勇者として異世界に召喚された同級生に巻き込まれ、異世界へと渡って(らされて)しまった少女、榊原 弓。その世界にて与えられる"ステータス"なるもの記されていた弓の称号は、湖の騎士。嫌々ながらも流石に同級生一人を死闘に送れないと鍛錬に参加する弓。彼女と勇者は魔王を倒せるのか? そして、魔王を倒した先、彼らは地球一周へと帰れるのか。彼らが魔王の元へ辿り着いた時、全てが明かされる。
///壮大なあらすじを書いてはいますが完全なる暇潰しの作品です。続きません。多分。

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disposable

凡庸、平凡、地味。

私、榊原 弓を表すにはこの三つの表現がピッタリだ。

極々普通の両親の元に生まれ、普通に小学校へ行って中学、高校と来た。

周りと違うと言えば少々神話や幻想と言った「空想」が好きで中途半端な知識を持っているという、言ってしまえば厨二病に近い物を患っていることと、少し女子らしいとは言えない気質であること。

それ以外では平々凡々の人間だと自負していた。

............あんなことが起こるまでは。

 

それは部活終わりの、いつも通りの日だった。

後輩や同級生たちと別れて忘れ物を教室に取りに行った時のこと。

「なっ、何なんだよ、お前!」

「煩い。お前はヘルゲイドに来なければいけないんだ」

廊下で交わされる、何とも面倒事がにお、ゲフンゲフン。厨二臭い会話。

どうせ残っている同級生が悪ふざけでやっているのだろう、と踊り場から廊下に入ったのがいけなかった。

「チッ、強情なガキだ。ゲートを開け」

「はっ? おい、止めろ!」

廊下の先にいたのは黒いフード姿の男と、同じ学年の榛 玲弥。

その表情は尋常ではないし、何より二人の足下に広がっている光る紋章からしてどう考えても悪ふざけではない上に後には引けない雰囲気。

その異様な雰囲気に飲まれ、楽器ケースを落としたのが更に状況を悪化させた。

「何っ!?」

私を振り返ったフードの男。

「目撃者か........!」

そう呟き、男が手を振ると紋章は一気に私の足下まで広がり、次の瞬間には私の意識は消えていた。

 

そして、目が覚めると。見たこともない神殿にいたという。

周りには幾人ものローブを着た人間と、呆然とする榛の手を握る西洋風の美少女。

「貴方は勇者です。この世界を救ってください」

「え、え.......?」

まるで何時しか何処ぞのウェブサイトで読んだような展開。

所謂、タグで異世界トリップだとか、巻き込まれとか、そんな風に付けられるタイプのものだ。

そして、その巻き込まれ役で尻拭いや酷い扱いを受ける平凡は、私だ。

血管が何本か切れる音を聞いた私私と気がする。

姫らしき美少女の横に立つ先程の黒フードに掴みかかる。

「なっ」

「人の了承なしにこんな所に連れてきやがって、帰れるんだろうな!? 五体満足で、地球に返せるんだよな!? こちとら大会が近いのに部活休んでられねぇんだよ、勝手に連れてきたってことは戻せるんだよな? 戻せないなんて言わないよな!!!?」

「は、離せっ」

「説明しろよ、テメェが連れてきたんだから!!」

「お、落ち着いてください! 説明は私と父様が致します。気を鎮めてください」

美少女が腕に縋り付いて来て、少し気が収まった。

「ここではお体が冷えます。まずは着いてきてください」

歩き始める美少女と、それに着いていく榛。

楽器ケースを持ち上げようとすると、その手を止められた。

銀髪に青の目を持つ鎧を着込んだ美青年。まさに高潔な騎士、というような青年だ。

「私が持ちますよ」

「結構です」

確かに私の楽器は重い。女子である私からすれば重いし、マメだって出来ている。

だがこれは私の楽器で、この青年は赤の他人。後輩や先輩、同級生など、楽器を扱う人間に手伝ってもらうなら兎も角楽器すら持ったことないような他人に自分を預けられるものか。

