インペリアルマーズ   作:逸環

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今回は特別編!
暗い話が続いたので、Ifストーリーです。
もしもこんな未来があったなら。
そんなことを、考えながら。


If もしもこんな未来があったなら

イザベラの朝は早い。

結婚してから毎夜欠かさない、夜のプロレスで寝不足の目をこすりながら台所に立ち、弁当と五人分の朝食を作る。

それが終われば、今度は洗濯。

毎日の家事は大変だが、これでも元本職のメイド。

手際良く済ませて行く。

そしてまだ寝ている子供たちを起こし、既に起きて薪割りトレーニングをしている夫に声をかける。

 

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

 

結婚5年目。

『幸嶋 イザベラ』の朝は、早い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、行って来る」

 

 

一家の中で最も早くに家を出るのは、大黒柱の夫。

玄関で電子タバコを咥え、ショルダーバッグを背負うこの男。

 

かつての『路上最強』、『幸嶋 隆成』。

 

現在はU-NASAで戦闘訓練の教官をしているこの男。

実は職が決まるまでが大変だった。

火星から帰り、今後のことを本気で考えたはいいものの、最終学歴は中卒、資格もなく取り柄といえば戦闘能力。

そんな男に一般的な就職先は存在しなかった。

ならばと格闘技の世界へと考えオファーをするも、「強過ぎて試合が組めない」と断られた。

最後に年齢を考えて選択肢から外していた、憧れのプロレス団体と考えたが、これから結婚するのに故障が付き物の業界に行くのは断念。

なお、プロレスはダメで格闘技が大丈夫な理由が、「自分を故障させられるほど強い奴がいない」というのがらしいといえばらしいが。

そんなこんなでU-NASAから『アネックス計画』で支払われた金でしばらく凌ぐかと考えていたところで、助けが出た。

そう、我らが頼れるオスゴリラ。

『小町 小吉』だ。

 

 

《火星へ行く、後進を育ててみないか?》

 

 

否は、なかった。

そうして得た職で食べて行ける様になった隆成とイザベラ。

二人が役所に届け出に行くのは、隆成の職が決まった翌日だった。

 

 

「おう、気をつけてきなよ」

 

 

行ってきますのキスと、行ってらっしゃいのキス。

これが結婚してから5年間変わらない習慣。

夫を送り出したら、今度は三人の子供たちの幼稚園のお迎え。

グズる末っ子をあやして送り出し、一息つく間も無く洗濯物を外に干す。

U-NASAから近い場所にあった庭付き一戸建て。

一戸建てにして良かったと、風になびく家族5人分の洗濯物をドヤ顔で見て思う。

一通り朝にせねばならない家事を終わらせ、コーヒーを淹れる。

クッキーをお茶受けに、一息。

 

 

「…あ、弁当忘れてるじゃん」

 

 

そこでようやく、テーブルの上に置かれている包みに気付いた。

とすると、普段着替えと弁当しか入れていないあのショルダーバッグには何が入っていたというのか。

今日は会議で着替えも持ってなかったはずだが。

まさか、空で出かけたのか。

 

 

「…しょうがない」

 

 

鞄に弁当の包みを入れ、鍵を取る。

職場から近い所に家を買って、良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、忘れ物」

 

「……おお!」

 

「おお!じゃないよ」

 

 

どうやらこの脳筋夫は、本気で弁当を置き忘れていたらしい。

U-NASAまで弁当を届けに来たイザベラも、流石にがっくりきた。

 

 

「…愛してるぜハ二ー?」

 

「違う。その言葉も欲しいけど、そうじゃないんだよダーリン」

 

「…おーい、二人ともー。寂しい独り身の前で、夫婦漫才はやめてくれるかなー?」

 

「ツッコミが遠いぞ、上司」

 

 

U-NASAの火星テラフォーミング課、戦闘部署。

その統括にまで昇進し、幸嶋夫婦の仲人までした小吉は、まだ独身だった。

実際のところ、本人に結婚する気がないためなのだが。

彼の亡き彼女が安心できる日は、まだ遠そうだ。

 

その補佐として籍を置いているミッシェルは、近々結婚するらしい。

相手は燈ということで、周囲も納得だった。

というより、今更かよという雰囲気が強い。

ちなみに、仲人は小吉がするそうだ。

 

 

「寂しいってんなら、結婚すりゃいいじゃないっすか。艦長なら選り取り見取りでしょうよ?」

 

「こんなおじさんにかー?」

 

 

ひとしきり満足したらしい隆成が会話に入ってくる。

火星から戻って5年。

まだ、彼の中では小吉は『艦長』だった。

 

 

「あんた言うほど老けとらんでしょう。良い加減奈々緒さん安心させましょうよ」

 

「そんなの言ったら、俺アキちゃん一筋だし」

 

「…なんであんたが霊感持たなかったかなぁー…」

 

 

隆成の視線が、小吉の背後に動く。

いる。

真っ赤にした顔を手で覆って隠している、20年以上前に亡くなった小吉の想い人が。

『秋田 奈々緒』がいる。

 

