インペリアルマーズ   作:逸環

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愛:対象をかけがえのないものと認め、それに引き付けられる心の動き。また、その気持ちの表れ。


Dream Days 夢のような日々

幸嶋が小吉からスカウトを受けたのは、アネックス計画開始の2年前。

アメリカでのことだった。

いつも通りストリートファイトをしていたら、突然スーツ姿の(オスゴリラ)に声をかけられて多少なりとも戸惑ったのを覚えている。

 

 

《君がどれほど強いのか、知りたい》

 

 

男のその一言で、戦いは始まった。

その当時の幸嶋はすでに、『路上最強』と呼ばれて久しかった。

開幕でいきなりドロップキックを放つことで、たとえ避けられようとも『こいつはどう来るのかが分からない』という動揺を誘う目的も込めて。

しかし、小吉は冷静だった。

20年前、本当の意味で(・・・・・・)何をしてくるかわからないやつらを相手にしてから、訓練を続けてきた。

そんな小吉からすれば、高が開幕ドロップキック程度。

驚くに値しなかった。

冷静に、そう冷静に踵を振り上げて、振り下ろした。

『踵落とし』。

かつてこれを代名詞として人気を博しながらも、若くして病魔で亡くなった空手家もいた。

幸嶋からすれば、予想外もいいところだった。

受け身を取ったから落下ではそう大きなダメージはなかった。

しかし太ももが痛む。

もしかしたら、ひびが入っているかもしれない。

 

知らず、幸嶋の口角は上がっていた。

嬉しかった。

久しぶりに、まともな相手ができて。

 

 

《オオオオオオォォォォォォッッ!!!》

 

 

彼は、うれしかった。

 

 

 

《…その力を、俺に貸してくれないか》

 

 

コンクリートの上で倒れ伏す小吉が、幸嶋を誘う。

 

 

《…火星、そこに人類よりも強い生き物がいる》

 

 

幸嶋は、二つ返事で頷いた。

 

 

 

 

それからしばらく日数が経ったある日のこと。

合同の戦闘・捕獲訓練の時、彼は出会った。

 

 

《お前が路上最強か!ちょっと稽古つけてくれよ!》

 

 

朗らかに笑いながらそう言う彼女に、幸嶋は一瞬で心を奪われた。

運がいいのか悪いのか、これが彼の初恋だった。

ある意味ではよかったといえるし、ある意味では悪かったのだろう。

 

 

《…お、おう。いいぞ》

 

 

それまで戦い尽くめの生活を送ってきた彼にとって、その胸の高鳴りは初めての経験。

何をどうしたらいいのかは、分からなかった。

とりあえず、

 

 

《ほー、下半身が特に強化されるのか。じゃあ、ルチャ・リブレとか合いそうだな》

 

《お、ルチャか?アタシも知ってるぜ》

 

《マジで?じゃあ話が早えや》

 

 

自分の得意な分野から、距離を近づけようとは思ったが。

そしてその後も何度か会ったりする内に、

 

 

《イザベラー。近くでプロレスの公演あるから見に行かねぇかー?》

 

《お、いいな!行く行くー!》

 

 

一般的に言う、デートを自然にするようになっていた。

とはいっても、二人にそんなつもりはなく、友達同士で出かけるものだという認識ではあったが。

何せ幸嶋は男女間の交際に関しての知識が中学時代で止まっており、告白してからスタートだと思っていたし、イザベラはイザベラで仲のいい友達くらいに思っていたから。

お互いがサバサバした性格だということもあり、二人の関係が友人として深まっていくことはあっても、男女として自覚的に深まっていくことは中々なかった。

 

 

《…ねえ、イザベラって日米合同班の幸嶋君と付き合ってるって本当?》

 

《ハッ!?》

 

 

時折、同じ班のサンドラやレイシェルにミラピクスとの会話で意識させられることはあったが。

 

 

《いやいや!付き合ってないって!友達!ただの友達だから!》

 

《えー?デートももう、何回もしてるんでしょ?》

 

《お泊りもしたって聞いたわよ?》

 

《一緒に飯食いに行っただけだから!泊まったのもあいつが昔のプロレスの動画持ってるから一緒に徹夜で見てただけだから!!》

 

 

それを世間一般では付き合っているというのだが、本人たちにその意識がないためこうして否定していた。

それでも、顔の火照りは隠せなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな関係が続いている内に火星へと飛び立ち、今。

 

 

【好きだぞ、イザベラ】

 

「………え?」

 

 

通信機から聞こえてきた、幸嶋の告白。

一瞬、耳を疑った。

でも、それは間違いなく自分への告白だった。

理解した瞬間に頬が上気する。

そして、思い出した。

 

これは、遺言だと。

 

ボロボロと涙が溢れだし、通信機に拳を叩き付ける。

 

 

「ふざけんな!!アタシも好きだよ!この馬鹿野郎ッ!!」

 

 

何度も何度も、泣きながら拳を叩き付ける。

何度も、何度も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アネックスの通信室内で、煙草を吹かしながら幸嶋は通信をしていた。

告白したはいいものの、イザベラがどう反応したのかはわからない。

ただ、なんとなく泣いてくれたり、私も好きだとか言ってもらえれば嬉しいなとは、思っていた。

 

 

「おっと、そろそろか」

 

 

通信機が拾わない程度の声で、呟く。

そろそろ、中国班が到着することも、その感覚が訴えてきていた。

これが、本当に最後になるだろう。

 

 

「…お願いがあるんだけどもよ、皆に応援してもらいたいんだ」

 

 

通信機に向かって、最後の頼みをするために唇が動く。

一瞬の、間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「幸嶋!ボンバイエ!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっし、聞こえた」

 

 

 

 

 

 

 

 

本当は、聞こえてなどいなかった。

だが、届いた。

想いは、届いた。

 

扉へと近づき、手に持っていたものを振りかぶる。

時に、アネックスの武器庫には各隊員の専用装備の中で持ち歩けない物が保管されている。

その中でも、一際大きなものがそれ。

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォッッッッ!!!!!!!!!」

 

ドッゴオオォォオォォォオォォオオオォォォォッッッ!!!

 

 

横薙ぎに巨大なハンマーが振りぬかれ、扉のすぐ向こうまで来ていた中国班員をまとめて五人ほど叩き潰す。

その振るわれたハンマーは、

 

 

「…まあ、ハンマーもプロレスでよく使う凶器だわな」

 

 

マーズ・ランキング8位、ディートハルト・アーデルハイド専用装備。

『油圧式伸縮鎚 エレファント・ハンマー』

 

 

「テメエら全員!道連れにしてやるよ!!」

 

 

 

 




夢のような日々に終わりを告げ、求める先へと。

次回、インペリアルマーズ。
『Wrestling 憧憬』
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