「片方を持つだけでも、」

「これ、片手で持つ方が辛いので」

尚も言い募る青年を完全無視して、榛と美少女の後を追う。

彼には申し訳ないが楽器を持つもつのは私の矜持でもあるし、何より今の私はこの状況に苛立っているのだ。

神殿のような場所から歩き、今度はテレビや本で見るような城内の景観となった。

キョロキョロと辺りを見渡す榛の後ろ姿はとても滑稽である。

暫く城内を歩き、階段を登り。

謁見の間らしき部屋へと辿り着いた。

「申し訳ありません。ここからは手荷物は持ち込めないようになっているので」

周りにいた騎士がそう言いながら、楽器ケースや抱えていたリュックサックに手を伸ばしてくる。

まぁ、もしも王を害する物が入っていたら、と思うのは当然のことだ。

けれど、再度言うが、私はこの状況に苛立っている。

「そちらが勝手に私たちを召喚したことはわかっているはずですよね? 私たちはこの世界について知らない。中で誰が待っているかは知りませんが、何も知らない私たちが、あまつさえあなた方が勇者を崇める存在の手荷物を取り上げると? 私のコレに入っている物はとても繊細な物なんです。何故、拉致してきた人間に私物を預けないといけないんですか?」

「そ、そうだそうだ!」

学生バックを抱き締めながら私の言葉を後押しする榛に、騎士たちは躊躇う。

「ソイツの言う通りだ。勇者もソイツも俺が無理矢理連れてきた。魔力も知らねぇタダのガキが王を傷つけるようなことは出来ない。俺が保証する」

「そ、それならば.......」

黒ローブからの思ってもない言葉で、騎士たちは渋々扉を開けた。

中は思った通り、謁見の間だった。

豪勢な絨毯に、王座に座る王らしき中年男性がいる。

「案内ご苦労、エルーシャ。そして申し訳ない、勇者とその同郷の者よ。構わずかけてくれ」

王座と正面に椅子が二つ用意されており、王からの許しも出たところで遠慮なく座る。

「上からですまない。実は召喚の前後の様子を魔法で見ておった.......同郷の者、勇者よ。誠にすまない.........しかし、我々も必死なのだ。全世界の人間の命がかかっている現状況で、召喚を渋ってはいられなかった!」

「............私も、カッとなってしまい、すみません」

「いや、そなたの怒りも当たり前のことだ.......全てを説明する。信じてくれとは言わないが、嘘は言わない」

そう切り出し、王はこの世界について話し始めた。

世界、ヘルゲイドは私たちが思い浮かべるようなファンタジー世界らしい。

魔法なる未知の力が存在し、何故か中世から近世風のトイレが水洗で完備されており、人間とは別の獣人やエルフといった種族や魔物、魔獣と呼ばれる人間たちに害を成す害獣がいる世界。

そして、榛が召喚された理由である魔王。

魔族を率いる王が魔王らしい。

ヘルゲイドで言う、今から二千年前。人間と魔族は二大勢力で世界を統治していたと言う,

両者間に契約や条約といったものは存在しなかったが、暗黙の了解のようなもので世界は平和を保っていた。

その平和が二千年前に突如途切れたと言う。

どちらが発端かはわからないが、魔族と人間で大きな戦争が始まり、その戦争は異世界から勇者が召喚されるまで止まらなかったらしい。

異世界から召喚された勇者の少女は神から与えられた聖剣なる剣で魔王を倒し、封印に成功した。

だがあくまでもそれは『封印』でしかない。勇者の魂、肉体を楔として魔王は眠りについたが何時しかそれは解かれるものだ。

そう言葉を残し、勇者の少女は消えてしまったと言う。

それからめっきり、魔族は自らの大陸から出てくることはなく、魔王も封印されたままだった。

その封印が解かれつつあると言う。

封印が解かれつつあり、魔力が漏れだしている現在。その魔力を糧に二千年間沈黙を続けていた魔族たちが人間の大陸を侵食し始め、魔獣や魔物たちの活動も活発になり、ここに魔王が復活すれば世界は簡単に征服されてしまう状況であるらしい。

そのため、また異世界から勇者を召喚し、魔王の封印が解ける前に魔王を殺してしまおうという作戦で榛を召喚したと言う。

榛と私にそれぞれ与えられた部屋でベッドに寝転がり、溜息を吐いた。

つまり、この作戦に必要なのは榛ただ一人。

私が連れてこられた理由はあの黒フードが榛を連れて行く時にその様子を目撃され、焦ったからの行動だった。私は完全なる被害者で、言ってしまえばお荷物のようなもの。

地球に帰れるかどうかを言及すると、返せるには返せるが、召喚に必要な条件ーーー曰く、平行世界なるものは存在し、その一つが私たちの元いた世界でありヘルゲイドもその一つらしい。その平行世界は三年に一度、重なることがあり、その時にに禁忌である空間越えの召喚を行えば異世界から人を連れて行くことが出来る。そのため、三年後に再び召喚の儀を行えば帰すことが可能であると、王と姫は断言した。

