今回から虞美人さんのネタバレを含みます。後、喫茶店編はストーリーの進行により進む前日談の番外編のような形を取らせていただきます。
それから、ぐっさんは今後レギュラーとなり、人理修復にも連れていくことになりますのでご了承ください。やったぜ。
ぐっさんのイベント参加楽しみですね(ゲス顔)
喫茶店とぐっさん
「どういうことだ……?」
「んー、何がだ?」
カルデアの中でも人通りが少ない区画の倉庫部屋の一室。そこて白衣を着た女性――ナイア・ルラトホテップ博士を、スーツ姿の魔術師――レフ・ライノールが問い詰めていた。
薄暗い部屋には二人だけがおり、その周辺には人の気配すらない。
「
「ああ、なんだそんなことか」
議題に上がっているのは人類悪顕現と書かれたTシャツを着て、カルデアに訪れている人魚と呼ばれている女性についてであった。
呆れたような様子でナイア博士は大きく手振りを加えながら首を振るう。
「確かに貴様の反応が面白いからあのTシャツ着て来いと言ったのは私だ。知っての通り、私は"嘘は吐かない"ことを信条にしている。故にはっきり言っておく。それに関して私が直接的に何かをした覚えはない」
「なに……?」
思ってもいない回答にレフは驚き、疑問を浮かべた。
目の前にいるナイア・ルラトホテップは悪の権化そのものであるが、実際に嘘を吐くことを良しとしない。嘘とは信用そのものを貶める事になるからだ。信用を勝ち取り、人間と接し、特等席にて顛末を眺めることが趣味の彼女が嘘を話すことはまずない。
彼女がそう言っているということは本当に直接的には関わっていないということだ。
「私の子が、
「そんな馬鹿な話が――」
「あり得ない程に馬鹿な話だからこそ奇跡と呼ばれるのだよ。しかも奇跡とは良い方にも悪い方に起こる。貴様らにとって後者であっただけの話であろう」
食い下がろうとするレフにナイア博士は言葉を遮って気だるげにそう返す。
「それに私も被害者だ。わざわざ"特異点にSCPを配置した"のに貴様らが止めてしまえばそれも無意味になる。私に何のメリットがあると言うのかね?」
それを言われるとレフは返す言葉が無かった。実際、レフらのとある計画のためにナイア博士は大いに貢献していた。今さらそれを止めることは何よりも彼女自身が許さないだろう。
レフが言葉に詰まる中、ナイア博士は更に呟く。
「私と直接関わった"人間"は等しく全てが破滅する。それがこの地球において私の性質であり、私の信条であり、私のライフワークだ。故にこれも乗り掛かった船、私も最大限力になるとしよう」
ナイア博士は笑みを強めた。その様は獣が威嚇するようでありながら楽しくて仕方がないといった感情が溢れており、見た者を嘲笑うような様子であったが、続けられた言葉にレフは絶句した。
「第七特異点には"―――――――"がビーストⅡの代わりをする。それで何も文句はあるまい?」
それはレフにとって思っても見なかった好転であり、同時に第七特異点を本来のものよりも遥かに覆しようのない内容になることは火を見るより明らかであった。
それこそ
レフの様子に勝手に納得したナイア博士は女性らしい柔らかな笑みを浮かべる。
「では持ち場に戻ろうか。まだまだ人理焼却までにやらねばならぬ仕事や、やりたいことが山積みなのでな。この辺りで失礼するよ」
それだけ言うとナイア博士は踵を返して部屋から出て行った。
◆◇◆◇◆◇
「暇だなぁ……」
『Aaaaa――』
「あーAaa――?」
カルデアの所長への挨拶をしたのも数日前の話。人理焼却まで与えられた部屋でゴロゴロする以外はロマニのところに顔を出したり、レクリエーションルームに入り浸る事にも飽き始め、自室のベッドの上で寝そべりながらそんなことを呟いた。
何故か俺に密着している人魚さんと、人魚さんに抱かれたアクアも反応する。
「中々人類終わらないねー」
部屋に置いてある四畳半の畳の上に設置された炬燵で温まっているフランチェスカはそう呟いた。悲しいかな全面的に同意である。
