インペリアルマーズ   作:逸環

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作者のロマン回です。

どうぞ!


Extinct Species 古代の因子

「…ふむ、なるほど。中々に厳しいな」

 

 

掴まれたキースの左腕。

よほど強い力で掴まれているからか、その腕が動くことはない。

 

 

「仲間たちはまだ目が回復していないようなのでな、僭越ながら私がお相手させていただこう」

 

「悪いな。申し出は嬉しいのだがそれは…断らせてもらおう!!」

 

 

足の力も腕の力も、スズメバチの膂力を全て使って後方に跳び、腕を振り払おうとするキース。

床にはへこみが生まれ、その力の強さが窺えるというもの。

だが、

 

 

「そうつれないことを…言うな!」

 

 

ヴァンサンの指の腹から細く鋭い牙が現れ、サメの顎の力そのままの握力でチャイロスズメバチの甲殻に突き刺さる。

そして、ここからがミツクリザメの特徴。

キースの腕の移動に合わせ手が、否、それはもう顎。

顎が引き出され、食らいつき続ける。

 

 

「な…ッ!?」

 

 

ミツクリザメに限らず、サメの仲間は顎を引き出すことによって、より確実に獲物を捕らえるという機能がある。

ミツクリザメは、それがより顕著。

他のサメが口の中程度に収まるのに対し、顎を前方に突出させる。

 

 

「フッ!!」

 

 

キースの左腕を掴んでいたヴァンサンの右手。

そしてその反対の左手からも細く鋭い歯が現れ、キースの顔面を狙う。

顔面にあるものは、甲殻で覆われていない眼球、鼻腔、口腔。

いずれも神経が集まっている場所であり、ここを攻撃されると甚大な痛みに襲われる。

が、それだけではない。

眼球は視覚の、鼻腔は嗅覚の、口腔は味覚および触覚の受容器であり、そこを傷つけられるということは五感の一部を欠損するということ。

特に視覚を失うという事態は、この状況では最も避けなくてはいけない。

 

だが、防ぐことはできない。

右腕、つまり義手は上腕だけ。

足は後退するために重心が後ろに傾いているため、蹴りだせない。

防ぐ手段がない、避ける手段もない。

 

 

「死ね」

 

 

迫るサメの牙。

それがキースに触れる、まさにその瞬間。

コマ送りの様にゆっくりと流れる視界、その中。

 

 

 

ゴッ!!

 

「カ…ッ……ハ…………ッ?」

 

 

義手の残っていた部位を押しのけてチャイロスズメバチの脚が生え、ヴァンサンの腹部を殴りぬいた。

その勢いに押され、吹き飛ばされるヴァンサンの体。

何が起きたのか。

それは今のキースの姿が物語っている。

 

昆虫の複眼となった目、チャイロスズメバチの脚が生えた右腕、より厚くなった甲殻。

 

 

「…一国の首相をなめるなよ…?小僧……」

 

 

薬の過剰摂取。

それによって、よりチャイロスズメバチに近づいたということ。

だが、そのために必要な薬はいつ投与されたのか。

それは、抜け落ちた義手が語っていた。

義手と腕の接合面、そこから覗く物を、ようやく視界が戻ったマリアンの目が捉えた。

 

 

「…そこだったのか……!」

 

 

それは、針。

義手の上腕部に仕込まれていたそれは、昆虫型用変態薬の注入装置。

神経系に接続して、まるで本物の腕の様に動く義手。

そのシステムに組み込まれていた、その薬品注入機構。

それが予備動作なしでキースが変態できていた理由。

 

 

「我が国自慢の品だ。中々だろう?」

 

「グフッ!?」

 

 

その事実に気付いたマリアンに、キースが口の端を歪めた獰猛な笑顔で声をかける。

最も近くで光を直視してしまったせいでまだ視覚の戻っていないオーギュスタンに、スズメバチの毒針を発射して仕留めながら。

これで、一対七。

 

 

「ああ、私の心配はしてくれなくて大丈夫だ。我が国の優秀な化学者たちは、この状態から人間に戻るための薬を作っている」

 

 

『バグズ手術』、『M.O.手術』の欠点である薬の過剰摂取による人間からの解離。

人間と手術ベース生物のバランスを崩して変態するのなら、そのバランスを人間に戻してしまえば元に戻れる。

それを実現したのが、イギリス。

限界が訪れる前に薬を摂取しなくてはいけないが、薬の過剰摂取によるリスクはこれでだいぶ削減された。

 

 

「さあ、かかってこい、小僧ども」

 

 

