インペリアルマーズ   作:逸環

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スレヴィン・セイバー編最終話です。
どうぞ!


Luck Of Peace スレヴィン・セイバー

「…来い!!」

 

 

口から蒸気を漂わせながら、スレヴィンが咆える。

 

 

「じょう!」

 

 

一体のテラフォーマーがスレヴィンへと駆け寄り、一撃でその命を刈り取ろうと駆ける勢いを殺さず膝蹴りを放つ。

これがもし、非戦闘員やただの兵士ならそのまま殺されていただろう。

だが、テラフォーマーの相手は『スレヴィン・セイバー』。

 

 

ドゴンッ!!

 

「………甘ぇよ…」

 

 

轟音の直後、胸に大穴を開けて崩れ落ちるテラフォーマーと、硝煙を上げるリボルバー拳銃を手にしたスレヴィンがそこにいた。

通常、テラフォーマーには生身の人間が使える銃火器は通用しないとされている。

だが、それも通常ならの話。

スレヴィンが持っている拳銃は、世界最大口径の拳銃『M500』をオートマティック・リボルバーに改良したオーダーメイド品。

その口径は何と、50口径。

600年前に製造された銃だが、それでも尚この記録は塗り替えられておらず、2600年現在まで製造されている。

そしてもう一つ、特別な物がある。

それは銃弾。

スレヴィンが使用した銃弾は、『ホローポイント弾』と呼ばれる特殊な形状をした物。

その特徴は、銃弾の先端がまるでカルデラ湖の様に窪んでいること。

その結果、何が起こるのか。

着弾した際にまるでキノコの傘が開く様な形状となり、莫大な運動エネルギーと衝撃波で着弾物を内部から吹き飛ばす。

ただでさえ規格外の大きさの拳銃に、破壊を最大限に行う銃弾。

それによりテラフォーマーの食道下神経節をたった一発の銃弾で破壊しきった。

テラフォーマーには銃弾は通用しない。

だが、銃が効かないのなら、効くような選択をすれば良い。

この組み合わせなら、胴体のどこに当たっても食道下神経節を破壊できる。

それが元軍人である、スレヴィンの選択だった。

 

そしてこの通路。

これもまたスレヴィンの味方となった。

通路の幅はおよそ5m、高さは約3m程。

決して広いとは言えないそこに十数体ものテラフォーマーがいれば、特に狙いを定めなくてもどれかには当たる。

そして当たれば、ほぼ確実に仕留められる。

 

だが、一つだけ問題はあった。

それはとても簡単なこと。

仲間が崩れ落ちたのを見て、今度は一斉に駆け出すテラフォーマーたち。

そう、これこそが最大の問題。

『ホローポイント弾』は破壊力は高いが、貫通性に欠ける。

そしていくらオートマティック・リボルバーとはいえ、1丁ではこの数を相手にはできない。

『M500』の装弾数は僅か5発。

すぐに弾切れを起こすからだ。

 

もっとも、

 

 

「お前ら、何で俺が拳銃使うのにわざわざ『人為変態』までしていると思っているんだ?」

 

 

たった1丁しかなければの話だが。

スレヴィンの腰のホルスターから、更に4丁の『M500』が左手と三本の触手に握られてテラフォーマーたちに向けられる。

合計5丁の化物拳銃が、テラフォーマーたちに牙を剥く。

このための、人為変態。

たった一人で弾幕を築き、そして殲滅するための。

反動は銃自体が重いから軽減されるため問題はない。

そしてその重さはタコの筋力で解決できる。

5丁の引き鉄が引かれ、あっという間に全てのテラフォーマーたちが身体に大穴を開けて崩れ落ちていく。

 

 

「一先ず良し、と」

 

 

動くテラフォーマーはもう存在しないが、今ので全ての銃弾を放ってしまったので念のために再装填する。

床に合計25個の熱された薬莢が、カランカラン、と軽い音を立てて転がっていく。

 

何かがおかしい。

彼はそんな思いを感じていた。

彼の人生最大の後悔のあの日の様な、そんな悪い事の気配を感じる。

例えばの話、なぜ十数体程度しか来なかったのか?