そもそもいったい何時なんだよ人理焼却っていうのは……誰もそれについては正確に教えてくれなかったし、母さんは教える気がないので知る由もない。
「……暇だしなんか始めるか」
そうと決まればとりあえず、母さんのところに行って許可貰ってから、オルガマリーちゃんのところに行くか。
「それ、事後承諾って言うんだよね?」
「悪いことはしないからへーきへーき」
なんでもカルデアには食堂しかないようなのできっと喜ばれるだろう。
俺はベッドから立ち上がり、皆の視線を集めると高らかに宣言した。
「"喫茶店"を開こう」
こんな僻地で必要とも思えないが、喫茶店を設営に必要な資格は全て持っていたりする。
◆◇◆◇◆◇
母さんに言うと"面白そうだ。是非にやれ"等と言われ、オルガマリーちゃんに財団側の許可を届けると頭を抱えながらも承諾してくれたので、カルデアのやや財団施設寄りの階層に喫茶店を開く許可を頂いた。
フランチェスカと、人魚さん、そして母さんの希望でマシュちゃんがまだ設営途中の店の中にいた。
フランチェスカは問答無用で従業員。マシュちゃんは社会勉強とのことで従業員。人魚さんはマスコットである。
「さて、カルデアで喫茶店を開店することになった」
「はいはーい! はーい!」
「なんだねフランチェスカ?」
「どう見ても従業員が足りませーん! シフトが大変なことになりまーす!」
「一応、カルデアでは従業員の募集はしたが誰も来なかったから我慢しなさい」
「ぶーぶー」
抗議の声を上げるフランチェスカを黙らせた。集まらなかったのだから仕方ない。まあ、当然ながら職員は働いているのだから暇ではないのだろう。
「さて諸君、この店に今足りないモノは何だ?」
「若者の初々しさとかかな?」
「アホかフランチェスカ、そんなもん有っても無くても一文の得にもならん」
「喫茶店なら……茶葉やコーヒー豆でしょうか?」
「いいね、マシュちゃん! マル……と見せかけてバーツ! 茶葉とコーヒー豆ならカルデアの食堂とロマンの部屋に中々良いものがいっぱあったから分けて貰って持ってきてある」
ロマニの奴は無断だが、そこを言うことはない。マシュちゃんは更に考え込んでから口を開いた。
「それならなら接客の心構え……はどうでしょうか?」
「それはあった方がいいモノだから半分正解だが、半分不正解だな」
『b@fy』
「人魚さんはごはんね。ある意味正解」
「………………(ぐっ)」
人魚さんはそのための右手と言わんばかりに無表情で片手を振り上げて喜びを露にした。多分、本人は行動の意味をあんまり考えていない。
俺は設置された業務用の冷蔵庫を開けた。そこには空は良くないため、申し訳程度に置いてあるペットボトル容器の水しか入ってはいなかった。
『Aaaaa――』
人魚さんは流れるように冷蔵庫から水の入ったペットボトルを一本取り出すと、蓋を開けてそれさえも飲み干した。これで冷蔵庫は空だな。
「普通に在庫と商品だ。今この店に売れるモノが媚びと春と喧嘩しかねーんだわ」
ちなみにお茶とコーヒーを作ろうにもポットもドリップマシーンもない。両方ともロマンの部屋で見かけたから後でかっぱらって来るか、俺の家にある奴を持ってくるか。
あれ……? でも家で使ってるサイフォン式の奴は何時買ったやつだったけな。19世紀だったのは覚えてるんだが……まあ、いいか。
「イブちゃんの春はいくらですか?」
「ほう、喧嘩をご所望か……お客サマ……?」
「じょ、冗談だってもう!」
「あの……春とはいった――」
『Aaaa――』
疑問符を上げそこから先の言葉を放とうとしたマシュを人魚さんはそれ以上いけないと言わんばかりに止めた。エッチなのはいけないと思います。
「それにしてもお店っていうとあれだねー、ルセッティアとか懐かしいねー」
「申し訳ないが最終的に自販機に自販機を入れて売り始めるホワイト闇金返済ゲームはNG」
「だが、それがいい」
「せやな」
そんなことを考え、設営に移ろうとしているとフランチェスカが大きく手を上げた。
