インペリアルマーズ   作:逸環

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ケシとイカのバトルです。
では、どうぞ!


A Gunshot 銃声が響く

開幕は、一発の銃声からだった。

ハリーの肩にセットされている、小型の銃。

狙撃銃というほどではないが、サイズの割には高い精密性を誇るそれが、人体の中でも大きな的、つまり胴体を狙って放たれた。

心臓に当たれば、即死。

腹部、特に肝臓や腎臓に当たれば薬の代謝ができずに体が人間ではなくなって拒絶反応で死ぬ。

それでなくても、『M.O.手術』によって移植された免疫寛容臓が損傷すれば、その時点で手術ベースとなった生物と人間である肉体が拒絶反応を起こして死に至る。

頭を狙うよりも、よっぽど殺しやすい。

 

だが、それで終わるわけがない。

相手は中国が生んだヴァルキリー、『西(シイ) 春麗(チュンリー)』なのだから。

銃口の向きで、自分のおおよそどの部位を狙っているのかは分かる。

なら、後はその銃口から伸びる線から、体をズラせば良い。

撃たれる、その直前に。

 

結果、開幕の初撃は西によって避けられた。

なら、次はどうするのか。

 

 

「オラッ!!」

 

 

高速脱出機から飛び降り、大地を駆ける西。

そう、遠距離では不利なままには違いない。

ならば自分の距離で戦うのが、そのために近づくことが一番となる。

銃は持って来てはいたが、走るのに邪魔になるから高速脱出機に置いて来た。

 

 

「…チッ!」

 

 

ハリーの舌打ちが一つ。

 

高速脱出機から降りたことによって西が得られた利点。

それは自分の動きを妨げるものがなくなったという事。

弾除けになる障害物はなくなったが、それは自分の動きで補える。

走って、避けて、走る。

難易度の高い障害物競走だが、不可能ではない。

 

徐々に詰められる距離。

10mは本来短い距離だが、それでも銃から狙われていることで一度に近づける距離は限られている。

だが、それでも10m。

おおよそで、1~2秒でたどりつける距離。

 

あと一歩で、一足で辿り着ける。

だがそこで、西にとって大きな誤算が起きた。

ここは、直前までハリーと捕獲機能特化型のテラフォーマーが交戦していた場所。

そして、ハリーが立ち往生していた理由は-------

 

 

「ッ!?身体が…重い!?」

 

 

-------糸。

西の身体に絡みつく、見えない程極細で、しかしながら強靭な鋼の糸。

それが、無数に絡み付いて西の動きを阻害していた。

彼女は知らなかった。

いや、彼女だけではなく、ハリーも。

この場に、これ程多くの見えない糸があっただなんて。

西が走っている間に、ハリーの乗る車両を動けなくしていた無数の糸をその身体に巻き付けていただなんて。

 

何にせよ、この状況はハリーにとっては絶好のチャンス。

ここを逃す手はない。

 

 

「……ああ、成る程~。糸だったってわけか~。この車両の動きを止めていたのは~」

 

 

銃口を西に、それも本当に確実に仕留められる様に、一撃で動きを止めるために、頭に向ける。

ハリーはここに来ても、まだ安心はしていない。

何が起きてもおかしくないから、警戒し続けている。

現に、まだ西は糸の影響で遅くはなっていても、動けている。

彼女の手の届かないところから、確実に仕留める。

それが、彼にできる最善。

 

 

「………クソが……」

 

 

緩慢になってしまった身体。

それでも西は、ハリーを睨み付ける。

深い、深い殺意を込めて。

 

 

「…そんじゃ、あばよ~」

 

 

それでも、ハリーは揺るがなかった。

ただ、肩の銃を操作するだけ。

 

 

 

 

パァンッ!

 

 

 

 

 

一発の銃声が、火星に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何ィッ!?」

 

 

撃たれたのは、ハリーだった。

背後から撃たれ、貫かれた左肩から落ちていく銃。

咄嗟に後ろを振り向くも、そこには緑の苔と赤い土、それと夕焼け空しか見えない。

だが、間違いなくその方向から撃たれたのだ。

 

 

「…西!身体のパーツを持って行かれたことはあるか~!?」

 

「…ないよ!火星に来てからはまだ無傷だ!!」

 

 

その場に伏せ、射線から身を隠しながら声を張り上げて聞くハリー。

一瞬で理解できたことは、謎の第三者が割り込んで来たということだ。

中国四班の伏兵は、時間的にありえない。

ならば、他に誰が?

ハリーが見えない敵で真っ先に思い付いたのは、『ミナミハナイカ』の西。

だが、彼女は自分のすぐ近くにいる。

なら、彼女のパーツをベースに手術をしたテラフォーマーはと思ったが、それも違うらしい。

 

と、なれば。

 

 

「…『プレデター』、サーモグラフィ・オン~」

 

 

見えないならば、見える様にすれば良い。

『プレデター』のゴーグルから見える景色が変わり、青と黄色になる。

これが、サーモグラフィ。

物体の温度に応じてその色を変化させる、特殊な映像機器。

これを起動させて、頭だけを必要最低限出して外を伺う。

 

 

「…あ~、いたいた~……」

 

 

ハリーの視界に映る、赤い塊。

それは、体温を持った生物がそこにいるということ。

サーモグラフィを切って、改めてその地点を見て、納得した。

 

 

「…成る程~。単純な迷彩かよ~」

 

 

