インペリアルマーズ   作:逸環

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今回は場面が変わって、地球になります。

では、どうぞ!


Reconstruction of the British Empire
Seth 茶色雀蜂


「…火星には、今頃到着した頃合いかな?」

 

 

アネックスが火星に到着したその日、地球では会議が行われていた。

各国のトップが集まり、各国の投資や技術提供によって実現したアネックス計画。

その火星到着第一日目として。

だが、集まったトップたちの内、本当の会議(・・・・・)に参加できるのは、僅か六名。

日本、アメリカ、ローマ、ドイツ、ロシア、そして中国。

このアネックスのオフィサーを要する六カ国だけが参加できる会議。

アネックス計画の全ては、この六カ国によって決められているも同然だった。

 

では、他の国はどうしているのか。

もちろん、会議をしている。

正確には、していた。

会議が終わったのはつい先ほどのこと。

主要六カ国の会議が終わるまで帰れないため、控え室にいるのだ。

 

 

「お疲れ様、首相」

 

「おつかれー」

 

「二人も、お疲れ様」

 

 

この男、イギリス首相『キース・ハワード』もその一人。

その控え室には、二人の女性がいた。

二人はキースの愛人…ではもちろんない。

二人は今回、キースの秘書としてこの場にいる。

片方はストロベリー・ブロンドの珍しい髪色をした、『ルクス・アスモール』。

片方は銀色の髪色という、これまた珍しい髪色をした『ウェル・ハニーラビット』。

 

 

「ハリーの奴は上手くやってくれてるかな?」

 

「さあねー?」

 

「昨日の報告だと、順調みたいだよ」

 

 

この男、キースこそが四日後に火星で紅を拉致するイギリスのスパイ、『ハリー・ジェミニス』に命令を下し、中国に送り込んだ張本人。

イギリスという国家の暗躍の、総元締め。

 

 

「さて、二人とも。さっそくだけどお願いしようか」

 

「あら、せっかちさんねー。そんなに待ちきれないのかしら?」

 

「ルクルク、言葉のチョイス考えて」

 

 

軽口を叩きながらも、ルクスとウェルが薬を用意し服用する(・・・・・・・・・)

そう、この会場にはいる。

日本国総理、『殺されない政治家』こと『蛭間(ひるま) 一郎(いちろう)』のような、かつての『バグズ手術』被験者ではなく。

『M.O.手術』被験者が、いる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議場の一室。

そこそこの広さのあるその部屋には、10人ほどの人々がいた。

 

 

「全員、準備はいいな?」

 

「もちろんだとも、兄弟」

 

 

『M.O.手術』被験者は、会場の中にいる。

それは、何もイギリスだけのことでも、各国におけることでもない。

 

 

「この作戦は、非常に難易度が高い。しかし、我々なら絶対に成し遂げられる」

 

 

その部屋にいた人間たちは、人種も宗教も性別も年齢も服装も違う。

一人は白人の男性で清掃業者の格好をしており、一人は黄色人種の男性でスーツ姿、一人は黒人の女性で調理員の白衣姿などなど。

全てがバラバラだった。

そんな彼らに唯一、共通点がある。

それは、全員がフランス国籍を取得した軍人であるということ。

『フランス外人部隊』。

それが彼らの所属する部隊の名前。

世界中を見渡しても、異質と言えるフランスという国家独自の部隊。

その部隊は他国籍の人間をフランス軍兵士として募集し、採用、陸軍に軍属させる。

また、将校以上はフランス国籍の持ち主のみというシステムでできている。

つまり、この10人はそれぞれ全員が元々は別々の国から集った人々。

しかし、過酷な訓練や任務を経て築かれたその絆は、非常に強固。

また、武器の類を持ち込めない会議場内にて、最大限の戦闘能力と任務遂行力を果たせる、『M.O.手術』被験者である彼ら。

その目的は、任務は何か。

 

 

「…上位六カ国、その内の同盟国であるロシアと中国を除いた四人で良い。四人を暗殺し、我らが祖国が世界の主導権を握るんだ……!」

 

 

先に挙げた、アメリカ、ドイツ、ローマ、日本、ロシア、中国。

今現在会議を行っている、世界の主導権を握っている六カ国のトップのうち四名。

アメリカ大統領、ドイツ首相、ローマ連邦大統領、日本国総理大臣の四名を、テロ組織の仕業に見せかけて暗殺すること。

それが彼らの目的(任務)

