インペリアルマーズ   作:逸環

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Bacteria 細菌

『細菌兵器』。

国際法で『人道に反している』等といった理由で規制、禁止されている兵器。

目に見えず、内側から人体を犯していくこの兵器の特徴は、その名に表れている。

『強毒性の細菌』を散布し、対象を病魔に侵させるのだ。

そして、細菌には潜伏期間というものがある。

感染、即発症というわけではない。

インフルエンザで例えると分かりやすいが、一人が感染すると職場や学校であっという間に罹患者が増える。

それは、発症する前の潜伏期間中に感染者から移されたためだ。

つまり、その細菌(病原体)感染力を持っている(生きている)間は、他者に感染しつづけるのだ。

 

…そう、細菌は『生きている』。

つまりは、M.O.手術の適応となる『生物』なのだ。

その手術を施すことが、その使用がどれほど非人道的であるかは別として。

ただの女の子()にその手術を施すことが、どれほど酷なことかは別として。

 

ロシア班、というよりロシアの諜報員は、その存在の可能性に気付いていた。

だから、アシモフもその可能性を知ることができ、そして即時退却を命じることができた。

 

『ミズラモグラ』をベースに持つ、セルゲイの掘った坑道へと撤退していくロシア班の面々。

もちろん、中国班がその無防備な背中を狙わない手はない。

しかし、狙えない理由があった。

 

まだ、速度特化型やアンノウン(シーザー)が近くにいるわけではない。

二体は異常が起きて早々に、どこかへと消えた。

 

狙われている。

『アオズムカデ』をベースに持つアーロンに担がれたライサのスリング・ショットが、自分たち(中国班)を狙っている。

その事実が、彼らに背中を狙うことを躊躇わさせた。

狙うために身を晒したら、一撃必殺の毒が飛んでくる。

防護服を着ていても、礫はそれを穿つかもしれない。

物理的な殺傷力を持たない細菌とは違う、もう一つの恐怖。

 

 

「…やれやれ、紅ちゃんにもああいうのを持たせれたら良かったんだけどねぇ」

 

 

劉が一人愚痴るも、アネックスを中国班が制圧したという事実に変わりはない。

そう、今この火星で最も有利なのはテラフォーマーたちだが、最も重要なのは中国班となったのだ。

 

 

「さて、同志諸君。隊を組み直そう」

 

 

即座に切り替え、アネックス内部を歩く。

暗躍を成功させるために。

 

 

 

 

………………ジーッ、…ザザ…ッ………

 

 

 

 

明かりのない一本道の坑道。

その中をロシア班は駆ける。

その途中で、一人の足が止まった。

 

 

「…どうしたんだ?」

 

 

アシモフがその事に気付き、立ち止まって振り返る。

 

 

「……親父(オヤジ)、アイツが…」

 

「…あら?ちょっと待って…?いないわよ…?」

 

 

ライサが、気付いた。

いない。

奴がいない。

 

 

「幸嶋が!俺の代わりに残ったんだ!!」

 

「「「「…何ィ!?」」」」

 

 

アレキサンダーの言葉が、ロシア班の驚愕が、坑道に響いた、

 

 

 

 

 

 

 

…ジーッ、ザザザッ!

 

【あー、テステス。皆聞こえてるかー?】

 

「「「「「「「「ッッッッ!!!??」」」」」」」」

 

 

それは、突然だった。

アネックス館内の放送スピーカーから、脱出機の通信機から、各班班長の個人通信機から聞こえてきたのは。

 

 

【何か連絡室の機材の操作方法よく分からなかったから、キチンと繋がったのか不安だけど、それは置いておく。時間もないし、手短にいくぞ?】

 

 

 

 

 

これは俺の遺言だ。

 

 

 

 

幸嶋の声は、ただそう言った。

 

 

 

 




言葉があるから傷つけ合い、言葉があるから分かり合える。
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