インペリアルマーズ   作:逸環

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Cross 交差

ブカレストの街へ着いた翌日。

『トート・ダガー班』の4名は、調査のために町を歩いていた。

ターゲットである、『アダム・ベイリアル・ロスヴィータ』の拠点を探すための調査だ。

まあ、とはいえある程度の目星はついている。

物資の流れ、金の流れを追えば、おのずと判明することだ。

クロード博士がつかみ、イギリスが精査した情報により、一棟のビルが候補に挙がっていた。

 

「で、ここか」

 

「はい、ここです」

 

見上げたビルの高さは、5階建て。

一般的なテナントビルのようだが、ここに金も物資も流れ込んでいる。

可能性はかなり高い。

 

「お前ら、武装の用意は良いな」

 

「いつでも」

 

「準備できています!」

 

「俺はいつでもいいぜ」

 

ここは装備が制限される火星ではなく、実質無制限に持ち込み使用できる地球。

場所が場所なので自重はあるが、それでも持ち込めるものは持ち込んだ。

全員がプロテクターを装着し、大河以外は銃器も持っている。

特に、スレヴィンはこのために色々と持ち込んでいる。

 

「良いか、当局には手出ししないように通達済みだし、周囲には映画の撮影って張り紙もした。窓の外に弾が飛ばない様にだけ気をつけろ」

 

「……あの、一つ質問が」

 

「なんだ、言ってみろ」

 

恐る恐る、といった様子で手を挙げるのは、ハリーだった。

若干の汗をかきながら、彼は問う。

 

「俺、スパイで後衛というか戦闘職ではないんですが、俺も前衛バリバリに中に入れと………?」

 

「できるだろ?頑張れJB」

 

「ジェームズ・ボンド?」

 

「残念、ジャック・バウアーだ」

 

「アメリカじゃねーか!」

 

「さて、他に質問がある奴は?なければ突入だ」

 

ハリーの訴えを一蹴し、突入準備を整えさせる。

ハリーとしても言うだけ言ってみただけなので、特に気にした様子はない。

そもそも、4人しかいないのだから、全員で突入しなければ人手が足りないにもほどがある状況になってしまうのだから。

 

「良いか、突入と同時に人為変態だ。廊下では一列。先頭はラヴロック、防御力が一番高いお前だ。能力の盾は常に展開し続けろ」

 

「了解!」

 

「二番目が東堂。敵が接近戦仕掛けてきたら、前にいるラヴロックとスイッチして戦え」

 

「分かったぜ」

 

「三番目はジェミニスだ。臨機応変にサポートを頼む」

 

「承りました」

 

「で、最後尾が俺だ。後ろから指示出しが主になるが、状況に合わせて俺も援護する」

 

そうして、彼らはビルの扉に手をかける。

 

「それじゃあ、突入!!」

 

勢いよく扉は開けられ、4つの影がビル内に駆け込んでいった。

覚悟を決め、駆け込んだ。

 

 

 

だが、その覚悟はすぐに意味のないものとなる。

一階を捜索しても何もなかった。しかし、二階以降では違った。

 

「これって……」

 

「……なんだぁ、こりゃぁ?」

 

二階に入ってすぐのこと。

閉じられていた一室の扉を開くと、キャロルと大河は顔をしかめた。

それも当然だ。中にいたものは、

 

「あー……あへへ……あーーー…………」

 

「キクキク……」

 

「……けひひ…………」

 

特殊な匂いのする煙が漂う室内で、クスリをキメて、恍惚の笑顔で床に倒れる複数人の男女だったから。

覚悟はしてきていた。機械の鎧を身に着けた、屈強な兵隊と戦う覚悟を。

覚悟はしてきていた。速く、硬く、強い黒い悪魔と戦う覚悟を。

だが、これはそのどれとも違う。

目の前のこれは、覚悟していなかったもの。

 

「……この匂い……マリファナか。まるで阿片窟(アナグラ)だな」

 

『トート・ダガー班』の中で、最もその手のことに詳しいハリーが匂いに顔をしかめつつ、感想を述べる。

彼自身、『ケシ』を手術ベースとするため、個人的に調べもしていた。

故にこの状況が、まるでかつて中国に存在した、阿片窟に似ていることもすぐにわかった。

だが、阿片窟と似て非なるこの空間は、かなり異様。

 

「……この香炉、『FREE』って書いてある……?」

 

その異様さの原因は、元警察官のキャロルが見つけた。

部屋に立ち込める煙の正体は、マリファナを燃やし燻らせるための香炉。

それを手に取り確認すると、そこに書かれているのは『FREE(お好きにどうぞ)』の文字。

 

「おいおい、嘘だろ。マリファナったら金の生る木だぞ。そいつがU-NASAの給茶機よろしく無料ってこたぁねえだろ」

 

床に転がっている人々を観察し、危険がないか確認していたスレヴィンがジョークを飛ばす。

しかし、その首筋には冷たい汗が一筋流れていた。

そう、この空間は極めて異様だ。

そもそも、彼らがここに来た理由は『アダム・ベイリアル・ロスヴィータ』がいる可能性が高かったからだ。膨大な金と物資がこのビルに流れ込んでいたことを理由に、ここに来たのだ。

なのに、あったのはフリーの阿片窟。

手に入れた情報と、実際の内容が全く一致していない。

 

「……一応、最上階まで確認するぞ」

 

スレヴィンが一声かけ、再び隊列を組む。

全員が全員、一様に言いようのない不安を感じながら。

 

そしてその不安は、最上階で的中することとなる。

 

 

 

一方そのころ、シロとエミリーは屋台で買ったアイスを片手に町を歩いていた。

シロがバニラ、エミリーはチョコというオーソドックスなアイス。

時折エミリーが味見がしたいと言い、食べさせあいっこをしているのが微笑ましいが、彼らは決して付き合っているわけではないのだから驚きも良いところだ。

U-NASAにいるロブソン兄弟やその他大勢が見れば、七孔墳血してしまいそうだが、まあそれはそれだろう。

 

「あら?シロくん、あの張り紙見てくださる?『映画の撮影中』ですってよ!」

 

「映画?へえ、こんなところでなぁ?」

 

二人が見つけた張り紙、それはスレヴィンたちが貼っていた、例の張り紙だった。

映画の撮影ということにしておけば、銃声や戦闘音、破壊音がしても、人は『そういうものだ』と認識するから。

普通は、そのはずだった。

 

パァンッ!!

