インペリアルマーズ   作:逸環

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Journey 一瞬

複数の達人たちという個人の暴力という矛盾。

分断されたスレヴィンたちは知らないが、A、B、Cという順番には意味があった。

 

人類にない器官を増設し運用するA。

新たな肉体を得て運用するB。

そして自身から離れた別の肉体をも操作して運用するC。

 

Aから順番に、徐々に本来の肉体以外のモノを得て機能を拡張する。それがAからCという順番(発展)の意味だった。つまり、開発が後発になればなるほど、その技術はより高度なモノとなる。

それ自体は決して戦闘力の強化とイコールになるわけではない。例えばだが、新たな肉体とはいえただの(・・・)五体満足であるBと、そもそも無いパーツを動かさなければいけないAであれば、使用者の操作難易度はAの方が困難となる。複数の肉体を同時に操作するCに至っては、脳が複数なければ運用不可能と言っても良いだろう。

 

だが、できてしまう。

人類史が生み出した自身の体を動かすという技術の訓練の果てに、成し得てしまった人がいた。ただ、それだけの話として。

 

 

「ってなわけで、エミリーちゃん。ぶっちゃけこのCってやつぁあ、どうやら今の所俺しか使えないらしい」

「事実上のワンオフですわ……!」

「でもロスヴィータ先生、AI導入すれば数が足りない脳みその代わりもできるかもって言ってたよ?」

「それしたところで、俺の劣化を量産するだけだろ。まあ、今の時代一番安い資源ともされてる人間を、即席でロボット兵器化できるってだけで有用かもしれんけども」

「俺が必死こいてるのに、そっちで話し続けてるの止めてもらえるか!?」

 

Cの部屋では依然として、シロが夥しい数の操作されたジャンキーたちを相手に立ち回り、それ以外の3人は茶をしばいていた。一応エミリーも援護を試みようとはするのだが、実際のところその隙すらない。お茶を飲む、お菓子を食べる。話をする。それは問題なく行える。ただ、攻撃に類するアクションを取ろうと試みるだけで、ルイズの手が肩に添えられ止められる。ニュートンの一族に連なる最高峰の肉体は、僅かな筋肉の力みすらも見逃さないのだろう。だから、シロが単独で戦うしかない状況が続いていた。

この状況でシロがなんやかんやと言いながらも、立ち回れているのにはいくつか理由があった。

 

理由1:シオヤアブの速度

これは単純に、シロの手術ベースであるシオヤアブが145km/hという尋常ならざる速度で移動でき、それを人間サイズで行えるシロだからこその理由。

 

理由2:コントロールの有線による制限

これもまた単純な話であり、ジャンキーたちは皆、有線接続で六禄と繋がっている。そのラインの一本一本が各自に干渉しない様に行動させなければいけないという制限が、六禄側にはあった。

 

理由3:ジャンキーたちが多すぎる

理由2にも通じるが、そもそもどれほどの数がいたとて、一度に攻撃できるのは前後左右の四方からの4人程度。有線接続の制限もある中、数多く集めたのはむしろ行動制限を増やしただけとなっていた。

 

これだけの理由があるからこそ、達人化ジャンキーたちから一撃ももらわずにシロが耐えれていた。

逆に言えば、それが限界でもあったわけだが。

常に四方から攻撃をされ、回避しかできない、回避しかさせてもらえない。M.O.手術被験者の、それも飛行能力持ちであるシロであれば上に逃げるという選択肢もあった。だが、飛ぶ、跳ぶ。どちらにせよタメが必要となる動作。一瞬であっても制動が大きい動きをするのは、この状況では厳しいものがあった。

では、いっそジャンキーたちを攻撃するのはどうだろうか?

 

「(それができるなら……!苦労はしねえ……!)」

 

繰り返そう。ジャンキーたちは皆、達人と化している。

シロの速度という人体を越えた速さを抑え込む数で、圧倒的な技術をそれぞれが使う。圧倒的な隙がなければ、攻撃に移行することさえできない。

シロの頬を伝うのは動き続けて出た汗と、緊張から流れる冷や汗の両方。

一撃でも当たってしまえば、おそらくそのまま囲まれタコ殴りにされるだろう。

袖の一部でも捕まれば、おそらくそのまま引き摺り倒されてタコ殴りにされるだろう。

だから、避け続けること以上のことができない。

 

───決定的な隙が産まれる事がなければ。

 

人間には、もっと言うならばホモ・サピエンスには抗いがたい反射行動というものがある。

それは、攻撃ではなかった。攻撃のための筋肉の力みや、骨の軋みはなく。ごく自然な、よくある動作だった。

 

パンッッ!!