「はいっ! 店名は"最後のレストラン"がいい! ジャンヌ・ダルクのメイドさんを雇わなきゃ……」
「残念だが、店名は決まってるんだ。そうでなくとも申し訳ないが、英霊が来店する度に宝具をひっぺがして座に返すことになりそうな店はNG」
というわけで、フランチェスカの提案を却下しつつ、まずはどんなものをメニューとして出して欲しいか、イブ・ツトゥルたちはカルデア職員から調査を開始した。
◇◆◇◆◇◆
「えーと……それでなんで僕は連れてこられて椅子に縛られてるのかな?」
「偶然、店の外を通り掛かったからだな」
「ええ……」
困惑した様子のロマニに喫茶店のメニューを言わせてその内容を記録していると、ふとロマニを見ながら思い付いたことを口にした。
「しかし、ロマンってアレだよな」
「ラブレボの主人公の痩せた時にそっくり」
「ぶほぉぉ!!?」
うん、性転換したら丁度そんな感じになりそう。一ノ瀬くんの告白CGとか実にそれっぽい。
「げほっ……ちょ……え? なんで突然そんな……乙女ゲー……?」
「こう見えてもイブちゃん超絶ゲーマーだよ。イブちゃんのパソコンとか見たら常人は引くよ」
「セガ・サターンやPS1全盛期に数多量産された雑なポリゴン格闘ゲーから、乙女ゲーやギャルゲー、箱庭ゲーに、インディーゲームまでなんでもやるゾ」
広く深くがモットーである。お、なんか広く深いとかちょっとクトゥルフ神話っぽいかもしれない。
「うわぁ、すごく意外……君みたいな女性の口からそんな言葉が出るなんて……」
「イブちゃんは見た目だけはどっかの国の女王様とか、異星のお姫様とかそんな感じだからね。見た目だけは」
「はははは、殺すぞ」
二回も言いやがってこの野郎。
「私は悪くねぇ! 私は悪くねぇ!」
イブ・ツトゥルがフランチェスカの頭をアイアンクローで掴み持ち上げた。フランチェスカはバタバタもがいているが、筋力が違い過ぎて抵抗出来ているようには見えない。
「お二人はとても仲がよろしいのですね!」
『どこが?(あたぼうよ)』
俺はそのままマシュに顔を向け、フランチェスカもそのまま顔だけをマシュに向け、同時に全く逆の答えを放った。
「そういえば――」
「あーれー!」
とりあえずフランチェスカを適当に投げ捨ててからロマニが持っていた書類に目を向け、そのひとつを手に取った。
「これはカルデア職員の名簿と経歴か?」
「あっ! それは外の人間が見たらダメな奴で――」
「はーん、そうかそうか。じゃあ、俺は人間じゃないからノーカンだな」
そうしてなんとなく名簿に目を通していると、とある人名に目を止める。
「"芥ヒナコ"……?」
「え……芥さんの知り合い!?」
何故かとても驚いた様子のロマニの問いに俺は頭を働かせながら答えた。
「いや、何か名前に引っ掛かりが――」
その瞬間、頭の中でパズルが組上がる。
芥ヒナコ→芥雛子→雛芥子→ヒナゲシ→虞美人草
その瞬間、俺は全てを察した。
「…………クククッ」
「え、何その悪戯を思い付いたナイアさんみたいな悪い顔は……」
全く……因んだ名前にしなければ俺にバレることも無かったというのにな。あんな奥地からこんな秘境まで引っ込んだのかアイツは。
というかなんだこの当たり障りの無さ過ぎるまっ平らな経歴は? こんなの何か隠してますよと言っているようなモノじゃないか。ホント昔と変わらず大雑把だなぁ。
「よかったなフランチェスカ……1人従業員に当てが出来たぞ」
それだけ言って俺は全智者を少しだけ起動する。そして、芥ヒナコなる人物がいるであろう場所を導き出し、そこに向かって走り出した。
◆◇◆◇◆◇
芥ヒナコはカルデアにて代わり映えのない日々を過ごしていた。
文庫本を読むふりをしながら自分以外のモノを観察する。人間に対して壁とも言える距離を保ちながら誰にも関わることなく静かに過ごす。
人間の中で隠れて過ごす彼女にとって今はそれが日常となりつつあった。
そんな日常に小さな変化が起きる。
「…………?」
