インペリアルマーズ   作:逸環

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神は奇跡を起こす。
例えそれが、ヒトを脅かすものだとしても。

というわけで、どうぞ。


Past Looming 過去が迫り来る

「ん~、この分なら、半分にまで短縮できるかな~?」

 

 

火星の空で、ハリーが計器を見ながら呟く。

当初予定していた四日間という時間は、テラフォーマーや山脈などの障害物を回避した場合の値。

障害物は飛行すれば上空を通って回避できる。

テラフォーマーは紅がいれば問題なく殲滅できる。

その諸々から計算しなおすと、当初の四日という計算は半分の二日にまで短縮された。

あくまでも、このまま順調に進めばだが。

 

 

「…っと、うん~?」

 

『プレデター』に搭載された、高感度のレーダー。

そこに、テラフォーマーの群れの反応が現れた。

だが、問題はない。

先ほどと同様に、紅の能力で殲滅するだけのこと。

 

 

「…なんだとっ!?」

 

 

だが、ここは火星。

人類を阻む、戦いの凶星。

何度も何度も人類の思い通りになるなんて、そんなことは、起りえない。

 

急に後方(・・)へと引き寄せられる機体。

レーダーには、何も映っていない。

 

…いや、違う。

よく見れば、極小の点が機体の後方に反応としてある。

つまり、紅の能力で殲滅したはずの群れの中で、一匹だけ生き残った個体がいたことになる。

だが、ありえない。

極めて致死性の高い紅の毒。

それを吸入した時点で、死は確定している。

だが、そいつは死んでいない。

しかもそいつは、この機体を何らかの方法で引き留めている。

 

いったい、どうやってか。

後方を確認したハリーは、その答えを知った。

 

 

「…『バグズ手術』…ったけなぁ~…。まったくよぉ…、勘弁してくれよ~」

 

 

その視線の先にあった物。

それは、

 

 

「…『クモイトカイコガ』だったか~…?この糸は~…」

 

 

一筋に伸びた、太い『糸』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

生物は、時に不可思議な特徴を備えることがある。

それは生物種としての話ではなく、個体として見た時のこと。

例えばそれは、特定の疾患に罹らない(・・・・・・・・・・)など。

免疫を産生する遺伝子の中に刻まれた、奇跡のデータ。

父と母、そしてそれ以前から続く掛け合わせの中で偶然にも生まれた奇跡の免疫遺伝子。

時折起こるそれが、その個体に今起きていた。

本来なら、その奇跡は起こらなかっただろう。

正確には、分からなかっただろう。

人類が入り込まない限り起こらなかったであろう、その奇跡の発覚。

 

 

「じょぉぉぉぉぉおおおぉぉぅぅじっっ!!!!」

 

 

紅の毒への免疫を、生まれ持って保持していたその個体は吠える。

この糸を離しはしないと。

引き戻し、八つ裂きにしてやると。

その全身の筋肉が唸り、糸を引く。

 

『複合バグズ手術型テラフォーマー』――――――――――――

 

 

「クソッたれっ!?引き戻される~!!?」

 

 

――――――――――――ベース、『クモイトカイコガ』及び、『パラポネラ』。

言うなればそれは、『捕獲特化型』。

 

最強の筋力と鋼の糸が、ハリーを襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハリーが捕獲特化型と出会ったとき、彼ら(・・)も出会っていた。

 

 

「…頼むから、そのまま何事もなく。拍子抜けするほどあっさりと捕まってくれ…」

 

 

『アネックス一号』からだいぶ離れた地点。

中に静花を残し、高速脱出機から降りた燈が語りかけるのは、『パラポネラ』をベースとした『バグズ型テラフォーマー』。

その個体は片手で高速脱出機を止め、その力を誇示していたが燈の、『オオミノガ』の糸によって絡め取られ、動きを封じられていた。

『弾丸蟻』とも呼ばれる、蟻界最強の筋力を持ったテラフォーマーも、雨風や外敵からも身を守るために強靭に進化してきた『大蓑蛾』の糸を振りほどくことはできなかった。

 

 

「…さて、やるか」

 

 

ミッシェルがその身動きの取れないテラフォーマーに近づき、拳を振りかぶる。

その拳に込められた想いは、非常に重いもの。

なぜなら、『パラポネラ』は彼女の父、『ドナテロ・K・デイヴス』の手術ベースだったのだから。

 

だが、その拳を振り下ろすことはできなかった。

 

 

ビシッ!!

 

 

という音と共に、突如吹き飛ばされたから。

そう、パラポネラは最強の筋力を持つ蟻。

凸ピンの要領、指先一つで人を吹き飛ばす程度、訳はない。

 

 

「ミッシェルさん!!?」

 

 

咄嗟にミッシェルの心配をするも、燈自身の身にも危機が迫っていた。

糸が(ほつ)れてきていた。

正確には分解されてきていた。

腐食性の酸によって、ボロボロに。

つまり、どうなるか。

 

 

「じょうじ!!」

 

「…おいおい、マジかよ……」

 

 

パラポネラが、動けるという事。

糸が引き千切られ、パラポネラが自由となる。

その原因は、その個体だった。

 

 

「じょうじ…」

 

 

『マイマイカブリ』という生物がいる。

その虫は酸を使いカタツムリを捕食する。

酸はタンパク質を分解する腐食作用があり、タンパク質で構成される『オオミノガ』の糸も分解されてしまったのだ。

 

現れたのは、刺復(サスマタ)状の棍棒を持った、『バグズ型テラフォーマー』。

ベース、『マイマイカブリ』。

 

 

「…あー、クソ。二匹もいるのかよ…」

 

 

思わず愚痴をこぼす燈だが、無理もない。

状況は極めて悪いのだから。

だが、それで終わりはしなかった。

都合よく三対二になるなど、そんなわけがなかった。

 

もしも、そうもしもの話。

何物にも傷つけることのできない、見えない工作員がいたとしたら。

それはとても、恐ろしい存在となる。

 

 

バガァァァンンッッ!!

 

「ッ!?」

 

 

突如響いた音に燈が振り返ると、高速脱出機に一体のテラフォーマーが取り付いていた。

しかも、中に居た静花を狙うように、拳をカバーに叩きつけた形で。

だが、一番の問題はそこではなかった。

虹色に輝く、分厚く頑丈な甲殻。

それは、『複合バグズ手術型テラフォーマー』であることの証明。

 

『ニジイロクワガタ』と『クロカタゾウムシ』。

カイコガによる動物性蛋白質の摂取をしていないのか、ノーマルタイプのテラフォーマーと同じ体型だが、『ニジイロクワガタ』の能力を活かすにはそれが良いのだろう。

言うなればこの個体は、『潜入機能特化型』。

 

 

 

 

ハリー、燈とミッシェルと静花。

捕獲機能特化型、パラポネラとマイマイカブリと潜入機能特化型。

戦いと逃走は、始まったばかり。

 

 

 

 




パラポネラ大盤振る舞い。(

ハリーと紅ちゃんも大変。
燈たちも大変。
どっちも絶体絶命です。
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