『磯山 リース』こと、『
目の前の脅威、潜入機能特化型のテラフォーマーに対してどの様に対処するのか。
薬を使うのは?
おそらくそれは、今は
なにせ、自分は一緒にいる二人からすれば裏切り者だ。
今薬を使えば、テラフォーマーを倒せても二人からどの様に対処されるかは想像に難くない。
だが、使わなければ死は免れない。
彼女の『
変幻自在の擬態能力を持つが、戦闘能力として見ると心細い。
そして彼女自身もまだ少女であり、幸嶋や劉、アシモフなどの変態せずにテラフォーマーを倒せる様な力も戦闘力もない。
薬を使わなければ死ぬ。
薬を使っても死ぬ。
ならば、助けてもらうのはどうか。
それも不可能。
一緒にいた二人は、今まさにテラフォーマーと交戦中であり、彼女の家族である中国四班のメンバーも来ることはできない。
絶体絶命とは、このことだった。
目の前に迫り来る、テラフォーマーの腕。
そういえば、テラフォーマーは女性を優先して攻撃するんだったか。
そんなことが頭をよぎり、何故だか可笑しくなり苦笑してしまう。
「(…皆は、大丈夫なのかな……?)」
思考を諦めが埋め尽くし、項垂れて
最後に想ったのは、家族と、そしてその資格もないだろうが仲間たちの安否。
諦めた彼女に、逃れられない死が迫る。
「薬を使え!リィィィス!!」
「ッッ!?」
諦めた思考を破る、彼女に告げられた命令。
それはパラポネラ型テラフォーマーに吹き飛ばされ、大の字になっていたミッシェルからのものだった。
「アアアアアァァアァアアアァァァァァァッッッ!!!!」
咄嗟に。
そう、ミッシェルの命令により咄嗟に行われた人為変態だった。
瞬間、咆哮とともに彼女の腰から6本の足が現れ、元々の手足は伸び、肥大化する。
それも、変態時に肥大化した腕で潜入機能特化型を吹き飛ばしながら。
「……じょうじ」
だが、それだけ。
ノーマルタイプのテラフォーマーならば引き千切れたであろう一撃も、昆虫界切っての強度である『クロカタゾウムシ』の甲殻を持つ『潜入機能特化型』相手では、吹き飛ばすことまでしかできなかった。
苔と岩の大地では、その輝く迷彩の効力を完全に発揮することはできない。
しかし、それ脅威的な甲殻の強度に影響はない。
あらゆる攻撃が通じない上、更に『ニジイロクワガタ』の特性として
『カイコガ』の動物性蛋白質の摂取による肉体の強化はないが、相手の攻撃を無視し挟んでしまえば仕留めることができる。
他者からは見えづらい肉体と桁外れの頑丈さで近付き、切断する。
それが彼の戦い方。
「…ミッシェルさん……」
だが、彼女の関心はもう、潜入機能特化型にはない。
彼女に命令をした、ミッシェルにあった。
何故、自分に薬を使わせたのか。
それが気になった。
「…何してんだリース。お前は第二班の仲間だろうが」
ダメージのある身体を起こしながら、ミッシェルは言う。
静花が、リースが仲間であると。
「とっととそのゴキブリ野郎を倒しやがれ!!」
「は、はい!!」
リースと呼ばれ、命令を下された。
そのことが自分は『磯山 リース』でもあることを理解させた。
『黄 静花』ではなく『磯山 リース』として、日米合同第二班の班員としていられるこの最後の時間を生きようとさせた。
『磯山 リース』はこれから死ぬ。
おそらく、中国第四班の追っ手がもうじきくるだろう。
そうすればもう、本当に『磯山 リース』で居続ける必要はなくなる。
中国第四班の『黄 静花』として生きることとなる。
なら、この戦闘の間だけでも、『磯山 リース』として生きよう。
それが『黄 静花』が、もう一人自分である『磯山 リース』にできる最後のこと。
「……かかってきなさい!!」
覚悟はもう、決まった。
『ダイオウホオズキイカ』。
名前の中にある『
その名前の由来には諸説あるが、一つこんなものがある。
曰く、『
『鬼灯』によって、『磯山 リース』は運ばれる。
だがそれは、この戦いの後だ。
今から『磯山 リース』は、戦う。
その覚悟をした姿を見届けたミッシェルもまた、行く。
「…さあ、待たせたなゴキブリ野郎」
ただ全力で、全霊でパラポネラ型に拳を打ち込むために。
父の能力を奪った相手を、叩きのめすために。
「第二ラウンドだ!!」
人とは違う出生を果たした、救われぬ己の魂を救うために。
「オオオォォォラアアアァァァァッッ!!!」
「…それにしても、今のが効いてないなんてね……」
リースの頬を、冷たい汗が伝う。
今の一撃には、『ダイオウホオズキイカ』の特徴でもある爪による引き裂きもあった。
しかし、その甲殻には傷一つ負わせることができていない。
硬い甲殻に守られた相手には、どうするべきか。
クロカタゾウムシ型テラフォーマーと交戦した幸嶋と慶次は、そのパワーと甲殻類の頑丈な肉体で突破した。
では、『ダイオウホオズキイカ』は?
