インペリアルマーズ   作:逸環

61 / 73
クリスマスとか関係なく、本編です。
どうぞ。


Fly 猩々蠅

「……さて、と。五品の出品が終わり、次が……か」

 

ジェームズと話した後、シャンパンのグラスを補充し、会場内を『ガンキュール・ダッドリー』とCIAの女を監視しつつ、ボーイをしつつで歩くこと、1時間半程度。

一品終わるごとに休憩を挟みつつでこの時間なのだが、確かにあの異様な熱気の後では休憩も必要だろう。

特に、先ほど出た5品目。『レオナルド・ダ・ヴィンチ』の真作(盗品)は、それこそ本当に異様な熱気だった。

何十億という額の金が、いくら煌びやかとはいえ、こんな表沙汰にできないオークション会場で一瞬で動いてしまうのだ。

 

「……だが、それすらも前座、か」

 

スレヴィンがポツリと呟いたそれは、間違いなく真実。

数十億円もする、かのルネッサンスの巨匠の絵画ですら、この後に出るテラフォーマーの卵鞘の前座に過ぎない。

希少性、芸術性では確かに絵画の方が圧倒的に上だろう。

だが、それすらエイリアンの卵の前では。化学、生物学、医療、軍事。あらゆる分野で莫大な利益を上げるであろう、文字通り金の卵の前では霞んでしまう。

 

既に被検体、それも失敗例である身という、バリバリの関係者のスレヴィンですら、怖気を感じる人間の暗部。

確かに、これはオークションにかければ、それこそダ・ヴィンチの絵画すら凌ぐ金額となるだろう。

だが、しかし問題はある。

生物全般に言えることではあるが、制御する術が確立されていない。

特に今回のテラフォーマーの卵鞘は、そもそも火星に送り込むために、寒さに強いように品種改良されたゴキブリを先祖に持つ生物。

例えば冷凍庫に保管したところで、勝手に孵化してしまうだろう。

加えて、テラフォーマー特有の『人間を襲う』という本能。

最もテラフォーマーたちの管理の面で進んでいるU-NASAですら、食道下神経節に小型の爆弾を埋め込むという形でしか、彼らを制御できていないのだ。

これまでスレヴィンや『掃除屋(スカベンジャーズ)』が相手をした科学者たちは、それぞれ工夫をしてテラフォーマーを制御している場合もあった。

しかし、それですら僅かな狂いが生じてしまえば破綻するものだった。

 

そして制御を離れたテラフォーマーが、人里に現れてしまったらどうなるかなど、火を見るよりも明らか。

 

「……ここで止めないと、な」

 

水際の防衛線にも程があるが、それでもやるしかない。

だが、それと同時に疑問と、引っかかる点がスレヴィンにはあった。

まず、卵鞘の出どころはどこなのか。

これに関しては候補がありすぎるため、出品者であるガンキュールに問わなければならないだろう。

そして、なぜ卵鞘を売るのか。

秘匿し、自身だけで研究をすれば、実質的な独占販売にもつながるだろう。

なぜそうしないのか。

その二点が、引っかかり続けていた。

 

「(…………何を考えている……『ガンキュール・ダッドリー』……ッ!)」

 

思わず歯を食いしばり、表情が硬くなってしまう。

だが、スレヴィンの思考が疑問で停滞するのに反比例するように、現実の時間は進んでいく。

残り数分で、テラフォーマーの卵鞘のオークションが始まってしまう。

耳元の通信機に手を当て、トーヘイとリジーに通信を繋げる。

 

「そろそろ時間だ。配置に付き、薬をいつでも使えるように準備しろ」

 

「「了解」」

 

二人からの返事は、一言だけ。

だが、それで充分。

そっと休憩時間に花を添える四重奏(カルテット)が演奏を止め、ステージ脇へと消えるのに変わる様に、二人がステージ近くにスタンバイをしたのを目視。

自身も歩みを進め、時に客にグラスを笑顔で渡しながら、自然にステージへと近づきスタンバイをする。

哺乳類型が手術ベースの二人と違い、頭足類をベースとするスレヴィンは奥歯に仕込まれたスイッチで作動する、腸に埋め込まれた座薬装置で変身をするため、予備動作が少なく、かつ隠密性も高い。