暗殺者たちの前に立つ、簒奪者。

人ならざるその姿は、畏怖を起こさせるには相応しいもの。

 

 

「…俺が仕留める!お前たちは援護しろ!!」

 

「「「「「「…サー!イエッサー!!」」」」」」

 

 

マリアンが号令をかけ、決死の覚悟でキースへと立ち向かう。

グンタイアリの力、そして人間の技術全てを駆使してキースを仕留めるために。

キースの顔を狙って放たれる、ズグロモリモズの毒が塗られたヤマアラシの針に、胴体を狙って飛ぶクロティルドの投げた包丁。

そして、突撃してくるマリアン。

 

 

「隊長自らか!!」

 

 

それを迎え撃つため、マリアンに向きなおるキース。

その右側からはヤマアラシの針が迫る。

これは体をかがめば回避ができる。

後ろから来る包丁は、脇に避けてしまえばいい。

実際にその通りに行動し、マリアンを迎撃する体勢を整えたキース。

 

 

「ッ?!」

 

 

だが、咄嗟に身を屈めたまま横っ飛びをする。

薬の過剰摂取によってセンサーとして強化された触角が、それを教えた。

つい一瞬前まで自分がいた場所を通り過ぎる、赤い弾丸の存在を。

そして、脅威はまだ過ぎ去っていなかった。

 

 

「シッ!!」

 

「ヌォォッ!?」

 

 

突如視界の外から回り込むようにして迫ってきた蹴り。

それを腕をクロスすることでガードするも、吹き飛ばされ壁に叩き付けられる。

チャイロスズメバチの外骨格が非常に強固でなければ、おそらく今ので死んでいたであろう一撃。

 

 

「…ふむ、今のを避けるか」

 

「なんだよォォォォッッ!!オッサンまだ生きてるじゃねぇかァァァァァァッッッ!!!」

 

 

今の攻撃をした二人の男女が、それぞれ感想を述べる。

男の方は片目から流血をした白人。

その体は、茶褐色の鱗に覆われていた。

女の方は強靭な筋肉を纏った鳥の脚に、獰猛な目をした黒人の女性。

 

そう、マリアンの宣言、三人の攻撃。

その全てが今の攻撃のための陽動。

そもそもマリアンの号令自体が、この行動を指示するための符牒だったのだ。

 

壁に吹き飛ばされ、ダメージを負ったキースは考えた。

男の方の手術ベースは、大方の予想がつく。

だが、女の方は?

想像できる範囲で、それに該当する生物は何種類か存在する。

だが、その生物たちでは説明できない物がある。

それは、彼女の狂暴性。

人間性とは思えない、あの獰猛な目つき。

変態時、その手術ベースの気性も反映されることは多々ある。

恐らくはそれなのだろうが、それでは想像できる生物にあの様な生物はいない。

 

…いや、もっと正確に言えば、現生する生物には存在しない。

では、過去(・・)には?

 

…いた。

既に見ることはできないその生物は、確かにいた。

 

 

その生物は、特異な能力を持っていた。

硬い鱗の鎧を纏ってなお、自身を脅かす天敵から身を守るための能力を。

眼球に圧力をかけ、天敵の嫌う成分を含んだ血液を飛ばすという、世にも奇妙な能力を持っていた。

もしも、その能力を人間大にして、より高圧をかけ、より多量に噴出させればどうなるか。

人体程度なら容易く穿つ、血液の弾丸となる。

 

緋の弾を放つ狙撃手(サバクツノトカゲ)』。

それが男の、『フェリシアン・ラジアー』の手術ベース。

 

 

その生物は、既に地球のどこからも姿を消している。

恐竜が大地を去った後地上を支配した、翼の代わりに強靭な脚を得た鳥。

気性は甚だしく獰猛で、付けられた分類は『恐鳥類』。

大地を駆け、地上で最強の力を持ちながらも哺乳類の台頭により絶滅した生物。

 

亡国の支配者(ディアトリマ)』。

それが彼女の、『コゼット・アントナ』の手術ベース。

 

 

フランスという国家で研究されていた、一つのプロジェクトがあった。

その内容は絶滅した生物、それも化石しか残らない古生物を比較的近縁の現生生物のDNAを操作して再現するというプロジェクト。

それが形を成した時、そのプロジェクトも成立した。

 

(エクティンクト)(スピーシーズ).M.O.手術計画』。

それがプロジェクトの名前。

そして、新たな手術様式の名前。

 

太古の因子が、牙を剥く。

 

 

 

 




とうとう出ました古代生物ベース。
厳密には、それに近似した生物ですが。
でもディアトリマなんです。
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