インペリアルマーズ   作:逸環

59 / 73
今回から、再びあの男が登場します。


BLACK 黒

「おい、タチバナ。ちょっと頼みがあるんだが良いか?」

 

「はい、何でしょうか寮監?」

 

二か国首脳会談が行われていた、まさにその同日同時刻。

アメリカの『U-NASA本部』にある、『M.O.手術』被験者たちの寮。

そこの食堂で、スレヴィンはトーヘイに声をかけていた。

 

「ちょっとこのビルの図面調べて欲しいんだ。管理会社とか警備会社にハッキングするなりして、できるか?」

 

「可能だと思いますけど……何なんですかこのビル?」

 

「ん?今度そこでな、オークションパーティがあるんだと」

 

「はあ……」

 

何故わざわざオークションパーティの催されるビルを、調べなくてはいけないのか。

渡された書類に目を通すも、トーヘイにはいまいちピンと来なかったが、続くスレヴィンの言葉に、衝撃を受ける。

 

「聞いて驚け。FBIからの捜査協力願いだ。そのオークションに、テラフォーマーの卵が出品される」

 

「……なっ!!?」

 

その言葉に、愕然とするトーヘイ。

これまで、確かにテラフォーマーの卵の裏取引などは事例があった。

だがしかし、オークションの様な大規模な、かつより不特定多数の誰かの手に渡ってしまう危険性は、今まではなかった。

 

「驚いたろ?」

 

クツクツと愉快そうに笑うスレヴィンが、言葉を続ける。

 

「この後FBI捜査官と会議すっから、20分後にルーニーとブリーフィングルームに集合しろ」

 

「え?あ!はい!」

 

トーヘイの肩をポンポンと叩いてから、食堂を出る。

会議をするにも、まずは部屋の準備から。

寮監は色々と大変なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、二人とも。こちら、俺の軍学校時代の同期で、現FBI捜査官の『ジェームズ・フランクリン』だ」

 

「よろしく、お似合いカップルさんたち」

 

「「!!??」」

 

言われたとおりに二十分後。

会議室に来たトーヘイとリジーを出迎えたのは、中肉中背の黒人男性だった。

 

「か、かかか、カップルだなんて……そんな…お似合いだなんて……な、なあ……!!?」

 

「リジー、落ち着いて。初めまして、ジェームズ捜査官。僕は『トーヘイ・タチバナ』。彼女は『エリザベス・ルーニー』です。それと、僕たちは恋人(カップル)ではなく、相棒(バディ)ですよ」

 

「「「……………………」」」

 

初対面から飛ばしてくるジェームズのからかいを、真面目に答えるトーヘイだが、それはまあ、端的に言って悪手だった。

大人二人が「おっと、こいつマジか」という空気になり、リジーは顔を赤くさせたり青くさせたり、アワアワさせたりとし、結果。

 

「トーヘイのバカー!!このプッシー知らずー!!!」

 

「リジィィィィィィッッ!!?」

 

リジーは突如走り去り、元凶であるトーヘイがそれを追いかけるという構図ができあがった。

残された大人二人はというと。

 

「………俺、余計な事言っちゃった?」

 

「いや、ありゃあタチバナが悪い。あ、そうだ。俺だけに見せたいって言っていた資料、どうせだし今見せてくれるか?」

 

「ああ、そうだな。これだよ」

 

タブレット端末による、情報交換を即座に行っていた。

それも、トーヘイとリジーの二人には聞かせられない、元軍人である-------いや、当事者だったスレヴィンにしか話せない内容の情報を。

 

「……なるほどねぇ。あの時の(・・・・)も、か……」

 

「ああ、我々の調査の過程で、偶然分かったことだ。……本当は、お前にも教えてはいけないんだぞ?」

 

「分かってるよ。ありがとなジェームズ。今度一杯奢るよ」

 

「いいさ。軍学校時代からの友人のためさ」

 

そう言って、お互いの拳の側面を打ち合わせる。

今はツナギとスーツと別々の服装だが、同じヘルメットに同じ軍服を着ていた昔の様に。

 

「さて、ウチの二人が戻ったら、オークションの方の打ち合わせだな」

 

「ああ、そうだな」

 

そうこうしている内に、出ていった二人が戻って来る足音が聞こえて来る。

まったく。と苦笑と共に溢したスレヴィンだが、その顔を見たジェームズは微笑んでいた。

 

そうか。こいつはもう、大丈夫なのか。

 

と。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、改めて作戦会議だ。オークション会場は高級ホテル『ウンディーネ』の55階、パーティフロアだ」

 

トーヘイとリジーが戻って来た後、暗くした室内で、スレヴィンがスクリーンに会場の見取り図と写真を表示しながら、事前に立てられていた作戦の概要を説明していく。

 

「今回は捕獲対象の事を、一貫して『パッケージ』と呼称する。FBI主導の任務ではあるが、あれに関しては極秘中の極秘。実はジェームズもその外観は知らされているが、それがどういうものかは知らない状態だ」

 

「まったく、あれは何なんだ?映画で見る、エイリアンの卵かなんかかい?」

 

「正解だったら事件後にクリスタルひとしくんをやろう。さて、話を進めるがFBIの部隊も合同で動くわけだが、我々U-NASA班はパッケージの確保を、FBIはその場にいる犯罪者の逮捕が目的であり担当となる」

 

ジェームズの茶化しを適当に流しつつ、写真をレーザーポインターで示しながら、説明を続ける。

 

「当日は我々四人はボーイやウエイターなどの給仕に扮して現場に潜入する。これは既に手続きや根回しはジェームズ達FBIが済ませてくれている。パッケージが出品される時に、それぞれ舞台の近くに来て待機だ」

 

