インペリアルマーズ   作:逸環

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お久し振りです!
今回から二話連続でのライトノベル版テラフォーマーズ、『THE OUTER MISSION』の発売記念という事で、特別篇を差し込みます!
それでは、『インペリアルマーズ-THE OUTER MISSION-ウォーベテラン』スタートです!


THE OUTER MISSION
War Veteran 寮監


「ルーニーィィッ!!おんどりゃ大概にしねえとそのケツに痣付くまで揉みしだくぞゴラァァッッ!!」

 

「んだとこのセクハラ寮監!殴り殺してやろうか!?」

 

 

『U-NASA』の敷地内にある、遠くから出て来ていたり家のない『M.O.手術』被験者用の寮。

そのラウンジで男が少女を追いかけ回していた。

いや、この言い方には語弊がある。

怒りの表情でセクハラ発言をした男に対し、少女が拳を構えて立ち向かおうとしていた。

この方が正しいだろう。

 

 

「り、リジー!寮監を無意味に刺激するのはやめてくれないかな!?」

 

 

その二人を見て青年が少女を宥めようとするが、それは悪手。

 

 

「タチバナァァッ!お前もルーニーを庇うってんなら、裸にひん剥いて混んでる時の女子便所に叩き込むぞ!!アアァッ!?」

 

 

男の燃え上がる怒りに、ガソリンを注いだだけだった。

完全にとばっちりではあるが、これはある意味青年が悪い。

言っていることだけ見れば、完全に男が悪いのだが。

 

 

「寮監も落ち着いて!落ち着いてください!!」

 

「これが落ち着けるかァァァッッ!!この無害装ってホイホイ近寄って来た女を食っちまうようなロールキャベツ男子がァァァッッ!」

 

「そんな事実はありませんよ!?というか八つ当たりですよね!?」

 

「……うわぁ…。金輪際あたしに近づかないでくれよな…」

 

「リジー!?寮監の嘘だからね!?」

 

 

慌てた様子の青年の声が、ラウンジに響く。

青年の名前は『橘 東平』、アメリカ式に表記するなら『トーへイ・タチバナ』。

空手二段の腕前に、『U-NASA』のコンピューターのクラッキングができるほどの知識と技術を持ち、飛び級により18歳ながら大学終了過程を得ている努力した才人。

そのトーへイに蔑みの目線を向ける少女の名前は、『エリザベス・ルーニー』。

愛称は『リジー』で、かつて対戦相手を事故で殺してしまった女子学生ボクシングチャンピオン。

二人の所属は、『掃除屋(スカベンジャーズ)』。

端的に言うと、地球上で何らかの理由によりテラフォーマーが現れてしまう危険性を潰すための存在だ。

では、男は何者か。

名前は『スレヴィン・セイバー』。

とはいえこれはあくまでも本人の自称であり、本名を知る者は『U-NASA』内では一人しかいない。だが、彼を呼ぶ上ではこれで支障はない。

先程から呼ばれている様にこの寮の寮監である彼だが、いったい誰がこのセクハラ男を中央棟と男女別に分かれているとはいえ、女性も使う寮の寮監にしたというのか。

 

この三人には、ある共通点がある。

それは全員、『M.O.手術』を失敗しながらも生き延びたということだった。

『免疫寛容臓』への適合率が低く、一生大量の免疫抑制剤なしには生きることのできない身体だが生き残った。

失敗している故に火星への搭乗員にはできないが、折角の『M.O.手術』を生き残った被験者たちを無駄にはしたくない。

その結果が、今の彼らの立場。

 

 

「とにかく!二人とも落ち着いて!!何でこんなことになったの?」

 

「…ルーニーが、決して許されないことをしたんだ……」

 

「はあ!?大袈裟に言い過ぎだろうが!!」

 

「だからリジーは落ち着いて!…決して許されないことって、何ですか?」

 

 