『不完全変態薬』の実装に合わせ、つい先日新しいタイプの装置を埋め込んだのだが、まさかその手術が局所麻酔で行われるとは彼も思ってはいなかった。

意識があり、痛みはないが自身の腹部が切り開かれ、腸をまさぐられる感触を味わうという、人生の中でもトップクラスに知りたくはない感覚を知ってしまったわけだが、それはそれとして装置の使い心地は悪くはない。

スイッチ1回で『不完全変態薬』が使用され、連続でスイッチを2回使用することで通常の『変態薬』が使用される仕組みだ。

 

カチンッ。と奥歯のスイッチを作動させ、密かに『人為変態』を遂げる。

見た目には分からない。しかし、生物としてのスペックは間違いなく向上している。

特にスレヴィンの手術ベースである『マダコ』は、夜行性の生物であるためこれから起こる予定の暗闇には滅法強い。

FBIが会場の照明を落とした直後にステージまで暗視ゴーグルなしに向かうなど、充分に可能だった。

 

そうして準備を整えたところで、ステージ上に布に包まれ中が隠された物が運び込まれ、同時に司会兼盛り上げ役の男が壇上へと上がる。

ついに、その時が来た。

 

「レディース・エンド・ジェントルメーン!!それでは!今日の目玉商品のご紹介です!事前にお送りしたカタログに記載されていて、目を疑った人も多いでしょう!!しかし!これは間違いなく本物!そう!これが!!」

 

そう言いながら、男が布を取り去ろうと、手をかけた瞬間。

 

ブツンッ!

 

と、音を立てて、会場内の電気が一斉に消え、暗闇へと切り替わる。

そしてスレヴィンやトーヘイ、リジーの耳に入る、ジェームズの声。

 

「総員突撃!!」

 

「タチバナ!ルーニー!!確保だ!!」

 

「「「「「「「キャアアアアアアッッ!!!??」」」」」」

 

「FBIだ!全員外へ出ろ!」

 

「『ガンキュール・ダッドリー』及び『ブラック・パレード』構成員は全員床に伏せて手を頭の上へ!!」

 

ドバンッ!と会場の扉が乱暴に開け放たれ、女性客たちの悲鳴と共に、十数人の武装したFBIが侵入して来る。

それには目もくれず、U-NASA班の三名はステージに一気に駆け寄り、慌てふためく司会の男を突き飛ばして卵鞘を確保しようとした。

 

そう、した(・・)のだ。

 

「……なっ!?」

 

「………ハッ!?嘘だろ!?」

 

布を取り払うと、そこには確かにテラフォーマーの卵鞘自体はあった。

上部に穴が開き(・・・・・・・)明らかに孵化済みの状態で(・・・・・・・・・・・・)

この瞬間、スレヴィンの脳裏に、過去に自身が『ピース・ラックマン』から『スレヴィン・セイバー』になった日の事が、一瞬でフラッシュバックした。そして、先ほどから感じていた自身の疑問と引っかかり、この状況から瞬時にある予測がついてしまった。

 

「……二人とも!すぐに通常の薬を使え!!これは罠だ!!」

 

「寮監!?まさか!?」

 

「「「「「「「「「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!???」」」」」」」」

 

スレヴィンが二人に指示を出した直後、その背後から複数の断末魔が聞こえ、咄嗟に振り向く。

そこには、

 

 

 

 

「あー……全く。こうして綺麗に引っかかってくれるだなんてね?」

 

「……てめぇ」

 

会場からは客たちがいなくなり。代わりに先ほどまで生きて、動いていたFBIの面々が、血だまりに倒れ、二度と動かなくなってしまった姿と、その血だまりの中で悠々と立つ、『ガンキュール・ダッドリー』と5名の部下たちがいた。

とはいえ、全員先ほどまでとはその姿を大きく異ならせている。

部下たちは全員、同一の昆虫の様な特徴を持った姿で、ガンキュールのみが特別なのだろうか、別の昆虫の様な姿になっているという違いはあるが。

突如変わった姿。そして人間と他の生物が混ざり合ったような姿。

そこから導き出される答えは。

 

「『M.O.手術(モザイク・オーガン・オペレーション)』か!!」

 

「その通りだよ。バカなU-NASA諸君」

 

『ブラック・パレード』たちは、M.O.手術を受けている。

 