私はこの言葉を信じる。彼らは嘘を言っているようには見えなかったし。

コンコンッ

「はい」

「俺だ、入っていいか?」

ノックがされ、聞こえてきたのはあの黒フードの声。

.......全力で許可したくない。元はと言えば黒フードが焦ったから私はこんなのに巻き込まれるハメになったのだ。

「本当にすまん。お前が俺のことを恨んでいるのはわかっている。だが、これは確認しなければいけないんだ」

「...............どうぞ」

「.......悪い」

入ってきた黒フードは私に頭を下げた。

「今は謝罪はいいです。確認しなければいけないこととは?」

「あ、あぁ。ヘルゲイドにはステータスというものがあるんだ。俺の場合は、ほら」

突然、目の前に現れた立体映像。

立体映像、と言うか画面に近い。長方形の形をしており、数字や文字が映し出されている。

黒フードの名前はクレーエ・ジェルディサロ、らしい。

クレーエ。ドイツ語で鴉という意味だった気がするが.......黒フードにピッタリの名前だな。

「これはどんな種族であろうと、一つ与えられる。これを他人に開示するのもしないのも本人の意思で出来るが、ステータスの中に役職があるんだ。俺の場合は、魔導騎士。この役職はステータスと似たようなもので知能、道具を使ったり固有の言語を使える生物に与えられる。役職もステータスもそれが全てではないが、大抵、人間は役職に合った職についているものだ。勇者玲弥の役職は勇者で確認したが、お前の役職は確認していなかったことに気づいてな」

「普通に、念じれば?」

「ステータス、とな」

まるでrpgゲームのようだ。ステータス、と。

言った通り、念じると同時に現れたステータス。

名前は榊原 弓。うん、変わっていない。

その名前の下に、役職が書かれていた。

えっと、何何.........湖の騎士? おい、それってアーサー王伝説のランスロットの名前じゃなかったか。

「どうかしたので?」

「............いや」

何となく開示、と念じるとクレーエにもステータスを見えたのだろう。

役職の部分に視線が行き、目を見開いた。

「湖の、騎士..........? ランスロット・デュ・ラックだと!!?」

湖の騎士の名前を一字一句間違えずに言ったクレーエ。

平行世界であるが故か、アーサー王伝説もコチラにあるのだろうか?

「知っているんですか?」

「知っているも何も、かつて勇者である少女、アーサーと共に魔王と戦った英雄の名だ.......! 今までにアーサー・ペンドラゴンの役職を持った者はいたが、湖の騎士の役職を持った者はいなかった。まさか、異世界にいたとは...........」

まるで、役職は一つしかないような言い草だ。

「役職は一つしか存在しないのでしょうか」

「いや。複数の人間が同じものを持つのは当たり前だ。俺の魔導騎士も、極々普通に見かけるもの、だが。英雄や人間、アーサー・ペンドラゴンやランスロット・デュ・ラックのように人名が役職になるのは、一度しかない。アーサーの役職を持った者は、確かハイエルフだったはずだ。まだ数百年しか経っていないから存命しているだろうな.......だが、平和な世界にいた少年が湖の騎士の役職など...........」

ブツブツと呟くクレーエ。

おい、今聞き捨てならない単語が聞こえたぞ。少年?