その後の騒動を速やかに鎮静させ、リーダーシップをとり世界の主導権を握る(新たな五カ国の中に入る)ことは、政治家たちの仕事だ。

いったい、こんな杜撰なシナリオを誰が考えたのか。

だが、シナリオが杜撰であろうとも、キャストがそれを補い傑作にすることもできる。

もし、作戦が失敗して自分たちがフランスと繋がらないように、フランスに借りのある立場の弱い国家たちの護衛として、この会場に入った。

薬も、しっかりと持ち込めた。

もちろん、身体検査と持ち物の検査は行われた。

だが、問題なく通過できた。

なぜなら、薬だから。

昆虫型用や鳥類型用の薬液は、糖尿病患者が使用するインシュリンの注射器に入れて持ち込んだ。

その他の薬も、市販薬と同じ包装をすることで持ち込んだ。

準備は万端。

後は作戦を遂行させるだけ。

 

 

「…よし、作戦開始だ」

 

「ああ、やっぱりここだったか。彼女たちの感覚も確かなものだな」

 

「「「「「「「「ッッッッ!!!??」」」」」」」」」

 

 

そのはずだった。

ごく当たり前のように、その男がその部屋の扉を開けて入って来るまでは。

イギリス首相、『キース・ハワード』が来るまでは。

 

 

「…ど、どうされたんですか?こんなところにいらっしゃって…」

 

 

部隊長が何も知らない風を装い、右手の袖にインシュリン用の注射器に偽装した薬を隠しながらキースに近寄り声をかける。

相手はターゲットではないとはいえ、作戦遂行後の自国の敵(権力抗争の相手)になるであろう人物。

さらには、自分たちが集まっていることを知られてしまったのがまずい。

有体に言えば、ここで殺さ(口封じし)なければいけない人物になっている。

 

 

「いや、なに。私の優秀な秘書たちが良い仕事をしてくれてね。不穏な『声』があることと、そいつらの『熱源』が固まっていることを教えてくれたんだよ」

 

「…『声』と…『熱源』…?」

 

 

部隊長には、その言葉の意味がよく分からなかった。

ここ(会場)に、そんなものを調べる機器はなかったはず。

持ち込むこともできなかったはずだ。

 

 

「……まさか…ッ」

 

 

いや、一つ方法ならある。

自分たちもそうなのだから(・・・・・・・・・・・・)

 

 

「M.O.能力か…ッ!!」

 

イグザクトリィー(その通り)

 

 

『ウェル・ハニーラビット』の手術ベースは、『ロップイヤー』。

垂れた耳が可愛らしいウサギだが、やはりウサギらしく聴覚がずば抜けていい。

その耳が、外人部隊の密談を察知した。

 

『ルクス・アスモール』の手術ベースは、『イースタン・インディゴ・スネーク』。

ナミヘビ科の蛇であり、毒性は持たない。

その代り、熱センサーである『ピット器官』を持っている。

これで、外人部隊の位置を特定した。

 

今、二人はイギリス首相の控室にいる。

もっと具体的に言うならば、ソファの上でルクスがウェルを押し倒している。

 

 

「だ、ダメだよルクルク!こんなところで…!」

 

「こんなところだから、燃えるんじゃなーい」

 

「ダメだって!人来たら恥ずかしいよ!」

 

「見せつけちゃいましょうよ。…ウェルの可愛いと・こ・ろ」

 

「ダメ…ひゃあああんっ!?」

 

 

ソファの上で、押し倒している。

 

そんなことは知らない部隊長は、判断した。

この場で、確実に殺さなければならない、と。

 

 

「困るんだよなぁ。お前たちみたいな連中に、私の計画をご破算にされかねないだなんて」

 

「知ったことか!『人為変態』!!」

 

 

注射器を即座に打ち込み、部隊長の肉体が変異していく。

怪しく光る甲殻、肥大化する前腕、服が弾け筋肉の塊のような肉体が露わになる。

 

その生態は、甚だしく異質。

性質、狂暴。

定住する巣を作らず、群れで行軍しその進行上に存在するあらゆる命を捕食するそれ。

 

命を飲み込む大河(グンタイアリ)』。

それがフランス外人部隊部隊長、『マリアン・ヴィクトル』の手術ベース。

 

 

「ヌリャッ!!」

 

 

肥大化した前腕から生える、グンタイアリの鎌のような顎がキースの首を狩らんと動く。

生身の人間であるキースでは、確実に致命的である一撃。

 

 

ガキィンッ!