レーザーポインターの赤い点が、写真に映っている一段高いステージを指し示す。

写真では楽団が映っているが、当日はここに様々な合法・非合法を問わない珍品や高級品が並ぶことになる。

その中にはもちろん、テラフォーマーの卵も。

 

「近くの部屋にはFBIの部隊が待機してるし、U-NASA研究者たちが乗る車も駐車場で待機している。パッケージが出品されたら部隊がブレーカーを落として、会場に突入して来る。俺たちはパッケージを確保して、さっさと車に搬入してトンズラだ。可能な限り、敵と交戦しようとはするなよ。行動は迅速かつ冷静に。何か質問はあるか?」

 

説明に合わせ、見取り図や写真をその都度指し示し、最後にトーヘイとリジーに尋ねると、スッとトーヘイの手が挙がる。

 

最悪の事態の場合(・・・・・・・・)、パッケージは破壊しても大丈夫ですか?」

 

「ああ、その説明をしていなかったな。既に緊急時のパッケージ破壊の許可は取り付けている。だが、研究者たちは完品での搬入を基本的にはお望みなので、破壊は緊急時のみだ」

 

「了解しました」

 

トーヘイの言う最悪の事態の場合。

それはつまり、テラフォーマーの卵が孵化し、テラフォーマーが誕生してしまうケース。

テラフォーマーたちの脅威は、既に充分以上に知っているからこそ、破壊しても良いのかは知っておきたかった。

 

「なあなあ、テラ……パッケージってオークションに出品されるんだよな?あんなもん、誰が出品するんだ?」

 

トーヘイの次に、少々危うげにだがリジーが尋ねる。

もっともな質問だ。オークションに出品されるということは、出品者がいるということ。

つまり、テラフォーマーの卵を入手できる誰かがいるということだ。

 

「それについてだが、既に調べがついている」

 

その質問には、スレヴィンではなくジェームズが答えた。

持って来ていた鞄の中から、一つのファイルを取り出して開く。

そこには、一人の男の顔写真と資料が挟まれていた。

 

「こいつはガンキュール。『ガンキュール・ダッドリー』だ」

 

「こいつがテ……パッケージを売りに出したのか?」

 

見たところ、金髪と爽やかなイケメンスマイルの好青年であり、テラフォーマーに関わっているようには見えない。

しかし、この男が問題だった。

 

「ガンキュールは近頃急速に勢力を拡大させているギャング、『ブラック・パレード』の幹部の一人でな。こいつを内偵している最中に、今回のオークションとパッケージの事が分かったんだ」

 

「ギャングの一員であり、幹部……」

 

「ああ、こいつが加入してから、ブラック・パレードは一気にでかくなっている」

 

ジェームズの説明を聞きながら、ガンキュールの資料に目を通していく二人。

そうしている内に、ふとトーヘイが気づく。

 

「……あれ?ブラック・パレードって、もっと大きいとこの下部組織なんですね?名前は……これ、中国語ですか?」

 

資料の一部を指さし、ジェームズに尋ねる。

しかし、その問いかけの答えはジェームズではなく、別の人物から返された。

 

「中国発祥の多国籍マフィア、『黒幇(ヘイパン)』。それが組織の名前だ」

 

ポケットから煙草とマッチを取り出し、紫煙を吐きながら答えたのは、スレヴィンだった。

 

「寮監、知っているんですか?」

 

「軍にいたことに一度、別の下部組織の摘発をFBI、CIAと合同でやったことがあってな。存在自体はその時に知った。悪い事も良い事も、金になることは何でもやる連中でな。裏カジノ、脱税、合否合を問わない店舗経営、売春宿、クスリ、医療その他その他。……資料を渡された当時、あまりの項目の多さにドン引きした覚えがある」

 

「彼らの発祥は、600年前の中国の無国籍児、『黒孩子(ヘイハイズ)』の集まりとされている。それがこの600年。各地の無国籍児を吸収、拡大し、更には世界展開したのが今の黒幇(ヘイパン)となったそうだ」

 

1900年代の中国で起きた、『一人っ子政策』。

これにより2人目以降の子供が出生した場合、両親の昇進や昇給が止められてしまったり、賃金を削減される。さらには罰金の支払いを命じられるなど、他にも複数のデメリットが発生するようになった。

これにより、何が起きたか。

二人目以降の出産の際、戸籍を届け出ない親が多数出たのだ。

その結果、莫大な人数の無国籍児童が生まれ、闇社会へと流れていった。

 

黒幇(ヘイパン)もその一部が生きるために寄せ集まり、犯罪組織となったのが始まりだった。

そして、『一人っ子政策』によって、黒幇(ヘイパン)が生まれた1900年代から、約650年後の現在。

世界中で加速し続けた人口の爆発的増加は、中国以外でも各国で無国籍児や地下でしか生きられない人間を輩出。

彼らを取り込み、拡大した組織が現在の世界最大の多国籍マフィアにまで成長したのだ。

 

「お前ら、覚えておけよ。今回の敵はエイリアンじゃねえ。人間の歴史が生んだ、おっかねえ人間共だ」

 

煙草を口に咥えながら、脅す様に凶暴な笑みでスレヴィンは語る。

何せ彼自身も、黒幇(ヘイパン)のせいで悲劇に見舞われたことを先ほど知ったのだから、その脅威は誰よりも理解している。

スレヴィンの表情と言葉に、思わず顔が強張るトーヘイとリジーが、ゴクリ、と喉を鳴らす音が静かな会議室に響く。

誰も喋らぬ静寂はしばらく続き、そして一人の男の声で破られる。

 

 

 

 

「って、やっぱりエイリアンが敵だったのかお前ら!?」

 

「「「あ」」」

 

 

 

 




ポロっと言ってしまう事はあるけど、気をつけねばなりませんね!!(戒め)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。