「さて、どうせこの後死んでいく君たちに。この私の計画を教えてあげよう」

 

相当な自信家なのか、ゆっくりとスレヴィンたちに近づきながら、ガンキュールは聞いてもいないのに勝手に話し始める。

慢心、傲慢、自信、優越。それらが合わさっての事なのだろう。

 

「今回のオークションは、君たちU-NASAの実働部隊の排除と、我々『ブラック・パレード』の持つ戦力のプレゼンテーションの場として用意させてもらった。この会場に元々あった監視カメラだがね?映像を我々の取引相手にリアルタイムで中継する、中継カメラにさせてもらっている」

 

「一石二鳥を狙った……ってわけか」

 

「まあ、そういうことだ」

 

ガンキュールが語る間に、スレヴィンたちは彼らの特徴。正確には手術ベースの特徴を確認する。

体に現れた甲皮は黄色や褐色がかった色をしており、よく見ればそれぞれ両目が赤になっている。

ガンキュールはベージュにまだら模様が甲皮に浮かび、前腕からはクワガタムシの様な、しかしそれよりも細い顎の様な物体が生えている。

 

「……戦力のプレゼンってのは、その三下たちが全員、『ショウジョウバエ』を手術ベースにしているのも関係しているのか?」

 

「おや?分かるのかい?実験動物(モルモット)に教養があるとは思わなかったけど、正解だよ。こいつら全員『ショウジョウバエ』……正確には『キイロショウジョウバエ』がベースさ」

 

「なるほどなぁ……?」

 

「寮監……!『ショウジョウバエ』って確か……!」

 

「ああ……」

 

『M.O.手術』の前身にあたる、『バグズ手術』。

更にはその初期段階において、ある昆虫を使用することが決定していた。

『バグズ計画』にあたり、当時の研究者たちによって勝手に別の昆虫で手術は行われたため、結局は使用されなかったその昆虫。

それこそが、『ショウジョウバエ』。

体長は3mmほど。

戦闘面において、際立った特徴は何もない。

だが、これがこと、『バグズ手術』や『M.O.手術』となると、ある特徴が突然浮上する。

 

人間への適合率が(・・・・・・・・)他の生物よりも高い(・・・・・・・・・)のだ。

 

つまりは、現行の『M.O.手術』ですら成功率36%程度なところを、より高い確率で、安定して成功させることができる。

なおかつ、通常パッチテストの様にどの生物が手術ベースとして該当するか調べた際、良くて数種類の生物が該当する程度なのに対し、『ショウジョウバエ』は大多数の人類が手術ベースとして該当する。

これこそが、『ショウジョウバエ』の持つ能力(・・)

また、男たちが受けたのは『M.O.手術』であるため、『ショウジョウバエ』だけではなく『ツノゼミ類』も手術ベースとして活用している。

これにより『ショウジョウバエ』の欠点たる、脆弱さは補われる。

もちろん、他のより強い生物で手術を行った場合に比べ、圧倒的にその肉体的スペックは劣る。

だが、それで良いのだ。

 

通常の対人戦闘及び近代戦においては(・・・・・・・・・・・・・・・・・)それでも充分すぎるほどの強化なのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「……まあ、ガンキュール。今はそれ以上口を開かなくていい」

 

スレヴィンが、奥歯のスイッチを連続で二回入れる。

見る間に人為変態が始まり、腰から三本の蛸足が上着を破りながら出現し、黒目は横に長くなる。

 

「そっから先は、U-NASAの取調室で聞いてやんよ」

 

既にトーヘイとリジーも通常の変態薬を使用し、それぞれの手術ベースである『ドブネズミ』と『イエネコ』の特徴を出現させ、戦闘準備は万端だ。

 

「……クハッ!この私を!?捕らえると!?打倒すると!?……妄想が過ぎるよ、実験動物(モルモット)ども……!」

 

スッと両手を肩程度まで挙げ、ガンキュールはその表情を歪ませる。

 

「さあ、行けお前たち!実験動物(モルモット)の駆除だ!」

 

「「「「「アイヨ兄貴!!」」」」」

 

「二人とも!全力で生き残れ!!」

 

「「了解!」」

 

『U-NASA』と『ブラック・パレード』。

二つの組織の衝突が始まった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。