私はこの件を書くのに半年待った!(遅筆なだけ(
あ、どうぞ!
『幸嶋 隆成』という人間は、生まれついて『異常』だった。
彼には、見えた。他の人には見えないものが。
『幽霊』が見えた。
彼の出身は、日本の関東。
その中でも農業の盛んな、比較的過疎から逃れることができた小さな村だった。
知りあいの知りあいは大体知り合い程度の、小さな村。
そんな小さなコミュニティーで他とは違う子供がいればどうなるか。
小学2年生のころ、彼は学校で虐められて引きこもっていた。
『幽霊』が見える、会話ができる。
他の子から見れば、それは排除したい
家族もどこか腫れ物に触るかのような扱いになり、徐々に、徐々に彼の居場所は失われていった。
話し相手といえば、自分が5歳の時に亡くなった祖父の幽霊や、その祖父に呼ばれて来る色々な霊たち程度。
自分が虐められた原因しか、いや、それ以上に生きた人間と会話しないという歪な環境は、少年の心を腐らせていった。
だが、そんな少年にある日転機が訪れる。
部屋に置かれていたパソコン。
暇潰しに動画サイトで様々な動画を見ていた中で、出会った。
画面を明るく照らす、スポットライト。
躍動する肉体に、ヘッドホンを震わせる歓声。
そして何よりも、男の子の心を震わせた、格好良さ。
少年は、『プロレス』とであった。
その日から、毎日特訓をした。
腕が千切れるほどに腕立て伏せをし、痛みに苦しみながら腹筋を重ね、室内でひたすら何度も走り込みをし、窓に映る自分を見て技を練習し、体を床に叩き付けて受け身の練習をした。
トレーニング器具は、部屋の家具で代用した。
それまで僅かしか食べていなかった食事も全て完食するようになり、出す尿はいつも真っ赤に染まっていた。
そんな生活が半年。
少年は部屋を出て、家を出て、学校へ登校した。
やることは決まっていた。
少年は知りたかった。
『自分は今、どこまで強くなっているのか』を。
久しぶりに見た幸嶋を、また『懲らしめてやろう』と近づいてくる虐めっ子たち。
少年は無我夢中で拳を繰り出した。
結果から言えば、圧勝だった。
半年前に手も足も出なかった自分が、パンチ一発、キック一つで相手を倒した。
それは大きな、とても大きな自信へとつながった。
それからも毎日毎日、少年は特訓を続けた。
中学生になって成長期に入ると、体の成長以上に強さが成長していった。
気が付いた時には、14歳の時点で少年に勝てる人間は、村にはいなくなっていた。
そのことに気付いた時、少年は家を出た。
まるで百鬼夜行のように、幽霊たちを連れながら。
村を出た少年は、強そうな人に喧嘩を売っては勝ち続けた。
もっと強い奴は、もっと強い奴は。
探して、戦って、探して、戦った。
その内に少年の名は広まり、都市伝説的な存在にまでなった。
曰く、やたら強い子供がいる、と。
曰く、そいつは強い奴を探している、と。
18歳の時、青年となった少年はルールなしのストリートファイトとはいえ、ボクシングのヘビー級世界王者を倒した。
空手の無制限大会優勝者を倒した。
合気道の達人を倒した。
ムエタイで死神と呼ばれた男を倒した。
プロレスに憧れた少年は強くなり、そして戦うことの楽しさを知った。
もっと、もっと、もっと。
もっともっともっともっと!!!
