水は、生物が生存する上で必要不可欠となる物質だ。
クマムシという生物がいるが、これは身体から水分を放出することで仮死状態となり、あらゆる環境にあっても生き残ることができる。
しかし、仮死状態は生きているというわけではない。
僅かな水分で元のように活動するが、それは生物種としてその必要があるからだ。
水がなければ、生物は生きれない。
「よし、ここで水を補給しておくぞ」
火星には本来、水はなかった。
しかし、大量の氷とドライアイスはあった。
ゴキブリと苔によって温暖化が進められた今の火星には、氷が溶けたことによって生まれた水がある。
窪地には水が溜まり、今では湖を形成するほどに。
日米合同第二班班長『ミッシェル・K・デイヴス』は、そうしてできた湖のそばに脱出艇を停めた。
生物が生存し、人間が日常生活を送る上で不可欠な、水を。
しかし、そこには既にいた。
「じょうじ」
20匹以上のテラフォーマー。
脱出艇の外には、それだけの脅威が存在していた。
当たり前といえば当たり前だ。
テラフォーマーも生物。
水は、必要な物資なのだ。
「燈はそっちの数体を。晶とアレックスは脱出艇の護衛だ。…できるな?」
「もちろんですよ班長!終わったら燈君をつまみ食いしちゃって良いですか!?」
「どうやら私は、ゴキブリの前に班員を駆除しなくてはいけないらしいな」
「ごめんなさい!」
そんな危機的状況下で、ミッシェルは平然とし、ミッシェルと同じ女性隊員の『牧瀬 晶』は終わった後のことを考える。
良くも悪くも浴衣が似合う日本人的な体型に、黒い髪をポニーテールにした彼女は結構なイケメン好きだ。
よって、微妙にイケメンな『膝丸 燈』や『アレックス・スチュワート』のことを狙っていたりもする。
彼女の飄々とした性格に、宇宙艦内だけという閉鎖された環境の中でどれだけ救われただろうか。
そして、それ以上にどれだけの恐怖を味わっただろうか。
それは、既婚未婚問わない彼女の行動には、幹部たちも標的になったこともあるほど。
「さて、すぐに終わらせるか」
牧瀬を止めたミッシェルが、首筋に注射器型の薬を打つ。
見る見る始まるその変態は、昆虫特有の姿となった。
そして、一体のテラフォーマーと四つ手になる。
本来なら、いくら『M.O.手術』を受けたところで危険でしかないこの状況。
しかし、彼女は世界で2人しかいない、『生まれつきM.O.能力を持って生まれた人間』その片方。
彼女は、バグズ2号艦長の娘。
その継承した能力は、
「ラァッ!!」
頭突き一発でテラフォーマーの顔がひしゃげ、崩れ落ちる。
継承した能力は、自重の幾十倍の物を持ち上げ運ぶ、蟻の筋力。
世界最強の蟻、『
そしてもちろん、彼女の能力はそれだけではない。
もって生まれた能力だけではなく、もう一つ。
『M.O.手術』によって得た、彼女の力。
ゴ…ッッ!!
彼女の拳が、足が、同時に四体のテラフォーマーを捉える。
三体は脳を、食道下中枢神経節を打ち抜き、その身体の機能を停止させる。
が、一体は生き残り、用済みと後ろを向いたミッシェルに棍棒を振り上げた。
「ミッシェルさん!!」
膝丸が叫び、その顔から血の気がうせる。
しかし、心配は無用だった。
ボンッ!ボボボッボボンッ!!
テラフォーマーの顔が爆ぜ、絶命したから。
これが、彼女が手術を超えて手に入れた能力。
揮発性の物質を溜め込み、『自爆』する蟻。
『バクダンオオアリ』の力。
これが、日米合同2班班長、『ミッシェル・K・デイヴス』の強さ。
「…班長、強ぇ」
脱出艇を守るアレックスが、ポツリと呟く。
20数体のテラフォーマーが、一切適わず1人に駆逐されていくのだから当然だ。
彼は今、ミッシェルの戦いに魅せられていた。
ゆえに、上からの接敵に気付けなかった。
バガンッ!!
と、脱出艇のフードを揺らしながら、遥か上空から着地してきた生物。
それは、確かにテラフォーマーだった。
唯一つ、他の個体に比べて下半身が異様に発達していることを除けば。
それは、盗まれた技術によるもの。
『バグズ手術』、『サバクトビバッタ』の能力。
「じょうじ」
脱出艇の上から、アレックスを、牧瀬を見るテラフォーマー。
「気持ち悪い害虫が!あたしに見るなぁッ!!」
それに過剰に反応したのは、牧瀬だった。
いつの間にかガム状の薬を摂取し変態を遂げた彼女の身体は、四肢、特に腕が延長し、無数の節があるワインレッドの甲殻に覆われていた。
その節ごとに関節が存在するのか、四肢がテラフォーマーの肉体を這いずって絡めとり、自由を奪いつくしていく。
テラフォーマーが振りほどこうとするも、頑健に、そして確実に自らを固定するそれを破ることができない。
自分の持つ最大で最高の武器である『サバクトビバッタ』の脚力ですら、足を動かすことすらできないため機能しない。
「…ムカデ…か?」
アレックスは、その生き物に見覚えがあった。
世界中のどこにでも生息し、太古の昔からその姿を変えていない生き物のことを。
ダーウィンの進化論では、生物は環境に応じて進化するとしている。
では、遥か太古の昔よりその姿を変えない生き物は、その姿こそを究極系としているのではないだろうか。
ゴキブリよりも、もっと昔から地球で息づいてきたそれが、彼女の手術ベース。
『ペルビアンジャイアントオオムカデ』。
現存するムカデの中でも最大種であり、大きい個体では40cmにも達する。
気性は激しく獰猛。
攻撃性が非常に高く、小型の昆虫や時に鼠や蛇なども捕食する。
その牙はムカデでありながらもプラスチックケースであれば噛み砕く力を有し、毒を放つ。
ムカデの毒は極度の痛みを発し、そして蛋白質を分解する。
その力が、人間大にまでなったとしたら。
「イケメンになってから…、出直してきなさいッ!!」
手の甲にあった牙を、テラフォーマーの胸部を狙って振りかぶる。
そして牙は穿たれ、毒が注がれた。
牧瀬 晶
18歳 女性 日本
日米合同第2班戦闘員
手術ベース:ペルビアンジャイアントオオムカデ
マーズ・ランキング:50位
瞳の色:黒
血液型:B型
誕生日:9月1日(おとめ座)
好きなもの:イケメン
嫌いなもの:ゴキブリ
モデル体型で大人びた顔なので成人していると思われがちだが、まだ未成年。
好きなものはイケメンであり、たとえ微妙にイケメンでもいける。
艦長にコナをかけて、3日程シーラと対立したことすらある。
ロシア3班のイワンに声をかけたときは、赤くなって倒れられたという。
なお、ヨーロッパ・アフリカ六班のジョセフ班長は確かにイケメンだが、何か違うらしい。
本来ならマーズ・ランキングもより上位に入れる実力だが、ゴキブリが嫌いなため試験や審査で手を抜きまくり逃げまくった結果、今のランクに収まった。
Dカップ。
タイトルのヘカトンケイルとは、百の手を意味し五十の頭に百の手の巨人です。
ムカデは百足と足ですが、百繋がりでこうしました。