インペリアルマーズ   作:逸環

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さて、再び第一班です。


Scissors 切り裂く

「ハッハァッッ!!!」

 

 

幸嶋が笑いながら咆え、クロカタゾウムシの顔面を殴りつける。

それだけで、最硬を誇る甲皮がひしゃげた。

 

 

「ふっ!」

 

 

鬼塚が元ボクシングチャンピオンとしての能力を駆使して懐に入り、肝臓(レバー)に拳を入れると甲皮がひび割れた。

 

なぜ?

なぜ?

なぜ!?

 

テラフォーマーは、その人生の中で起きた初めての事態に戸惑っていた。

この身体から放たれる拳は、人間(ムシケラ)を一撃で殺せるはずだ。

戦闘の練習相手であった同属たちも、全て一撃で死んでいった。

 

本来の予定であれば既に地面を殴りつけて、あらかじめ用意しておいた地下空間にこいつらを落とせていたはずなのに、それすらもできていない。

既に地の底でこいつらを殺しているはずなのに、なぜ!?

潰れた顔面で、ひび割れた身体で考えるが、答えは一向に出ない。

 

考えることを、上位個体に委ね続けてきたから。

そいつのヴィジョンのままに、動いてきたから。

考えるということを、放棄してきたから。

 

だから、彼は分からない。

 

鬼塚は躱したら打つの教本のようなアウトボクシングでライト級を制した元世界王者であり、網膜剥離で引退したもののその実力は衰えず、手術ベースの『モンハナシャコ』の能力によって、誰よりも目が良いということを。

 

幸嶋はストリートファイトと道場破りで常勝無敗を重ねてきた、20歳を過ぎてなお全盛期の肉体を維持し続けるバーリトゥードの猛者であることを。

 

二対一の状況が、どれほどの不利を招くのかを。

 

 

「オゥルァッッ!!!」

 

 

鬼塚が正面から殴り付けたのをテラフォーマーが迎撃する瞬間に、幸嶋が後ろに回って腰に右の拳を叩きつける。

単純に、拳を握り締めて、誰から教わったでも何もなく、身体に染み付いた経験が導く、最善で最高の方法で。

格闘技の世界において、有名な方程式がある。

 

握力×体重×スピード=破壊力

 

ヤシガニの鋏は硬い椰子の実ですら切り裂く力を有し、その力は自重の約8倍もの重さのものを持ち上げることができる。

これは自重の百倍以上の物を牽引し持ち上げることができる蟻などの生物に比べれば激しく劣る数値ではあるが、175cmの身長に対しその筋肉によって85kgの体重を誇る幸嶋がそれだけの力を得るならば。

その鋏の力が丸ごと彼の握力となったならば。

 

 

ゴドォッッ!!!

 

 

その破壊力は、たかが最硬の甲皮を粉々にするなどわけはない。

また、腰、つまり腰椎には中枢神経が通っており、ここを破壊されると--------

 

 

「…じょう?」

 

 

----神経が損傷され、下半身不随となる。

 

もう、クロカタゾウムシは歩けない。

立とうともがくも、まるで自分のものではないかのように、先ほどまで動いていた足が動かない。

いや、足だけではない。

腰から下。

下半身全てが機能しない。

仮に彼が、地球に存在するゴキブリと同じ体構造であればこうはならなかった。

中途半端に人間に近付いたこと。

いや、それ以前に脊椎動物になってしまったことが、この結果を招いていた。

 

 

「…さて、後はっと」

 

 

腕だけで身体を支えることはできる。

腕を使って這えば動ける。

しかし、それが今なんの役に立つ?

うつ伏せに倒れ臥したテラフォーマーは今、その人生の中で始めて『恐怖』を覚えた。

 

 

「この腕切り落としゃあ、捕獲完了だな」

 

 

背後から忍び寄る、『恐怖』。

 

 

「…まあ、それが確実かな?」

 

 

頭上で目を光らせる『恐怖』。

その全てが、怖かった。

 

 

「キィィィィィッッ!!!」

 

 

見っともなく、甲高い鳴き声を上げる。

逃げたい。

助けて欲しい。

怖い。

恐い。

 

 

「うるせえよ、害虫(ゴキブリ)

 

 

カチンッ、カチンッ、と音が聞こえてきた。

それは幸嶋が背部のバックパックを変形させて出した武器、巨大な『ボルトカッター』が刃を打ち合う音。

それがテラフォーマーには、まるで死神の歩いてくる音に聞こえた。

痛みはない。

故に、恐い。

 

 

「捕獲、完了だ」

 

「キィィィィィィィィィィィィィッッッッ!!!!!」

 

 

バツンッ

 

 

断頭台の刃(ヤシガニ)』の鋏が、黒硬象虫を切り裂いた。

 

 

 

 

 




…うん、後半というか最後がエグイ………。

次回は第五班の話にします。
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