インペリアルマーズ   作:逸環

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どうも、お久し振りです。
今回で寮監のベースが判明します。
では、どうぞ!


Cthulhu 真蛸

「…ついに明日だな」

 

「……ああ、明日だ」

 

 

『U-NASA』に程近い、とあるバー。

そのカウンターに一組の男女が座って酒を酌み交わしていた。

男はスレヴィン・セイバー、そして女はミッシェル・K・デイヴス。

一緒に飲みに来た切欠なんて、あってもない様なもの。

廊下でバッタリ出くわし、どちらからともなく、何と無く二人で外に出たら足が勝手にこの店に向かっただけの話し。

 

 

「…俺らの腐れ縁も、もうほぼ二十年か……」

 

「…そうだな、ピース……」

 

「今はスレヴィンな。もう使ってない本名で呼ぶな」

 

(ワリ)い」

 

「おう、次から気を付けろよ?知られて困るもんでもないけどよ、ややこしい事にはなるからな」

 

 

そう言いながら愛飲している銘柄の煙草(ナチュラル・アメリカン・スピリット)を咥えて、片手でマッチを擦り火を点す。

雰囲気作りのためか、少々暗い照明に照らされて煙が流れていく。

 

 

「相変わらず、マッチを使っているんだな」

 

「ライターだと味気なくてなぁ」

 

「そういうものなのか?」

 

「そういうものなんだよ」

 

 

ミッシェルの問いに答えるスレヴィンだが、本当のところは少し違う。

嘘は言っていないが、本当のことを言ったわけでもない。

だが、理由の一つには違いないので問題はないはずだ。

そもそも、昔馴染み相手だからといって全てを明かす必要はないだろう。

 

 

「お前お袋さんのとこに、ちゃんと顔出したか?」

 

「ああ、手術する前に一応な」

 

「今日中に電話しとけよ?心配してるぞ」

 

「大丈夫だ。ここに来る前にしておいてある。…明日の出発前にも、するつもりだ」

 

「そうか…」

 

 

そこで二人揃ってビール(バドワイザー)の注がれたグラスを傾け、残っていた黄金の液体を一気に飲み干す。

独特の苦みと甘み、そして爽快な喉越しが会話で乾いた口に潤いを与え、また話しやすくなった。

 

 

「マスター、ハイネケン二つ」

 

「かしこまりました」

 

 

空になったグラスの代わりに、今度もまた別の銘柄だがビールを頼むスレヴィン。

バドワイザーから、ハイネケン。

なんとなく。そう、なんとなくだが何度か二人で飲んでいる内にお決まりとなった流れ。

最初に飲んだ時に、どうせだから色々試そうかとなったのが切欠だっただろうか。

思えば一緒に飲み始めたのはあの頃、とは言ってもほんの五年ほど前。

若かったものだと思いながら、新しいグラスを傾ける。

 

 

「……最近、思い出したことがある」

 

「んぁ?」

 

 

少しの沈黙の後、ミッシェルが口を開き語る。

 

 

「お前が私の家によく遊びに来ていた理由を」

 

「な…ッ!?お、お前まだそんなもん覚えてたのか!?」

 

「当たり前だろう」

 

「わ、忘れろ!今すぐ忘れろ!!」

 

 

ほぼ爆弾当然のミッシェルの言葉に、一気に慌てだすスレヴィン。

それだけの理由が、その記憶にはあった。

なにせそれは、

 

 

「お前が私の母が好きで、会うための口実にしていたことなんて忘れられるか」

 

 

かなり、かなりなモノだったのだから。

 

 

「お前ふざけるなよ!?なんで忘れてねぇんだよ!?」

 

「いや…流石に…なぁ…」

 

「目ぇ背けてんなァッ!気まずそうにすんなァッ!!余計に俺が恥ずかしいわァッ!!!」

 

 

それだけ叫びカウンターに顔を突っ伏して崩れ落ちるスレヴィンと、それを横目で見ながらグラスを傾け気まずそうなミッシェル。

恐ろしいほど気まずい時間が数分流れた時、

 

 

「お客様方、私の奢りです」

 

「「…ん?」」

 

 

それを見かねたマスターがしょうがないと言わんばかりに肩を竦めて二つのグラスを用意した。

琥珀色の、グラスの向こうが見えない液体。

スライスレモンが飾られたそれの名は――――――――

 

 

「『ゴールデン・フレンド』です。ご贔屓にして頂いてる仲の良いお二人への、私からのプレゼントとさせてください」

 

 

――――――――『ゴールデン・フレンド(生涯の友に)』。

 

 

「……かー…。マスター、あんた小粋だね」

 

「…フ、良い男だな。マスター」

 

「ありがとうございます」

 

 

チンッ、と軽い音を立ててグラスを合わせ、二人とも一気に半分程飲み干す。

 

 

「……まあ、なんだ。結婚式には招待してやるから、ちゃんと帰って来いや」

 

「…フッ!アテもない癖に」

 

「テメーが戻って来るまでに、良い嫁見つけてやるよ。バーカ」

 

 

酒で赤くなった顔をお互いに背け合い、軽口を叩きあう。

積み重なった時間が、どことなく見えるかの様に。

 

 

「期待はしないぞ?もしできなかったらどうすんだ?」

 

「30までに相手いなかったら、テメーと結婚してやんよ」

 

 

遠回しなプロポーズの様で、その実ただのからかいの言葉。

スレヴィンには、そんなつもりは微塵もない。

 