強くなれば、それだけ多くの相手と戦える。
強くなれば、その分楽しめる。
青年が21歳の時、彼は人々からこう呼ばれるようになった。
『路上最強』
そして、その意味するところは何も、ストリートファイトにおいての最強ではない。
つまりは、
『人類最強』
【これは俺の遺言だ】
アネックス艦内放送で、幸嶋の声を聴いた劉は走り出した。
「やられた!通信室に急ぐぞ!!」
通信室からは、電波塔の操作もできる。
専門知識がなければ不可能だが、それでも脅威。
さらに言うなら何をされるのかが分からないのも問題。
そして、それ以上に何より問題なのは。
「一対一をせざるを得ない室内に、『人類最強』に入り込まれた!!」
毒で死ぬ前に、何かをされるかもしれない。
その可能性が、負ける可能性が高くとも中国班を走らせた。
【あー、そうだな。まず艦長!あん時俺を誘ってくれてありがとうございました!うん!組み手も楽しかったっす!!】
「………………」
眠りの中、小吉はその声を聴いていた。
その表情が苦しげなのは、痛みのせいだろう。
しかし、閉じた瞼からこぼれた涙は、これから死んでいく部下を想っての物なのかもしれない。
【それから慶次とジャレッド!飲み会楽しかった!一回くらいはアルコール有りでもよかったかもな!】
「…バカヤロウ!また何度でもいってやらぁ!!」
「クソッ!なんで一人で残ったんだよ!!」
慶次とジャレッドの、幸嶋とよく飲みに行っていた二人が泣く。
だが、あまり知識がない幸嶋が通信を無理矢理つないだためか、こちらからの声が届くことはなかった。
【三馬鹿!お前らはアレだ!アレックスは地球に帰ったら夢を叶えろよ!マルコスはギター上手かっただろ!あの道もありじゃねぇか?燈は格闘技の道とかな!】
「叶えるよ!行くよ!メジャーリーグ!!」
「なんでこんな時に進路相談なんだよ!俺の心配してんじゃねーよ!!」
「なんでだ!なんでだよ!」
壁に、床に、地面に。
それぞれが膝をつき、拳を叩き付る。
【姉御はー…、というか未婚の女性陣。みんな美人揃いなんだから、とっとと良い人見つけなさい】
「「「「「「「「余計なお世話だよ!!!??」」」」」」」」」
通信が聞こえている、全ての女性からツッコミが入る。
聞こえていないはずなのに、その反応を予想していたのかケラケラと幸嶋が笑う。
【あとそうだ、ハゲ!お前だそうそう!気にすんなよ!】
「…あいつ、俺がアネックスに行こうとしたら止めてきたんだ……」
《…なんか険しい顔してるけどな、こういうのは、待ってる人間がいないやつが行くもんだ。…あ、俺?俺はアレよ。今更実家に顔は出せないし、地球に残した人もいないしなぁ。まあ、腹のガキが親父の顔知らないってのは、結構堪えるらしいぞ?…ガキに顔見せたけりゃ、とっとと帰れ。帰らなきゃ、お前の嫁もガキもぶん殴るぞ。カカカカ!!》
「…そのまま俺を坑道のそばまで放り投げて……。あの野郎!…格好つけやがって…!!」
サングラスの隙間から涙が零れ落ちて、坑道を濡らす。
他の面々も、沈痛な面持ちで通信とアレキサンダーの言葉を聞く。
「…感謝しなきゃならぇな……。バカ息子を、そして娘と孫を助けてもらったんだからよ……」
アシモフの声と、アレキサンダーの嗚咽が洞窟に木霊した。
【…さて、時間もないし、あと一人かな?………えー…うん。…なんか恥ずかしいな】
どもる。
先ほどまで快活にしゃべっていた幸嶋が、ここにきてどもりだした。
それも、気恥ずかしそうに。
「…なんなんだよ?」
五班の脱出機の中でそれを聞いていたイザベラが、首を傾げる。
なんで、急に恥ずかしがり出したのか?と。
答えは、すぐに分かった。
【…あー、最後だから言っておくわ。好きだぞ、イザベラ】
「………………………え?」
初めから強かったら、彼は火星には来なかったです。
というか、人類最強になんてなれませんでした。
次回、インペリアルマーズ。
『Dream 夢のような日々』
お楽しみに!