インペリアルマーズ   作:逸環

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久しぶりの更新となりました。
うん、パソコンの買い替えに伴うゴタゴタなんです。

というわけで、どうぞ!


North Sea 脱出経路

「…何?」

 

 

人質の価値はない。

小吉のその言葉に、劉は反応した。

そんなはずはない。

彼は艦長という立場であり、他のどの班員よりも情報を持ち、そして権限がある。

それ以上に、誰からも好かれる彼の人柄を考えれば、その人質としての価値は相当だ。

 

 

「そんなもの、信じるわけないでしょ。紅ちゃん、副艦長(ファースト)につないでちょ」

 

 

小吉の言葉を切り捨て、劉は命令を下す。

そんなものは、戯言だと。

一考の価値すらないと。

 

しかし、

 

 

「…りゅ、劉将軍!大変です!」

 

「どうした?」

 

 

どんな事態でも、必ずしも都合良く行き続けるとは限らない。

 

 

「逃げてます、奴ら!」

 

 

火星の荒野を、アネックス一号とは反対の方向目がけて走り抜ける二機の脱出機。

それはもちろん、日米合同班の二機。

しかも、その両機の運転手の顔はヘルメットにより視認できず、他の班員も隠れているためかわからない。

この状況で想定できる、中国四班にとっての最悪のケース。

 

 

「…ミッシェルと燈だけ(・・)が、一号機と二号機にそれぞれ乗っている…だろ?」

 

 

小吉が劉に向かって言い放ったそれ。

それこそが、彼らにとっての最悪のケース。

小吉を、アドルフを、そして幸嶋とディートハルトを即座に撃たなかった理由。

二人を、そしてあわよくば生きたテラフォーマーのサンプル200体を強奪しようと考えていた中国班からすれば、これが最悪。

 

 

「…それがどうした。一・二号機と強制的につなげ!『彼女(ファースト)』と交渉する!」

 

「そんな呼び方はするな!彼女の名は『ミッシェル・K・デイヴス』!俺の最も尊敬する戦士の血を継いだ女性だ!決してお前らが思うような小娘でも!サンプルでもない!」

 

 

小吉の激昂。

それが火星の大気を震わし、彼の想いを中国四班に叩き付ける。

 

 

「…どれほど俺をいたぶる声を聞かせようとも、あいつらは決して振り返らない」

 

 

たとえ自身がどうなろうとも、仲間たちは絶対に任務を遂行させる。

そのための行動を、何があろうともとってくれる。

そう、小吉は信じていた。

事実、今がそうなのだから。

 

…それでも、決して彼らは揺るがない。

 

 

「あんたがそう言うなら…そうなんだろう。他の連中も纏めていたぶろうが、な」

 

 

一瞬、劉の目がアドルフ、ディートハルト、幸嶋を捉えるもすぐに再び小吉に視点を戻す。

 

 

「交渉に協力するなら、厄介な第二位(アドルフ)は無理としても…艦長。あんたの命だけは助けたかったんだがな…」

 

 

どこか、残念だとでもいうような声色と瞳。

そして、それは確かに真意なのだろう。

それを見て取った小吉は…、

 

 

「…相変わらず、冗談ばかりだな。劉さんよ」

 

 

それを、拒絶した。

 

 

「…ああ、冗談だ。艦長ならそういうと思っていた。…だから、冗談だ」

 

 

その瞬間、アドルフの電撃によるショックから立ち直っていた爆が固定砲台を操作。

 

 

「か、艦長ォォォォォッッッ!!!!」

 

 

幸嶋の絶叫が響く中、小吉の全身は余すところなく撃ち抜かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あれ?」

 

 

中国班員、紅は二つ。

たった二つ疑問を持った。

なぜ、爆は態々固定砲台の方で撃ったのか。

個人携行の火器も、あるというのに。

なぜ、態々。

そしてもう一つ。

あの固定砲台、『薬丸』は動かない物を撃てただろうか。

 

 

「あんれぇ?」

 

 

そのことが、紅の頭に疑問として生まれた。

虚ろな(・・・)目で、考えた。

 

 

「紅ッ!」

 

 

徐々に麻痺していく思考の中、誰かの声が彼女の耳に届いた。

 

 

「吸うな!ガス兵器だ!!」

 

 

鈍化していく思考をとどめるものは、西が被せてくれたガスマスク。

ガス兵器?

