皆さん、お久し振りです!
「じょう!!」
「グッ!」
武器を手にした燈を相手にしたマイマイカブリ型の判断は、相手を近付かずに攻撃することだった。
刺又状の棍棒の先を地面に突き刺し、ただそれを振り切る。
それだけで地面は抉れ、ソフトボール大の石がいくつも燈を襲う。
そのダメージで刀を地面に突き刺して杖にし、息も絶え絶えとなる燈。
これであとは、弱り切った獲物を仕留めるだけ。
おもむろに近づく、マイマイカブリ型。
決着が、訪れる。
一筋の、煌めきによって。
結論から言ってしまえば、決着は一瞬だった。
マイマイカブリ型の猛攻によって刀を杖のようにし、膝をついて満身創痍の燈。
その止めを刺そうとマイマイカブリ型が燈に近寄り棍棒を振り上げた瞬間、荒野に刺さっていた『膝丸』が煌めき、マイマイカブリ型を両断した。
激闘の終わりの瞬間は、劇的で、そして呆気ないものだった。
「………悪いな、俺たちも立ち止まっていられないんだ…」
勝ったのは、『膝丸 燈』だった。
「アアァァァァッッ!!!」
咆える。
ミッシェルがパラポネラ型テラフォーマーを前に、拳を握って吼える。
相手のその膂力の前に、僅か数合の打ち合いでミッシェルの体は満身創痍だった。
だが、それは心が折れる理由にはならない。
「返せ……!」
握った拳に力と魂を込め、駆ける。
「
だが、
「じょうっ!!」
ドゴッ!!
「ガアァッ!!?」
強い思いが勝たせてくれるとはいつだって限らない。
パラポネラ型の、その力に任せた上からの強引な一撃で頭を強打されたミッシェルは、その意識を暗闇の向こうへと、強制的に遠ざからせた。
11年前。
13歳の頃だった。
友人達といた公民館でガス爆発があり、建物が倒壊。
当たり前の様に一緒にいたスレヴィンも含め、友人達がみな重症を負った中で、ミッシェルだけが無傷だった。
周りは運が良かったのだと言うが、それは違った。
この日、僅か13歳で『普通の人間の女の子』としてはもう生きられないのだとミッシェルは知る。
それからミッシェルはその力を呪わしい力だと、思いながら日々を過ごした。
事故の後も変わらずに、煙草の香りをさせながら絡んでくるスレヴィンの存在を、多少疎ましく思いながらもありがたく感じながら。
そして22歳の誕生日、『U-NASA』の火星探索チームの幹部になったミッシェルは資料室へと足を運ぶ。
呪わしき力。
自身の持つ力を、そう思っていた。
父のことは火星で何か公開できない原因によって死んだとしか知らなかった。
それ所かもしかしたら単に私達を捨てたのかもしれないと疑ってすらいた。
娘に悪魔のような体質があるから。
そう思っていた。
だが、それは違った。
資料室で父のことを全て知った。
悪魔の力だと思っていたのは父の特性だった
いつも私を護ってくれていたのは、
そしていつだって傍にいたのは、
「親父さんの事、実は俺嫌いなんだわ」
「……会ったこともないのにか?」
「惚れた女を泣かせたクソ野郎の事を、嫌わねえわけがねえだろうが」
自分の母親に惚れた、腐れ縁だった。
「…………ありがとう、二人とも……」
バゴンンッッ!!!