そこにいた人間達が突然、ヒナコのいる休憩室の入り口の方を向きながら騒然となったのである。
ヒナコも人間たちと同様にそちらを見た。
そこには最近になって埋葬機関No.2 イブ・ツトゥルと公言しながらカルデアに居着き始めた代行者が立っている。
それは三つ編みに纏めた藤色の長髪を肩から流すように前に出し、濃く蒼い瞳は吸い込まれそうな程に恐ろしい輝きに満ちていた。
190cm近くかなりの大柄でありながら、体型も容姿もスーパーモデル顔負けであり、別の星の姫様などと言われても信じれそうな程に人間離れしている。
そして、黒いリボンが付き袖を捲った白いシャツを上に着て、下には黒のミニスカートに青紫色のエプロンが掛かったようなモノを纏い、足には長いニーソーと茶色のフラットシューズを履いていた。
まるで喫茶店の店員のような佇まいであり、実際に何故か胸には"店長"と書かれたネームプレートが付けられている。
「……!?」
瞬間、ヒナコは身体を少し強張らせながら目を反す。
(なんで
そう考えながらヒナコは冷静さを取り戻す。
(偶々……そう偶々よ……ここ数日だって大丈夫だったんだんだから――)
そう言い聞かせながらヒナコは文庫本から目を上げ――。
「アロハー♪」
歯を出しながら満面の笑みでヒナコに向かって片手で会釈するイブ・ツトゥルと目があった。ヒナコにとっては笑顔というよりも威嚇か何かに感じられた。
ヒナコは半ば放心しながら停止する。
その間にイブ・ツトゥルは何故か、綺麗なクラウチングスタートの体勢になる。後ろから見れば制服の関係でイブ・ツトゥルが全力でパンチラを拝む事が出来るため、見える位置にいるカルデア職員が別の騒然さを見せているがヒナコはそれどころではない。
そして、無情にもイブ・ツトゥルは動き出し、コンクリートの地面にヒビを刻む程の力と速さでヒナコに迫り、それと同時にヒナコも駆け出した。
「
「来るなぁぁぁぁぁ!!!?」
最早、ヒナコは形振り構わず人間の最高速度を遥かに超越した全力疾走でカルデアの廊下を駆けて逃走した。しかし、非常の上機嫌な様子の超武闘派邪神に叶うわけもなく、最後には捕獲されることは火を見るより明らかである。
◇◆◇◆◇◆
「はい、ここにいるのはこの喫茶店で働く仲間の芥ヒナコちゃんだ。ヒナちゃんでもぐっさんでもぐびにゃんでも好きに呼ぶといい」
ぐっさんを見つけたら何故か逃げられたので、
マシュちゃんは予定があるらしく、今はおらず、人魚さんは昼食を食べに食堂に向かったらしいので、縛られたロマニとフランチェスカの二人だけが残っていた。
「終わった……終わったわ……私のカルデア生活……」
何故か眼鏡越しに涙を浮かべながら床でぐったりしているぐっさん。
また、途中でお着替えも済ませたので俺が着ているモノと同じ、知り合いの喫茶店の制服と全く同じデザインの制服を着させている。
ちなみにぐっさんのエプロンは赤、フランチェスカが白、マシュちゃんがナスビ色、人魚さんは水色である。
「この人、イブちゃんの知り合いなの?」
「ほら、アレだよ。項羽と劉邦でお馴染みの"虞美人"さんご本人」
「え……? 幾らなんでも古過ぎない?」
「この娘、精霊種だから死なないのさ」
「ああ、真祖ってこと?」
「まあ、そうとも言えるが微妙に違うな。真祖はブリュンスタッドさんが関わった受肉した精霊の吸血種で、ぐっさんはブリュンスタッドさんが関わってない受肉した精霊の吸血種だ。故に真祖と呼んでいいかはなんとも言えないところだ」
「ふむふむ、なるほど」
「ええー!?」
そんな話をフランチェスカとしていると、まだ椅子に縛られているロマニがそんな声を上げた。
「………………ん? どうしてロマニが驚くんだ?」
「ぜ、全然、知らなかったよ!?」
「え……? てっきりレイシフトとやらが実用化する前段階の実験に利用するためにぐっさんを呼んだのかと思ったんだが違うのか?」
凄い利口だと感心したのがな……精霊種なら死なないから万が一が起きても死人が出ることはない。例え、片道切符の"ライカ犬"になろうとも自力で帰って来るだろうしな。ぐっさんが同意してるなら後腐れもない。
