インペリアルマーズ   作:逸環

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番外編三連荘です!
今回はスズメバチ同士の戦いです!
どうぞ!


Hornet スズメバチ

「イギリスに出張?」

 

「ええ、来週からの予定でお願いします」

 

 

まだ『アネックス一号』が地球を飛び立つ数か月前のこと。

『アネックス一号』の艦長である小吉は、14人いる『アネックス計画』の副司令官の一人であり、現日本国首相『蛭間(ひるま)一郎(いちろう)』の実の弟である『蛭間 七星(しちせい)』に、突然の出張を言い渡された。

 

 

「いや、良いけどなんで?」

 

「…実は、イギリスの首相から直々に貴方に会いたいと……」

 

「………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあやあ!よく来てくださった!私が『キース・ハワード』です。お会いできて光栄ですよ!『アネックス一号』艦長、『小町 小吉』さん」

 

「…あ、いや!こちらこそお招きいただいて光栄です。『キース・ハワード』首相」

 

 

その一週間後、小吉はイギリス首相官邸にいた。

『アネックス一号』という枠組みで見ればトップの彼も、『アネックス計画』、およびそれに絡む『国家』という視点で見れば、所詮は中間管理職。

一国の首相に呼ばれたとあれば、大柄な体を縮めて会いに行くしかない。

 

 

「はは、そんな固くならなくて大丈夫ですよ。今日は一国の首相ではなく、私個人としてお呼びしたのですから。ああ、そうだ。ルクス、小吉さんにお茶を淹れて差し上げなさい」

 

「はい、直ぐに」

 

「ああ!そんなお構いなく!」

 

 

秘書としてキースの傍らに控えていたルクスが簡易キッチンへと向かうのを、私生活ではゴキブリが苦手など、意外と小心者な一面もあり、すっかり恐縮しきっている小吉が慌てて遠慮する。

キース自身はいたってフレンドリーに接しているのだが、如何せん効果は出ていない。

 

 

「いえいえ、是非召し上がっていってください。イギリスの紅茶は美味しいですよ」

 

「…は、はあ……。それじゃあ、お言葉に甘えて…」

 

 

事前にある程度の準備はなされていたのか、すぐに香り高い紅茶と茶菓子がテーブルの上に並べられる。

 

 

「それで、今日はどの様なご用件で…?来るまで秘密だということで、何も聞いてないのですが…」

 

「ああ、なるほど」

 

 

そう、今回の渡英に当たり、小吉は事前の説明を全く受けていない。

キースからU-NASAに連絡が入った際に、呼び出し理由は秘密だとキース側から言われていたから。

例えそれでも、一国の国家元首からの呼び出しには応じなければいけなかった。

だからこうして来たのだ。

 

 

「今回私が貴方をお呼びしたのは我が国も協力しているアネックス計画、その艦長がどの様な人物か知りたかったこと。それと…」

 

「……それと?」

 

 

少しの間を置き、小吉の反応を楽しむかのようにしてから、キースが言葉を続ける。

 

 

「私が『バグズ手術』の被験者であり、貴方と同じ様にススメバチが手術ベースだからです。まあ、種は違いますがね」

 

「な…ッ!?」

 

 

キースの口から出た真実は、小吉を驚かせるには充分すぎるものだった。

確かに、政治家で『バグズ手術』被験者といえば、自身の20年来の友人でもある日本国首相、『蛭間 一郎』だってそうだ。

しかし、彼には青年期に様々な事情から困窮していた家庭を救うために、多額の報酬と引き換えに手術を受けなくてはいけない理由があった。

 

だが、目の前の男には?

一応、事前に『キース・ハワード』という男がどのような人物であるかは調べておいた。

元政府の情報機関員の政治家で、生まれも育ちも極々一般家庭。

特に生活に困窮したという話もない。

 

 

「実はスパイの引退直前に手術を受けましてね。あ、一応私が手術被験者なのは、国家機密ですので他言はしないでくださいね?」

 

「…い、いや……はあ…」

 

 

戸惑う小吉に口止めをしながらも、楽しげに話しているキース。

実際、この会談を彼は楽しみにしていた。

子供の頃より憧れていた、宇宙への想い。

『いつか、火星に住める時代が来る』。

子供の頃の憧れを胸にしまい、現実的な進路を選んだ彼にとって、火星のテラフォーミング計画である『バグズ二号』の乗組員であり、二人しかいない生存者の片割れ。

しかも、自身の手術ベースと同種のスズメバチがベースとなれば、男子特有の子供の様な憧れの対象としては充分だった。

 