チラリと自分の服装を見てみる。

ジャージのズボンに、ブレザー。リボンは演奏中に苦しくなるから取っていた。

..........顔立ちも平凡ではあるが中性的だし、いやでも髪の毛は腰まで伸ばしてるからそんな間違えるなんてことある訳ない。

と言うかステータスに性別欄はー..........ないな。おい嘘だろ都合良すぎだろこんなの。

「クウ、でよかったか?」

「出来れば榊原で頼む」

「言い難いんだ、サカキバラは............お前に湖の騎士の役職があることがわかった。召喚直後の時、怒り心頭だったとは言え俺に掴みかかってきたということは強力な魔力耐性もある。クウ、勇者と共に魔王討伐の旅に出てくれ」

..................えぇー.......そんなこと言われても。

「明らかに行きたくなさそうな顔をしているが、この役職の時点で決定事項だ。英雄の役職を冠する者は皆、武勇を立てているからな。身勝手なことだとはわかっている。だが、勇者だけじゃ足りないんだ。彼を支える人間がいないと。お前なら、勇者と同郷だから心の支えにもなる!」

「役職だからと言って、私も勇者と同じでひ弱な子供です」

「騎士たちと共に、勇者と共に鍛える。もしも勇者が失敗して、魔族共に捕まって殺されるよりかは勇者と共に魔王にトドメを刺す方がいいだろう?」

「そんなに勇者って弱いんですか」

「弱い訳ではないが、彼は実戦で力を着けていくタイプだ。俺にはわかる」

「それ言ったら私も実戦で覚えていくタイプですが?」

 

ゴチャゴチャ言わずに、と放り込まれた騎士たちの鍛錬場。

侍女たちに用意されていた隊服らしきものを別室で着て、榛や見習い騎士たちと共に鍛錬場を走っている。

「結構、キツイぞ、これ.......」

「............」

「クレーエ、さんから、聞いた。ハァッ、ハッ.......何か、凄い役職だった、らしいじゃんか」

「今は走ることに集中した方が身のためだぞ」

後五周。

既に走り終えている騎士たちが端で倒れているのを見ながら、足を速めた。

珍しくランナーズハイに入ったらしい。

苦しいことには変わらないが、グングンとスピードが上がる。

普段なら絶対に出来ない走り。

あっという間に前にいた騎士たちを追い抜き、五周を走り終えた。

倒れはしなかったが、膝に手をついて激しく呼吸をする。

大きく吸い、大きく吐く。

ゆっくりな呼吸を繰り返していると、早鐘を打っていた心臓が落ち着きを取り戻す。

周りで倒れていた騎士たちはいつの間にか起き上がり、次の鍛錬に移っていた。

私と榛は初めてだからと言うことで十周で済んでいたが、彼らはその三倍を走り終え、さっさと次に移っている。

人間離れをしていると言うか何と言うか.......彼らですら敵わない魔族たちに私と榛は渡り合えるんだろうか?

「ハァッ、ハァッ、っはー........お、終わった..........」

「走り終えましたか? では、次の鍛錬です」

「えぇー!?」

私たちの鍛錬の担当は、あの私の楽器を何とか持とうとしていた騎士だった。

実は彼、この国、ジルドニエの騎士団副団長らしいのだ。

何故そんな人間が私の楽器ケースを持とうと必死になっていたのかわからないが、笑顔で鬼畜なことを言い放ってくる彼は人の上に立つ者の気配を醸し出している。

フラフラと歩く榛の背に手を当て、青年の背を追う。

「わ、ワリィ、榊原.......」

「別に。勇者サマがこんな程度で倒れてたら周りの士気が落ちるし」

「そ、そっか............そ、そうだよな、うん」

「責めてるわけじゃないから落ち込まなくてもいいぞ」

「うん、サンキュな」

小さく笑う榛。

クラスが違う上に人種が違うため話したこともない。

知っているのは名前と、アイドル並みに顔が良いとは言わないが何故か異様にモテること。

きっと、女子はこういう素朴な笑顔や人好きする性格に惹かれていったんだろうな。

私は興味の欠片もないが。

「次は剣です。ただ、勇者様方がいきなり剣を握るのは危ないので今回はコチラです」

用意されていたのは木剣。

周りの騎士たちは皆、素振りをしていた。

ま、いきなり剣なんて持てるはずもないし妥当だ。

「木剣かぁ.......でも俺、剣道すらやったことないのに」

「ケンドーというものは知りませんが、我流でいいですよ。正式に騎士団に所属する者は王国剣術を覚えなければいけませんが勇者様方は、平民だったと聞きます。自らの本能に従って剣を振るってください」

「そんなこと言われても...........」

「.......戦った方が早いですね。サカキバラ様、勇者様。その木剣を使って決闘をしてください」

青年の言葉に従い、木剣を握る私と榛。

「決闘、って」

「ゲームとかで見るような斬り合いだ。私を倒す気持ちでこればいい」

躊躇うような様子を見せつつ、榛は私に剣を振り上げた。

いや、確かにゲームとかって言ったし、まだ現実味がないんだろうが大きく上に振りかぶるって.........

