インペリアルマーズ   作:逸環

35 / 73
さて、今回からは奴の出番です。


Hypnos 芥子

「急げ!すぐに無菌室へ将軍を連れていくんだ!スズメバチの解毒剤も用意しろ!!」

 

 

室内にジェットの怒号が響き、班員たちが行動する。

呼吸器や血清を持って来たジェットが見た物は、爆とドルヂバーキの死体。

そして辛うじて息はある劉と、眠りについた幸嶋だった。

友人たちの死に胸を痛めるも、軍人として即座に必要な判断を下して、班員たちへ通達した。

 

 

「…クソ!やってくれたな…ッ」

 

 

状況が最悪というわけではない。

しかし、現場における最高責任者が使い物にならなくなったのは痛すぎる。

タコの柔軟性で攻撃の威力を緩和させることで死ななかったのは良い。

それでも、傷病兵は足手まといでしかない。

現状、指令を出す立場はジェットに移っている。

だが、どうする。

 

 

「…まずは紅だ!紅を呼んで隊列を組み直す!その間に他の面子は通信室で何かされてないか調べるぞ!!」

 

 

今できる最善をするしかない。

幸嶋の亡骸を跨いで超え、通信室へと入る。

 

 

「ッ!?…そういうことか」

 

 

そこで、ジェットは目にした。

幸嶋があれ程短時間で武器庫から通信室まで来れた理由を。

 

通信室の壁にあいた大穴と、ひしゃげて壊れきった幸嶋の専用装備。

巨大ボルトカッター、『スミス・サウンド』の残骸がそこにはあった。

 

単純なことだった。

ただ、一直線のルートを作っただけ(・・・・・・・・・・・・・)だった。

思えば、幸嶋の薬が切れたときのこと。

なぜ、ストックがなかったのだ。

到達時間から想定できる戦闘回数から考えれば、まだ薬は残っていたはずなのに。

使っていたのだ。

巨大で鈍重なハンマーを引きずり、ボルトカッターで壁を壊す膂力を得るために。

薬の効果が一回の服用で持続する時間は、その時の体調やメンタルに左右されるが数分から十数分。

 

だからこそ、あの時薬が切れた。

 

 

「…敬意は示す。だが、それだけだ…」

 

 

それだけ。

あとは、仕事の時間。

通信装置の端末を操作し、どのような操作がされたのか履歴をたどる。

 

 

「………よし、どうやらあの通信だけだったようだな」

 

 

幸い。

そう、中国班としては幸いなことに、幸嶋が行った操作は火星にいるメンバーたちへの通信だけ。

あの遺言だけだった。

機械のスペシャリストではない幸嶋には、それが精一杯だった。

自らの意思を、(のこ)すことだけが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、

 

 

「大変だジェット!紅ちゃんが攫われてる!!」

 

「…なんだとッ!?」

 

 

動くのは遺された者たちだけではない。

駆け込んで来た、死んだはずの(・・・・・・)爆。

その男の報告に、ジェットはただ、驚くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、ざまぁねえなあ。脳筋どもは〜」

 

 

アネックス本艦から数キロ単位で離れた地点で、一台の車両が飛行していた。

そこに、二人はいた。

 

 

「あ…あは……あはは…」

 

 

一人は、渦中の紅。

ただし、その表情は明らかに異常だ。

半開きの口からは唾液が垂れ、不自然な笑みを浮かべるその目には光がない。

 

 

「いやはや、まったく大変だったぜ〜。でも、おかげで首尾よくサンプル(・・・・)は確保できた〜」

 

 

もう一人は、その表情を伺うことは難しい。

なぜなら、マスクをしているから。

中国班が紅の毒から身を守るために用意した、戦闘用防御甲冑『マン・イン・ザ・シェル』。

それをかつて人気を博した映画のキャラクターの装備を参考に作り直した、特別な攻性防御甲冑(・・・・・・)

その名も、『プレデター』。

これは、ある男の専用装備として、極秘に用意されたもの。

 

その男は、イギリスから中国にスパイ活動のために送り込まれた、エージェント。

全ての経歴が嘘で塗り固められた、偽りの存在。

 

そのベースは、かつて大国を内から蝕みボロボロにした悪魔。

戦争を引き起こした切っ掛け。

 

 

「…さあ、後は女王陛下のもとへ帰るだけだ」

 

 

パーソナルネーム、『廈門(アモイ) (チュン)』改め、『ハリー・ジェミニス』。

ベース名----------

 

 

 

「…あ…あはは……」

 

 

 

----------『地獄の快楽(ケシ)』。

 

 

歴史は、繰り返される。

 

 

 

 

 

 

ハリー・ジェミニス

34歳 男性 イギリス

中国第四班 非戦闘員

手術ベース:ケシ

マーズ・ランキング:77位

瞳の色:深緑

血液型:AB型

誕生日:5月26日(ふたご座)

好きなもの:イギリス女王・ジャッキー映画

嫌いなもの:火がちゃんと通っていないフィッシュ・アンド・チップス

 

MI6に所属する諜報員。

先祖は香港がイギリス自治領の頃に渡英した人物で、そのためモンゴロイド系の顔をしている。

普通の家庭に育つも、就職する過程で気付けば諜報機関にいた。

そこで才能が発掘され、イギリス屈指のスパイに。

中国の動向監視と開発されている新手術方式を探るために潜入。

信用を得るために中国人としての仕事をキチンとこなしていたら、火星メンバーに選ばれた。

自身のM.O.手術は英国で行っており、中国で火星出発前に手術をするとなった段階では、書類を偽装して中国国内で行ったと誤魔化した。

 

 

 

 




題名のヒュプノスは、ケシの汁を集めた眠りの神。
はい、そのまんまですね。

スッカリ影が薄くなり消えていた彼、裏でこんな機会を狙っていました。
謀略は、中国だけの専売特許じゃないんです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。