寧ろよく、あの人間嫌いで、大雑把で、ツンデレなぐっさんをカルデアに引き込めたものだな。
「あんたねぇ……よくも勝手に他人のことをペラペラと……」
「あ、ぐっさん動かないで。今、俺とお揃いの三つ編みにしてるから……」
「するんじゃないわよ!?」
よし、三つ編みに出来た。
「それでなんだっけ? ああ、勝手に話すなだったな」
俺は手足を縛られたまま床に倒れているぐっさんの前に椅子を持ってくるぐっさんを担いで椅子に座らせ、手足の拘束を解いた。
そして、ぐっさんの目の前の床の上に正座で俺が座り、話を聞く体勢を作る。
最後に喫茶店予定地全体に人払いと防音の結界を張ってから口を開く。
「だったら俺に教えてくれ。君がここに来るまで、それから今ここにいるまでの話を全部」
「……………………はぁ、わかったわよ……どうせあんたには逆立ちしたって勝てないし……」
ぐっさんは観念した様子で口を割った。
◆◇◆◇◆◇
ぐっさんの話は概ね予想通りだった。前所長のマリスビリー・アニムフィアに誘われ、レイシフトのライカ犬になる予定だった。
しかし、トントン拍子でレイシフトの実用化は実現し、結果としてぐっさんはいらなくなった。それからはレイシフトのAチームにマリスビリーの指示でそのまま抜擢されて今に至る……と。
「あの平坦な経歴を見ても思ったが、やっぱりぐっさんは南極でも人間にバレないように生きてたんだな」
「はぁ!? わかってたなら気を利かせなさいよ!?」
「わかってたからだ。マリスビリー前所長が死んだ今、仮にレイシフトが実際に始まって調査が本格化したら隠し通せると本気で思っているのか?」
「それは……」
ぐっさんは口ごもる。まあ、無理だろうな。マリスビリー前所長が死んでいる以上、秘密を知るのも彼女ひとりだ。寧ろ、現場で突然発覚した時のリスクの方が俺は問題だと考える。
それに休憩室での縮こまるように息を潜め、誰にも気づかれないように周囲に気を張る彼女の様子。あんなの見てたらこっちがおかしくなりそうだ。
そうじゃねぇだろ……不死者って奴はさ。もっと自分勝手で、傲慢で、人間なんて羽虫とも考えちゃいない。そんな奴らだ。
彼女が人間嫌い……? 違う、優し過ぎるんだ虞美人という女性は。
「人類を想うマリスビリー前所長の必死の懇願を渋々承諾してくれたお人好しでおセンチな精霊種の女性。こんなところでいいだろう。どうだロマニ? お前はこの話を聞いてぐっさんを迫害したいか? 永遠の命が欲しいか?」
そういうとロマニは数秒止まってからポカンとした顔になり、全力で否定を身体で現しながら答えた。
「ええっ!? そんなことはあり得ないよ! 寧ろ彼女のために尽力したいぐらいだ!」
「だそうだぞ。よかったなぐっさん。マリスビリー前所長の代わりが出来たな」
ぐっさんはポカンとした様子で唖然としていた。それに対して溜め息を吐いてから呟く。
「お前の人間嫌いは重々承知だけどな。こんな世界の片隅レベルのクソ秘境に好きで来ているような連中が、精霊種ごときで今さらどうこうなるわけないだろう」
ヒラヒラと片手を動かしながらそう言う。実際、俺すら3日もレクリエーションルームで箱ワンをしていたら話を聞かせて欲しいという職員が現れた。人魚さんなんて今ではなんでも美味しそうに食べるからと食堂での人気者である。
俺は彼女の瞳を確りと見つめながら口を開いた。
「疑うだけでは何も得られず、信じるだけでは何も見えない。要はもっと人間と話してみろってことだ。君にとっての項羽のような者はいないだろうが、墓石の前で泣きたくなるような人間なら幾らでもいる。そんな思い出を胸に秘めていられるだけで幸せなものさ。不死者の大先輩の体験談だ」
「私は……イブみたいに強くないわ……」
「そうだな。君は強いんじゃない、優しいんだ。俺みたいな根っからの邪神と違ってな」
ぐっさんは口を紡ぎ、そっぽを向く。相変わらず、可愛い女性である。