サンプル用のクローンテラフォーマーはまだまだ大量にいたはずなのに。

チリチリと焼ける様な、そんな悪寒。

 

 

「じょう」

 

「ッ!!」

 

 

彼が思考していると、テラフォーマーたちがやって来た通路の向こうから、一体のテラフォーマーがのっそりと遅れてやって来た。

だが、どこかおかしい。

違和感を感じる。

いったいそれは…。

 

 

「……形状が違う?…まさか!!?」

 

 

報告には上がっていた。

以前『掃除屋(スカベンジャーズ)』の二人が最初の任務に就いた際に、『M.O.手術』が施された個体がいたと。

つまりあのテラフォーマーは------

 

 

「何もさせないで殺せば良い!!」

 

 

狙いを付け、一度に三発の弾丸を放つ。

それらは全てテラフォーマーに吸い込まれる様に飛んで行き、

 

 

「ギキキィィッ!!?」

 

 

見事に全弾命中した。

だが、なんだこの悪寒は。

なぜまだ安心できない。

その理由は、すぐに分かった。

 

 

「……じょう」

 

「効いてねぇのかよ…」

 

 

------『M.O.手術』を受けている。

起き上がり、何事もないように振る舞うテラフォーマーを相手に、思わず唸る。

表皮を見れば、何らかの粘液で覆われている。

だがあの粘液で弾丸が逸らされたとも、止められたとも思えない。

しかし、表皮とそのすぐ下の脂肪層で止められているのだ。

 

最弱と呼ばれている生物がいる。

寄生虫を駆除するためにジャンプをすれば、水面に叩きつけられる衝撃で死亡する。

潜水すれば寒さで死亡する。

朝の太陽光を浴びると、強すぎて死亡する。

これらの伝説のせいで勘違いされるが、全てでまかせ。

実際は非常に厚い皮膚と硬い脂肪層を持ち合わせており、その強度はなんと銃弾も通さない程。

『ホローポイント弾』には、弱点がある。

それは、硬い物質に着弾すると効果を発揮できないという事。

これが、テラフォーマーが銃撃を受けても無事だった理由。

 

最弱伝説(マンボウ)』。

最も弱いとされる生物は、銃弾すら止める。

 

 

「クソが!どこのどいつがこんな真似しやがった!!」

 

 

5つのホルスターに銃を仕舞い、のっそりと向かってくるマンボウ型に向かって構えを取る。

銃弾が通用しないのなら、サブミッションで関節を破壊するまで。

四肢と羽を破壊すれば、もう移動はできない。

幸いにも相手は体型はノーマルタイプと同様。

タコの筋力で充分破壊できるはず。

まずはサブミッションをかけられる距離まで駆け寄り、

 

 

「ブッ!」

 

「じょっ!?」

 

 

蛸墨を顔面に吹き付けて、目を潰す。

そして後ろに回り込み、両腕と三本の触腕で両腕を固定。

このまま後ろに体重をかけ、力を加えれば両腕を肩から破壊できる。

 

 

「…ッ!?」

 

 

はずだった。

だが、目の前の黒い背中から何かが突き出してくるのが見え、咄嗟に拘束を解除して離れる。

突き出してきた物。

それは多数のトゲだった。

マンボウの稚魚は、その全身にまるで金平糖の様にトゲを備えている。

成長につれそのトゲは失われるが、今マンボウ型が出した物はそのトゲだった。

 

全身に備えられた防御機構。

それこそが、マンボウ最大の特性。

 

 

「チ…ッ!」

 

 

思わず舌打ちを打つも、それで状況が良くなるわけではない。

いっそ自分のベースが甲殻類型だったらと思うも、即座にその考えを切り捨てる。

どうせ四肢は再生させる事ができる。

ならば、

 

 

「手足の8本くらいはくれてやるよ!」

 

 

両手に銃を構え、撃つ。

まずは今生えているトゲを破壊することが先決。

例えこれが明確なダメージにならなくても、それで良い。

今拘束するための場所が確保できるなら。

 

だが、そう。

相手はテラフォーマー。

初速から新幹線並みの速さで動く、『害虫の王』。

 

 

ドズンッ

 

「グ……ガッ!?」

 

 

瞬間的に最高速度で近寄られ、腹部に拳を受け吹き飛ばされる。

そのまま壁に叩き付けられ、大きなへこみを作る。

しかも今の一撃は拳からトゲを生やしてのものだった様で、腹部が大きく抉られズタズタに裂かれた腸がはみ出てしまっている。

さっきまでののっそりとした動きは、頑丈な肉体故に速く動く必要がなかったから。

 

 

「……ぁ………」

 

 

そのことに気付いた瞬間、スレヴィンの意識は落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開ければ、そこは鬱蒼と茂るジャングルだった。

咄嗟にアサルトライフルを構え、そこで気付く。

 

