IS-光は舞い上がり、無限の時代が始まる―   作:今日は晴れ

4 / 9
運命の日

 夏季休業期間、まっただ中である八月の第2週の日曜日、織斑一夏の通う一帯の学校では、その貴重な時間を浪費するようなイベントがあった。

 

 男性IS適正検査。

 

 政府の実施する二人目のIS適合者を探し出すための検査である。

 検査といっても方法はいたって単純。厳重に管理されたISコアに触れて、それが起動するかどうかを試すだけだ。時間にして、2秒もかからない検査である。そして、大抵動かせず、無意味で終わるのだ。

 これは、日本のみならず、世界各国で行われていた。そもそも、なぜこんな無意味なことをするのかといえば、先々週、日本から世界を驚愕させる発見があった。

 

 女性しか動かせないISを男性が動かしたというのだ。

 それは、ISを制作する倉持技研の見学に来ていた男子高校生がISに触れ、発覚したのだ。

 

 ISを男性が動かしたというニュースは大々的に報じられ、すぐさま他の男性も検査すべきという声が世界各国で上がった。しかし、日本の実施が二週間後となったのには訳がある。

 

 その起動させた経緯が大問題となったのだ。

 

 ISは世界でスポーツとして名目上、認識されているが、実質は兵器だ。それも、既存の兵器が鉄クズだ、と評されるまでに絶対的な力を有し、もしも野に放たれれば、数万の命を奪う無慈悲な暴力でしかなく、ISにはISでしか対抗できないとされる、軍神もかくやという殺戮兵器でもあるのだ。

 

 そんなISを見学に来ていた男子高校生が『触れた』。

 

 事件の経緯としては、倉持技研で前は実験施設だったが、老朽化のため現在は広報などを担当する施設に策原工業高校の生徒が見学に来ていた。だが、その途中、女子生徒は計画通りのプログラムとなったが、倉持技研の女性職員が男子生徒たちにプログラムにない場所を案内した。この動機について取り調べを受けた女性職員は、男がISに関わっても無駄だと思わせたくて、と供述している。

 女性職員がどこに案内させたかといえば、元々はISの微調整を行う作業施設(これも特別入室許可が必要となる場所)に案内する。

 そして、事件となった。

 その施設にあったのは、その日の午後、雑誌に載せるために広報撮影用に用意されていた倉持技研製のIS「打鉄」であった。その打鉄に男子生徒たちを触らせるという暴挙を女性職員が行ったのだ。セキュリティも企業コンプライアンスもあったものでないし、本来ならそのようなことが行えるわけもないが、女性職員がその施設において独自の権限を有していたことが可能としてしまった。

 

 本来であれば、発覚を恐れた女性職員による隠匿の可能性もあったが、たまたま、次期倉持技研の専用機の操縦者に選出された女性とその肉親が騒ぎを駆けつけ打鉄を纏った男子生徒を目撃、即座に政府が知る流れとなった。

 

 そうして、男性適合者発見というニュースは表沙汰になったのだ。

 

 ISを男性が動かした件もそうだが、一般人にISに触れさせたのは、国内でも国際的にも取りざたされる大問題となった。

 普通だったら男子が触っても起動しないし問題なかったはずだ、なんて言い訳は通用しない。

 もしかすれば、触れた者が申請した男子生徒になり済ましたテロリストの可能性だってある。そして、現に男性が起動させ、その起動させた男子生徒がISで暴れた可能性もあったのだ。

 

 そうなれば、その破壊力は語るに及ばず、施設の被害で済めばいいが、ISの特徴として宙間移動にも優れ、数千キロも移動可能な飛行能力を有している。つまり、日本中のどこでも飛行可能であり、仮に人口密集地が襲撃されれば、大虐殺が行われていた可能性もあった。

 

 国内外から、倉持技研には連日、すさまじい数の批判が殺到している。そして、そんな研究所にISコアを配布した政府にも批判が押し寄せた。内閣支持率は急落し、倉持技研は社会的信用を失墜する結果となった。そのため、政府と倉持技研は事態の沈静化を図るため、一致団結する。

 具体的には、男子生徒にISを触れさせるという暴挙を行った女性職員に責任をすべて背負わせた。女性職員は即日解雇され、アラスカ条約を受けて特別法として成立したIS規定に関する法律関連はもちろん、諸所様々な法違反の疑いとして、検察を動き始めている最中だという。