まあ、小吉はそんなことは知る由もないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、何がハニーだよ…。弁当忘れてたくせに…」

 

 

隆成の昼休憩が終わるのに合わせて帰宅し始めたイザベラだが、その口からは不満が流れている。

だが、その表情は悪いものではない。

普段は会えない時間に、夫に会えたから。

 

結婚して5年。

気が付けば子供は3人になった。

幸い、夫は何気に高収入だから家族六人になっても問題はない。

長女はなんか毎日隆成とトレーニングしてるし、長男はなんか何もないところを見たり話したりしてるし、末っ子は癇癪を起こすとなんかM.O.能力を発揮するが、可愛いわが子。

そんなことは、どうでもいい。

三人はこれからどんな風に成長するのか、楽しみで仕方がない。

 

 

「…まあ、アイツの子供ってところが不安なところだけどな」

 

 

というか、なぜここまで父親に似たんだ。

あの男の成育歴を考えたら、あまり似られると大変なことになるのが目に見えている。

いや、末っ子はリオックみたいだから私に似たんだろうけど。

そんなことを考えながら、歩く。

幸せな悩みだと、ほほえみながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうじき、家に着く。

そしてそれから少しして子供たちが帰って来たら、すぐに旦那も帰ってくる。

今日の夕飯は、フェジョンと白飯、それと豚のしょうが焼きにでもしようか。

ああ、ハンバーグも喜びそうだ。

足取りは軽く、心には希望が。

明日は、どんな良いことがあるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どんな幸せな未来が、あるだろうか。(もしもこんな未来が、あったなら。)

 

 

 

 

 




はい、というわけで、こんな未来があったならでした!
…本当、こんな未来につなげられたら……。


そしてこれに続き、誰得かは分かりませんが、ここで一度インペリアルマーズ、舞台裏の話です!
幸嶋のことについても絡んでくる話なので。

インペリアルマーズは、元々はしばらく小説を書いていなかったリハビリのために、単発企画で書いたものでした。
それが私が書いていて楽しくなってしまい、気が付けばもう30話を越える程に…。
インペリアルマーズがここまで続けられたのも、単ひとえに皆様のおかげです。
ありがとうございます!

さて、それぞれのキャラ誕生の裏話!
これが今回の本題です。
まずは我らのベビーフェイス、幸嶋です!

幸嶋は単発企画の時からの主人公ですね。
あの時はこいつ以外書く予定なんてありませんでした。
幸嶋を作るにあたって考えたことは、単純明快。
「誰よりも強く」です。
だって単発企画だったので、細かいこと考える必要がなかったんですもの。(
実は他のキャラたちがベースから考えてキャラ作りがされていった中、一人だけ骨格となる性質が先にできています。
連載していくにあたり、それ以外にも人間的な部分を継ぎ足していったことで、現在の幸嶋に。
最初の方に比べて、死ぬ間際の頃にはだいぶ人間が丸くなってました。
ベース選択は、硬く、強い生物ということで考え、ヤシガニになりました。
他の候補としては、それこそ男の子の憧れヘラクレスオオカブトとか、パラワンノコギリクワガタ、後はオランウータンとかもいましたねー。
最終的にヤシガニにして、良かったと思っていますが。
霊感設定は、彼の過去に影を落として人間味を出すことと強さを求める動機付けのためですね。
プロレスは単純に私が好きなことと、幸嶋のベースヤシガニの特性に基づいて、相性を考えた結果ですね。

はい、それでは本題の本題です。
なぜ、幸嶋が死ぬことになったのか。
簡単に言えば、「強過ぎた」こと、「話を面白くするため」。
この二点に付きます。

連載前の時点で、幸嶋が『人類最強』というのは確定していました。
そして原作で中国班が暗躍していくに当たり、確実に対抗でき、原作以上にダメージを与えられ、尚且つそれまでの過程が不自然ではない人物。
全てを満たしたのが、幸嶋でした。
この時点で幸嶋の突撃は決まりましたが、まだ死ぬことは決めていませんでした。
しかし、より格好良く、より幸嶋らしく、と話を考えていくと、私の手を離れて勝手に動いていく幸嶋。
気が付いた時には、私の頭の中の幸嶋は倒れていました。
これを考え直さないで、展開していくことを後押ししたことが、「幸嶋が強過ぎること」。
実質勝てない存在がない幸嶋の相手は、それこそシーザーや細菌といった、規格外しか当てられないという、制作サイドの理由が後押しとなりました。

以上が、インペリアルマーズにおける幸嶋の舞台裏です。

個人的にも愛着が湧いていただけあって、最後のあたりを書くのが悲しかったです。
そんな幸嶋が幸せになった未来。
そんな物が書いてしまいたくなった結果が今話。
もしもこんな未来があったなら。
そんな思いを込めて書きました。

では、また次回から本編です。
これからも、インペリアルマーズの展開をお楽しみに!
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