなかった。

突き、つまりパンチはいくつかに種類分けができる。

幸嶋が放った突きは、その中でも速さに特化した殴り方。

拳を握り切らず構え、ひたすら真っ直ぐに、やや下方向へ向けて放った突き。

この時幸嶋が、何よりもクーガの速さを警戒していたが故の選択だった。

 

 

「(避けれた!なら、次……ッ!?)」

 

「はっえぇなぁ!おい!!」

 

 

クーガが思考する一瞬。

その一瞬で幸嶋の伸びていた左腕が曲がり、クーガのベルトを掴んでいた。

そしてそのまま、

 

 

「オラアッ!」

 

「ッ!?」

 

 

空いていた右手で、訓練室中央まで殴り飛ばした。

ドザァッ!と床に受身を取りながらも落ちたクーガに、幸嶋は一歩一歩近寄る。

 

 

「いやぁ、流石に俺も驚いたわ。こんなのは初めてだ」

 

 

その左腕は、一筋の傷がついていた。

 

 

「あの殴られた瞬間に(・・・・・・・)攻撃してきてんだからよ」

 

「…どうも」

 

 

クーガが起き上がりながら、その腕の大顎を幸嶋に向ける。

大顎の一部は、欠けていた。

殴られる瞬間、咄嗟に最も近い自身を掴んでいた腕を切りつけるも、浅い傷をつけるだけで終わった。

関節を狙った攻撃もダメ、単純に切りつけるのはもっとダメ。

ならば、どうするか。

 

 

「…なあ、あんたは何でそんな強いんだ?」

 

 

ふと、気になって聞いてみた。

クーガ自身が尊敬する、二人の戦士。

小吉やアドルフとは種類の違う、強さ。

その理由が、知りたくなった。

幸嶋はその問いに立ち止まり、瞑目する。

そして、答えた。

 

 

「…ただ、毎日血の小便を出してきただけさ」

 

 

それしかなかったと、幸嶋は笑顔で答えた。

 

 

「そっか」

 

 

それにクーガは、一つの答えを出す。

自分が今、何をするべきか。

 

 

「いくぞッ!」

 

「かかって来いやぁッ!」

 

 

『オオエンマハンミョウ』の脚力で一気に駆け寄り、間合いを詰める。

幸嶋は全身の力を抜き、たとえ何が来ようとも捌き、防ぐ体勢を作る。

お互いが触れ合う間合いまで、5…4…3…2「ッ?!」

 

それは、幸嶋からすれば本当に予想外なことだった。

自分が計っていたタイミングより、僅かに速く攻撃が来た。

クーガが選んだ攻撃は、答えは、

 

 

「ゼリャァッ!!」

 

「うっそだろ!?」

 

 

空手の、後ろ回し蹴りだった。

空手の中でも、上位の威力を持つ後ろ回し蹴り。

それを、空手四段の男が、『オオエンマハンミョウ』の脚力で行ったらどうなるか。

それは、後ろ回し蹴りを受け止めた幸嶋の右腕が物語っていた。

 

 

「…ッ!マジかよッ!!?」

 

 

その腕は今、甲殻に靴の痕がくっきりとつき、ひび割れていた。

五体全てが凶器。

それが、空手。

 

切断できないなら、破壊すればいい。

 

 

「よし、これなら通じるか…」

 

 

とはいえ、通じるというだけ。

幸嶋の拳のダメージは確かに残っているし、あの甲殻を砕くにはしっかりと溜めて攻撃しなくてはいけない。

その一瞬を、幸嶋がくれるわけがない。

溜めの一瞬の間に、相手(幸嶋)は問答無用の一撃を見舞ってくる。

そのイメージが簡単に着くほど、先ほどの一撃は強力だった。

 

 

「…ククッ!ハハハハハハハハハハハッッッ!!!」

 

「ッ?!」

 

 

突如、幸嶋が哄笑する。

楽しそうに、嬉しそうに。

笑う、笑う。

 

 

「ハハハッ!!そうかそうか!」

 

「な、なんだよ…?」

 

 

クーガの戸惑いはもっともだ。

今の今まで戦っていた相手が、急に笑い始めたのだから。

 

 

「いや、なに。ただ、楽しくて仕方ないだけさ。こうして強いヤツと戦えるのがな」

 

 

哄笑が収まるも、まだクスクスと笑いながらそう言う幸嶋。

彼の望みは、強いヤツと戦うこと。

それが人生の至上命題。

そんな幸嶋からすれば、今この瞬間こそが。

 

 

「最ッ高の気分だ!クゥゥゥゥガァァッッ!!」

 

 

一歩。

たった一歩だけ踏み込む。

その一歩がお互いの拳が届く距離となり、幸嶋の腕が弓を引く。

『ナックルアロー』。

弓を引くように拳を構え相手を殴る、かの燃える闘魂が得意としたプロレス技。

それが、幸嶋が最も信頼する拳の使い方。

 

幸嶋の構えを見た瞬間、クーガも構える。

両腕を腰に構え、足を僅かに開く。

『正拳』。

空手の基本中の基本であり、昨今では最早形骸化しつつある技。

しかし、誰もが必ず習得し、そして拳に魂を乗せていく技。

 

 

「「………………」」

 

 

一瞬の、間。

 

 

「「オオオォォォォォォォッッッッ!!!!!!」」

 

 

 

 

男の魂は、拳に乗る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んあ?」

 

 

日が差し込み、目を覚ます。

幸嶋が身体を起こすと、柔らかいベッドの上。

周りを見渡せば、トレーニング器具とプロレス誌の詰まった本棚。

 

 

「…ああ、そうか」

 

 

夢か…。

そう、幸嶋の声が部屋に虚しく響いた。

寝起きの一服のために煙草を咥え、火をつける。

吐き出す紫煙をゆっくりと眺めていると、ふいにインターフォンがなった。

玄関まで行き、扉を開けまず第一声。

 

 

「…あん?」

 

 

目つきは悪く、声にドスをきかせながら。

 

 

「…え、俺なんかした?」

 

「ああ、艦長っすか。はよざっす」

 

「…あ、ああ。おはよう。えっと…、朝飯の時間そろそろだから早く来いよ」

 

「うっす」

 

 

この後小吉はミッシェルに語った。

あの目と声は殺されるかと思った、と。

 

 

「あ、そうだ」

 

「どうしたんすか?」

 

 

ふと、小吉が何かに気付いた様子で、言葉をつむぐ。

 

 

「何か良いことでもあったのか?」

 

「…ハハ」

 

 

頭を掻き、どこか照れながら。

 

 

「…いい夢を見たっす」

 

「…そっか。じゃあ、早く来いよ」

 

「うっす」

 

 

小吉が立ち去り、後に残された幸嶋。

目蓋の裏に思い描くは、楽しかった夢。

頭を掻きながら、一言。

 

 

「ああ、クソ…。焦がれるなぁ…」

 

 

どこか赤い顔は、煙草の火によるものだけはないのかもしれない。

 

 

 

 

主が去った部屋。

ベッドの枕元に置かれた本の表紙では、一人の女性が微笑んでいた。

 

 

 

 

 




ゆっくんさん!
『LIFE OF FIRE 命の炎』より、クーガと唯香さんお貸しいただき、ありがとうございました!

また、ゆっくんさんの『LIFE OF FIRE 命の炎』でも、『インペリアルマーズ』とのコラボ作品を書いていただけるとのことです。
楽しみにしています!


コラボ企画参加者はまだまだ募集中です!
この機会に、コラボの環が広がれば良いな。
そんなことを考えてます。

それでは、また次回!
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