 

「それでですね」

 

 

そして、キースは自身の胸の内にあった、ある種の本題を口に出す。

 

 

「ちょっと一試合していかれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、我が国がアメリカの研究機関と共同で開発した、最新鋭のVRシミュレーションシステムです」

 

「…なるほど、これが」

 

 

小吉が通された部屋にあった物は、コンピューターとモニター。

そしていくつかのヘッドギアの様な機械だった。

なぜ首相官邸にこんな物が置かれているのかというと、単純にキースの趣味だったりする。

この首相、割と子供っぽいところがあったりする。

孫もいる歳だというのに、こういった部分で男はいくつ歳を取っても変わらないのだろう。

 

 

「必要なデータさえ打ち込んでおけば、あのヘッドギアを装着して仮想世界での戦闘が体験できます。ちなみにですが、結構リアリティを高く作っているので、ゲームのように自身の肉体と違ったボディで設定すると、激しい違和感を感じることになりますな」

 

「…もしかして、試したことが?」

 

「……………実は」

 

 

そっと目を逸らして言うキースと、いたたまれない気持ちになる小吉。

どうにもモヤッとする空気が、中年男たちの間で流れた瞬間だった。

 

 

「さ、さあ!さっそく頭に機械を取り付けてください!U-NASAから貴方のデータは頂いているので!!」

 

「お、おお!そうですか!!では、さっそく!」

 

「では、シミュレーションシステムを起動します」

 

 

空気を変えるためにキースが機械の装着を促し、慌てて小吉がそれに乗る。

そして二人がヘッドギアを装着し椅子に腰かけたところで、ルクスが機械のスイッチを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

「…なるほど。これは凄いな」

 

 

小吉が目を開けると、驚いた。

火星の大地を再現した、緑と赤の大地。

自身の肉体はすでに変態を済ませている。

その肉体も、問題なく、違和感なく動かせる。

 

 

「でしょう?…実は、実際に火星に行ったことがあり、これから再び行く貴方に、このシステムを添削して欲しいという意図もありましてね」

 

 

驚いている小吉の後ろから、声がかけられる。

それは、同じように変態を済ませているキースだった。

 

 

「この空間で起きたことは、現実には何の影響もしません。…が、経験はできる」

 

「薬による変態は問題もありますし、素晴らしいですね!」

 

 

人体が一生の内に行う細胞分裂の回数は限られている。

薬を用いて変態するということは、人体を作り替える、つまり細胞分裂を爆発的に起しているという事。

地球で慣らすために薬を使用するたびに、彼らの寿命は短くなっていくのだ。

それを予防できるこれは、確かに素晴らしい物ではある。

だが、所詮これはまだプロトタイプ。

 

 

「これが本当に素晴らしいかは、これから貴方自身で確かめてください。そのための試合ですし」

 

 

そう、そのために小吉は呼ばれたのだ。

このシステムが本当に有用であるのか、火星で戦った戦士に、確かめてもらうために。

 

 

「…と、言いつつ本当は、貴方自身が戦いたいからではないんですか?」

 

「…バレましたか」

 

 

だが、そんなものは表向きの理由。

本当はただ、自身が憧れた男がどんな男なのか。

そして、同じ種をベースとした自分とその男の、どちらが強いのかを知りたかっただけのこと。

 

そんな、とてもシンプルな理由だった。

 

 

「…では」

 

「お願いします」

 

 

二人が構えを取る。

小吉はあえて構えを取らず、全身をいつでも動かせるように脱力させる、構えなき構え。

キースは左半身と左腕を前面にした半身の姿勢を取り、自身という的を極限まで減らした構え。

 

その姿勢でお互いにジリジリと近づき、二人の手を伸ばしたら届く距離まで接近した瞬間。

 

 

「「オオオオォォォォォッッッ!!!!」」

 

 

キースの左ジャブと、それを掃いカウンターでボディを襲い掛かる小吉の一撃。

右手でその一撃を掴むと、掴んだ腕を起点として回転しながら遠心力を加えた肘打ちを喉元目掛けて繰り出す。『茶色雀蜂』の顎が生えた、その肘で。

その一撃を、更にキースの近くの間合いに入ることで腕しか当たらないようにしつつ、引いた左腕から生えた『大雀蜂』の毒針で貫きにかかる。

キースは覚悟をした。

この攻撃は避けられない(・・・・・・・・・・・)と。

 

 

「「ウオアァァッッ!!!」」

 