 

「「ッッ!!?」」

 

思わず顔を見合わせる。

今の音は、映画で使われる様な音ではなかった。

そもそも、映画の撮影において銃声は編集で後付けされるものであり、撮影現場でするものではない。

加えて、今の銃声は作り物ではない。正真正銘本物の、実銃の音。

二人はそれを、聞き分けることが程度には修羅場をくぐっていた。

 

「……どうするのです?」

 

「どうしたもんかな……」

 

エミリーの問いかけ。

短いそれは、この銃声を無視するかどうかというもの。

何せ二人は逃亡者。厄介ごとには関わらないに限る。

逡巡するシロだが、しかしその迷いは即座に打ち切られることになる。

 

パリンッ

 

「ッ!?避けろエミリー!!」

 

というガラスが砕け、割れる音。

その音がした上を見れば、窓ガラスの破片と共に落ちてくる灰と黒。

咄嗟に二人でその場を飛びずさると、それらは目の前に落下して来た。

 

「あっっぶねェェェェッッ!!!!」

 

その内の灰……正確には腰あたりから生えた、灰色の触腕で身を包んでいた男は、その触腕をクッションにしつつ落下と同時にゴロゴロと転がり、ある程度転がった所で立ち上がる。

 

「じぎぎ……!」

 

黒の方……テラフォーマーは、落下の際に辛うじて羽を展開させることで衝撃を殺し、生き残って立ち上がる。

 

「クソッタレ!五階からパラシュート無しダイブとか、空軍でもやらねえよ!!痛ってぇな!!」

 

ガラスの破片が突き刺さり、落下によってボロボロとなった触腕を自切して切り離し、再生させる男。

痛々しい見た目に反し、その全身から立ち上る覇気は衰えず。

落下の衝撃でフレームが歪んだ銃を捨て、中指を立てて吠える。

 

「オラ!来いよゴキブリィ!!」

 

男は、スレヴィンは咆える。

この目の前のテラフォーマーを、確実の抹殺すると。

 

「じょう」

 

しかし、その咆哮は無意味となった。

テラフォーマーには、ある習性がある。

まず、『1.機械など文明を感じさせる物を持っている者を優先して狙う』

そして、『2.生殖目的ではなく、何故か女性を優先して狙う』

ここでの問題は、その2。

 

「え?」

 

この場には、エミリー(優先対象)がいる。

突如狙いを一緒に落下したスレヴィンから、この場に偶々居合わせたエミリーへと変えるテラフォーマー。

その黒い巨躯が、一気に加速しエミリーへと迫る。

 

「クソッ!」

 

咄嗟に触腕を伸ばしてそれを阻もうとするが、ゴキブリは一瞬でトップスピードへ達する。

その触腕は届かず、虚しく空を切った。

だが、そもそも伸ばす必要はなかった。

 

「人為変態」

 

エミリーへと伸ばされた黒い魔手は、止められた。

他でもない、その胸を貫くシロの腕によって。

 

何も速い生き物は、ゴキブリだけではない。

停止状態からトップスピードまで加速する力は、確かにゴキブリはトップクラスだ。

しかし、しかしだ。一瞬でトップスピードまではいかなくとも、しかしその途中の速度ででもゴキブリのトップスピードを凌駕する生き物は、存在する。

 

「エミリーに……触るなぁ!!」

 

『M.O.手術ベース』……『閃槍の暗殺者(シオヤアブ)

      及び『変則的バグズ手術ベース』……『音速伝説(セフェノミアヒツジバエ)

 

蜻蛉を超える旋回性能に加え、人間大にすると時速800kmに至るその速度が、一瞬にしてテラフォーマーの食道下神経節を破壊する。

引き抜かれた腕からは、白い脂肪体がボタボタと落ちる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「シロくん!大丈夫ですか!?」

 

「お前こそ大丈夫かエミリー?」

 

「はい!シロくんが守ってくれたからですわ!」

 

咄嗟に行った人為変態により、体にかかった負担が疲労となってシロを襲う。

だが、それでも二人は笑顔だった。

二人だから、笑顔だった。

 

「あー……お二人さん?仲良しこよしで良い雰囲気のとこお邪魔して悪いが、ちょっと良いか?」

 

「「あ」」

 

そんな二人の良い雰囲気を、遠慮がちに、しかし容赦なく破壊しながら割って入ったスレヴィン。

二人の様子、具体的には身なりや所持品、シロの全身状態などをザザッと観察した彼は、一つの提案をした。

 

「危険手当込々で、害虫駆除の日雇いバイトしてかないか?」

 

崩れ落ちたテラフォーマーと、自身が落ちてきた窓を指さしながら。

 

 

 

 




ついに本格的に重なり始める、3つの物語。
それぞれの運命が混ざり合い、描き出す文様。
まだまだ続くコラボシリーズ、お楽しみください。
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