どうぞ。
「クハハ!まあ、そう剣呑になるな。相手は余だぞ?」
「……貴様だからこそ、だ」
憎々しげに顔を歪めるキースと、そのキースを見下した笑顔を浮かべるエドガー。
国家代表という立場こそ似通っているが、しかしその実際は全く対極。
「……まあ、こうも睨み合っていても意味がない。本題に入らせてもらおう」
「ふむ?言ってみろ」
「『レオ・ドラクロワ』」
「…………ほう?なるほど。確かにイギリスのスパイは優秀らしいな」
キースの口から放たれた、一人の人名がそれまで彼を見下し続けていた男の表情に、初めて変化を生みだした。
それまでの見下し続けていた表情ではなく、どこか感心したかのような。
『レオ・ドラクロワ』とは、『M.O.手術』にも携わるとあるドイツ人の天才科学者の名前だ。
最初の『M.O.手術』成功被験者である『アドルフ・ラインハルト』に関する研究にこそ携わってはいなかったが、彼の残した成果は多岐に渡る。
それこそ、『M.O.手術』以外のあらゆる分野に至るまで。
それが天才たる所以。
その彼を、ドイツから秘密裏に、極秘裏にフランスは引き抜き亡命させていた。
だが、その事実を突きつけられても彼は揺るがない。
『エドガー・ド・デカルト』は、『キース・ハワード』を、否。
全人類を平等に見下している。
「ドイツで失踪した科学者が、なぜフランスの研究所で発見されたのか、教えてもらおうか」
それでもキースは問いただす。
問いたださねばならない。
それがエドガーの琴線に触れた。
「ほう?わざわざそんなことを言わなくてはいけないのか?……この私が、お前如きに?」
瞬間、室内を満たした濃密な怒気。
その発生源はもちろん。
「お前如きが、この私に指図を、命令をするんじゃあないッッ!!」
「……ッ!?」
エドガーその人だった。
その濃密な怒気に気圧され、僅かに後ずさるキース。
しかし、それでも歯を食いしばりその足を、無理やり前進させる。
「…………レオの研究テーマは多岐にわたっていた。実際、どれが彼のメインテーマなのかすら分からないほどに。しかし、彼はその全てにおいて成果を出し続けていた。もちろん、その中には『M.O.手術』に関するものもある」
目の前の男から放たれる重圧に潰されそうになりながらも、彼は言葉を繋げる。
「………そのレオがドイツの研究所から失踪する直前、他の職員に対して言った言葉があるそうだ……。曰く」
『この世の全てを知るには、人の一生では不足すぎるとは思わないかね?』
それが天才科学者が残した、最後の言葉。
そして彼は、ドイツからフランスへと渡っている。
「『アネックス一号』発射時の『M.O.手術』テラフォーマー。会議場の『M.O.手術』被験者の部隊。しかもその内の一人を解剖したところ、使用されたベースの生物は地球上に存在しない生物だったとの報告がある。そして科学者の引き入れ。貴様の目的はなんだ!…………いや、違うな。なぜ、
「……お前のその言い様は気に食わん上に、この余を敬意を払おうとすらせん姿勢は虫唾が走るところだが………ふむ。まあその意地でもという姿は悪くはない」
必死なキースの姿に、柔らかな革張りのソファに背を預けてエドガーは語る。
「……なあ、下民よ。下等なサルから進化し、人類が誕生しておよそ20万年…………。そして我がデカルト家の本家筋にあたるニュートンの血脈が人間の品種改良を始めておよそ500年……。人間は人間となったが、なあ」
数瞬の、間。
「………そろそろ
「貴様それは……ッッ!!?」
人類を産み出す一族、その分家の男。
その野望とは、願望とは、望みとは。
「……『ミッシング・リンク』…………ッッ!!!」
神へと至る道を求める男、それがエドガー。