では、どうぞ!
「にしても、ズルイわ~。そのマスク…」
ロシア班班長、アシモフが劉に語り掛ける。
ズルイ。
その言葉の理由は、明白。
それさえなければ、イワンのガス攻撃で全員死亡していたはずなのだから。
アシモフが語り掛ける間に、ジェットを除く中国班班員たちが視界を狭めるガスマスクを外していく。
これから起こるであろう、戦闘のために。
爆発の衝撃で、もうガスは吹き飛んでいる。
「まあ、そんなマスクまで用意周到に持っていたってことは、お前らの方も同じような武器を使おうと思っていたってことか」
アシモフが当たりを付けたそれ。
ロシア班のイワンのチョウセンアサガオではないだろう。
そう、それは例えば、
「『ハパロトキシン』とか」
劉の左足。
そこだけスーツが破れているのに、足は裸足なのに無傷。
甲殻類型のベースであるジェットだけが、ガスマスクを外していない。
大きくこの二点が、判断の理由だった。
『ハパロトキシン』は、『テトロドトキシン』が通用しない甲殻類を捕食する為に、『ヒョウモンダコ』が使う毒。
ジェットは劉が人為変態を続けている限り、甲殻類型ベースの相手と戦う限りマスクを外すことはできない。
もちろん、このまま話し続けていれば『タスマニアンキングクラブ』がベースのアシモフもまずい。
「…だったら、どうなのかな?」
アシモフが指摘していくことに、劉が肯定を含めて続きを促す。
そう、だからなんだというのだ。
アシモフは今、ガスマスクを持っていない。
そのアシモフに、ロシア班のアレキサンダーから、何かが投げ渡される。
「こうすりゃ、問題ねぇ」
投げ渡されたそれは、中国班のガスマスク。
アレキサンダーが中国班の一名を殺害し、奪い取った物だった。
「…言っておくが、先に始めたのはお前らだからな」
アシモフ自身は、決してこれから起こることを好んではいない。
軍人ではあるが、それでも。
「…戦争だ」
戦争はすでに、始まっている。
「…まったく。軍人のわたくしが言うのもなんですけれども、戦争だなんて……」
アシモフが劉に向けて踏み込んでいった瞬間に、ロシア班班員も走り出す。
隊長同士の一騎打ち。
そんな戦争などありはしない。
ただ、彼女だけは走らなかった。
『キロネックス』をベースに持つ、『ライサ・アバーエフ』は。
その必要が、なかったから。
薬を服用し、服の裾から触手が出てくる。
この触手に触れれば、待っているのは死あるのみ。
しかし、触れなければ何の影響もない。
両班の激突地は、触手の範囲圏外。
だが、問題はない。
「…ですが、貴方方の所業はとても許せるものではありませんのよ?」
髪留めを外し、ゴムを伸ばす。
そしてバレッタも外すと、今度はそれを中ほどまで割りY字にする。
『アネックス計画』に持ち込める兵器には、ある制限がかけられている。
1.『マーズ・ランキング』において15位以上であること
2.テラフォーマーに奪われた際に、その技術を流用されない物
この2点を満たしていなければいけない。
例えば、五班班長のアドルフ。
彼は『マーズ・ランキング』で2位であり、避雷針付の手裏剣はたとえテラフォーマーに奪われたところで手裏剣としてでしか使えない。
この様に条件を満たすことで、初めて隊員たちは火星に武器を持ち込める。
ライサのランキングは、16位。
僅かにだが、武器の持ち込みはできない位置にいる。
あくまでも、
どんなものにも、抜け穴は存在する。
武器を持ち込まなければいいのであれば、それでいい。
それ単体は武器として機能せずとも、組み合わせれば武器となる。
髪留めと、バレッタ。
この二つを組み合わせてできた物。
それは、
「では、参りましょう」
『スリング・ショット』。
狩猟などでも使われる、射撃武器。
構造は簡単。
Y字の物にゴムを結び、弾を保持するための板をセット。
これだけ。
しかし、威力は確かにある。
まともに当たれば、小動物を仕留められる程度には。
弾は、そこらへんに転がっている。
小石を拾い、毒を、自然界最強の猛毒であるキロネックスの毒、『ボツリヌストキシン』を塗る。
あとは狙いを定め、腕を引き指を離すだけ。
名も知らぬ中国班の男が一人、声も出さずに倒れる。
裾から靡く白い触手は、まるでドレスのように彼女を彩る。
彼女のベースは、キロネックス。
「本当に…、戦争なんて嫌ね」
勝ってしまうのは分かっているのに、殺さなければいけないんですもの。
『
「…ふざっけるなぁッッ!!」
「マズイ!?」
それを彼らが、黙って見ているわけがなかった。
ジェットが踏み込み、衝撃波を飛ばそうとする。
遠距離には、遠距離から攻撃を加えればいいのだから。
さらに、ジェットの衝撃波ならばスリング・ショットの弾が飛んで来ようとも弾き飛ばせる。
この一撃が当たれば、華奢な体のライサは戦闘不能になる。
「おい」
「…ッ!?」
この男が、いなければ。
咄嗟に攻撃を中止して振り向くも、それでは遅い。
「お前の相手は…」
既にその拳は振りかぶられているのだから。
「俺だろうがぁッ!!」
「グガ…ッッ!!?」
拳はジェットの顔面に突き刺さり、その体を殴り飛ばす。
拳の主は、残っていた。
「…さて、仕切り直しといこうか」
『
彼がまだいるのは、ただ単にあの四人の中でまだ戦えるだけの余力が残っていたから。
ガスが撒かれていた間はに坑道の中に潜み、ガスが晴れるのを待っていた。
あとは『ハパロトキシン』対策でアシモフが喋っている内に、ガスで倒れていた手近な中国班員からガスマスクを奪った。
そして邪魔なものがない今、戦える。
『路上最強』が、戦える。
「いくぞ」
『断頭台の刃』、
何事にも穴はあるものです。