「ふっ!」

「うわぁっ!?」

動きの鈍い榛に足払いをかけ、倒れた彼の額に木剣の切っ先を向けた。

呆然とする榛の腕を掴み、立ち上がらせる。

「.............さ、榊原って剣道部だっけ?」

「中学高校共に文化部ですが何か?」

「じゃ、じゃあ何でそんなに!」

「一応、中学校の時の剣道の授業で友人とした打ち合いを教師に褒められたことがあった。あとは、アニメとかゲームの動きをよく見てたからだろ」

「はぁー..........」

「凄いですね.......計画の変更です。勇者様は団長に見てもらいましょう。サカキバラ様は私が戦い方をお教えします」

「え」

不安そうに眉を寄せる榛。

確かに騎士団長と聞くと怖いな。ゴリマッチョのダンディなオッチャンが脳裏を過ぎる。

「申し訳ないですが、勇者様は知らなさすぎる。いえ、勇者様の反応などが当たり前なのですが.......サカキバラ様は異例ですので」

異例とは言い過ぎな気もしないが.......と言うか私は勇者とは別のコースか。

これは下手すると、勇者を利用するために私を隔離するパターンもある。

「呼んだか? レギル」

「団長。はい、呼びました。こちらが勇者のリョウヤ・ハシバミ様とクウ・サカキバラ様です。団長に勇者様を見てもらいたいと思って」

やって来たのは鉛銀のような髪を短く刈り上げた頑強な体付きの男性。

左額から左目を通って頬まで走る切り傷が渋さを引き上げている。これは未亡人や熟女ヨダレものじゃないんだろうか。

「成程な。よし、わかった。ハシバミだっけか? 俺はジルドニエ王国騎士団団長、クラウス・エルベールだ。悪いな勇者サマ。俺は勇者だろうと王族だろうと、俺の下につく奴には敬語は使わねぇしゴマもすらねぇからな」

「りょ、リョウヤ・ハシバミです! よろしくお願いします!!」

頭を下げた榛の頭を豪快に撫で、クラウス団長は同様に豪快に笑った。

「返事だけは勇ましいな。よし、来いリョウヤ。容赦はしねぇ。襤褸切れになるまで扱いてやる!」

「え、あいやそれは.......」

クラウス団長に引き摺られていく榛にサムズアップをすると、乾いた笑いと共にサムズアップが返された。まぁ頑張れ。

「それではクウ様。こちらをどうぞ」

「...........は?」

徐に渡されたのは一振りの剣。

ちょっと待て、彼は、レギルか。今、自分の腰に下がっていた剣を渡してこなかったか?

「決闘をしましょう。ハシバミ様とは違う、命を賭けた決闘を」

もう一本、腰に下がっていた剣を手に取ったレギルは剣を垂直に持った。

「我、レギュアスカナル・イル=アヴァルロ。我が真名にかけクウ・サカキバラへと決闘を挑む」

「え、あ.......わ、我、クウ・サカキバラ。我が真名にかけレギュアスカナル・イル=アヴァルロの決闘を、申し受ける.......?」

「合ってますよ。ありがとうございます」

微笑んだレギュアスカナル............レギルでいいや。レギルは垂直にしていた剣を降ろし、威圧感を放ち始めた。

すぐにでも剣を投げ捨てて、逃げたくなるほどの感覚。これが殺気や闘気と言うものなんだろう。

と言うか、何で私はレギルに決闘を挑まれなければいけないんだ............?

「行きます、クウ様。殺す気でかかってきてください」

「っ!?」

言葉を終えるか終えないか。

反射的に剣を振り上げた。

散る火花と、後ろへずり下がる私の体。

何が起こった? 何が起こっている?

脳内は混乱の極みだった。思考が絡まり、上手く考えられない。

一つだけわかるのは、目の前の"化け物"から逃げなければいけないことだけ。

全て反射。直感で動かなければ、私の首は落とされる。

ただひたすらに化け物の剣の軌道を追って受け止めることしか出来ない。

殺す気でかかってこい? 巫山戯るな!

