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___ふしぎなひと___
__いいえ___いえ___
___とてもやさしい___ふしぎなひと___
___うけいれてくれる___
___あなた___
___ああ___ああ___
___いいの___
___もういちど___もういちど___
あいして いいの ?
◇◆◇◆◇◆
突然だが、風呂とは、水やお湯・温泉などを満たした設備である。その場所が木製だろうと、石製だろうと、川だろうと風呂と認識すれば風呂だろう。まあ、私が今自宅で入っているのは石製のそれである。
まあ、お湯が満たされた浴槽へ入る事で新陳代謝を高めたり体の表面に付いた垢・汚れを洗い流すための施設なのだから川は流石に遠慮したいところだ。
元は衛生上の問題以外にも宗教上の観点などから体を清める目的で水のある場所で沐浴を行っていたのが始まりとされ、最初からお湯や温泉が風呂に用いられていたわけではなかった。昔は皆が皆そんな様子なので一人で瓶に水を溜め、沸かしてから入っていた時代が懐かしい限りだ。
要は……朝シャンは正義というお話である。
と言うわけで日課の朝シャンをする為に朝っぱらから風呂に入るのだ。最近は人魚さんに付きっ切りだったため、タイミングを逃したのだ。コンマイ語なのだ。
朝起きたら人魚さんは何故か隣の布団に居なかったが、玄関の人魚さんの為の靴が消えていなかったので、朝食時にひょっこり出てくるだろう。人魚さんはそういう生き物である。
そんな事を考えながら浴室で服を脱ぎ、カゴに入れてから風呂の扉を開け放った。
瞬間、湯船に直立不動で立っている"全身が黒く、肩から伸びる4本の節足のようなもので縦に開いた口が付いた顔に、未発達の脚が付いた胴体を持つ謎の生物"が視界に飛び込んだ。
「byia0 byia0」
その生き物は目はなくともこちらを認識しているようで、時よりしなるように震えながらけたけたと笑っている。
しかし、それよりも俺はその生き物の足下の光景に多少の目眩を覚えるかもしれないぐらい狼狽していた。
「………………ええ…ちょっと…」
俺は無意識に呟きながら近付く、そして、"お湯ではなく泥が張られている浴槽"の前でしゃがみこんだ。
黒っぽい生き物を無視して、"泥に手を突っ込み掻き回す"と、そこそこの粘性を持ち、確実に栓を抜いても排水溝を詰まらせそうな事は明白である。
額に手を当て、深く溜め息をついてから黒っぽい生き物の口あたりに視線を向け、口を開いた。
「ちょっとこれ、君がやったん? ダメだこういう悪意ある悪戯したら……掃除する方の身にもなりなって。ドリフとか丸バツクイズとかテレビで見てこんなことしようと思ったの?」
「%…?」
「だめだめ、何処の怪異だか知らないけどな。今はこういう驚かし方は流行らない時代なんだ。20、30年ぐらい流行遅れだ。八尺ちゃんとか、スレンダーくんとかを少しは見習うべきだな全く…」
「%……S……」
「神秘に取り残されて細々と暮らさなきゃらなんのは、そりゃ俺だって半分は同類なんだから解るがな…。斬新さも足りんし、配慮も足りん。そもそも見た目だけで人を脅かせたのは数百年前の話で、それにしてもムードってもんが必要だろう。浴槽に突っ立ってるだけとかやる気あんの? 浴槽汚すだけとかやる気あんの? 掃除は俺がすんの? ああん?」
「v↑e…!」
節足の一本を引っ張り、無理矢理頭の高さを下げ、縦に開いた口が付いた頭の頭頂部に生えるピクミンの芽みたいな場所を掴みながら糾弾する。
「ん…?」
ふと、視線を感じ、黒っぽい生き物の頭を掴んだまま首の向きを変えて脱衣場の方を眺める。
『Aa…aa……aa………』
恐らく、本人は隠れて見ていたつもりだったと思われ、ついでに何故か蒼白の表情をした人魚さんと目があった。
扉の枠から片目だけ出してこちらを見つめているのだが、頭を傾けたせいで長い髪が全力ではみ出ており、無論、それ以前に大きな片角もはみ出ている。
…………………………。
……………………。
………………。