 男子生徒たちも、一時はIS規定の法律違反の疑いありとされたが、検察が違反にはならないとして起訴を見送る発表を行ってマスコミも取りざたすことはなくなった。

 

 そんなごたごたがあって、日本の男性IS適合者捜索検査は二週間も延期した。他の国はもうすでに終え、一人も男性適合者はいないという結果が出ている。

 

 そのため、日本政府もこれ以上、男性適合者は見つからないだろうと予測はつけていたが、近年まれにみる大失態の傷が広がらないよう、男性のIS適正試験をごく短期間に終わらせ、話題が過ぎ去るために躍起になっていた。

 

 しかし、だからといって、

 

 「あちぃ……」

 

 「この状況で待たせるか? 普通……」

 

 降り注ぐ太陽光を一身に受け、「あちぃ」としか言わなくなった友人の五反田弾とともに織斑一夏はつぶやいた。

 

 こんな時期にやるんじゃない、との憤りが含まれている。

 

 政府のIS適性検査のための手紙が来たのは三日前。

 日本が所有するISコアには限りがあるため、地域ごとの適性検査の日付と時間も決まっていた。それが面倒になり、サボろうとしていたが、連絡網で回ってきた通知で、「行かないと夏休み明け、宿題プラス反省文百枚提出罰則がある」となり、指定された日に、友人の弾を伴ってIS適正試験会場――四駅も離れた場所にやってきたのだ。

 

 だが、待っていたのは地獄だった。

 

 IS適正検査の対象は日本の場合、全日本国民の男子が対象となるのだ。

 もしも、仕事や疾病などでやむを得ない事情のある者は免除されるが、基本的に8月は学生にとって夏季休業中である。つまりは時間がある。面倒だから行きませんでした、は許されないのだ。

 

 そのため、学生の参加率はほぼ100パーセントといってよく、また、一夏と弾の適正試験場所は四駅も離れた場所が最寄りの会場とされていた。

 

 つまり、最低でも四駅の範囲内に住む学生と男性が対象であり、そのため、会場には収容不可能な人数が集まって、会場外まで長蛇の列ができていた。また、仮に検査時間が二秒でも、受付のはがきの提示と、保険証や学生証などの本人確認も必要なため、その準備に一分ほどの時間を有する。さらに、用意されたISコアが二つや三つあれば列を分け、時間を短縮できたが、全国各地で貴重なコアを使って検査が行われているため、ひとつしか用意されていなかった。

 

 そのため、列は一向に進まない。

 

 もしも、IS学園の入学試験であれば、IS学園の保有するコアを使いスムーズに行えたのだろうが、あいにく、IS学園は日本が運営しながらも日本への不干渉の立場であるため、貸し出しは行われなかった。

 

 よって、検査を待つ男性を待ち受けていたのは、8月の照りつける直射日光と、全身を包む湿気と茹であがらせる外気温、そして、有名テーマパークの方がまだ列がスムーズだ思わせる終わりの見えない、長い、長い、長い列。

 

 一夏も弾も、周りの男性たちも、噴出して、滴り落ちる汗を気にする余裕もなかった。ただ全員がゾンビのように炎天下の路上で立っていた。

 一夏は最初、来年に高校受験ということもあって、バックにいれた参考書を読んでいたが、熱でゆで上がった頭に内容が入るわけもない。

 唯一の救いは、弾の実家の五反田食堂の店主にして弾の祖父、五反田厳が、弾が家を出る際、一夏の分も、と二人分の麦わら帽子を弾に持たせたことで、幾分の日光から守れたことだ。最も、この暑さでは、気休めにしかならないのだが。

 

 このまま帰ろうか、という衝動に駆られることも何度もあったが、そのたびに、連絡網で一夏の前のクラスメイトが言っていた、反省文百枚の言葉が蘇ってこらえさせた。

 

 帰れない、やっぱし、と思いなおしたその時、30メートルぐらいさきに並んでいた男性が倒れた。

 

 周りの人間がざわつくこともなく、誰かが手をあげて振った。

 しばらくして、担架をもった二人組が現れ、担架に倒れた男性を担ぎ、運んで行く。

 

 「……何人目だろうな?」

 

 「さぁ?」

 

 弾が珍しく、あちぃ以外の言葉を話したが、会話は続かない。そんな気力もない。最初、弾は、IS動かしたらIS学園に入れる!? つまり、ハーレム!! と意気揚々としていたが、一刻も早く終わってくれ、という懇願に変わっていた。