ここは、部隊が自分を除いて全滅した場所だ(・・・・・・・・・・・・・・・・)と。

アメリカ陸軍特殊部隊・セイバー班。

それが彼の、『スレヴィン・セイバー』が所属していた部隊の名前。

その日部隊は南米のとある麻薬組織を襲撃するために作戦を行っていた。

だが、どこからか情報が漏れていた。

進行ルートが漏れてしまっていた。

進行途中に部隊は奇襲を受け壊滅した。

 

今彼の周りは血溜まりで、生きているメンバーは一人もいなかった。

彼以外には。

その彼も、全身に銃弾を受け死にかけていた。

まだ生きていることが不思議なほどに。

 

 

「…隊長……シュタイム…シャロッシュ…アルバ……ハメッシュ…シェシュ……シュモネ……」

 

 

血溜まりの中で冷たくなっていく仲間たちの名前(コードネーム)を呟きながら、彼の体温も冷たくなっていく。

 

 

「…ぅ……ウオオォォォォォォオオォォォォォォッッ!!!!」

 

 

叫ぶと同時に涙が溢れる。

そのままスレヴィンは、また目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に目を開けると、ベッドの上だった。

そう、この景色にも見覚えがある。

この後聞いた話だが、襲撃を受けた時に呼んだ応援によって助けられ、そのまま『M.O.手術』を受けたことで一命を取り留めたらしい。

 

 

彼が起きたことを看護師から聞いた医師と軍の上官がやって来て、彼の身に『M.O.手術』が施されたこと、そしてその手術が失敗したことを聞かされる。

だが、そう。

大事なのはこの後だと彼は知っている。

 

 

【『M.O.手術』を行う前に、君の体の欠損を補う手術をした。『M.O.手術』を受ける前に死んでしまっては困るからね】

 

【欠損を補うのに使ったのは、君の部隊の仲間たちの体だ。本来なら免疫の方が会わない肉体を移植すると拒絶反応が起きるんだがね?そっちは『M.O.手術』の『免疫寛容臓(モザイク・オーガン)』がカバーしてくれているおかげで問題ないようだね】

 

【……今回のコードネームはスレヴィン、つまり7だったそうだな?…ラッキーナンバー・スレヴィンということか。まったく、素晴らしい仲間たちと幸運を背負ってしまったな】

 

【これで貴様は、一生勝手には死ねなくなったな。……『ピース・ラックマン』】

 

 

なぜ自分だけ生き残ってしまったのか。

その理由は今でも分からない。

なんにせよこの日、『ピース・ラックマン』の生き方は決定付けられ、そして絶対に死ねなくなってしまった。

『スレヴィン・セイバー』という墓標を掲げながら、生き続けるという生き方が決まったのはこの日だった。

 

 

「……ああ、そうだ。俺には勝手に死んで良い理由なんてないんだ………」

 

 

ならば、いい加減この目を開けよう。

そして、立ち上がろう。

この身は彼ら(セイバー班)によって生かされているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオォォォォォォオオォォォオォォォォォォォッッッッ!!!!!!」

 

 

その雄叫びに、思わずマンボウ型が足を止める。

振り向くと、そこに立っていた。

 

 

「…そうだよなぁ!!死んでる暇なんて!あるわけねぇよなぁ!!」

 

 

『スレヴィン・セイバー』が、立っていた。

薬の過剰投与によって腹部の傷を強引に治したのだろう。

傷口だった場所はタコの皮膚が覆っている。

死ねない理由を思い出してしまったのなら、後はもう戦って、生きるしかない。

 

 

「安心しろよミッシェル!俺は約束を守るからよぉッ!!」

 

 

拳を握り締め、彼は叫び、戦う。

 

 

「だからお前は安心して、火星に行って来いッッ!!」

 

 

亡き戦友(とも)たちと、今を生きる腐れ縁(とも)のために。

 

 

「じょう!!」

 

 

マンボウ型が駆け、間合いを詰める。

それに対しスレヴィンも左手に銃を持って走り、間合いを詰める。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

まずは牽制の銃撃。

その命中した衝撃でマンボウ型がたたらを踏んだ所で完全に間合いを詰め、触腕をトゲに突き刺し絡めて、再びマンボウ型の両腕を拘束する。

そして更にトゲがある事に構わず腕を突き出してこれ以上身体が密着しないように押す。

痛みに思わず顔を歪めるが、決して離しはしない。

食いしばった歯の隙間から蒸気が漏れ、スレヴィンとマンボウ型の周囲に漂う。

力が拮抗しお互い全身に力を入れたまま動かず、数分が経った時。

 