 

「ハッ!無理だなそれは。私はその前に結婚している。お前はそのまま独身でいろ」

 

 

それが分かっているからこそ、ミッシェルも慌てずにこうして軽口を返せる。

彼女の悩みとして最近口説いてくる某班長がいるが、彼の事は度外視しているのでただの軽口だ。

 

 

「…テメーを引き取る様な物好きがいないから、貰ってやるっつてんだよ」

 

「よし、分かった。表に出ろゲス野郎」

 

「おーおー、上等だ不良娘。返り討ちにしてやるよ」

 

 

その言葉が癇に障ったのか、額に青筋を浮かべて煽り始めたスレヴィンにミッシェルが煽り返す。

先程までの軽口がどこに行ったのか、一転して一触即発のムードを漂わせて睨み合う二人。

だが、十数秒ほどそのまま睨み合っていると、

 

 

「「………ぷっ。アッハッハッハッ!!」」

 

 

二人揃って、笑い始めた。

いったい何が可笑しくなったのかは、二人にも分からない。

だけど、笑ってしまった。

ひとしきり二人でグラスを傾けて口を湿らせながら笑っていると、ふいにスレヴィンがスッと目を細める。

 

 

「…絶対に、生きて帰って来いよ。もう空っぽの墓の前で泣くあの人を見るなんざ、俺は御免だからな」

 

 

それはかつて彼が見た、好きになった女性の姿。

幼心に刻まれた、絶対にこの人にこんな表情をさせたくないという思いが、今こうして口に出た。

チリチリと煙草が短くなっていく中、彼女が宣言する。

 

 

「当たり前だ…!」

 

 

その言葉に、ニッと笑う。

 

 

「じゃあ、ケツは任せろ」

 

 

フィルターギリギリまで吸われた煙草を灰皿に押し付け、彼も宣言する。

 

 

「俺が無事に火星まで飛ばしてやるよ」

 

 

俺の代わりに。その言葉は、胸の奥に仕舞い込んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、世界中で火星への『アネックス一号』発射を期待し、そしてその時を待っていた。

狭苦しい地球から、新天地が開拓されるその時を。

『アネックス計画』には、数多くの国の期待がかかっている。

もちろんその中には、

 

 

「じょうじ」

 

 

自分達こそがその恩恵を受けるべきだと考え、某略する国家もあった。

そう、『アネックス計画』の恩恵の殆どは、主要6ヶ国にほぼ集約されている。

恩恵がほとんどない国や、自分達を主要6ヶ国に挿げ替える様画策する国家もあった。

 

 

「じょうじ」

 

 

この状況は、きっとその様な何処かの国が手を引いたのだろう。

『アネックス一号』が発射できないとなれば、責任を取らざるを得ない。

その責任を取るのは誰か。

まず、先導している主要6ヶ国だろう。

そしてその中でも最も力の弱い国が責任を取ることになる(蹴り落とされる)

 

つまり、そう。

 

 

「「「「「「「じょうじ」」」」」」」」

 

 

『アネックス一号』の発射管制室へ向かう通路に、十数体もの研究・訓練用のテラフォーマーがいるこの状況は、それを狙った国家の手によるものなのだろう。

テラフォーマーたちが通った後には、既に警備員や研究者たちの死体が倒れていた。

このままテラフォーマーたちが発射管制室に入り込めば、とある国家の思惑は達成されてしまうだろう。

『M.O.手術』を受けた戦闘員は、全員『アネックス一号』に乗り込んでしまっている。

準搭乗員で戦闘能力のある『掃除屋(スカベンジャーズ)』は、現在『アネックス一号』そのものに通じるルートを守っている。

しかも、そのルートにも現在数体のテラフォーマーたちが進行しているという情報もある。

ここまで来ることは、時間的に非常に厳しい。

このままでは、管制室に侵入を許してしまう事となり、間違いなく発射は不可能となってしまう。

 

 

「…やっぱり本命はこっちだったか」

 

 

『スレヴィン・セイバー』が通路の中央で仁王立ちしていなければ。

 

 

「『人為変態』」

 

 

奥歯に仕込まれたスイッチから電波が飛び、腸に仕込まれた座薬カプセルから薬液が放出される。

服の裾から三本の触手が現れ、その身が強化アミロースの甲皮で覆われる。

 

例えばスーパーに行けば、その生物をよく見かけることだろう。

パックに詰められた脚一本。

それが我々の良く見るその生物の姿。

だが、侮るなかれ。

その生物は全身を筋肉で構成され、吸盤で張り付き、硬い甲殻類や貝類の殻を引き剥がして捕食する。

時にダイバーや漁師も襲われ、噛まれれば強い痛みを放つ毒を注ぎ込まれる。

また、その場の環境に応じて体色や体の形状まで変えてしまう変幻自在さ。

西洋では悪魔そのものと呼ばれ、時に邪神や神の一柱とされるその生物の名は。

 

 

「…元アメリカ陸軍特殊部隊、『セイバー班』所属……」

 

 

闇夜の海魔(マダコ)』。

 

 

「コードネーム『スレヴィン』!作戦開始!!」

 

 

 

 




前回二話で終わると言った気がしますが、ここで切るべきと思って三話にまたぐことにしました。
次回、インペリアルマーズ-THE OUTER MISSION-
『Luck Of Peace スレヴィン・セイバー』
次回の更新を、お楽しみに!
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