重い一撃を受け止め、鍔迫り合いになる。

「.......全て止められるなんて思いませんでした。しかも、受け流されるなんて」

「ぐ、う...........!」

先程まで浮かべていた人好きのする笑顔は何だったのだ。

人好きどころか、爽やかさの欠片もない。今のこの男は、力のない獲物を甚振る獣だ。

あぁ.....................ーーーーーーー腹が立つ。

男の篭める力が強くなり、膝が曲がる。

私はおよそ凡庸ではあるが普通の少女や女性よりも男に近い基質だ。

話し方や言動に至るまで、日本の大和撫子とはかけ離れている。

だがそれ以上に、私は負けず嫌いである。

相手が優位であり、それに対して相手が悦に入るのが許せない。

成績でも喧嘩でも体育大会でも合唱コンクール、部活の大会でも全て、全てーーーーーどんな奴だろうが相手を馬鹿にする人間には、絶対に負けたくない。

この男は何だ? 私が平和な世界からやって来たと知っていて命懸けの決闘を挑み、そのくせ手加減をして私を甚振って楽しんでいるだけではないか。

こういう人間が、こういう奴が、私は。

大っ嫌いだ。

「なっ」

「クソ、があああっ!!!」

剣を押し返し、跳ね返す。

よろめいた男の脛を蹴り、その腹に拳を殴り入れた。

だが、追撃をしてもよろめいただけ。

すぐに立て直した男の腕に剣を入れる。

勿論、受け止められるが隙の出来た股座に蹴りを入れた。

「ぐうっ!!?」

これも攻撃だ。不能になろうが知ったこっちゃない。

「はぁぁっ!!!!」

男の脳天目掛けて、剣を振り下ろす。

瞬間、私の手から剣が飛んでいた。

両手の喪失感と、腕に走る衝撃。

一体何をした、この男は。

首に突きつけられた剣。

「私の勝ちです、クウ様。良い決闘でした」

又もや人好きする笑顔の男。

「.......一体、何をした?」

「少し、裏技を。疲れたでしょう? 侍女を手配しておきます。今日の鍛錬はここで終わりにしましょう。お疲れ様でした」

去っていくレギル。流石、騎士団の副団長と言うところなのだろう。

裏技が何かはわからないが、並大抵の者じゃない。

...................ただ、やっぱ金蹴りは痛かったんだな。若干フラついてるぞあいつ。

 

騎士団宿舎、団長室にて。

二人の男が蝋燭一本の暗い部屋で会話をしていた。

「.......どう見る、レギル」

「何とも言えません。クウ様はキレや動きがやはり素人同然ではありますが、俺も本気を出さなければやられていました。恐らく、元からの思考能力や頭の回転の早さ。そして強さに貪欲............俺と、同じ存在だ。腎力云々に関しては称号が関係しているようですが。彼は、鍛えれば魔王とまともに斬り合える存在になるでしょう」

「成程な。お前にそう言わせるとは.......勇者は、まぁ勇者と言ったところだ。潜在能力は計り知れんが現実を受け入れきれていない部分がある。あれは一度死にかけないと駄目だな。だが、力を引き出せば魔王を倒すに充分な力を持っている。お前はクウとリョウヤ、どっちが勝つと思う?」

「クウ様でしょうね。まず、称号からして反則ですから」

「.......やっぱ称号か。湖の騎士。ランスロット・デュ・ラック...........過去、アーサー・ペンドラゴンに付き従い、彼女と共に魔王を封印した男。だが、彼女が魔王を封印出来たのは儀式の間、襲いかかる魔族およそ数千を全て一人で倒していたからこそ。最期は、アーサー・ペンドラゴンと共に光の中へ消えた。伝承に残ってる言葉がこれだもんなぁ............ま、二千年前、その様子を実際に見ていたお前が言うんだ。今回は、確実に魔王を倒せるだろうな」

「えぇ。必ずや」

蝋燭が吹き消され、部屋は暗闇へと包まれた。

 

一方その頃。

「風呂ぐらい一人で入れる!」

「勇者リョウヤ様は侍女と共に入りました。クウ様、遠慮せずに。隅々まで私たちがお洗いしますから! えぇ、隅々まで.......うふふふふ」

「離せぇぇぇぇぇぇ!!」

数人の侍女を相手に死闘を繰り広げる弓がいたりいなかったり。

 

 



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