肉眼で見て、ようやく分かった。

苔を体にまとって迷彩を施したテラフォーマーが、伏せていたのだ。

それも、『バグズ一号』に残されていた銃を持って。

銃口から上る僅かな硝煙が、ようやく確認できた。

これまで、奇襲を仕掛けてくる個体はあっても迷彩を施した個体はいなかった。

テラフォーマーたちも、試行錯誤しているのだ。

どうすれば、害獣(人類)から奪えるのかを。

 

 

「…となると、だ」

 

 

だが、そんなことはハリーからしたら目的を阻む障害でしかない。

西はまだ、糸に阻まれてここまでは来れていない。

そして何より、西もテラフォーマーがいるから動くに動けない。

彼女も、ハリーたちが乗っている車両の陰にいることで、テラフォーマーの射線から逃れているのだから。

つまり、ハリーの攻撃を邪魔する者はいない。

肩の銃はなくなっても、アレがある。

 

 

「吹き飛べ~ッ!!」

 

 

捕獲特化型を塵にしたガトリングガンを再び掃射し、テラフォーマーが銃を放つ暇すら与えずその頭部を、身体を、穴だらけどころか、砕き、抉りこの世から消滅させる。

 

後は、西を仕留めればいいだけ。

もう高速脱出機から離れているのだから、ガトリングガンでも攻撃して大丈夫だ。

 

 

「…待てよ~?」

 

 

やけに、西が静かだ。

ハリーが違和感を感じ、即座に振り向くとそこには。

 

 

「………ふー」

 

 

目を瞑り、深く呼吸をしている西だった。

 

 

「(…糸がほどけず、諦めているのか~?)」

 

 

一瞬、そう考えたハリーだがすぐにその考えは払拭された。

彼女に限って、それはない。

 

『西 春麗』に限って、それはない。

 

 

「…(フン)ッ!!」

 

 

瞬間、絡まっていた糸が緩まり西の足元に落ちる。

西は諦めたのではなく、気を練っていた。

この場合の気を練るとは、ファンタジー的な物ではなく呼吸と心を落ち着け、最大限のリラックスをすること。

そしてそのリラックスした状態から一気に全身の筋肉に力を入れ、その爆発力で糸を弾いてゆるめたのだ。

 

 

「クッソッッ!!」

 

 

状況は変わった。

ガトリングガンを西に向けるも、その時にはもう遅い。

軽い跳躍で車両に飛び乗った西の手は、ハリーの胸に当てられていた。

 

 

「マズ…ッ!」

 

 

咄嗟に高周波ブレードで貫こうとしても、もう遅い。

西の脚は車両の床につき、準備は完了している。

 

 

「発勁ッ!!」

 

「グウッ!?」

 

 

咄嗟に高周波ブレードで突き刺そうとしたことで、僅かに手の位置がズレたが功を奏し右胸に発勁が打ち込まれる。

もしこれが左胸なら、心臓が損傷し即死していただろう。

だが、右胸なら右肺を損傷するが即死はしない。

 

 

「まだだ!!」

 

「グハァッッ!!」

 

 

発勁を打ち込んだ腕が曲がり、肘打ちから続いて肩から行く体当たりへと流れるように続ける。

最後の体当たりで吹き飛ばされ、車両の壁にぶつかって崩れ落ちるハリー。

 

 

「大丈夫か!紅!」

 

 

右胸に打ち込まれた発勁と、壁に叩き付けられた衝撃で動けないハリーを尻目に、紅へと駆け寄る西。

しかし、

 

 

「…あんれぇ~?西さんじゃないれすかぁ~…。ろうしたんれすかぁ~…?」

 

「…紅……ッ!」

 

 

その目の焦点は定まっておらず、呂律もまわっていない。

実際、西のことをキチンと認識できただけでも僥倖だろう。

 

 

「………廈門ィィィィッッ!!!ゲス野郎が!紅に何をしやがった!!」

 

「…お前な…、右肺…ゴポッ…潰れてんだぞ…俺…は~……」

 

 

崩れ落ちていたハリーの胸ぐらを掴み、引き摺りあげて尋問をする西。

その西の言葉にも、血の泡交じりの言葉だが飄々とするハリー。

 

 

「答えろっ()ってんだよ!!」

 

「…俺の…手術ベー…スはケシだ…。ゴフッ…!それで…、分かるだ…ろう~……」

 

「…阿片か!!このゲス野郎!」

 

「正確には…ヘロイン……だな~…」

 

 

激昂する西と、瀕死ながらも飄々とするハリー。

状況的には圧倒的に西が有利なのに、余裕があるのはハリーに見えるのはなぜか。

紅の状況が西から冷静さを奪っていることは間違いないにしても、あまりにも西は熱くなりすぎている。

 

 

「お前も紅がただのガキだってことは知ってただろうが!そんなことまでして…お前は……」

 

 

徐々に。

徐々に西の力が緩んでいき、声もか細くなっていく。

それに伴ってゆっくりとハリーの体も落ちていく。

 

 

「…お前はそんな奴じゃなかっただろう………!」

 

 

仲間だった時期があった。

その時の記憶が、西にはあった。

ハリーは潜入任務だったとはいえ、西からすれば危険な任務を共にした仲間だった。

西は冷徹な軍人としての一面だけではなく、心優しい女性としての側面も持っている。

その優しさが、仲間だった記憶が、彼女に最後の一線を越えるのを踏みとどまらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前は知ってるか~…?」

 

 

力なく崩れ落ちたハリーの口から、言葉が出た。

 

 

 

 




その口から語られる言葉は…!(本誌っぽい煽り

はい、というわけで現時点では玉クラッシュは避けられました。
西姉さんも、優しい女性なんですよ。
紅ちゃんへの関わり方を見ても。
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