 もうすでに、熱中症で倒れた人間を、一夏と弾は何度も見ていた。列に並ぶ男性も、皆慣れ切っていた。

 近くにあった公園に設置された時計台で時間を確認すれば、午前11時21分。

 一夏たちの検査受付開始時間が9時からだったので、早く受けて終わらせようとしたため、7時40分に家を出たというのに、この時間になっても会場まで1キロ近くある。

 

 一夏は空を見上げた。

 

 ぎらつく太陽が変わらずにそこにある。

 家を出る前に見た天気予報は降水確率脅威の0パーセント。そして、ほぼ無風であることも暑さを増大させる要因だった。

 高齢者や幼児などは下手をすれば死亡するケースも考えられるため、検査時間を夕方や夜に設定しているそうだが(そのため、弾の祖父の厳は同じ地域でも日程と時間帯が異なっている)、はたして、検査を受けるのが先か、それとも、力尽きて死ぬのが先か、と一夏は考えていた。

 

――

 

 「次の方」

 

 「……ほら、弾、俺たちの番だ、終わったら、あれだ、どこか冷たいものを食べに行くぞ」

 

 「――つめたい、すき、あつい、いやだ……」

 

 最早、襤褸雑巾と化した友人に肩を貸しならが、いよいよ一夏たちの番になった。

 弾はうめき声ともとれる単語をぶつぶつと呟いている。

 

 会場が目前に迫った場所で弾はこうなった。さすがに危険ラインだと一夏は判断し、担架を呼んだが、救護員はこの状態では運べないと無慈悲に述べた。

 

 本来なら、一夏は憤るだろうが、会場わきに設置された救護室では人があふれかえり、地面に寝かされ、救護室から溢れかえった熱中症患者たちと比べればまだ弾の状態はよかったし、そもそも、救護室に運ばれて横になることしかできないと分かっていた。

 

 では、やはり反省文を書くことになっても検査を受けずに帰ろうか、と思案したが、弾が震える指で目前に迫った会場を指差し、

 

 「――けんさ、を」

 

 と輝きのなくなった瞳で、ぼそぼそと呟いていたため、弾の意思を尊重し、検査を受けることにしたのだ。

 

 受付は、一夏はだんだんと怪しくなってきた際に弾から、受付でもたつかないようにと預かっていた一夏と弾の検査通知書二枚と、保険証を提示し、終わらせた。

 

 そして、いよいよ、前の男性が終わり、一夏たちの番になったのだ。

 

 一夏と弾が足を進めると、広いホールの中には巨大な機械が鎮座していた。

 その中央に埋め込まれるように別な部品がある。

 

 ――ISコアだ。

 

 検査では完成品のISを使うことはしない。なぜなら、適合者がいた際、そのISを展開し、暴走でもしたら、会場の研究者や係員では止めることができないためだ。

 そのため、ISコアを特別な機械につなぎ、検査を行っている。

 

 それだけでなく、もしもコアを奪うことが目的のテログループや過激派などの襲撃があっても対応できるように、会場の内外では特殊警備車両の装甲車と機動隊員を乗せたトラックが止められ、会場内外にも警備に当たる機動隊が見られる、物々しい雰囲気に会場は包まれていた。

 その雰囲気に思わず足をとめ、一夏が飲まれていると、

 

 「早くしてください」

 

 連日、朝から晩まで一人も反応がでない検査結果とノイローゼ気味になっている様子の三十代後半の女性研究者がせかすようにいった。

 

 

 「ほら、弾」

 

 原則として、一人ずつ、自分の足で立って行わなければならない。そのため、一夏は弾を歩かせようとしたが、弾はふらふらと見当違いの方向に歩みを進めた。そのため、研究者に断りをいれ、一夏は弾に肩を貸しながら、ISコアの前に弾を立たせた。

 

 本来なら、生で見たISに対して色々と感慨を抱く一夏だろうが、いまは弾の介助の方が重要だった。研究員が名前を尋ねるので、

 

 「あ、えと、こいつの名前は五反田弾です。ほら、弾、触ってみろ」

 

 弾は震えの止まらない手をISにつける。

 

 何の反応も起きなかった。

 

 傍らに立つ女性研究員はため息をつき、次の方、と呼んだ。

 

 「ほら、行くぞ、弾」

 

 そういって一夏が弾に肩を貸し後にしようとしたが、

 

 「次の方って、君ですよ」

 

 女性研究員が一夏を見ながらそういった。

 

 「へ? 俺?」

 

 「だって、まだISに触れてませんよね?」

 