 

キースの腕と小吉の毒針は、同時にヒットしお互いを吹き飛ばした。

そして受け身を取って即座に立ち上がり、再び接敵する。

 

結果から言えば、キースの体に毒針は刺さらなかった。

『チャイロスズメバチ』の最大の特徴はその生態だが、それを成し得るのが『オオスズメバチ』の針も顎も通さぬその頑健で強固な外殻。

それを理解した瞬間、小吉は針を引っ込めた。

 

貫けないなら(・・・・・・)砕けばいい(・・・・・)

 

硬い外骨格に覆われた『チャイロスズメバチ』は、生態的に見れば『オオスズメバチ』より有利だ。

しかし、『キース・ハワード』と『小町 小吉』という個人で見た時に、有利なのはどちらなのか。

片や今も鍛え続けているとはいえ、現役を退いて長いスパイ。

片や現役で先陣を切る、戦士たちの長。

それを今の短い打ち合いの中で理解した瞬間、キースは右腕の義手の機能を呼び覚ました。

 

弱いのならば(・・・・・・)補えばいい(・・・・・)

 

 

「オオオオォォォォォッッッ!!!」「アアアアァァァァァッッッ!!!」

 

 

二人が同時に駆け出し、この一撃を決めんとする。

小吉から見れば、普通の攻撃が通用しないキース相手には一撃必殺を狙うしかない。

キースから見れば、実力が劣るため長期戦は不可能であり一撃必殺を狙うしかない。

この時、二人の思惑は一致していた。

 

 

「「これで最後だァァァァッッ!!!!」」

 

 

小吉が繰り出したのは、後ろ回し蹴り。

筋力や遠心力を利用した、空手の中でもトップクラスの威力を持つ蹴り技だ。

それが、空手六段の小吉の技術と力を持って放たれるのだから、その威力は相当のもの。

 

対してキースが放ったのは、右手の義手に仕込まれた電磁石の反発による閃光の拳。

速いという事は、より威力が増すという事。

物理的な破壊力において、キースの持ち駒の中ではこれが最大級だった。

 

二人の必殺が交差する瞬間。

 

 

「……………え?」

 

 

小吉が、跳んだ(・・・)

後ろ回し蹴りのモーションは、フェイク。

本当の狙いは、横の回転ではなく、縦の回転。

足を伸ばさずそのまま高速で一回転をした小吉が、今度は縦の回転をする。

その頬を掠る、キースの右拳。

だが、止まらない。

 

 

「オリャアアアァァァァッッ!!!」

 

「ヌグアァッッ!!?」

 

 

キースの顔面に、必殺の胴回し回転蹴りが決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうです?シュミレーションとしては使えそうでしたか?」

 

「…ええ、確かに短時間の戦闘シュミレーション機器としては優れていました。ですが…」

 

 

試合の終了後、求められた感想を小吉は答える。

火星に生き、そして帰ってきた者として。

そしてこれから、火星に赴く戦士の長として。

 

 

「…軽かったです。触れた時の感触や、殴られた時の痛みもあるのに。命を奪うという事への感触が、軽かったです……」

 

「…なるほど。なら、これは使えませんね…」

 

「ええ、申し訳ないですが…」

 

「いや、ありがたいですよ。我が国としても、不完全な物を発表するわけにはいきませんですし」

 

 

まあ、使えてゲーム機ですかね。と、続けたキースは、どこかこうなることを予想していたようだった。

 

 

「…貴方と戦えて、良かったです」

 

「…こちらこそ、自分の憧れと戦えたんです。ありがとうございます」

 

 

二人の間に、どこか温かい空気が流れる。

二人はあの短い戦いを通して、確信していた。

 

『この男なら、間違いはない』と。

火星での任務を果たしてくれると。

地球での謀略を防いでくれると。

 

 

「では!飲みに行きましょうか!!本場イギリスのパブをご案内しますよ!!」

 

「おお!良いですねえ!!」

 

 

その場の空気を一変させ、あっという間に中年男二人の酒盛りが決まる。

男が友情を築いたのなら、あとは酒を酌み交わすだけ。

イギリスにも美味い酒は沢山あるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

武力制圧(オオスズメバチ)』VS『玉座の簒奪者(チャイロスズメバチ)

 

勝者、『武力制圧(オオスズメバチ)』。

 

 

 

 

 

 




戦闘が短いですが、一撃必殺クラスの力を持った者同士ならこんなものです。

たぶん。(

さあ!
次回は本編!
頑張ります!
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