「しかし、益々、キナ臭いなカルデア」
俺は溜め息を吐いてから更に続けた。
「ああは言ったが、実際のところ。成功の確証のためと言えど実験体を確保するためにだけ精霊種を探し出し、殺されることも覚悟で前所長が直談判を行う。健康診断等まで前所長が行った上、結果として今の今まで誰にも人間に悟られていない。はぁ……」
「キハ、キハハハハッ! おッかしー! 絶対他の目的があるよね! そんな善性しかないような人間がマシュちゃんを作れるわけなーいじゃーん!」
俺が言いたいことはフランチェスカが全部言ってくれたのでそれ以上は語らないことにしよう。
「なんかないのかホラ? カルデアの地下工場でぐっさんのクローンがいっぱい作られているとかさ」
「一体ください」
「俺も一体欲しい」
「…………寒気がしてきたわ……」
それはマリスビリー前所長に対してだろうか? うん、きっとそうだろう。
「まあ、冗談はさておき、まだ人間に隠したいのならアレだな。実は俺の弟子だったという設定にしよう。そうすればあれだけカルデアの廊下を爆走しても納得されるだろう。代行者なら仕方ない」
「誰のせいよ誰の!?」
そう叫ぶぐっさん。しかし、観念したのか大きく溜め息を吐く。
「いいわよ。もう、なんでもいいわ……バラしてやろうじゃない……その代わり――」
そして、ぐっさんはキリッと俺を睨み付け、指で力強く俺を指した。
「もし失敗してカルデアにいられなくなるようなことになったら……あんたの家に転がり込むから覚悟しなさいよ!? 責任とりなさいバーカ!」
なんてこった。俺にメリットしかない。
実は裏があるのではないかと戦々恐々としながらも、よく考えたらぐっさんはそんな人だったと思い出した。
あ、これも言っておくか。
「あ、ちなみにぐっさん。そのロマニとか名乗ってる男、あの"魔術王ソロモン"だぞ」
「ちょ……」
「は……?」
ついでにロマニが腹を割って話せる相手も確保出来る。俺ったら出来る女だな。うんうん。
◇◆◇◆◇◆
とりあえず話し合いが終わって、ロマニを解放してからもう一度話し合った結果。とりあえずオルガマリーちゃんに話して、ぐっさんのしたいようにするように取り計らうことになった。
オルガマリーちゃんの胃にはかなり優しくないだろうが、オルガマリーちゃんも俺が生きていてかなり上位に入るぐらい優しい人間なので多分、大丈夫だろう。
ダメならぐっさんが家に来る……ぐっさんは布団派だろうか? ベッド派だろうか? 準備しておいた方がいいな。
「はいこれ、ぐっさんの名札」
「本当に私は働かされるのね……」
それとこれとは別のお話である。人間とか精霊種とか邪神とか関係無く、ぐっさんのコミュ力の低さは姫路城の天守閣に引きこもってる妖怪と別ベクトルで同レベルだ。友達として看過出来ません。働いて鍛えるのです。
そう言うとぐっさんは渋々ながら名札を受け取り、そこに書いてある文字を見て固まった。そして、ぷるぷると震えたながら口を開く。
「"副店長"……?」
「この喫茶店"アーネンエルベ"カルデア支店は年功序列だゾ」
「やってられるかッ!」
バシーン!と、とても小気味良い音を立てて名札は床に投げつけられた。
~喫茶店アーネンエルベ カルデア支部の店員~
店長 イブ・ツトゥル
年齢不詳。ただし、そもそも異宇宙のどこかから飛来したフォーリナーのため、下手するとこの世界の宇宙誕生より遥か昔から生きている可能性がある。
副店長 虞美人
精霊種なので無茶苦茶長生き。少なくとも紀元前より前から生きている。不死身眼鏡半裸先輩。
店員 フランチェスカ・プレラーティ
生没年が不明なため、確定は出来ないが約600歳。アーネンエルベ カルデア支部では比較的若い。
店員 マシュ・キルエライト
年齢ははっきりしないが、アーネンエルベ カルデア支部にて最年少なのは言うまでもない。
マスコット 人魚さん
アーネンエルベ カルデア支部のマスコットなため、年功序列には含まれない。が、年功序列に当て嵌めると確実に副店長は固い。