 

「…ギ!?ギキィ…ッ!?」

 

 

突如マンボウ型が泡を吹き、全身を痙攣させ始めた。

 

 

「…ようやくか……」

 

 

触腕と両腕から大量の出血をしながら、スレヴィンが呟く。

マンボウ型に起きている現象。

それは極々ポピュラーな疾患。

疾患名、『くも膜下出血』。

脳の血管が破裂したことにより出血、脳を保護する膜の間に血液が入り込み脳が圧迫され起こる疾患だ。

激しい頭痛と様々な症状を引き起こし、その死亡率は何と50%。

 

 

「…何が起きたか分からねぇって面だなぁ……」

 

 

拘束を解除してマンボウ型を押し倒し、もはや使い物にならない両腕を自切して再生させる。

尻ポケットから煙草とマッチを取り出して火を点し、一息。

その間にも、マンボウ型は白眼を剥いて痙攣を続けている。

 

 

「さっきから俺が出していたのは、マダコの『チラミン毒素』。神経に作用して血管を収縮、血圧を上げるもんだ。そこにさっきまでの力比べで、お前自身の心拍数も血流量も上がったんだろうよ」

 

 

紫煙を燻らせながら、スレヴィンが言葉を紡ぐ。

 

 

「後はお前の頭の血管が限界を迎えて弾け飛ぶのを待つだけ。……これがゴキブリのままならこうはならなかっただろうが、半端に人間に近付いた事が仇になったな」

 

 

外からがダメなら内側から蝕み殺す。

スレヴィンが覚悟を決めた時から、こうなる事は決まっていたのだろう。

そしてもう、テラフォーマーたちがやって来る気配も、新手の敵が来る気配もない。

これで決着は着いた。

 

その瞬間通路の奥、管制室から大歓声が沸き起こり、建物全体が揺さぶられる。

丁度今、『アネックス一号』が無事に発射したのだろう。

 

 

「…『セイバー班』、これにて作戦終了」

 

 

灰が床に落ち、そのまま彼自身の身体がグラリと横たわる。

出血し過ぎたこと、そして薬の過剰摂取と戦闘による大幅な疲労が原因だろう。

遠くから聞こえる『掃除屋(スカベンジャーズ)』の声を聞きながら、彼は笑みを浮かべながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると、無機質な白い天井が視界に入った。

どうやらまだ、生きているらしい。

右を向けば、点滴棒から輸液パックがぶら下がり、ルートが自分の右手に繋がっている。

左を向けば、

 

 

「…なんでタチバナなんだよ」

 

 

若いが小町艦長にも似たむさ苦しい寝顔が視界に入り、思わず眉間にシワが寄る。

こういう時は可愛いちゃんねーじゃねーのか。などと独り言ちながら、とりあえず体を起こしてナースコールを押す。

既に一度入院した事はある身。

こういう事は理解している。

これですぐに看護師が来るだろう。

だが、その前に一つやっておかなければいけない事がある。

 

 

「…おい、起きろタチバナ」

 

「…ふぁ?………目が覚めたんですか!?」

 

 

トーヘイの頬を叩いて起こすと、慌てた様にする彼に一言。

 

 

「今すぐ煙草(アメスピ)買ってこい」

 

「病院内は禁煙です」

 

 

当たり前の様に断られたが。

 

その後医師や看護師によって検査や診察を受けると、特に問題なく翌日には退院できるとの診断を受けた。

その際に受けた説明で、ようやく自分が丸2日寝込んでいた事、『アネックス一号』が無事火星へ向け飛び立った事、今回のテラフォーマー襲撃の黒幕も、マンボウ型に『M.O.手術』を施した国や組織も分からずじまいだという事を知ったがスレヴィンは、

 

 

「…ま、そんなもんか」

 

 

とだけ言い残して、そのまま翌日退院を果たした。

その際に迎えに来たリジーの尻を撫でたせいで顎を右ストレートで打ち抜かれ、再び病院内に逆戻りしたという事件があったりしたが、それも問題ではない。

 

そして数日後、彼は生まれ故郷に来ていた。

 

 

「……どうも、お久しぶりです」

 

「久しぶりね、ピース君」

 

 

初恋の人に、会うために。

 

 

「さあ、上がって。遠いから疲れたでしょう?」

 

「お言葉に甘えて。あ、これお土産の花とケーキです」

 

「あらあら、ありがとう。そういえば、貴方昔からウチに来るたびにお花を持って来てくれてたわねぇ」

 