 

 

「な…に…?」

 

「…フッ」

 

 

しかし、それはキースの『右腕』に防がれた。

生身の肉体に、防がれた。

 

 

「どういうことだ…!?」

 

 

マリアンの驚愕。

だが、その理由はすぐにわかった。

破れたキースのスーツの袖。

そこから覗く、機械を見て。

 

 

「義手か!」

 

「イグザクトリィー。これでも昔はMI6にいてね。負傷した際に取り付けたんだが…」

 

 

見せ付けるように右腕を掲げ、言う。

 

 

「これが中々調子が良い」

 

「…ッ!なめるな!!」

 

 

マリアンがキースの脇を掻い潜り、退路を塞ぐ。

彼一人ではないのだ。

 

 

「カカカ!!俺もいかせてもらうぜェ!大将!!」

 

 

隊員の一人、『レナルド・バルザック』がシート状の薬を使い、変態する。

 

陸上最速の生物は何か。

そう問われた時、大多数の人がこの生物を挙げるだろう。

時速110キロ、最速のスプリンター。

 

地上最速(チーター)』が、彼の手術ベース。

 

そのベースの能力そのままに、一瞬で間合いを詰めキースに襲いかかる。

もちろん、襲いかかるのは一人だけなわけがない。

 

 

「援護するよ!」

 

 

粉末状の薬を吸入し、変異する黒人女性『クロティルド・ボナ』。

 

闇を切り裂く雷神(デンキウナギ)』。

それは火星で戦う、『アドルフ・ラインハルト』の手術ベース。

その能力は、『発電』。

最高電圧800ボルトにも及ぶ、強力無比な特性。

発電する生物は、限られた種類だが他にも存在する。

例えば、『オリエントスズメバチ』。

この種はハチながらも、太陽光発電をする。

 

その生物は、淀みに潜んで生きる。

体表を紫電で覆い、最大350ボルトの電流でもって獲物を捕食する。

その存在は、古代エジプト時代より知られていたほど。

 

地を揺るがす雷霆(デンキナマズ)』。

それが彼女の手術ベース。

 

クロティルドが厨房から持ち出した包丁を、前を走るレナルドに当たらない軌道で投げ付ける。

レナルドと包丁、僅かにレナルドの方が速くキースに辿り着く。

 

 

ドスッ

 

「…え?」

 

「…やれやれ」

 

 

それが、マズかった。

レナルドの攻撃の瞬間、キースが左腕で(・・・)レナルドを捉えて持ち上げることで、包丁を防げたのだから。

いや、正確に言うならば違う。

 

 

「…ガハ……ッ!」

 

「ああ、言い忘れていたな」

 

 

キースの変異した左腕から生える巨大な針が、レナルドを突き刺し持ち上げたのだ。

 

 

「『人為変態』」

 

 

かつて20年前、一人の男が愛のために当時最先端の『バクズ手術』を受けた。

その男は今、アネックス1号の艦長となっている。

その男の手術ベースが、『圧倒的武力制圧(オオスズメバチ)』。

獰猛な気性に加え、激しい攻撃性と強力な攻撃力を持つ恐ろしいハチ。

だが、その同族にいる。

オオスズメバチの顎を、針をものともしない強靭な外殻を持ち、同族であるキイロスズメバチやモンスズメバチの(社会)を奪い取るスズメバチ界きっての異端。

 

玉座の簒奪者(チャイロスズメバチ)』。

 

 

「さあ、私のために死んでくれ」

 

 

簒奪者の計画に、邪魔は許されない。

 

 

 

 




オシリスを殺し王位を簒奪したセトが、今回のタイトルになりました。

はい、というわけで戦える首相『キース・ハワード』でした。
どのようにして薬を使用したのか、彼の目的は。
火星で紅を拐ったハリーの行動にもつながる地球編、2、3話を目安にやっていきたいと思います。

次回の展開も、お楽しみに!
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