インペリアルマーズ   作:逸環

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今回は第一斑です。


Recollection Of Hero 仲間

テラフォーマー数体による内部襲撃後、アネックスに群がる大量のテラフォーマーの攻撃により、艦は不時着。

生き残った乗組員たちは脱出艇に乗り込み各方向へと逃げた。

 

そして、火星での一日目が続く。

 

 

 

 

火は、全ての生物が等しく恐れるものの一つである。

一度(ひとたび)全身を火に包まれれば、死ぬまでの間に地獄を見続けることとなる。

火は燃えるために酸素を奪い、人体が取り入れるための酸素が失われる。

熱で呼吸器は焼け爛れ、息を吸うこともできなくなる。

そしてただただ、苦しい生だけが続く。

 

その火に今、第一斑は囲まれていた。

 

 

「…艦長よぉ、こりゃあちとマズかないですかい?」

 

「ああ、21位の開紀もすでに犠牲になってしまった」

 

 

そう。

彼らを襲う脅威は、火だけではない。

そして、火ではない。

 

 

「…あのパワーも、バグズ手術なんですか?」

 

「…いや、あの虫の特性は甲皮にある。ガタイは単に、食料によるものだろう」

 

「食料…ですか?」

 

「ああ、おそらくは動物性蛋白質」

 

 

人間は、火を利用して繁栄を続けてきた。

故に今、彼らを本当に脅かすものは、火ではない。

 

 

「バグズ2号に食料として積まれていたカイコガを、奴らも養殖したんだろう」

 

「あー、俺実家が農家で養蚕してたんで隠れて食ってましたけど、美味いですよねぇ」

 

「俺も好きだったよ。女性隊員の中には、頑として食わない奴もいたけどな」

 

 

まあ、芋虫ですしねぇ。と幸嶋が笑いながら答える。

戦闘中、それも犠牲者が出た直後なのに、それを気にしていない様子で。

 

 

「…それじゃあ、もう一体の方の出している、あの糸の能力は?」

 

「あれも、カイコガだ」

 

 

マルコスの問いに、艦長・『小町 小吉』が答える。

彼らの目の前にいるのは、2体のテラフォーマー。

それも、『バグズ2号』の乗組員の亡骸を利用して施された、バグズ手術によって強化をされた個体。

全身を白い毛に覆われた方は、1000mの鋼鉄の糸を吐く蜘蛛糸蚕蛾。

甲皮がより硬く強靭であり、より筋肉質になっている方は世界最硬の黒硬象虫。

 

 

「何つーことする奴らだ…!!それじゃあ、艦長の昔の仲間を3人も…!」

 

 

次々と告げられていく事実に、マルコスが憤る。

今にも、飛び掛らんとばかりに。

既に、バグズ手術が施された個体とは戦闘していた。

その個体には、マルコスの幼馴染、シーラを殺されている。

 

スッ、と、小吉の手が挙がり、マルコスの憤りを、怒りを抑える。

 

 

「近付いてきたら、落ち着いて駆除するまでだ。なに、不幸中の幸いっつーのかな」

 

 

その声は、平らで感情が見えない。

 

 

「さっきのもこの2人も、あんま喋ったことのない隊員(ひとたち)だったからよ」

 

 

そんなはずはない。

地球でも、アネックス1号でも、小吉は誰にでも気さくに話しかける男だった。

身分の区別なく、誰とでも話せるムードメーカーだった。

そんな嘘は、小吉を慕う一斑全員にしてみれば、簡単に見破れる。

 

だが、彼はそれを知ってか知らずか、一人前に出る。

 

 

「…だろ?ゴリラ」

 

 

その言葉に、僅かに親しみをこめながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“夢を見ていた”

 

 

小吉が、クロカタゾウムシのテラフォーマーを踏みつけるように、何度も蹴る。

 

 

“リーの能力を見たときから、想像はついていた。…それでも”

 

 

その脳裏によぎるのは、あの時のこと。

 

 

“奴は、興味を持っていた。アキちゃんの遺体か、その糸に”

 

 

20年前、目の前で最愛の命の炎が燃え尽き、自身も命辛々地球へと帰還したあの日のことを。

 

 

“だから、彼女の遺体だけは、何か特別扱いを受けているものと”

 

 

後ろから迫るカイコガのテラフォーマーの糸を避け、構える。

 

 

「ちったあ空気を読みやがれ!!」

 

 

挟み来る2体に対して、同時に空手六段の拳を毒針とともに叩き込む。

そう、彼は20年前の生き残り。

受けた手術は『M.O手術』ではなく、『バグズ手術』。

その手術ベースは、世界で最も人を殺している生物。

 

日本原産、『オオスズメバチ』。

 

しかし、そのオオスズメバチの毒針も、2体へは届かない。

硬過ぎる甲皮に、鋼鉄の糸に、阻まれる。

その威力に飛ばされはしても、効きはしない。

 

 

「ふぅーっ」

 

 

その事実に怯むことなく、彼は構えを取り、呼吸整え次なる一手が打てるように体勢を整える。

想像はついていたから。

テラフォーマーは、それだけ手強いということが。

 

だが、その必要はなかった。

 

 

「だっしゃぁっっ!!」

 

 

駆け寄ってきた2人の男が、クロカタゾウムシを殴り飛ばしたから。

目の動きだけで小吉はそれを確認すると、カイコガのテラフォーマーに向き直る。

 

 

「艦長ぉ、脱出艇と皆はマルコスが守ってくれるとよ。こっちのデカ物は、俺と慶次が仕留めますんで」

 

「あと、マルコスから伝言です。『全くの勘ですけど、事情は分かりました。他のことは俺らに任せて、艦長はその白いのを』と」

 

 

クロカタゾウムシを殴り飛ばしたのは、幸嶋と『鬼塚 慶次』。

両方とも、甲殻類をベースとしている。

クロカタゾウムシの相手としては、適任だ。

 

 

「…お前たち、頼もしいぜ」

 

 

そして、マルコスの言葉。

自身の仲間たちが、これほどまでに心強く感じる。

こんなにも、嬉しいことはない。

 

 

「後ろは任せた」

 

 

だから、自分もそれに報いよう。

 

 

「いくぞ、害虫ども」

 

 

オオスズメバチが、牙を剥く。

 

 

 

 

 




…あれ?
主人公、脇役じゃない?
小吉艦長の主人公力、やばいです。
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