「あの頃は道端で摘んだ花でしたけどね」

 

 

子供の頃よく遊びに来た、もはや自分の家同然になっていた家に再び足を踏み入れる。

こうして訪れたのは、もう何年振りだろうか。

軍属した時からもう来ていなかったから、かれこれ五年は来ていなかっただろう。

リビングに通され、よくオヤツを食べたテーブルを見て思わず笑みを浮かべる。

椅子に座るとすぐに紅茶と持ってきたケーキが出された。

 

そして、彼らは話し始める。

長過ぎた初恋を、完結させるために。

 

 

「…あいつは、無事に飛び立つ事ができました」

 

「そうみたいね。…聞いたわ。貴方もありがとう」

 

「いえ…。感謝される理由なんてありませんよ。俺はただ、約束を守っただけです。………本当なら、俺も飛びたかったのですが…」

 

「何を言っているの。もう充分よ」

 

「…だけど……」

 

「貴方もミッシェルも、頑張り過ぎちゃうから。私心配よ」

 

「…すいません」

 

「謝らないで。そんな貴方が素敵よ?見ててハラハラしちゃうけどね」

 

「ハハ…。………一つ、今だから言える事があります」

 

「……ええ、何かしら?」

 

「貴女の事が、好きでした」

 

「……こんなオバさんを好きになってくれて、ありがとう」

 

「…ええ、良い初恋を、ありがとうございました……」

 

 

こうして彼の初恋は完結した。

その時の彼がどんな表情をしていたのか知っているのは、ただ一人だけ。

一人だけしか、知るべきではないのだ。

 

 

「…次に来る時には、結婚式の招待状でも持って来ます」

 

「楽しみにしているわ。……本当に、大人の男の人になったわね…」

 

「…なら、良かったです」

 

 

できれば貴女の胸の中で大きくなりたかった。その言葉は飲み込んで。

男は女にフラれて、初めて大きくなるのかもしれないのだから。

この日『スレヴィン・セイバー』は、『ピース・ラックマン』は初めて大きくなったのだろう。

ただの男として、初めて。

 

 

プルルルル

 

 

その時、スレヴィンの胸ポケットから電子音が鳴る。

この音は、メールの受信だ。

それも、

 

 

「…すいません。仕事(・・)が入ってしまったようです」

 

「…頑張ってね」

 

「ええ。今度来る時に招待状も持って来ないといけませんし」

 

 

男は立ち上がり、家を出る。

その先に戦場があると知っていながら。

それが彼の生き方なのだ。

 

 

「タチバナ!ルーニー!仕事だ!!」

 

 

『U-NASA』にある『M.O.手術』被験者用寮寮監。

その仕事は寮の管理、整備、その他雑多。

そして、

 

 

「ゴキブリ駆除に行くぞ!!」

 

 

地球で発生したテラフォーマー関係の事件を解決すること。

 

 

 

 

 

 

 

スレヴィン・セイバー

本名:ピース・ラックマン

24歳 男性 アメリカ

『M.O.手術』被験者専用寮寮監

手術ベース:マダコ

瞳の色:緑

血液型:A型

誕生日:6月3日(ふたご座)

好きなもの:女性の尻、ポルノ雑誌

嫌いなもの:パッと見で流し方が分からないトイレ

 

M.O.手術被験者たちが暮らす寮の寮監。

被験者たちが問題を起こすことも考えられるため、寮監も被験者。が、失敗者のため常に多量の免疫抑制剤が必要となる。本人が錠剤が苦手なため、研究者に無理を言って栄養ドリンクタイプにしてもらっている。飲んだ後の瓶は専用に回収され、再利用されている。

誰かが喧嘩を始めるとすぐに現れて賭けの胴元になる辺り、仕事をしていない。

寮監室でポルノ雑誌を読む姿は、自分から風紀を乱しているが気にしない。

手先は器用なので、何かの修理はだいたい頼めばできる。

ミッシェルとはプライマリースクール時代からの腐れ縁で、時々一緒に飲む程度の仲。なお、初恋の相手はミッシェルの母。

元軍人であり、所属していた部隊が壊滅した際に一人だけ生き残った事で軍にはいられなくなり退役。そのまま『M.O.手術』被験者として『U-NASA』に寮監としてスカウトされ就職した。

好きな女性のタイプは歳上なあたり、初恋が影響している。

 

 

 




何かを守るために生き続ける。
それが彼の生き方。

次回からは本編に戻る予定です。
それでは、次回の更新をお楽しみに!
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