 あ、と声を出し、一夏はなぜ自分がここにいるのかを思い出す。IS適正検査で来ていたのだ。

 

 「早くしてくれませんか? あとが詰まってますので」

 

 女性研究者は本当にあきれたといわんばかりに嘆息をつき、一夏をせかせる。

 

 「はい、今行きます! ……弾、少しここでまってろよ」

 

 検査が終わった途端、真っ白になって燃え尽きた友人を床に座らせ、一夏はISの前に立った。

 

 「では、お願いします」

 

 はいはい、と返事をしながら一夏は手を伸ばした。どうせ起動しない、それよりも重大なことは、弾の様子がおかしくなってるし、帰りは救護室で横にさせて状態が安定してから帰るかそれとも五反田家に連絡して迎えに来てもらうか、それを悩みながら一夏は触れた。

 

 そして、日本で二人目の男性IS適合者が発見された。

 

 

・・・・

 

 その32分後、政府が二人目の男性適合者発見の知らせを受け、慌ただしく情報収集と、記者団を呼び、内閣府官房長官の緊急記者会見の準備を進めているとき、東北の山中にある町の公民館でIS適正検査が実施されていた。

 

 人口の50パーセントを超える住人が高齢者という限界集落も珍しくない東北の市町村だが、65歳未満の生産人口が8割を超える町という近年珍しい場所だった。

 

 その町の、公民館ではISコアの警備に当たっていた自衛隊員と順番を待つ町人たち、そしてその結果を管理する研究者が、一様に動きを止め、見入っている。

 

 研究者はこうした寒村で説明するため、IS使用規定に則り、ISコアを限定使用してもよいこととなっていた。つまり、言葉で説明するよりも見た方が理解できるので、その説明に起動してもいいのだ。そもそも、機械に繋がられたISコアでは何もできない。だからこその特例なのだろう。

 

 検査に使用するISコアは起動すると光り輝く設定にしてある。

 わかりやすさを優先するためだが、この光をみた高齢者の中には仏さまのご来光だと念仏を唱える者もいた。

 

 だから、光を抑える設定にしてあるのだが、現在、その設定以上の光に公民館は包まれていた。

 

 青白く、そして、淡い光が公民館の窓からあふれている。

 

 コアの隣に立つ女性研究者が驚きのため、眼鏡がずり落ちたが気がつかない。

 

 確かに、先ほど住人たちの前で見せたが、この光量になるように設定していなかったはずだ。

 

 だが、光り輝いている。そして、光が弱まり、やがて収まったが、会場は水を打ったような静けさに包まれていた。

 

 全員の視線がISコアの前に立つ、一人に注がれている。

 

 それは、白いワイシャツに黒の学生ズボンをはいた少年だった。肩の高さで髪を切りそろえ、俗に言うおかっぱ頭だが、前髪の長さは不均等という変わった髪型の少年だった。

 

 「……君、男だよね?」

 

 研究者は恐る恐る尋ねる。

 前に他の市町村でどれほどの年を重ねたのかも不明となるぐらいの老人がISコアを起動させ、大混乱になった。だが、その老人は女性で、体が弱まり動けなくなった夫の代わりに検査を受けに来たのだということが分かった。本人確認で提示された健康保険証には顔写真がなく、受付を担当する職員でも不明だったそうだ。

 

 もしかすれば、この少年も、実は少女なのでは? と疑問をもった研究員は質問するが、

 

 「ええ、男です」

 

 その少年の声は、変声期を終えた低い声色だった。

 研究者の手元のタブレットには、その検査対象者の名前が記されていた。

 

 『六根清音』、と。

 

 

 

 日本は、わずか一日で2人の男性IS適合者を発見する。

 

 これより、時代は加速し、情勢は混乱を極める。このことを知る者はまだいない。

 




 倉持技研大ピンチ。
 でも安心してください、技術革新しますよ。
 
 もっとも、どの技術を投入するか悩んでいますが。
 
 とりあえず、白式は魔改造決定です。
 具体的には、白式と書いて全てを焼き尽くす暴力と読む感じになりますね。
 
 一夏くんも主人公補正を最大限を発揮しまくって成長する予定です。つまり、一夏くんには死にかける試練が連続で襲ってくる予定です。
 別に私は一夏が嫌いなわけじゃないですよ!
 
 この作品の織斑姉弟は原作といろいろと変わってくる予定。
 
 具体的にいえば、千冬さんに春が来る。
 
 ご意見ご感想お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。