IS-光は舞い上がり、無限の時代が始まる―   作:今日は晴れ

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動かした男

 

 「あ、あの~……」

 

 ソファに腰をおろした姿勢で、ゆっくりと男は右手を挙げた。いかにも恐縮してます、だからこれぐらい許してください。といった様子であった。しかし、一目に高級品とわかるソファに座りながら、男の恰好は黒いジャージ姿に茶髪で、軽い印象をあたえる容貌であったので、カチカチに凍りつきながら挙動はどこか滑稽だった。

 

 その滑稽さに普段男が接するものであれば道化ともとれる男の姿に笑みを見せ、それに応じただろう。しかし、彼を囲む人間は普段、彼の接する者ではなかった。

 

 全員が立派な巨躯の持ち主であり、それだけでなく素人目にも鍛え上げられたとわかる肉の鎧の上から黒のスーツをまとった男たち――の視線が集まった。手を挙げた彼の背後に立つ二人のスーツを着た男のうち、一人が即座に、

 

 「どのようなご用件でしょうか? 海本二代さま」

 

 片膝をつき、わずかに口角をあげて尋ねた。

スーツの男からしてみれば、少しでも話しやすいように笑みを見せてみたのだが、屈強な男と普段接することのないジャージの男――海本二代からしてみれば、「なんだ? せっかく応えてやったんだから下らねえ要件だったらぶっ殺すぞ」と言われたに等しく、またスーツの男は射抜くばかりに鋭いもので、恐怖を倍加させる要因であった。

 

 一目で極上の品と万人が理解する最高級のソファの座り心地は最高だったが、二代からしてみれば閻魔の前に連れ出され、裁きを待つ亡者の心境に等しい。

 ちなみに、横目で部屋――これもまたソファが鎮座するのにふさわしい贅の限りを尽くされ、二代が一人のスーツの男から聞かされた情報によれば応接間とのことだったが、優に十人以上の人間は収容できる部屋――の窓や観音開きとなっている扉に立つ男たちを見ても、幻視できそうなほどに濃い威圧感と圧迫感が放たれている。

 

 「い、いえ、なんでもねぇっすわ。あ、あの、テレビみてもよろしくて?」

 

 冷や汗を流しながら、使い慣れていない敬語を使用したためか、変な言葉になったので、ここぞとばかりに二代は笑いを取りに行こうとした。

 

 ほほほ、と手を口に当てて無理に笑いながら尋ねてみる。

 

 ぼくっちのキャラが崩壊してやがんなぁ、と冷静な自分が状況を整理しているが、無理に始めたボケに男たちは誰も笑わず、それどころか、終わりどころを失って、部屋の中に二代のほほほほと、似非お嬢様笑いがこだましているだけとなった。

 

 死にてぇ、と思い始めた二代の前に、そっと黒の四角い物体――テレビのリモコンが差し出される。

 

 顔をあげれば、先ほどスーツの男が「どうぞ」とリモコンを両手で差し出していた。

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 リモコンを受け取ると、すぐにスーツの男は二代の背後に回った。その挙動に一切無駄がなく、再び放たれ、ひしひしと伝わる威圧感。

 

 うんざりした気分になるが、だからこそ一新すべく、部屋の壁に掛っている、二代は大型電気店でしか目にしない巨大なテレビの電源を入れた。

 テレビでは、二代がたまにテレビCMで見かけるスポーツ専門の有料チャンネルが放送されていた。番組はどこか外国のテニスの試合を中継している模様だったが、あいにく二代はテニスに興味はなく、地上放送のテレビを設置しただけで視聴可能な番組を選択した。

 

 CMが放送されていたが、ちらりと腕時計を見れば11時29分、チャンネルが切り替わったため、画面の隅に現れる情報欄にはお目当ての放送局の名前、そのため、なにもやることがなくただただ、放たれる威圧感に耐えながらCMが開けるのをまった。

 

 二代には夏季休暇中、ある日課があった。11時30分にワイドショーを見るのだ。正確にいえば、ワイドショーのコーナーである。番組内容はいたって単純、女子アナが視聴者の推薦した料理店に赴き、そこで食レポをするというものだが、なかなかこの女子アナが面白い。いつも奇想天外なコメントや行動をして笑わせてくれるのだ。

 

 だから、楽しみにしてた。

 

 時計の長針が12を刺そうとしていた。

 

 わくわくと心が躍ってきた。そして、CMが終わり画面が切り替われば、

 

 

 

 

 一面に映し出される、軽い印象を与える笑みを浮かべ、ザンバラ髪のかつらをかぶって左前の白い着物を着て、馬鹿面を浮かべるお化け、に扮する男――海本二代を映していた。

 

 「はい?」

 

 目が点になる。

 

 それだけでなく、次は両手で子猫を掲げ、某有名アニメのライオンの王の子供が生まれたシーンを演じる二代、変わって、傘を被って着物姿で侍に扮する二代を映し続けた。どれも共通するのは、一目で二代が馬鹿面で映されている写真である。