 

エミリーの手から放たれた、高い音。言ってしまえばそれはただの拍手。柏手と言われることもあるそれ。

だが、突然の音に人は反射的に振り向いてしまう。

 

「着想は良い。だが、甘い」

 

はずだった。

エミリーの前に座る六禄はにっこりと笑い、手をヒラヒラとさせる。

 

「俺はもう、音で咄嗟に反応できる歳じゃねえ……!!」

「老いに負けましたわ~!?」

「これ、どっちが負けてるんだろうね」

 

見た目の若さに騙されるが、六禄自身は後期高齢者。咄嗟の反応という能力には衰えが来ているらしい。

そして有線接続で操作しているジャンキーたちは、六禄のマニュアル操作で動かしているようなもの。衰えた反応、反射能力が活かされてしまったことになった。エミリーの一手は、老いによって無効化されてしまった。

 

「……あ」

 

それが、シロに一筋の光明を見出させた。

シロはただ、目の前のジャンキーの目を見つめ、そして───()()()()()()()()

 

 

「あ、いかん」

 

六禄も、それで何をされるか気付いた。だが、止まらない。

咄嗟の反射は衰えた。しかし、目を見つめられるという予備動作が、ホモ・サピエンスとしての反応を可能にさせてしまった。

視界どころか五感を共有する、ジャンキーたちと六禄。その連動が不和を起こす瞬間が、作られてしまう。

 

1960年代から1970年代にかけて活躍した、偉大なボクサーがいた。

彼は海外の強豪たちを相手に、己の不利を悟り、工夫をしてベルトを守っていた。

彼も使ったこれは、目の前の相手に致命的な隙を生み出す。

 

あっち向いてほい。

言葉にすればそれだけなのだが、目の前の人間が余所見をすると、自身もそれに反応してそちらを見ることがある。それが()()()()()()()()()()()()()()()()なら、なおさらのこと。

四方を囲む目の内の一つが、シロから離れてしまった。

しかしまだ三方の目、そして目をそらしてしまった前方の目の後ろにもある他のジャンキーの目。完全に隙ができたわけではない。

 

ここでもう1つ、ダメ押しがある。

四方から三方に攻撃密度が減ってできた、この一瞬だけの値千金の隙。

シロがポケットから出したそれは、細長いグリップ型の手榴弾。ハリーから渡されていたそれをポケットから出しつつピンを抜き、()へ投げる。

それが何か。視認した物を老いた頭が思い出そうとする。手榴弾だ。おおよそ爆風よりも爆発で生じた破片による殺傷力が高い武器。

で、あるならば問題はない。何人かのジャンキーを傘にすれば、破片の影響は最小限。

シロの頭上を覆うように、正確にはシロの周囲を囲うジャンキーたちを守る様に、控えていたジャンキーたちが跳ぶ。これで事は足りる。

 

……果たしてあれは、手榴弾だっただろうか?

 

理由4:若い肉体に対して、老い続けていた脳

彼の脳が若い頃の咄嗟の判断力を残していれば、それがただの手榴弾ではなかったと気付いただろう。そしてそれに対して、適切な対応ができただろう。

 

破裂する()()()()()。周囲を包むのは、爆音と極度の光。

投げたシロだけが屈んで耳を塞ぎ、口を開けて防御態勢を取れていた。

判断を誤ってしまった老人は、その影響をモロに受けてしまった、

 

()()()()()()()()で。

 

理由5:増設された五感による影響の拡大

これは単純な話だ。たった一人の脳に、十数人分の五感の影響を処理させるという絶大な負荷。

それが閃光手榴弾という、健康な若者にさえ行動不可能な影響を与えるだけの衝撃を、後期高齢者の脳に叩き付けているのが今。

その様な状態で、老いた脳が正常な機能を取り戻す事は困難。

 

爆音という静寂と、閃光という暗闇の中。

 

「オッッ!!??ッゴアァァァァッッッ!!!??」

 

シオヤアブの速度で放たれた右ストレートに腹打ち抜かれた六禄の体が吹き飛び、壁に叩き付けられ罅を入れる。

そのままズルズルと床に落ち、体が力なく崩れる。

六禄を殴り抜いたシロの背後には、一瞬で有線を切断した事で本体(六禄)との接続が失われた、ただのジャンキーたちの体が倒れていた。

 

「……痛ってぇ。体ウルヴァリンかよ」

 

 

 

 

 

 

────「死にたくない」。ただそれだけで生きて来た俺が、あの女に逢ったのはもうどれほど前だったか。

不思議なものだ。昨日の夕飯も思い出せないのに、ただ目を閉じているだけど顔を思い出せるのだから。

不思議なものだ。思い出すお前の顔は、いつも微笑んでいたのに。

 

なんで今は、怒っているような顔をしているんだ?

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