スレヴィンが俯き、震えながら絞り出す様な声でその怒りを発露する。

それに対して反応したリジーを抑えながら、トーヘイが恐る恐る訊ねると。

 

 

「…俺のまとめて置いておいたポルノ雑誌を資源ゴミで出しやがったんだ……ッッ!!」

 

「リジー、そろそろランチの時間じゃないかな?」

 

「お?そうだな行くか」

 

「おいコラタチバナ、興味を失うんじゃない」

 

 

あまりのくだらなさに興味を失い、リジーを連れてランチに行くという選択肢をとった。

実際、そこまで怒るほどかという理由ではあったが。

 

 

「お前も健全な男なら分かるだろうこの苦しみが」

 

「今まで勉強しかして来なかったので分かりません」

 

「お前それ寂しいな、おい。ルーニーのケツ揉んでみろよ。まだちと貧相だけど、ケツの魅力は分かるかもしれないぞ?」

 

「殴り殺すッ!」

 

「おっと」

 

スレヴィンのセクハラ発言に容赦ないリジーの右ストレートが叩き込まれるも、のらりくらりと躱される。

高い実力の変態など手に負えなくて始末に負えないというのに、スレヴィンはその手に負えなくて始末に負えない存在だった。

 

 

「ファック!全然当たりゃしねぇ!」

 

「ハッハッハッ!テラフォーマーのパンチより遅いなぁ」

 

 

リジーの放つパンチの一つ一つを丁寧に避け、捌き、距離を取り、踏み込む。

まるで下手くそなダンスの様に行われるそれは、その実確かな実力の賜物。

一発たりとも、リジーの拳が当たることはない。

もちろん、このままならの話だが。

 

 

「ファック!……….あ、尻のデカい女が歩いてるぞ」

 

「なんだと!?」

 

 

ふと、リジーがスレヴィンの背後に向けて指を向けて放った一言。

欲望のままに、咄嗟にスレヴィンが振り向いたその瞬間。

 

 

ゴギンッ

 

「……しま…った…」

 

 

綺麗に顎を右ストレートで打ち抜かれ、崩れ落ちるスレヴィンの身体。

一瞬にして白目を剥き頭からゴトリッと倒れて行く様は、実に見事なKO劇。

これがリングの上なら、即座にレフェリーがTKOを取るだろう。

ここが、リングの上なら。

 

 

「…いや、今危ない倒れ方したよ!?寮監さーん!!」

 

「……わ、悪いのはそいつなんだからな!!」

 

「ベタな言い訳しなくていいから!リジーは早く医務室に連絡して!!」

 

「分かった!!」

 

 

急いで医務室まで駆けていくリジーだが、内線を使って呼び出せばよかったのではないだろうか。

そんなことをトーヘイは思いながら、スレヴィンを介抱しようと手を伸ばしかけ、その手を引っ込める。

脳震盪の恐れがある人を、無理に動かすわけにはいかないことに気付いたからだ。

 

 

「…ルーニーは行ったか?」

 

「………意識、あったんですか?」

 

「当たり前だバカヤロウ。あんな小娘のパンチでKOもらってたまるか」

 

 

リジーが走り去った後直後に眼を開け、体を起こすスレヴィン。

顎に良いのが入ったのだから、小娘のパンチとか関係ないはずなのだが平然としている。

ツナギのポケットから煙草の箱とマッチ箱を取り出し、一本咥えて火を(とも)す。

気だるげに紫煙を吐く姿は大人の男の色気が…ないわけではないが特にあるとも言えない。

どちらかと言うと、ダメな中年寄りの姿だ。

 

 

「いや、寮監まだ24歳ですよね?」

 

「おう、アネックスのミッシェルと小学生(プライマリースクール)時代からの同期だからな。…うっわ、考えてみりゃあれとはもう10年以上腐れ縁なのかよ……。アイツとっとと良い男作れよなー。……あ、俺も女いねーんだった。ハハ……ッ」

 