…………。
……。
な ご む
「…………人魚さん集合」
『Aaa…』
しかし、その表情と奇っ怪な行動から全てを察した俺は人魚さんを浴室に呼び、とりあえず風呂椅子に座らせる。更に浴室の扉を閉めて密室にし、黒っぽい生き物を解放してから人魚に向き合った。
「何故ここに呼ばれたか、わかりますね?」
『fe……』
明らかに人魚さんはこの光景に関与している。いや、ここまで大人しくなると当事者なのだろう。
仕方無く、俺はひとつ宣言をすることにした。
「とりあえず人魚さん泥禁止な」
『$c…?』
人魚さんは口をポカンと開き、驚愕の表情を浮かべながら暫く停止していた。しかし、理解したのか急にあわあわと焦り始める。
「人魚さん泥禁止な」
『j↑z…!』
大変可愛らしいがここで止めたら人魚さんは何も成長しないのですよ全く。
「泥禁止な」
『………………fe…』
人魚さんは観念したのか動きを止めて項垂れた。その顔には影が射して見えるが、ダメなものはダメである。
「それとこの生き物はいったい………あれ?」
いつの間にか浴槽から黒っぽい生き物が消えていた。浴槽の泥の水位がかなり上がっているところから、泥から生まれるフレッシュゴーレムのようなものだったのだろうか。
………………そう言えばあの黒っぽい生き物、マジギレした時の母さんに少し似ていたな。頭ぐらいだけど。
とりあえずまだ項垂れている人魚さんは暫く放っておき、浴室の扉を開け、脱衣場の籠から服のボケットをまさぐる。
そして、"SCP―399"という文字が刻まれたプレートが付けられた小さな布袋を取り出した。
それを持って浴室に戻り、中身を取り出すと、"2つの金属の輪を6本の金属の棒で連結し、それらの間に6枚の透明な紫色のガラス板を入れた構造の指輪"が現れる。
いつの間にか人魚さんはその指輪を不思議そうな表情で眺めていた。
指輪を指にはめると、6枚のガラス板が一枚ずつ輝き始めた。
これは母さん曰く、"原子操作の指輪"というモノらしい。少し前に誕生日のプレゼントに貰ったので、俺の魔術礼装の"ひとつ"として改造したモノである。
元々から持つ効果は、装着者から半径5メートル以内にある物体をさまざまな程度の複雑さで操作および再形成することが出来るというもの。欠点は、魔力でブーストしなければ起動に少し時間が掛かる事と、エネルギー変換効率がとてつもなく悪いという事だろう。あまりにも効率が悪いので人間の使用は極力控えた方がいいと思うな。改造によって変わった事と言えば起動が少し早くなった事と、魔力等の神秘エネルギーも消費出来るようにしたぐらいであるので一応、魔術師なんかも使えるが、本当にオススメはしない。
そんな事を考えていると、6枚のガラスが全て輝いたので魔術回路を開いて浴槽の掃除を念じながら魔力を流し込んだ。
次の瞬間、浴槽の泥が跡形もなく消滅し、ピカピカの浴槽の姿を取り戻した。こういう面倒な事をする時には非常に便利である。まあ、浴槽掃除というだけの動作で軽く大魔術を越える消費魔力が無ければの話だがな。
『………………(くぅー)』
すると人魚さんから少し抜けた音が響いた。音源を見るまでもなく人魚さんの視線が俺に突き刺さる。
「ごはん?」
『Aaaaaa――』
表情変化は乏しいが、この家猫のように嬉しそうな返事をしてくる姿がとても可愛い。
俺は朝食を作るためにキッチンに向かう最中、またもや朝シャンのタイミングを逃した事を思い出した。おのれコンマイ。
「くちゅんっ…!」
あ、寒い…服着よ。
よく分かる今回のあらすじ
やめて!ティアマトの特殊能力の、"生命の海"を禁止されたら、大部分の行動をケイオスタイドが占めるティアマトはただの可愛い耐久EXになっちゃう!
お願い、諦めないでティアマト!あんたが今ここで認めたら、人類悪や七章はどうなっちゃうの? 望みはまだ残ってる。ここを耐えれば、主人公に勝てるんだから!
主人公「泥禁止な」
人魚さん『#↑zfe(アッハイ)』
次回「ティアマト死す」。デュエルスタンバイ!
ティアマト……いったい何魚さんなんだ…(すっとぼけ)。