瞬間、ミッシェルの体が躍動する。
そう、まさに
その勢いでパラポネラ型の顎に拳を叩き込み、その巨躯を浮かす。
肘が爆ぜ、その推進力で繰り出された拳ががら空きになった腹に叩き込まれ、パラポネラ型を吹き飛ばす。
これが、彼女の専用装備、対テラフォーマー起爆式単純加速装置『ミカエルズ・ハンマー』の能力。
爆弾蟻の気化物質を充填、着ている装備の各部に仕込まれた噴出孔から噴出することにより加速するというもの。
その簡易な機構と性能から、製作者たちはこれを『単純加速装置』と呼んだ。
だが、その威力と効果は絶大。
「……さあ、立て」
壊れた眼鏡を外し、髪をかき上げる。
もう一度拳を握り、宣言する。
「他の誰でもなく私自身が人間としての生を取り戻す為に!テメェを
そして、約束は守ってやる。その言葉は、ポツリと呟かれた。
背中から気化物質を噴出し、一気に加速。
吹き飛ばされ、直ぐには動けないパラポネラ型の懐にまで潜り込む。
「……じょう!」
だが、そう易々とはパラポネラ型も崩れない。
吹き飛ばされ、崩れた姿勢の中
「効く……かァァァッッ!!」
しかしそれは、『ミカエルズ・ハンマー』の噴出力によって押し返され、拮抗した。
そして自分を押し潰そうとする手を上から抑え、伸びたパラポネラ型の肘に拳を添える。
「フンッ!!」
再びミッシェルの肘が爆ぜ、てこの原理でパラポネラ型の右腕をへし折り、吹き飛ばした。
「……
どこかへと飛ぶ黒い右腕を見上げながら、そんな事を思い出す。
一瞬過った腐れ縁の事を頭から叩きだし、黒い悪魔を見据える。
目の前には、呆けた様子で失われた右腕を見るパラポネラ型。
これで、終わりだ。
「オオオォォラアァァァァアァアァアァァァッッッ!!!!」
呆けている隙をつき、その首に足をまわして『ミカエルズ・ハンマー』で加速して回転。
荒れ果てた火星の大地に、パラポネラ型の頭を叩き付ける。
その勢いで首が潰れ、食道下神経節が損傷した。
『フランケンシュタイナー』。
それがプロレスで、主に軽量選手が使用するこの大技の名前。
「……勝ったぞ、二人とも………」
食道下神経節を損傷させた、パラポネラ型に未来はない。
それを見届け確認すると、そのまま疲労とダメージでミッシェルの体は崩れ落ちる。
だが、その顔は柔らかい笑顔だった。
その同時刻。
地球の、フランスのとある豪邸に一人の人物が訪れていた。
「こうして二人っきりで会うのも久しぶりだな……」
「そうだなぁ。『キース・ハワード』」
その人物とは、イギリス首相『キース・ハワード』。
そしてその会話の相手は、見たところおそらく60代頃の男性。
スーツを着こなし、全世界万人を平等に見下しているかのようなその瞳の持ち主は、
「息災のようで何より、とでも言っておこうか?フランス大統領、『エドガー・ド・デカルト』……」
「その言葉、素直に受け取っておこうか。……ああ、ワインでもどうだ?」
フランス大統領、その人だった。
「いらん。………『アネックス一号』が地球を発ってから40日以上……。ようやく貴様と会えた」
「そんなに余に会いたかったのか?」
「………もちろんだ。貴様にはいくつか聞きたいことがあったからな」
「ほう?」
キースが剣呑な空気を放ちエドガーを見据えるも、まるでそれをそよ風かの様に受け流される。
だが、そうなるであろうことは始めから分かっていたから、それを気にせずに問いを続ける。
「『アネックス一号』発射の際、管制室手前までテラフォーマ―たちが襲撃をしに来たという。しかも、その内の一体には『M.O.手術』まで施されていたそうだ」
「ふむ、そのことは余も聞いておるぞ?」
「さらに、この間の国際会議を襲撃しようとしていた、『M.O.手術』被験者達の件。あれはおそらく、
「そんなことを企てたものは、国際社会から非難されるだろうな」
「本当だな」
やれやれ、といった風に語るエドガーだが、その瞳のギラつきや態度は言葉に似つかわしくないもの。
そして、そう。
全てを見下して彼は言う。
「もっとも、余を非難することなど下民に許しなどしないがな?」
「……やはり私は、貴様が嫌いだな。……ニュートンの系譜の中でも、貴様は最悪だ」
「ハッハッハッ!!……余を非難することは許さんと、今言った筈だが?」
「ほざくな。貴様の思想や野望とやらは知っているが、貴様も同じ人間だろう」
圧倒的な威圧感を発し、キースを睨むエドガー。
そしてそれを真正面から受け止め、尚も退かないキース。
地球での、最小で最大の国家間争いが始まった。
火星でのミッシェルの戦いに、一つの終止符が打たれました。
そして始まる、国家間の戦い。
イギリス対フランスで巻き起こるこの戦いは、いったいどのような帰結を迎えるのでしょうか。
次回、インペリアルマーズ。
『Missing link 天への階』
お楽しみに!