 

 二代にはそれが中学時代の三年生の壮行会で演じた劇だと分かった。わかったが、いつもの番組を待っていたら、映し出されたのが自分の顔、それどころか、なぜか中学時代の学生劇の写真が映ってる。

 

 わけがわからない。

 

 そうすると、画面が切り替わった。

 そこは、普段の二代が目にすることはない食レポコーナーの前、通常のスタジオの様子である。

 

 左上にテロップにはこう書かれていた。

 

 『初の男性IS操縦者発見!! しかし、これでいいのか日本男児!?』

 

 『えー、本日の高野アナの突撃!料理の穴!!ですが、一部番組を変更してお送りしております』

 

中年の女性司会者がそうにこやかに告げた。

 

 『とんでもないニュースが入ってきました。昨晩からの放送でご存知の方も大勢いらっしゃると思いますが、男性がISを動かしたというニュースから――』

 

 試しに、チャンネルを回してみるが、どの放送局も似たり寄ったり。

 

 たまに見知った顔が、黒い太線で目を隠したり、モザイクがかかっていたりするが、二代からしてみれば、知っている顔が放送されている。

 

 しばらくして、二代はテレビを消した。

 

 共通項として、どの局にも二代が映し出されている。それと、年代も場所も、状況もばらばらだが、二代のふざけた様子の写真を扱っていた。

 

 そして、

 

 『――ですから、ISを取り扱うものとして品位に欠けているとしかいえないでしょう。中には国家を背負ってISに携わる方も大勢いらっしゃいますから、こういった男性がISを動かすのは日本の品位の低下を世界に宣伝するようなものです』

 

 どこか知らない大学教授だか、ジャーナリストのセリフだったが概ねそんなところだった。

 つまるところ、二代を否定し、誹謗中傷しているに近い。

 

 スタジオではなく、街頭インタビューでも、

 

 『こういう人が日本を背負うとか悪夢ですね』――60代女性

 『女子にひどいことするんだよねーこういう男子って。女遊びばっかりしてるから女と間違われたんじゃないの?』――10代女性

 『最悪よ、人生最悪の日よ』――20代女性

 

 やたら、二代を非難していた。

 

 「ガッテム!!!!」

 

 突如、絶叫をあげて両手で頭を抱え込んだ。

 

 通常の人間なら、ここまで見ず知らずの人間に非難され、落ち込み、うなだれるだろう。もちろん、二代もその一人だろう。

 

 もしも、彼の心の叫びを聞いたものがいるなら、その叫びは不条理な世の中に対する叫びに決まって、

 

 ――うごごごごごご……まさか僕っちのせいで今日の食レポどころかほとんどの番組がつぶれるとは!!

 

 いなかった。

 

 彼からしてみれば、誰からか非難されるより、自分のせいで放送が変わったことに対しての嘆きが強いものだった。

 

 しかし、うなだれる様子は、いかにも傷ついた青年そのもので、

 

 その肩に、手が優しく置かれた。

 

 顔をあげれば、なにかつらいことがあったら、俺でよかったら聞きますので、といってスーツの男が肩を叩いて慰めてくれたが、先ほどと違い、憐れみと同情の視線が多分に 含まれていた。よく見れば、瞳が潤んでいる。

 

 「――はぁ……」

 

 あまりにも暑苦しくて、生返事で返した。

 

 と、

 

 「おれも、力になりますよ」

 

 もう一人、背後に立っていた角刈りの男が手を添えた。

 どう力になるんだ? と尋ねたかったが、醸し出す憐憫のオーラが許してくれない。

 

 「ええ、あんな報道に負けちゃだめです!」

 

 「さっきの笑い声、おもしろかったぞ!!」

 

 と、皮切りに、部屋のいたるところに立っていた男たち――二代を警護するために政府が遣わした警察庁のSP達が声をあげる。

 

 それから、SPの励ましの叫びが部屋にとどろくが、暑苦しいのと、威圧感とかで二代はいっぱいいっぱいになりつつある。

 

 ――どうして、こげなことになったのでございましょうか?

 

 天を仰ぎ、神に尋ねるが、無情にも白亜の天井が広がるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 海本二代――世界で初めて女性しか動かせないマルチフォーム・スーツ『インフィニット・ストラトス』通称ISを動かした男性である。

 

 策原工業高校に入学して初めての夏休み、その三日目にして世間を騒がせた男の後、他に中学生、二名の男性適合者が発見されるのだが、それは別の機会にする。

 

 物語はこのエピソードを最後とし、本編は彼が夏休みに突入したハイテンションで光り輝いていた時代を追っていきたい……

 




 最後とタイトルで登場する技術のクロスオーバー先が分かった人、きっとあなたはこう思う。

 クロスオーバー先考えろ、と。
 

 
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