筋肉の塊である烏賊の身体に、変態したことにより伸びた手足。
パワーは充分にある。
だが、硬さが足らない。
パワーを確実にダメージに変えるための、硬さが足らない。
ならば、どうするか。
その答えは、実は二十年も昔。
この火星で示されていた。
無言のテラフォーマーが、リースの胴体を切断するために無造作に近寄る。
何度叩かれ様とも、その身体に触腕が巻きつこうとも、気にせずに近寄る。
何をされても自分には通用しない。
その絶対の自信があったから。
彼は若く、そして知らなかったから。
『ジャイナ・エイゼンシュテイン』
それは二十年前の『バグズ二号計画』で死亡した、一人の女性隊員の名前。
明るく、活発な彼女こそ、『クロカタゾウムシ』による『バグズ手術』被験者だった。
彼女がどの様にして死んでいったのかを。
そしてそれが、
ブツン
自身の死に方と、同じだということを。
『ダイオウホオズキイカ』の複数ある腕が、全て彼の体に巻きついていた。
その、
「…そうよね、当たり前よ」
引き千切った左腕を放り棄て、リースは呟く。
捕獲機能特化型の首に、触腕を巻きつけながら。
「いくら皮膚が固くても、関節があるなら引き千切れるわよね…?」
かつて、死刑の方法に存在した、最も重いとされた刑。
被処刑者の四肢を牛や馬などの動力源に結びつけ、それらを異なる方向に前進させることで肉体を引き裂き、死に至らしめるものであるそれ。
かつてフランスで行われた最後のこの刑は、執行者が詳細な手記に残している。
国王に対する殺人未遂の罪でこの刑を執行された『ロベール・フランソワ・ダミアン』は、まず寺院の前に連行され、そこで罪を告白する公然告白が行われた。
その後広場に連行され処刑台の上に上げられると、まず国王を刺した右腕を罰するために右腕を焼かれ、次にペンチで体の肉を引きちぎり、傷口に沸騰した油や溶けた鉛を注ぎ込まれた。
地面に固定されたX字型の木に磔にされ、両手両足に縄を結ぶと、それらのもう一方の先を4頭の馬に繋いだ。これを号令とともに馬たちが一気に4方向に駆け出すことでダミアンの体から四肢を引き裂いた。
この刑の凄惨さは、執行後余りの凄惨さに二人いた執行者の片方が職を辞したほどとされている。
そして、その刑の名は。
「『八つ裂き刑』よ」
「ギィィィィィッッ!!!」
力任せに、潜入機能特化型テラフォーマーの残った右腕と両足が引き千切られ、頭部も引き抜かれた。
痛覚のないテラフォーマーのはずなのに、その凄惨さからか断末魔を上げる。
ゴロリと転がった頭部には、ハッキリと『恐怖』が刻まれていた。
戦闘が終わり、ふと空を見上げるリース。
「…じゃあね、リース」
高速脱出機に残ったのは、『黄 静花』だけだった。
『磯山 リース』は、鬼灯で運ばれて行きました。
そういえばそろそろハロウィンですね。
何かハロウィン短編書こうかなぁ…?