「一人で勝手に昔のことで盛り上がって、現代のことで落ち込まないでください」

 

「お前さっきから厳しいな」

 

 

のっそりと立ち上がりながら、トーヘイと言葉を交わすスレヴィン。

特にふらつきもなく、問題はなさそうではある。

そうは見えても、脳血管系の疾患は後発的に突然症状が起きることが怖いのだから、すぐにでも検査を受けておくべきではあるのだが。

 

 

「……医務室に行って検査を受けがてら、リジーにセクハラ発言したことを謝ってくださいね」

 

「………プフッ。そうかそうか!!厳しいと思ったら、お前そういう事か!!分かった分かった!」

 

「痛った!?ちょっ、強く叩かないでくださいよ!!」

 

「ん?おお、わりぃわりぃ」

 

 

ゲラゲラ笑いながら背中をバシバシと叩いてくるスレヴィンに、涙目になりながら抗議するトーヘイ。

その抗議が通じたのか背中を叩くのはやめてくれたが、その顔はまだ笑っている。

確実に反省などしていない。

 

 

「んじゃ、ちょっくら医務室に行ってくらぁな」

 

 

相変わらずゲラゲラと笑いながら、背中越しに手を振って医務室へと向かうスレヴィン。

その背を見送って、トーヘイは一人嘆息する。

 

 

「…はあ。………なんであの人が寮監なんだろう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あ、もうダメだわ」

 

 

医務室へと繋がる長い廊下。

その半ばで、突如倒れるスレヴィン。

あの顎への一撃が、本当は足にキテいたのだ。

咄嗟に首を振って完全に当たることを回避したものの、浅く入ったパンチは脳を揺らしていた。

若い奴に情けないところを見せたくなくて、一応立てて歩けるレベルまで回復するのを横になって待っていただけだった。

しかし、無理に動いた結果はこれだ。

完全に止まってはいなかった脳の揺れが、動いたことで再び大きくなったのかもしれない。

こうしてまた、崩れ落ちる結果となった。

 

 

「…だけど、まだ立たなきゃなぁ……」

 

 

おそらくだが、このまま倒れているとリジーと鉢合わせすることになる。

そうなれば、年下に情けないところを見せることになってしまう。

セクハラ男と思われるのは、別に一人の男として構わない。

それで陽気な兄ちゃんと思ってもらえるなら充分だ。

だが、崩れ落ちている姿だけは見せられない。

それだけは、退役したとはいえ軍人たる自分が崩れ落ちている姿など、見せられるわけがない。

先程のは演技だと笑い飛ばせばいい。

今、こうして歩けているのが証拠だと言えばいい。

歯を食いしばり、廊下の手すりに手をかけて、腕力だけで無理矢理立ち上がる。

 

 

「……守るん…だよっ。今度こ……そ……ッ!」

 

 

なぜなら、軍人は国民を守ることが仕事なのだから。

国民たちに安心して生活をしてもらうための、強い力の象徴であるべきなのだから。

かつて何も守れなかった(・・・・・・・・・・・)自分だが、ただ一人無様に生き残った自分だが、それしか残された生き方はないのだから。

 

手すりに掴まり、震える足を無理矢理動かして、前へ前へと歩く。

守るべき者に、情けない姿を見せないように。

 

 

 

 

 

『アネックス一号』発射は、二日後に迫っていた。

 

 

 

 

 




はい、今回が初登場の寮監、スレヴィンさん(24歳)です。
実はこの寮監さん、前々から出したかったのですが中々タイミングがつかめずにいたところを今回のノベライズ版の発売により、ようやく登場させられたという経緯があります。
まあ、元々考えていた設定を、ノベライズ版の設定に合わせてこねくり回し再構成はしていますが。失敗したM.O.手術被験者とのあたりがそうですね。
色々ツッコミどころはあったけど、ノベライズ版の色々な設定は今後に活かせるものが多くて…よし、燃えてきた。
それでは次回の更新を、お楽しみに!
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