いったいそれはどういうことだ?

 

その正体は、

 

 

「坑道とか!古典かよ!!」

 

 

彼らが小吉たちに気を取られている間に掘られた坑道。

そしてそのすぐそばに落ちていた一本の筒。

ガスは、ここから出ていた。

 

 

「…劉将軍!小町艦長の死体がありません!!」

 

 

ジェットが、もう一つ驚くべきことを伝える。

死体が、ない。

 

いったい、いつだ?

いつから、自分たちは幻覚(ユメ)を見ていた?

 

いや、問題はそこではない。

問題なのは、ガスの濃度(・・)

あのまま吸っていれば、間違いなく全員死亡していたほどの濃度。

復活したドルヂバーキが教えなければ、おそらくはそうなっていたであろう。

 

いったい、誰が。

 

紅の、少々学の足りない頭では導けなかった答え。

それは、劉が導き出した。

 

 

「…ああ、そういえば僕たち以外にもいたな。軍人(・・)が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アネックスから、少々離れた地点。

そこからは、アネックス本艦がよく見えた。

その地にいるのは、数名の男性たち。

 

 

「…なあ、イワン。あいつら、どんな幻覚(ユメ)を見てると思う?」

 

「…さあ。でも、悪夢ならこれから見るでしょうね」

 

 

彼らは、北海から来た猛者たち。

世界最大の領土を持つ、大国の兵士たち。

 

 

「…動ける我々だけではなく、艦長まで助けていただき感謝する」

 

 

ディートハルトが、助けてくれた二人に感謝をする。

小吉は担がれ、アドルフとディートハルトは自力で歩いて坑道を通り、ここまで来た。

 

 

「なに、気にするな」

 

「これ、使ってください。弱めた『チョウセンアサガオ』の成分ガスです。一時的ですけど、痛みは軽くなるはずですから」

 

「本当に、ありがたいな…」

 

 

逃走経路から、治療まで。

必要なものを提供してくれた彼ら。

手に巨大な爪がある大柄な男は、セルゲイ。

小柄で、顔に大きな傷があるのはイワン。

 

 

「さて、どんな悪夢になるでしょうね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッ!?爆!すぐにそこから離れろ!!」

 

「え…?なんで?」

 

「早くしろォッ!!」

 

 

アネックスで、ジェットの声が轟く。

彼は、誰よりも早く察知した。

彼の持つ専用装備の力で、それが来ることを察知した。

 

尋常ではないジェットの様子に、爆が固定砲台から離れる。

そして、

 

 

「…来るぞッ!」

 

「…嘘」

 

 

空から、それはやってきた。

火星の空を飛ぶ、数少ない物。

 

固定砲台に、高速脱出機が突撃した。

 

 

「やりやがったアイツら!!」

 

 

衝突の衝撃により、爆発する固定砲台。

その周辺は、爆発による噴煙で見えづらい。

その、煙の切れ間。

 

 

「…そうかぁ」

 

 

彼らが、いた。

 

 

中国(そっち)は今頃春節かぁ」

 

 

裏拳で一発。

それで近くにいた、中国班員の一人は宙で一回転。

意識を失った。

 

 

「ご機嫌麗しゅう、元同盟諸君」

 

 

そう、彼らは。

 

 

 

 

 

 

「本日付で日米同盟国、ロシア連邦宇宙軍だ」

 

 

 

 

 

覚悟を決めろ。

 

 

 

 




北海の猛者たち、ロシア軍が参戦しました。
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